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スイスのイノベーション環境 〜グローバル・イノベーション・インデックス (GII)一位の国の実像

今夏、 「グローバル・イノベーション・インデックス(GII)」と呼ばれる、国別でイノベーションの状況を評価する世界ランキングで、スイスが6年連続で1位になりました。これだけ聞くと、なんだかすごいことのように思うのと同時に、具体的なイメージは湧かず、かえって次々と新たな質問がしたくなってきます。 ここでは「イノベーション」はどのように測られているのか。そこではスイスはイノベーションに関してどのような点が優れているとされているのか。また、実際にスイスのイノベーションの中心となっているのはどんなところや分野であり、イノベーションの推進をかかげるほかの国々にとって、参考になるようなことはあるのか。今回は、これらの疑問を明らかにしながら、「イノベーション大国」と評価されたスイスの実像について探ってみたいと思います。

グローバル・イノベーション・インデックス
このランキング・データは、アメリカのコーネル大学と、3大陸にまたがる世界最大規模のビジネススクールであるINSEAD、それに世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization 略してWipo)が、2007年から共同して毎年発表しているものです。 イノベーションに必要な人材や研究などへのインプット(投資)と、これによって達成された具体的なアウトプット(成果・業績)、またその効率性について、経済・政治・社会などの様々な側面から評価されます(内容は、この記事の下の「参考サイト」欄にのせてある公式サイトで公開されています)。評価項目は年により若干異なり、今年は、政治・規制・ビジネスなどの全般の環境、人的資源と研究・高等教育、情報やコミュニケーションを推進するインフラ整備、市場洗練度、ビジネスの洗練度、知的技術的財産、創造的生産という7分野の82項目が、評価の対象となりました。

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分析結果を一瞥すると、スイスは特に 「知識と技術のアウトプット」分野(1位)と、会社が具体的にイノベーションを実践できるネットワークや環境などを評価した「ビジネスの洗練度」分野(3位)で高い評価を得ていることがわかります。点数評価されたこれらのデータだけでは、具体的にどのようにイノベーションが進んでいるのかよくみえてきませんが、スイスのイノベーションの強さと特徴として、メディアでは、よく 以下の2点のことが指摘されています。

企業と研究施設の共同研究
まず、スイスの特に大手企業は研究開発に多大な投資を例年行っており、企業と大学や研究機関との共同研究がさかんなことです。スイス連邦工科大学チューリッヒ校(以下「チューリッヒ工科大学」と表記します)およびローザンヌ校など世界の大学ランキングでもトップを占める大学や研究施設には、基礎研究のすぐれた基盤があり、これらとの共同研究を進めるスイスの企業は、その多大な恩恵にあずかっているといいます。チューリッヒ工科大学だけでも、パートナー関係をもつ会社は科学、工学、経済分野の約300社あるそうです。

端的な例としてよく引き合いにだされるのが、チューリッヒ市に拠点を置くグーグル社とディズニー研究所です。1800人のスタッフを抱えるチューリッヒのグーグル社には、100人の研究者が働いており、北米以外で最大の開発拠点と位置付けられています。そこではチューリッヒ工科大学と連携しながら、3D技術や言語、画像、音、データなどを処理する最先端の人工知能研究がされています。ディズニー研究所のほうは、北米のロサンゼルスとピッツバーク以外には世界中で、チューリッヒ以外にありません。ディズニー研究所の所長は、チューリッヒ工科大学のコンピューター・グラフィック専門の教授が兼任していることもあり、強い連携関係のもとに共同研究がすすめられています。

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アウトプットを保護し活かす環境
また、研究開発の成果(アウトプット)の保護や市場へのアクセスのための法的制度やインフラがよく整っていることも、スイスのイノベーションを支える特徴と言われます。特に、知的財産権を管理・活用するための法的また会計上(税制度など)の制度や条件がよく指摘されます。GIIでは、特許出願数や特許・知的財産使用量の受け取り量などを評価した「知識と技術のアウトプット」分野の3項目で、スイスは、最高ポイントである100ポイントを取っていますが、これは、そのような恵まれた制度やインフラによるところが大きいといえるでしょう。

