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東ヨーロッパからみえてくる世界的な潮流(2) 〜移民の受け入れ問題と鍵を握る「どこか」派


移民、難民の受け入れについて
前回「東ヨーロッパからみえてくる世界的な潮流(1) 〜 「普通」を目指した国ぐにの理想と直面している現実」でみてきたように、東ヨーロッパ諸国では、EUに加盟以降、人口が減少の一途をたどっており、国内の高齢化や若者労働人口の流出など、深刻な影響がでています。そのような状況に、2015年以降は、難民の分担受け入れという、新たな難題をEUに迫られるようになりました。

外国からの難民や移民を受け入れたくないという強い感情をもち、断固難民の分担受け入れを拒否する姿勢を崩さない東ヨーロッパの背景として、政治学者クラステフは、東ヨーロッパの国内が現在同質性が非常に高い国である点に言及していました(Mijuk, Orban, S.6)。

確かに、これまでほとんどいなかった文化的背景の人を、同質性の高い社会に受け入れていくのは、大きなチャレンジであり、危惧がつきまとうというのが本音かもしれません。

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西ヨーロッパ諸国の場合
一方、視線の向きを変えて、西ヨーロッパにおいて、分担受け入れ案が可能なのか(もちろん社会全体をみると反対派も少なくありませんが、政府レベルでは分担を推進するのが西側の立場です)を考えてみます。するとなにより、すでに移民を受け入れてきた実績があることが、東ヨーロッパよりも分担案に抵抗が少ない、主要な理由であると思われます。

西ヨーロッパでは、特に第二次世界対戦後の経済成長期から、相当数の移民が移住してきました。これまで不穏な動きもたびたびあり、現在も厳しい対立や緊張関係がみられる地域もありますが、それとは別に、それらの移民たちの就労なしには経済や社会が立ち行かない事実を、大多数の人は日々の生活のいろいろな場所で感じています。例えばスイスでは住民の4人に一人が外国人で、スイス国籍に移籍した人も加えれば全体の3割程度になるといわれていますが、この人たちが突如いなくなったら、どうなるでしょう。そう考えると、移民の受け入れの是非の結論はあまりにも明白です。

また、西側諸国が移民を受けていくのにあたりインテグレーションの重要さを実感し、インテグレーションを推進するためのノウハウやそれを推進するイニシアティブも官民両者で充実させ、それなりの成果を出してきました(「ヨーロッパにおける難民のインテグレーション 〜ドイツ語圏を例に」および穂鷹「職業教育」2017)。

若い世代は、このような社会での外国出身者の役割を認識する以前から、学校という共に学ぶ場所で外国出身者やそのこどもたちと密接なコンタクトがあり、年齢が高い世代よりも、さらにずっと外国出身者への違和感が少ないと考えられます。ちなみにスイスの都市部では、学級全体で外国出身者の親をもつ子どもたちのほうが、スイス国籍の親をもつ子どもよりも多いという学級がむしろ普通になってきているほどです。

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「どこか」派と「どこでも」派
ただし、若い世代を中心に、移民や難民への受け入れ姿勢が柔軟になってきたといっても、あるいはそのように時代や社会が変化していく時にこそ、年齢の高い世代の人が大切にしてきた伝統的な価値観や、農村分など周辺地域の住民たちの心境、あるいはもともと古い伝統や旧来の生活の在り方を好む人の嗜好にも考慮し、それらを尊重する姿勢、また新しい時代に取り残されることへの危惧や不安もまた、非常に重要で、敬意や配慮が十分払われることが必要に思われます。

イギリスのジャーナリストDavid Gooodhartは、イギリスがEU離脱を決めたことを分析するための独自の観点として、イギリス人を「どこかSomewhere 」タイプと「どこでもAnywhere 」タイプの人に分けて論じています(Mijuk, Populismus, 2018)。

「どこか」の人たちとは、安全、伝統、家族などを重視し、変化に慎重な保守派で、自分のアイデンティティーは、個人というより、なんらかの所属する集団に求めます。学歴はそれほど高くなく、地域に根付いていた生活や就労をしています。

これに対し「どこでも」タイプの人は、順応性や柔軟性にたけ、自主性が強く、所属するグループではなく、自分が成し遂げることに重きを置きます。都会に多く、学歴は全般に「どこか」タイプより高い傾向にあります。

