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学校のしくみから考えるスイスの社会とスイス人の考え方

柔軟でグローバルな思考を維持するのに、国際比較という手段は、明快で手っ取り早い手法の一つかと思います。歴然とした社会のしくみの違いを目のあたりにすると、それぞれの国で「当然」だと思われていることを改めて みてみるきっかけになったり、 これまで全く意識に上らなかったことが見えてきたり、あるいは違う社会どうしの共通する課題も見えやすくなります。

今回は、子供のスイスの現地校通学体験を通して、日本とはずいぶん異な るスイス人の考え方と社会のしくみの一端をお伝えしてみたいと思います。学校のしくみを取り上げるのは、長年住んできたスイスで、こ れが、わたしにとって一番大きなカルチャーショックを与え、同時に新しい考え方に気づかせてくれたものだったためです。なお、スイスでは地方の自治権とても強いので、州によって義務教育事情に若干の違いもありますが、ここではチューリッヒ州を中心に話を進めます。

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学業至上主義


スイスの学校は、端的に言うと、「学ぶ」という一点が最大唯一のミッ ションで、それ以外の余計と思われるものはなるべく省こうとする、ミニマリズムが貫かれているという印象を受けます。

入学式や卒業式といった儀式を重んじる行事も、展覧会や運動会、学園祭 に相当するような学校全体が高揚してまとまる年間行事もありません。(ただし行事がないわけではなくて、ほとんどすべて学級の先生が 独自に企画するのでクラス単位になり、先生によってずいぶんする内容も頻度も異なります。)クラブや動物飼育などの課外活動も学ぶ 「学校」の管轄外ということで、学校活動にはなく、 やりたい子は地域のスポーツや他の各種のクラブに自分で参加します。制服も校歌も学力向上の目的と直接的な相関性が認められないのでしょう、一切なしです。

児童が自分の学校がどこかわかっていればそれでいいということだからなのか、 学 校の名前が校内のどこにも見当たりません。校門もなければキャンパスを取り囲む壁も塀もなく、誰でもいつでもキャンパスに立ち入ることが可能です。

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学校全体のつながりの薄さを象徴するきわめつけが、校長職です。学校の顔ともいえる校長職自体が、最近までクラス担任の先生が兼任したり、誰かがまとめあていくつかの学校の事務を片付けることで事足りて、すべての学校に常駐していなかったくらいでした。さすがに近年、学校の業務が増えて、兼任するのは大変になったため、2006年からは教育条例が変わり、すべての学校に校長を配置されることになりました。ただし、学校をあげての行事や儀式がないこともあり( 色々なイベントはすべて学級単位です)、生徒が校長に会う場面は少なく、小学校で校長がどの人で、なんという名前かを聞いても、わからない子も多いようです。

また、スイスは世界的にもまれな「直接民主制」が残っている国で、教育条例や、新しい校舎の建設如何も、住民投票で決めるため、校舎が不足していても、住民投票で校舎増設が不要という意見が多数となり、 新設できないというケースもこれまで何度もありました。共稼ぎの家庭にとっては大変便利なはずの給食制度や全日制度が、スイスでいまだに導入されないのも、そのためにかかる膨大なコストを自治体が負担することを妥当とするコンセンサスが、まだ住民のなかにできていないからだと考えられます。



自己責任と自律を尊重


こんな具合に、学校という場への思いは、「我が母校」というようなしみじみとしたイメージとはほど遠い、あっさりした即物的なもので、無駄と思うものには、ばっさり住民投票という手段で節約のメスが入ります。その一方、(生活や風紀など)はそれぞれの子供や家庭にまかせほとんど干渉せず、ルールも無駄、無理を省いて最小限なので、自 己責任の名のもとに、 子供の自律や自由度が保たれていると言い換えることもできます。

例えば、基本的に授業に障害をきたさない限り、幼稚園から中学まで一貫して服装や持ち物も自由です。お化粧もアクセサリーもかまいません。休み時間の、パンや果物などの間食も認められています。というより、休み時間に生徒が何かを食べることになんら学校側で問題が見当たらないので、禁止する必要がないのでしょう。ただし、 学校側にとって、教室が食べ物で汚れると面倒なので(掃除は子供達ではなく、放課後に掃除サービスの人がします)、原則として雨の日も 冬の零下の日も屋外で食べることが条件です。しかし学校の屋外スペースには基本的に椅子などありませんから、みんな立ち食いになりますが、それを良くないとするこれといった理由もないようです。