具体的にいくつかの例をあげてみると、前述のチューリッヒのディズニー研究所は、ヴィジュアル効果として利用できる特許を2010年4月からの1年間で70件以上を取得しています 。前回の記事(「複製不可能な最強の鍵は金属製? 〜IoT時代のセキュリティー考」)でとりあげた新しい鍵の技術を開発したスイスの企業「アーバンアルプス」は、2014年7月に起業されたばかりですが、すでにスイスの10件の特許を取得しています。また、ヨーロッパ各国の特許も請願中で、遅くとも来年までに特許を取得した後は、会社独自の技術と特許のライセンス契約を会社の主要な収益源にするとしています。

ちなみにチューリッヒ工科大学には、学生や研究者たちの起業を支援する独自のインフラも整備されており、毎年、40社以上が大学関連社によって起業しています。

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"Altocumulus Lenticularis" (チューリッヒ空港内にある Inigo Mnglano Ovalleの作品)

冷めたスイスでの反応
一方、連続6年目でイノベーションのトップのお墨付きをもらったというのに、スイス国内での反応は、概して冷ややかです。むしろ、今後の危機感のほうが強くにじみでた報道が、最近は目立っていると言えるかもしれません。その理由として、今年は2位との点数差が僅差であったことや、中国などアジア各国の追い上げが年々めざましいことや、スイスフランが依然非常に強く、産業界全般に大きな負担であることもありますが、 もっとスイスのイノベーションの根幹に関わる問題を目下、抱えているためです。

それは一言で言えば、「大量移民イニシアティブ」と呼ばれる、外国人労働力の流入を制限する国民投票が2014年2月にスイスで可決されたことの影響です。これにより、まず、スイスの企業も研究機関も海外から優秀な人材を確保するのが難しくなりました。また、EU との共同研究体制にもヒビが入る可能性が高くなりました。特に総額800億ユーロになるというEU史上最大の研究・イノベーション資金助成プログラム「ホライズン2020(Horizon 2020)」に来年2017年はじめからは参加できなくなる可能性があり、そうなると、最先端の研究をエンジンに世界のトップレベルのイノベーション力を維持してきたスイスの社会構造全体にとって大きな打撃を与える、と危惧されています。このため、国民投票の結果と矛盾が起きないような打開策を見つけ出すことが焦眉の問題なのですが、なかなか簡単ではないようです。

スイスにとって、国内外での政治的な変動や社会的な反動にも大きな影響を受けずにイノベーションを推進できる社会モデルこそ、あったら今、一番嬉しいイノベーションといえるかもしれません。


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参考サイト
----GII 2016 について
GII Report

GII Analysis

GII 2016年度の日本語翻訳版

Thomas Fuster, Innovation im Vergleich 2016, NZZ, 15.8.2016.

Schweiz bleibt laut Wipo weltweit führend bei der Innovation, finanzen.ch, 15.8.2016.

Die Schweiz ist Innovations-Weltmeister, Tagesanzeiger, 1.7.2013.

----企業と研究機関との共同研究について
Die ETH Zürich, die Universität Einsteins. Wissenschaft & Bildung, House of Switzerland (2016年8月26日閲覧)

Disney, IBM, Google

Disny Research, Geater Zurich Area (2016年8月28日閲覧)

Jan Schalbe, Die Disney-Magie wird in Zürich erzaubertMarkus Gross führt das einzige Disney-Entwicklungszentrum ausserhalb der USA - Weltweit führend in Animationsfilm- und 3D-Technik - Kooperation mit der ETH

Henning Steier, Google in Zürich. Von 2 zu 1800 Mitarbeitern, NZZ, 17.6.2016.

Marco Metzler, Wie Google in Zürich Computern das Denken beibring, NZZ am Sonntagvon, 17.8.2016

----大量移民イニシアティブを可決した後のスイスのイノベーション問題について
Birgit Voigt und Charlotte Jacquemart, Die Verlässlichkeit der Schweiz ist beschädigt worden, NZZ am Sonntag, 28.8.2016.

Schweizer Forschungsplatz in Gefahr?, Echo der Zeit, SRF, 25.8.2016.

Heidi Gmür, Simon Gemperli, «Es wäre eine Art Notstopp», Masseneinwanderungsinitiative, NZZ, 31.8.2016.



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