コインの表と裏 〜 キャッシュレス化と「現金」ノスタルジー - 一般社団法人 日本ネット輸出入協会

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コインの表と裏 〜 キャッシュレス化と「現金」ノスタルジー

最後に飲み物を購入された時(コーヒーでもジュースでもかまいませんが)、どんな支払い方法を利 用されましたか?現金、カード、振込、あるいは他の電子マネーでしょうか?スイスではコー ヒー一杯や缶ジュースのような少額の支払いには、キオスク(売店)にせよ、自販機で買うにせよ、現金での支払いが今も一般的です。年間の現金による売買(支払い)回数は25億回で、 カード決済の回数1億8000万回をはるかに上回っており、決済の79%が、今でも現金を介した決済です。

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そうとはいえ電子決済は年々増えてきており、スイス全体に流通するお金のな かでの現金の占める割合は、1990年では90%だったのに対し、近年は60%まで減少しています。EU圏内のキャッシュレス決済の内訳をみると、カード決済(クレジットカード及び、デビットカードを使った決済)が43.5%、 振込が26.5%、引き落としが24.0%と、最も多いのがカード決済です。EU側の概算では、EU圏内に、デビットカードを含めなんらかのカードを持っている人は5億人おり、トータルで7億2700万 のカードが発行されています。

ただしクレジットカード決済では、カード加盟店である販売者がカード決済に必要な機器を購入しなくてはならないだけでなく、カード会社や金融会社に売り上げの額に比して手数料を払わなくてはならないため、零細経営の店舗にとっては、かなりの負担であり、それを理由にクレジットカード決済に躊躇する店舗も少なくありません。特に飲食業界ではその傾向が強く、スイスの3分の1のレストランでは、今もカード支払いを受け付けていません。家族経営のペンションなど小規模宿泊施設でも、同様の傾向がみられます。

このような業界の負担を軽減し、市場を活性化させるため、近年EU圏とスイスでは 、クレジットカード加盟店が手数料として支払っていた額の上限を引き下げることが、相次いで議会で可決されました。これを受けて、昨年2015年から、EU圏では、クレジットカードの手数料を一律最高0.3%となり、スイスでも昨年8月からクレジットカードの手数料が0.95 %から0.7% に下り、2017年 8月からはさらに0.44% に引き下げられる予定です。EU圏内のクレジットカードのシェアが90%という圧倒的な強さをみせるアメリカ系大手クレジットカードのビザカードとマスターカードにとっては大きな打撃となりますが、スイスのカード加盟店にとっては、年間の負担が5000か ら6000万スイスフラン減ると期待されています。ちなみに、EU圏のデビットカードの手数料にも0.2%と上限がつけられましたが、デビットカードはもともと手数料が低く、こちらはほとんど影響がないと見込まれています。

カード決済のほかにも近年スマートフォンを使った電子決済など、年々安価で便利な電子決済の方法が新たに導入されてきており、今後もヨーロッパの現金離れに拍車がかかると予測されますが、このような電子決済だけではなく、ほかの方面からも現在、現金に逆風が吹いています。マネーロンダリングやテロリストやテロ組織への資金の流れを断つためのテロ資金対策として、現金決済を制限すべきという見方がヨーロッパ諸国で強まっているためです。このため、欧州中央銀行は目下、現在流通している最高金額のユーロ紙幣である500ユーロ紙幣の発行を中止することも検討しています。

EU圏が500ユーロ札の発行が中止になると、スイスの1000スイスフラン紙幣発行にも、圧力がかかると予想されます。1000スイスフラン札は2014年にシンガポールで当時紙幣として世界最高額であった1万シンガポールドル札の発行が中止されて以降、世界で最高額の紙幣です。2008年秋の時点では2300万枚しか出回っていませんでしたが、金融危機や昨年からのスイスのマイナス金利導入のため需要が急増し、2015年 11月には4300万枚まで発行枚数が増えました。銀行にお金を預けるかわりに、タンス預金が今後急増するようになれば、マネーロンダリングの抑制やテロ資金対策としての高額紙幣の発行中止の是非をめぐる議論とは別に 、どのくらいお金が社会に出回っているのかを、中央銀行が把握するのが難しくなることは確かです。