そして、ブレグジットは、この二つの社会グループの深刻な対立を背景に起こったといいます。具体的には「どこでも」派の人たちが社会を過去25年間に大きく変えたことに不満をつもらせた「どこか」派による「反動」、と解釈します。


今後の鍵となる東ヨーロッパの「どこか」派
イギリスに限らず、どこの国にも、この二つのモデルに類似するものが存在し、国内に少なからぬ緊張関係を常に作っていると考えられるのではないかと思います。

そして、これを現在の東ヨーロッパの文脈において考えると、 EU離脱を決めたイギリスのように、「どこか」タイプの人が、今後の国の政策や、しいてはEU全体の政策にも決定的な影響を与える、重要な鍵を握っているように思います。

自分たちが大切に考え、あるいは守るべきと考えている安定した共同体に根ざした生活、あるいは文化や治安までが、社会の体制の変化や難民の流入で、失われてしまうのではないか、という危惧。あるいは、自分たちが社会から十分な配慮を得ておらず、置き去りにされているのではないかといういらだち。そして、そのような衝動につき動かされて強まっていく、ほかの人たちへの嫉妬や不満。これらの感情が個人の心情で強まれば強まるほど、全面的に世界観がずれていくのでしょう。

このような近年の状況について、クラステフは、「難民危機によって、全般に、選挙民は、中道左派から右や極右へ移行した」と簡明にまとめています(不安や悩める人たちと右翼や極右の台頭との関係については、「「悩める人たちのためのホットライン」が映し出すドイツの現状 〜お互いを尊重する対話というアプローチ」もご参照ください)


おわりに
人口縮小化、高齢化、そして難民や移民問題。東ヨーロッパで起こっているこれらの問題は、世界やEUという大きな枠組みに密接につながっていて、小国一国で対応するのは到底不可能な難題です。そんな東ヨーロッパには一体どのような道が残されている、あるいはどのような道へ進むべきなのでしょうか。そして、第三国のわたしたちは、ここから、なにを学べるでしょうか。

クラステフは、鋭い分析や解説に徹していて、インタビューで具体的な提案をなにもしているわけではありませんが、現在重大な局面に立っているEUという超国的共同体の意義について、最後に以下のように述べています。

「時にはいい兆しはみえず、ただなんとかもちこたえることだけしかできない、あるいはそれが必要な時代もある。EUは今そのような時代にいるのだろう。EUはとりあえず持ちこたえることができれば、それがなにより一番の存在の正当化になるだろう。長く存続すればするほど、より正当性が高まっていくものであるから。それは、まだ新しい発明にすぎない国民国家にも当てはまる。」(Mijuk, Orban, S.7)

そして、EUを引っ張っていくリーダーたちについては、以下のような観察をし、間接的に助言を呈しています。

「問題の一部は、西ヨーロッパのエリートたちが、これまで順調に成功してきて、高度に技術官僚的に発達してきたヨーロッパにおいて、余裕(冷静さ)を失ってしまっていることだ。混乱を耐える辛抱強さ。民主主義とはそもそも定義の上では、混沌としてシステムだ。」(Mijuk, Orban, S.7)

民主主義が「混沌としたシステム」であると受け止め、楽観でも悲観でもなく、混乱期を耐える、という時代も世界も超越したような語り口は、社会主義時代のブルガリアを生き抜いたクラステフならではと言えるでしょう。同時に、そんな彼の言葉だからこそ、口先だけの表現に聞こえず、なんとかなりそうなたのもしさや力強さを感じるのは、わたしだけでしょうか。

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<参考文献>
Mijuk, Gordana, «Der Populismus ist die neue Sozialdemokratie». Mit ihrer Offenheit gegenüber Zuwanderungs habe Labour in Grossbritanien ihre Wähler vergrault, sagt Auto David Goodhard. Der Brexit war eine Antwort auf die Ignoranz der Elite. In: NZZ am Sonntag, 7.1.2018, S.7.

Mijuk, Gordana, «Orban und Putin geben Wählern das Gefühl des absoluten Sieges» Der Westen war einst Vorbild der Osteuropäer. Doch heute halten sie Europa für dekadent. Sie wollten den Kontinent zur demokratischen Autokratie machen, sagt Politologe Ivan Krastev. Interview: Gordana Mijuk. In: NZZ am Sonntag, International, 18.3.2018, S.6-7.

穂鷹知美「職業教育とインテグレーション――スイスとスウェーデンにおける移民の就労環境の比較」『Synodos』2017年11月1 日



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