明るい未来を開くカギは「暗さ」? 〜ヨーロッパの屋外照明をめぐる新しい展開 - 一般社団法人 日本ネット輸出入協会

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明るい未来を開くカギは「暗さ」? 〜ヨーロッパの屋外照明をめぐる新しい展開


世界に広がる明るい夜
夜の街でネオンや街灯が光り輝いているのをみると、あたかもその都市の活気や豊かさを示すバロメーターのように感じることがあります。また都会に長く滞在すると、夜も煌々と明るいのが当然であるかのように思えてきます。これは、ある特定の地域や国の話ではなく、世界中な潮流のようです。照明の数は年々増え、世界全体で毎年6%ずつ明るくなっており、人工照明に使われるエネルギーは、世界で消費されるエネルギーの8%を占めるといわれます。

しかしヨーロッパでは近年、この世界的なキラキラピカピカ路線から一線を画した動きが強まってきました。それと真逆で、夜に暗さを取り戻そうとする動きです。といっても、街灯がほとんどなかった200年前や、空襲を免れるため光源を隠した空襲の時代のように、街灯や光源を一切排除することではありません。最新の技術とイノベーションを駆使して、屋外照明を最適化し、不要な明るさを最大限減らそうというものです。今回はこのような新しいヨーロッパの動きを、スイスとオランダの事例をとりあげながらまとめてみます。

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光害の実情
ヨーロッパではなぜ今、暗さを取りもどそうとしているのでしょう。直接の理由は、光害の深刻さです。光害とは、人工的な照明を用いることによって生じる被害全般をさします。 豊かなヨーロッパの街は、地球上でも光害被害が最もひどい地域のひとつとされます。

光害は生物本来の行動に直接的な打撃を与えます。配偶行動の交信に発光する蛍はその最たる例で、40年ほど前まではスイスのいたところでみられたといいますが、宅地化に伴う光害で、配偶行動が難しくなり、いまではほとんどみられません。光害の影響は、都市内や周辺の地上の動物や生物類だけに限ったものではなく、散在する屋外照明のため、空中から水中まで、いたるところでみられます。夜間に飛ぶかう鳥たちは本来みえるはずの目印をみつけられなくなりますし、照明で明るくなった水面では夜間は水面近くにきて藻類やバクテリアを食べるはずのプランクトン類が上がってこなくなり、水中全体の生態系を狂わせます。しかし、個々の研究が人工照明の生態系への影響について警鐘を鳴らしても 、数年前までは実際にはほとんどなんの対策も講じられずに、見過ごされてきました。

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事態に少しずつ変化があらわれてきたのはここ数年で、しかも全く違う観点であらわれた動きが後押し、連動する形での始動でした。EUは2020年までに最終エネルギー総消費の20%を再生可能エネルギーで賄うという目標をたてたことに伴ない、多様な分野でエネルギー消費が見直され、屋外の人工照明についても従来の在り方が問われることになったのです。ここでやっと、光害被害の削減と節電化という二つの異なるベクトルが融合し、これまでほとんど野放しになっていた街灯の在り方や明るさが、見直されるようになりました。
EU内でもばらつきがありますが、例えばフランスでは、すでにオフィスもショーウィンドウの明るさを定める規定がすでに作られています。スイスでも法的規定はありませんが、2004年ごろから独自に光害・節電対策が各地でとられてきました。


節電光源の使用
具体的な屋外照明対策として 、まず節電光源の積極的な利用があげられます。2015年以降、EU及びスイスでは、街灯として水銀灯やナトリウム灯などの発光効率が悪いとされる照明の撤去することが2012年に決定されたあと 、急ピッチで、節電型の光源への代替がすすめられてきました。

新しく代替されているもののほとんどは 、節電効果の高い光源として定評がある LED照明です。現在、チューリッヒ市内には4万2千の街灯がありますがそのうち11%がすでにLED照明に代替されています(首都ベルンにおいては21%)。チューリッヒ市では、すべてLED照明 にすると80%電力を減らせる概算しています。LED照明は自治体にとって経済面でも大きなメリットがあります。電力代だけでも自治体にとって大幅なコスト削減にもつながりますが、寿命の点からも従来の照明に比べてLED照明は長いという点を加味すれば、費用対効果はさらにあがります。


