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ゲームをしながら社会に貢献? 〜進化するゲームの最新事情

昨年末、ゲーミフィケーションという近年注目されている概念について触れましたが、今年に入ってからも、新たな質と量でゲーミフィケーションが、わたしたちの生活のなかに着実に入ってきていることを実感させられるニュースを相次いで耳にしました(ゲーミフィケーションの概念について知りたい方は「ゲーミフィケーションと社会」をご参照ください。)

ひとつは、 マインクラフトMinecraftの学校の教材用バージョン「Minecraft: Education Edition」を今夏に無料で提供するという、 マイクロソフト社の発表です。ゲームはまだ出ていないので詳細はわかりませんが、今年はじめにマインクラフト教育版を買収したマイクロソフト社の発表では、ゲームでは物理や工学、建築から音楽まで色々なことが学べるだけでなく、インターアクティブな環境を利用して論理的思考やコンピューター・プログラミングの習得にも役にたつ内容であるとされます。このゲームはすでに世界で一億人以上のユーザーを持ち、PCゲームとして歴代最高の売れ行き(2300万本、2016年現在)記録をもつ、人気も知名度も現在のゲーム市場の最高峰に位置しているといっていいゲームです。それを考えると、ゲームという手段が、どれだけ学習を高める効果があり、ほかにもどのような可能性やあるいは問題がありうるのか、という壮大な実験が、この優れたゲームのコンテンツを用いながら、夏以降、世界的に始まるといえるかもしれません。今後の動向が、大変注目・期待されます。

<ディスカバリー・プロジェクト>
もう一つは、「ディスカバリー・プロジェクト」と称する今年3月にスタートしたプロジェクトです 。ディスカバリー・プロジェクトは、2年間に物理学者とIT専門家の二人によって設立されたスイスの小企業MMOS(Massivly Multiplayer Online Scienceの略)が、アイスランドのビデオゲーム開発会社CCP Games (Crowd Control Productions)とレイキヴィク大学の学生、そして国立スウェーデンの医学研究機関を巻き込んで、立ち上げた共同プロジェクトです。具体的にはCCP Gamesのオンラインゲームである「イブ・オンライン(EVE Online)」のなかで新たに3月9日からスタートした、出現した謎の勢力の組織サンプルの分類と分析するというミニゲームを指します。イブ・オンラインというゲームは、2003年から始まり、現在世界に50万人のユーザーをもつという人気の高い宇宙戦争のロールプレイ型オンラインゲームです。

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ディカバリ・プロジェクトのミニゲームの様子(イメージ)

このミニゲームの何が注目に価するのかというと、ゲーム上に謎の勢力の組織サンプルとして現れるものが、実は本物のヒト細胞の高画質の画像だということです。15年前にヒトゲノムの解読が終了したものの、いまだに実際に体のタンパク質がいつ何をするのかについて、ほとんどわかっていません。このため、国立スウェーデンの医学研究機関は人の体でタンパク質がなにをするのかの見取り図 、HPA(ヒューマン・プロテイン・アトラス) を作ろうというプロジェクトを始めました。しかし体のどこの場所にどんなタンパク質があるのかを知るには、2万の遺伝子と多様な 形状が組み合わさった膨大で多種多様なヒトのタンパク質の細胞画像データを分類・分析する必要があります。しかしそれを少数の専門家のチームが処理するのでは時間がかかりすぎます。日進月歩で技術が進んでいるコンピューターも、ヒトタンパク質の画像をカテゴリーごとに分類処理することや、異常があるかの分析は苦手であり、それを処理できるようになるには、非常に複雑で高価なプログラムを開発する必要があります。

一方、専門家でない普通の人でも、しばらく練習をすれば、分類・分析ができるようになります。そこに目をつけて、医学の課題とゲームを結びつけてたのが、今回のプロジェクトです。オンラインゲームの一部に画像の分析・分類という課題をこなすミニゲームを組み入れ、ゲームプレイヤーにしてもらおうと考えたのです。プレイヤーは、正確に分類・分析ができればその報酬として、オンラインゲーム上での特典(通貨、装備やタイトル)がもらえるようにします。これによってプレイヤーにとっては、息抜き感覚でミニゲームをすることで、自分の利益になるだけでなく、医学の研究に協力することで社会にも貢献できるという一石二鳥の仕組みとなります。