また普段何気なく使っている現金自体、かなりの高価な代物です。紙幣の印刷こそ、一枚30ラッペ ン(100ラッペン=1フラン)でできますが、傷んだ紙幣を補充する のに、毎年2000から3000万スイスフランかかります。製造、輸送、保管、セキュリ ティー、保険など、現金流通にまつわる費用を総計すると、年間25億スイスフランにもなり、これらの費用は、毎年、国民全体が税金で負担していることになります。このためデビットカードの決済1回にかかるの費用が36ラッペンに対し、現金での決済の場合は40ラッペンかかることとなり、現金で支払う場合のほうが、カードより結局高くついていることになります。

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これらの事情を総合すると、キャッシュレスの時代がいよいよ到来するということになるのでしょうか。 現金がいまだかなりの幅を占めているスイスにいると、そのような実感はほとんど湧いてきませんが、同じヨーロッパでもスウェーデンの状況は、そんな時代を彷彿させるものとして注目されます。 スウェーデンでは、キオスクや市場での少額の買い物だけでなく、教会の献金や公共のトイレ(ヨーロッパでは公共のトイレが有料の国が多い)の代金支払いにも、現金ではなく、カード決済や電子マネーなどの電子決済が普及しており、キャッシュレス化が非常に進んでいます。そして 15年後には、いよいよスウェーデン政府は現金を一切廃止にする予定だといいます。

硬貨の色、重さ、大きさ、金属の種類の絶妙な組み合わせで、それぞれがとても区分しやすい日本の硬貨に比べると、ユーロの硬貨やスイスフランの硬貨は、種類が多いのに見かけも大きさも似通っているものが多く、こちらに長く住んでいても、いまだになかなか慣れず、わずらわしさ を感じることがよくあります。しかしそうは言っても、 現金なしでお金とつきあうということは 、一体どんなものなのかまだ想像ができません。硬貨の重なり合う音や、紙幣のなめらかで乾燥した触感など、これまで長年現金のまわりで培ってきた、物理的な感覚を捨て去って、数字だけでお金を想像することになれば、お金への感覚はずいぶん変わってくることだけは確かでしょう。

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買い物の総額にぴったり見合う硬貨があるかを財布の中で数えたり、レジでもらった釣り銭で財布がいっぱいに膨れて重たくなる、そんな今は些細な、あるいはわずわらしくも思うことが、ひどくなつかしくなる、そんな時代が意外に早く来るのかもしれない。そう思うと、今は普通に財布の中と外を出入りしている硬貨や紙幣たちが、ちょっと違った風にみえてきます。


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参考サイトと文献

------現金とキャッシュレス化について
Bargeld. SRF Kultur, 20.1.2016.

Schweizer zahlen immer noch lieber mit Bargeld, SRF Konsum, 15.12.2014.

Schweizer Bargeld-Wahn, 7. Dezember 2014

Reto Widmer, Wer verdient, wenn wir bezahlen?, SRF Digital, 4. 12. 2014.

------カード手数料の引き下げについて
EU-Gesetzgebung Ab Mai sinken die Kreditkartengebühren, Frankfurter Allgemeine, 10.03.2015

EU deckelt Kreditkarten-Gebühren. Mehrheit der Abgeordneten für Obergrenze - Drosselung auf 0,3 Prozent. In: News, 10. März 2015.

Wettbewerbshüter setzen Senkung der Kreditkartengebühren, SRF Wirtschaft, 15. Dezember 2014

Kreditkarten-Gebühren sinken. Gibt der Handel die 50 Mio an die Kunden weiter?, In: Blick, 15.12.2015.

------ユーロやスイスフランの高額紙幣発行中止をめぐる議論
Ein Doppelschlag gegen das Bargeld. Die EZB prüft die Abschaffung der 500-Euro-Note - die Schweiz mit ihrer 1000er-Note könnte dadurch unter Druckgeraten. In: NZZ Wirtschaft, 6.2.2016.

Abschaffung der 500-Euro-Note. Gefährliches Zündeln mit Bargeld. In: NZZ Meinung und Debatte, 6.2.2016.



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