インテリジェント照明
また、インテリジェント照明と呼ばれる、新しい照明の仕方にも注目が集まっています。これは、夜間の人どおりが少ない時間の照明を暗くし、ごく微量の電力で作動するセンサーが、人や車などの動くものを察知すると、照明を明るくするというものです。 従来は、夜中の12時から5時までなどの交通が少なくなる時間に照明を一様に暗くする、あるは照明の一部を消す、というやり方がよくみられましたが、インテリジェント照明で、必要な時と場所だけの照明にすることで、効率良くしかも照明の量を大幅に抑えることができ、光害も減らせると期待されています。 現在スイスでは、各地で試験的に車道と歩道の一部でこのようなインテリジェント照明を配置し、状況を観察している段階ですが、これまでのところ、住民の反応はおおむね上々で、今度このような照明が全面的に増えていくことが予想されます。

しかしLED照明やインテリジェント照明も、まだ手放しで喜べる段階ではなく、いくつかの課題あります。とりわけ問題なのが、LED光に変換するだけでは、節電効果があっても、光害削減の効果は少ないことです。またLED照明は青色の割合が多く、ナトリウム蒸発照明より3倍から8倍も明るく、人の目や夜行性生物への打撃がむしろ大きいと指摘されています。このため、上空や余計な場所に光がもれないようにスポットを決めて照らすなど、それぞれの屋外環境に合わせた照明の最適化のための工夫が不可欠で、また将来的に、青色を減らすなど照明をより屋外の生物や人に適応させた次世代LED 照明のような技術の開発がさらに進むことが期待されます。

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自家発電を組み合わせた照明
屋外の照明を自家発電と組み合わせてさらに節電効果を高めることも、未来物語ではなく、実現可能になってきました。特にオランダでは、昨年に、2030年までにインフラをすべてエネルギー中立化する(ほかからエネルギーをもらわずにそれ自体で必要なエネルギーを産出してまかなうこと)という計画がすでに打ち出されており、街灯も太陽光パネルを併設するなどして自家発電させることが、現実に焦眉の課題となっています。ソーラーパネルを埋め込んだ道路や、ソーラーパネルを付設した街灯などはすでに実現されており、これらの国内のノウハウをさらに発展させ、インフラ分野で 、エネルギー中立のインフラのエキスパートとしてヨーロッパや世界でも一気に躍進することを国は期待しているようです 。


電気を一切使わない照明
さらにオランダでは、 電気自体を必要としない究極の節電照明もでてきました。照明アーティストのDaan Roosegaardeによる照明プロジェクトです。斬新な発想から生まれたこれらの照明プロジェクトについて、以下、簡単に紹介してみます。( 写真やビデオは、参考文献に記載されてある彼の公式サイト(英語)からご覧ください)


蓄光技術を利用した照明
最初に作られたのは、道路建設コンツェルンHeijman とともに開発した10時間分の光を蓄光できる技術を利用し、2014 年10月に完成した、オランダのOssの高速道路N329です。具体的には、自然の景色を突っ切るように続く高速道路の両脇に、蓄光能力をもつ緑色の塗料で塗られた3本の線のことで、日中に蓄光した線が夜間に発光し、道路とその外の間の境をくっきり浮かび上がらせます。塗料が塗られているだけで、電気は一切使っておらず、道路のはじが発色するだけなので、照明のような周りの環境や生物への影響を最小限におさえることができます。 夜な夜な現れる緑のライン幻想的で美しく、 完成した当初は、 渋滞ができるほどの大きな反響があったというのがうなずける、画期的な道路照明です。

蓄光の技術を、道路に直接塗るのではなく、蓄光石という形にして道路に埋め込むことで、道を照らすという芸術性の高い照明も生まれました。これは、オランダの335Kmのゴッホ・サイクル・ロードという自転車道の一部にあたる600mの道で、ゴッホが生前住んでいた Eindhovenにあります。日が暮れると道は緑や青の蓄光石が光り、ゴッホの代表的な作品「星月夜」をイメージした模様が浮かびあがって、道を幻想的に照らします。雲の多い日など、日照が少なかった日には、道路脇のLEDランプが蓄光石を照らして、光を補充するようになっています。2014 年11月の道路オープン以降、著名な観光名所としても名を馳せるようになりました。