このミニゲームは、 最初の試験期間にガイダンスに沿って分類の仕方を習得すれば、誰でも参加できますが、 分類・分析の質を維持するため、プレイヤーには分類能力を測るテストを定期的に行い一定の水準を常に満たさない場合、練習問題しか扱わせてもらえず、また分類能力が向上するまで、本物の画像の処理ができないようになっています。また難しい事例には、他のプレイヤーの結果と比較して、分析内容を改善・検証するしくみも作られました。

<プロジェクトの結果と今後の展望>
さて、結果はどうなったのでしょう。当初、企画側は、1日4万件が分類されることを想定し、10万件もあれば大成功だと考えていたそうですが、結果は、 想定をはるかに上回るものでした。最初の数時間で、40万の細胞要素が分類され、一週間で220万になり、1ヶ月で8百万件弱にまで達しました。これは、プレイヤーが細胞の分類に1820万分(34.7年分)を費やした結果であり、これはスウェーデンの就労条件で換算すると、163年分の労働時間に相当するといいます。

その後も平均1日10万件前後が分類され、1日で最高90万件を記録することもありました。これらの分類・分析結果をもとに、プロジェクト・スタートから1ヶ月で 、109のタンパク質細胞候補を新たにみつけることができました。4月末には、最初に準備していたすべてのデータの処理が終わり、企画側は、よりデータ分析内容の質をあげるために、同じデータの分類作業の二度目を行うことや、プロジェクトをさらに拡大して、ほかのデータ処理、ガン医学や系外惑星などのデータの処理も検討しているとのことです。

これまでも、オンラインゲームで医学や生物学、天文学に貢献するプロジェクトはいくつかありました。もっとも有名なのは、2008年から公開されたワシントン大学が開発したFoldit という、ゲーム化されたルールに基づきタンパク質の構造を決定するというゲームです。このゲームのおかげで、学者が10年間取り組んでもできなかったエイズ治療に役立つ酵素の構造を、3週間で解明するという快挙が成し遂げられました。一方、今回のゲームとこれまでのゲームには大きく異なる点があります。それは、今回のゲームがソロのゲームではなく、既存のゲームのなかに組み入れられたゲームであったことです。これは、今回のプロジェクトの立役者MMOS がこだわった点でもあります。ゲームプレイヤーがもともと多いゲーム内で行うことで、潜在的な参加者が増えます。また、ゲームのなかにあることで、ゲームを一過性のものとして終わらせずに 、プレーヤーを持続的にあるいはほかの新たな作業にも引きつけることができるのではないかと考えたためです。

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シチズン・サイエンス専門サイト「Zooniverse」のプロジェクト例 

MMOSは、今回の成功で、一般の人がするゲームと科学をつなぎ、統合していくという会社の設立ビジョンが、時代にマッチしており、今後も需要があると確信し、今後も適切なテーマをゲームに統合するプロジェクトを作っていくことに強い意欲を示しています。同時に、 適切なコンテンツやゲーム性、ゲームの環境をうまく組み合わせることで、作り込まれてすぐ飽きられるようなゲームではなく、リアルなものの醍醐味を生かしたやりがいのあるものを提供し、持続的に人を惹きつけることが、今後の大きな課題だとします。そして現在は、詳細はまだ明らかにしませんが、ジュネーブ大学の天文学部との共同プロジェクトにも取り組んでいるといいます。

