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職場で広がる「ボアアウト」

自分の仕事に物足りなさを感じることはありますか?実際の仕事はあまりなくても、仕事が増えないように、忙しそうにふるまうことがありますか?物足りないと思う仕事をずっとしていると、忙しい仕事をしている時より、ずっと疲れた気がしますか?

2012年ドイツの国立の労働関連研究機関 (BAuA)の調査によると、ドイツ人の就業者の5%が分量的に、13%が内容的に、自分の職務について物足りないと感じているといいます。ちなみに同年の調査で、職務が内容的に自分の処理能力を超えたものと感じている人は4%、分量的に自分の処理能力を超過していると感じる人は19%いました。合わせると、物足りないと思う人の割合は、仕事が力量を超えると思う人の割合とほぼ同じで、全体の約2割を占めていることになります。

同じような傾向はアメリカでも観察されています。2005年に1万人を対象にしたアメリカのアンケートでは、33%の人が、自分の仕事が十分にないと回答しています。同様の2014年の調査では、26%の人が1日の就業中に無駄と感じる時間が2時間位以上あると回答しており、その理由は、仕事が十分にない、あるいはつまらないから、とする人が3分の1を占めたそうです。

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近年、過剰の仕事で体調を崩すバーンアウトという症状がよくメディアでとりあげられますが、上記のデータからは意外にも、仕事の絶対量が少ない、あるいは物足りないと感じている人の割合も、かなり高いことを示しています。このような会社で物足りなさを感じている人たちやその症状について注目した本が、2007年出版されました。銀行や保険会社などの大企業での就業の傍わら、企業コンサルタントをしている二人のスイス人による共著「診断 ボアアウト(Boreout)」です。この本の出版以降、仕事に物足りなさを感じる就業者の心理と問題が、この本の著者たちの造語である「ボアアウト」という名前で、世界的に脚光をあびるようになるようになってきました。日本ではまだあまり知られていない、特にオフィスでのホワイ トカラーにあらわれることが多いといわれるこの症状について、著作や関連する最近のメディア報道をもとに、今回すこし紹介してみたいと思 います。

職場でなにも新たに挑戦できるものがなく、物足りなく、退屈するこのボアアウトという状態が、恒常的に続くとどうなるのでしょうか?2009年のあるドイツのアンケート調査では、過少の課題しかないことはストレスになる、と15%の人が回答しています。実際に、仕事がものたりないことは、現代の医学的な診断では病気には当たりませんが、恒常的に続くと病気を引き起こすとされます。
就労状況や環境が変わることで、それまで全く支障なく働いていた人でも、急に足元をすくわれるように、危機的な状況に陥ることもあります。5日間就業時間になにもしないことを自らに課して実験をした一人の男性の実験結果では、たった五日間の実験期間で、実験前よりも業務処理に対する自分の信頼感も、実際の処理能力も、1割以上減りました。また自分の状況を 客観的に把握している今回の実験のような場合でも、自分の内部の自信や処理能力が低下してしまうのであれば、自分の仕事が妥当なものかを 自分自信で判断しにくい実際の職場では、さらに容易に、過剰に不安を感じたり、深刻に追いこまれやすくなることが簡単に想像されます。

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ボアアウトという状態に陥ると、興味深いことにその症状は、その対極に位置づけられる、バーンアウトと類似したものとなります。ストレス、フラストレーションがたまり、次第に業務能力が落ちるだけでなく、仕事以外にもなにかをする気力がなくなり、気晴らしもできなくなります。疲労・倦怠感がとれず、不眠や鬱状態にもいたります 。「退屈で死にそう」という言い方が日本語にもドイツ語にもありますが、退屈な状態は、本当に健康に危機的な打撃を与えることがあり得るわけです。

しかし、ボアアウトの兆候がみられても、人は積極的に改善に向かわないこともわかってきました。仕事やその環境を根本的に改善、変化させようとのするのではなく、むしろ仕事を失うことへの恐れからその事実を隠そうとしたり、それでも仕事に愛着がもてるようにがまんや努力することに労力を費やす傾向が強く、それがまたストレスやフラストレーションを増加させる、といった負のスパイラルにどんどん陥っていきます。

ドイツでは就業者の10人に一人が、このボアアウトという状態 に陥っていると言われます。また、ボアアウトになるのは、会社勤めの人に限りません。 長年勤めた会社を停年で退職した人や、失業者も、仕事ができなくなったことで、仕事によって得られる社会的な評価や認知を受けることがなくなり、ボアアウトに陥る危険性が高くなります。

また、単調で退屈な生活で具合が悪くなるのは人間だけではありません。自然のなかで生活する動物と異なり、単調な生活が恒常化する動物園の動物にとっても、退屈は大きな試練となります。特にオラウー タンのような知能の高い霊長類にとっては、単調な日々は危機的なものであり、毎日新しい課題や変化を作り出すことが、動物園飼育係の大切な業務の一つと認知されるようになってきています。

ボアアウトについてみていけばみていくほど、逆にどこかで自分がしていることが意味があると思える職務や課題、そしてその達成感が、人間(や広く霊長類)にとって、いかに大切で、一人一人に必要なものであるかがよくわかってきます。その一方で、現代は めざましいIT技 術や人工知能、ロボットなどの発達によって、既存の仕事 の半分は近い将来なくなる、などとも言われている時代です。人間の仕事内容の大幅な変化が予想される近い未来において、十分な雇用を確保するだけでなく、大多数の就業者がやりがいを感じられるような仕事を保持することは、果たして可能なのでしょうか?

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古代ローマ帝国では、広大な支配領域から入ってくる莫大な富のおかげで労働しなくてすむようになった市民たちが増えてくると、下手に時間をもてあそび、政治的な不満を募らせたりすることがないように、市民権をもつ都市の市民たちに、パンとサーカス(娯楽)が無償で提供しました。これからの将来、今日同様に、自らの労働が義務と謳われ、就労生活に高い価値を置かれる社会であり続けるのであれば、「パン(現代風に言えば、最低限の生活保障)」だけでなく、 自分がやっていることの意味ややりがいを個々人が十分感じられるような「仕事(あるいはなんらかの課題や任務)」を人々がどうやって確保し、ボアアウトをどう回避するかが、個々の企業やグローバルな社会全体において、重要な課題になっていくのかもしれません。


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参考ウェッブサイト

Philippe Rothlin, Peter R. Werder, Diagnose Boreout. Warum Unterforderung im Job krank macht. Taschenbuch, Redlin Wirtschaft 2007.

Tödliche Langweile. 3sat, 25. 9. 2014.

Diagnose Bore-Out. Die Mär des süssen Nichtstuns. In: Spielgel Online, 14.7.2014.

Unterforderung im Beruf macht krank. Von Jasmin Maxwell. in :Die Welt. 15.4.2013

Bore-Out. Krank vor Langweile. In: Zeit Online., 26. 6. 2010.

Motivationsforschung. Lustloses Lernen hat einen enorm hohen Preis. Die Welt. 28.08.2012

Annerkennung im Job: Ein Lob sagt mehr als 1000 Dienstwagen. Von Marike Frick. In: Spiegel Online, 10. 8. 2010.


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