反射光を利用した照明
さらに、オランダ北部にある世界最大の堤防、北海と淡水湖(アイセル湖)の間を仕切る締め切り大堤防Afsluitdejkの上を走る32Kmの高速道路にも、新しい照明が予定されています。もともと堤防の上は電気が通っていないため高速道路に照明は一切ありませんでしたが、この道路を電気を一切使わず照明するという、オランダ交通大臣からじきじきに依頼された壮大でチャレンジングなプロジェクトです。

道路は海に隣接するため、照明は悪天候や塩害などに強い耐久性があるものでなくてはなりません。そこでRoosegaardeが目をつけたのは、ヘッドライトの光の反射光です。複数の大学や企業と共同して開発された、光を反射する特殊な物質が含まれた塗料を道路に塗り、ヘッドライトの光がちょうど当たって反射するようにすることで、道が照らし出すようにするという計画です。反射角度を鋭角にすることで、ドライバーには必要な道が照らし出されるだけで、100m幅の堤防の逆方向を走行するドライバーの運転を妨げず、光害も最低限に抑えることができるといいます。

Roosegaardeは、 これらの新しい発想の道路の照明が十分に機能することが証明されれば、 道路の在り方やその照明についてのこれまでの世界的な常識が覆されるだろうと言います。これまで未来の交通というと、通常、走行する車の方にばかり目が向けられてきましたが、 土地の景観や光害などの問題にも関わり、広く交通や生活全体にインパクトを与える道路は、ほとんど変化がなく、関心も向けられてきませんでした。しかし、今後は、照明をふくめ、いろいろな変革の可能性がありうるとします。彼の予想通り、今後、道路や照明の在り方は、彼のような斬新な試みを皮切りにして、それぞれの場所や需要に沿って、飛躍的に多様化しながら進展してゆくのかもしれません。

なにはともあれ、まずは堤防の上を走る高速道路の完成が楽しみです。


未来における屋外照明の常識
世界が年々明るくなっていくことで深刻な光害やエネルギー問題をひき起こしていることを考えると、これまで夜の安全や豊かさのシンボルとして疑うことなく着実に敷設されてきた屋外照明は、ヨーロッパに限らず、近い将来、世界中で、転機を迎えるのかもしれません。そうだとすれば、技術や新しい政策だけでなく、わたしたちの照明に対する常識や生活習慣も変わらざるをえなくなるでしょう。都市の「暗さ」こそが洗練された技術やスマートな文化を象徴する、そんなことが一般常識になる時代は、意外に早くやってくるのかもしれません。


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参考文献
----光害について
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Dark-Sky Switzerland

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F. Hölker, et al.: The dark side of light: a transdisciplinary research agenda for light pollution policy, Ecology and Society, 2010, Vol. 15 No.4, Art13.

----屋外照明について
In Baden wird es bald richtig dunkel in der Nacht, az Aargauer Zeitung, 4.2.2015.

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EKZ-Pilotprojekt: Intelligente Strassenbeleuchtung spart Strom, Der Landbote, 15.12.2016.

Raquel García y Cantalejo, Schlaue Strassenbeleuchtung, SRF, 29.11.2013.

----Daan Roosegaardeの活動、作品、講演について
Studio Daan Roosegaarde

TEDxRotterdam - Daan Roosegaarde - Using technology for poetry (2017年1月25日閲覧)

Visions of Public Art: Social Design | Daan Roosegaarde, World Economic Forum (2017年1月25日閲覧)

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Cycling through a painting, heijmans(2017年1月25日閲覧)

Pilot with Glowing Lines live, heijmans (2017年1月25日閲覧)

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Christina Rietz, Firmament im Asphalt, 29. Oktober 2015, 4:47 Uhr Editiert am 1. November 2015, DIE ZEIT Nr. 42/2015, 15. Oktober 2015.

----オランダのインフラ、エネルギー中立化計画について
Minister Schultz: Dutch infrastructure will become energy neutral by 2030, June 14, 2016




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