<シチズン・サイエンス>
ディスカバリー・プロジェクトは、ゲーミフィケーションの単なる成功例としてだけではなく、新しいコンセプトの成功例としても注目されます 。そのコンセプトとは 、専門家だけでなく一般の人々が広く関わり、新たな科学に貢献する業績をつくっていくというシチズン・サイエンスという構想です。シチズン・サイエンスは、クラウドサイエンス、クラウドソーシングサイエンス、ネットワークド・サイエンスなど様々な呼ばれ方をしていますが、世界的なネットワーク化・オンライン化によってはじめて実現可能になった新しい科学のあり方で、素人や専門家でない科学者など全体や部分に関わる(参加する)科学研究全般をさします。今回のプロジェクトで、普段は医学や社会の貢献などに関心を持っていたわけではないオンライン・ゲームのプレイヤーが、自分のしているゲームの延長上で、気軽に科学に役にたつことに関わる可能性を開いた意義は大きいと思います。

今後、さらに効果的に一般の人を学問研究に関わらせ、人類全体の科学の貢献につなげることを目指して、今年5月に 「シチズン・サイエンス」というオンライン学会誌も今年創刊されました。これは、オープンアクセスジャーナル(無料でオンラインで閲覧できる雑誌)で、この雑誌を中心あるいはきっかけにして、世界中の環境、教育、医療、公共福祉、都市計画、公共政策、生物学等々さまざまな分野の研究者や現場の人たちが、互いにやり方やアプローチ方法、利点、費用、これによる影響、課題などを活発に議論したり、情報を交換することが期待されています。

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オンライン学会誌「シチズン・サイエンス」のサイト

<ゲームの進化>
楽しむ目的でゲームが誕生し、さらに新たな目的ができて、ゲーミフィケーションという新たな潮流がでてきました。当初は、学習効果や就労のモチベーショんをアップさせるなどゲームをする当人に直接還元される利便性から語られることが多かったゲーミフィケーションですが、今回の事例をみると、さらに進化し、フロンティアが広がってきているという感じを受けます。

それにしても、普通の人が家でゲームをしながら、それが直接、医学や生物学、天文学等の研究に関わったり、人道的な貢献や有意義な役割を果たすことができると、以前、誰が想像したでしょう?未来研究者ホルクス氏は、未来は直線的に進化するのではなく、新たに生じた事象が相関関係を新たに作り出しながらスパイラルに進んでいくものであり、直線的な未来像では想像もできないような新たな効果や現象が 引き起こると言っていましたが、ゲーミフィケーションによる学問や社会への貢献もその証左と言えるでしょう(ホルクス氏が考える未来予測のメカニズムについての詳細は「「リアル=デジタルreal-digital」な未来 〜ドイツの先鋭未来研究者が語るデジタル化の限界と可能性」をご覧ください) 。親が子どもに、あるいは社会が社会の成員に、有意義な「課題」としてゲームを推奨することが普通になるような時代が、もうすぐくるのかもしれません 。


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参考サイト
--Discovery Projectについて
プロジェクト・ディスカバリーのサイト

MMOS の公式サイト

CCP Games (Crowd Control Productions)

The human protein atlas

Hayden Dingman, How EVE Online players are solving real-world science problems: Meet Project Discovery, PC World from IDG, Games, Apr 25 2016.

Marc Bodmer, Gamen für die Forschung, NZZ am Sonntagvon, 7.6.2016.

Project Discovery brings real world scientific research into EVE Online, PC Worlkd, April 25. 2016.

Michael Rundle, EVE Online recruits pilots for real-world genetics research, WIRED, 9 March 2016.

Benedikt Plass-Fleßenkämper;Sandro Odak, Rollenspieler helfen der Forschung, Zeit online, 27.3.2015.

Eve Online: Spieler leisten Beitrag zur Wissenschaft,games.ch
, 10.3.2016.

「プロジェクト・ディスカバリー」,B−OSP EVEONLINE WIKI,2016年4月16日

----シチズン・サイエンスについて
Citizen science

オンライン学会誌'Citizen Science: Theory and Practice

----その他
Foldit

Marc Bodmer, Ein Spiel macht Schule ,«Minecraft», NZZ, 29.4.2016.

Zooniverse


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