学校への通学にもうるさいことを一切言われません。小学校入学のその日から自転車はもちろん、キックボードやスケートボード、一輪車での通学も全く問題ありません。学校のキャンパスに入るまでは、なにかあっても自己責任、学校の責任ではないというスタンスです。

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とはいえ、一つだけルールがあります。それは親につきそわれずに通学することです。このルールは、学校だけでなく、2006年 以降就学前に義務教育の一部となった2年間の幼稚園でも、子供が自立する第一歩として重視されており、それができるように入園まもなく幼稚園には警察が来て、歩行者のための交通ルールをきちんと教えます。このため、朝と昼時には、幼稚園児や単独でそれぞれの目的地に闊歩する姿が、スイスでは週日の日常風景です。同様に、自転車通学が多い小学生にも、詳しい交通ルールを実地試験をふまえながら、 段階的に教えていきます。

このようなスイスの学校のしくみは、自分が慣れ親しんできた日本のそれとあまりに違うので、子供を現地校に通わせはじめた当初は、驚きの連続でした。しかし生徒の学力向上という一点に照準を合わせ、ほかのものは本当に必要なのか、それにはいくらコストや労力がかかって採算は合うのか、とスイス人風の思考に沿って考えてみると、学校のしくみはとても一貫してわかりやすいものに見えてきます。日本人からみると、一見、学校は味気のないようにもみえますが、不可解なルールや習慣に拘束されることが少なく、時間的にも自由度が高いというよさもあります。もちろんなにか学校で問題が起きることはありえますが、起きた時に個々に対処するというスタンスであり、はじめから全員を対象に禁止するルールを作っておくというやり方は、学校 だけでなくスイス社会全般に基本的になじまないようです。

違う角度からみると、子供が安心して街を通園・通学できるような恵まれ た環境であるからこそ、学校にほとんど校則がなくて、先生や親が学校周辺の安全キャンペーンすることもなく、むしろひとり歩きを奨励するような、飾り気のない素朴な学校制度が成り立っているといえるのかもしれません。鶏と卵どちらが先かのように、学校とそれを取り巻く環境、どちらが先に良かったのか、というような簡単な問題の立て方では実情は把握しにくいですが、いずれにしても、現状が、どちらももちつもたれつの均衡関係で、良好な状態を保っている状態であるとことは確かだと思います 。



学校への評価と社会を支えるしくみ


このような公立の学校の在り方はスイスでどう評価されているのでしょう か。 チューリッヒ州全体の95パーセントの就学児は、公立幼稚園・小中学校に通っていて、私立学校がほとんどないという事実は、もちろん経済的 な要因もあることながら 、 公立学校におおむね満足・評価している人が圧倒的多数であることを物語っているといえるのではないかと思います。

安価な保育所や給食制度などの手厚い(しかし税金が高くなる)制度が今もないスイスは、ヨーロッパの中でもかなり珍しい存在ですが、その分、ボランティアや救済組織などがカバーする領域と動員数が多いのもスイスの特徴です。スイス全住民の約4人に一人が公式・非公式のボランティア活動をしており、総時間数で6億25百万時間にのぼります。15歳から75歳までのスイスで過去12ヶ月に救済組織に寄付した人の数も全体の72%と、隣国(ドイツ42%、 オーストリア57%、 フランス26%) に比べても、非常に高い割合です。社会の信頼関係や協調的なネットワークを「社会資本」として指数化した最近のヨーロッパ比較調査でも、スイスは社会資本指数が非常に高く、つまり社会的な協力関係や連帯力が強い、国の一つであるという結果になっています。これらのデータから解釈すると、スイスは、北欧流の社会福祉国家とは別の形で、必要な社会機能を維持している国であり、学校という制度もそのような社会基盤の上に成り立っていると言えるように思います。


素朴で骨太なスイスの社会システムとそれの上に成り立っているライフス タイルについて、今後も比較の視座から、折々紹介していけたらと思います。



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参考文献

Markus Freitag (Hg.), Das soziale Kapital der Schweiz. Politik und Gesellschaft in der Schweiz Band 1, Zürich 2014.

Themenzeitung von Swissfundrainig und Zewo, November 2015.


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