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「情報は速いが、真実には時間が必要」 〜メディア・情報リテラシーでフェイクニュースへの免疫力を高める

前々回と前回において、感染力の強い病気への対策を参考にして、フェイクニュースに強い社会を構築するためになにが必要なのかについて考えてみました。そして、感染力が強い病気の隔離・除去にあたるものとして、ドイツのフェイクニュースの抑制を促す法律を、公衆衛生の維持・強化という対策に対応するものとして、公共メディアの役割や改革についてみてきました(「フェイクニュース対策としての法律 〜評価が分れるドイツのネットワーク執行法を参考」、「公共メディアの役割 〜フェイクニュースに強い情報インフラ」)。

フェイクニュース対策を考える最終回の今回は、フェイクニュースにおいて、感染症から個々人の身を守る免疫力の強化に当たるものは何に当たるかを考え、具体的な対策をみていきたいと思います。


フェイクニュースは、フェイクであることを見破ることができない人と場合によって問題となる
フェイクニュースは、大部分の受け手が偽の情報だと分かっていれば拡散されることはなく、深刻な影響はでません。本当の「事実」や「ニュース」だと誤って理解され、広範にソーシャルメディアなどで拡散されることで、はじめて社会や政治に深刻な影響を与えることになります。

その意味では、フェイクニュースがどれだけ誰によって生産されるのかということよりも、人々がフェイクニュースを偽物だと判断できるか否かが、むしろ肝心な問題だといえます。

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それでは、実際にどのくらい人は偽情報と本物の情報を区別することができるのでしょうか。このことに関連するスイスの調査結果をまずみてみましょう(Külling et al., 2017, Zeier et al., 2017)。


一般記事と広告が見分けられない生徒
12才から16才の79人の生徒に、若い人がよく読むウェッブや印刷された新聞(フリーペーパー)をみせ、そのなかでジャーナリスティックな記事(一般記事)とスポンサーがついている広告記事を見分けてもらうという作業をしてもらったところ、一般記事と広告記事を見分けられたのは、参加者全体の40%にとどまりました。

広告記事を一般の記事と判断した理由で圧倒的に多かったのは、新聞に掲載されている記事であったため、というものでした。ほかにも、記事の説明が本物っぽく、うそではなかった、という回答や、印刷メディアの記事だから広告であるはずがない、という回答もありました。

この結果を受けて、調査を行ったチューリヒ応用大学研究者たちは、いくつかの点を指摘しています。

  • 広告記事もレイアウトやスキルが洗練されて、一般の記事と見分けがつきにくいものも多く、大人でもまちがう可能性があり、見分けがつきにくいのは、若年層だけの問題ではないこと。
  • 正しく見分けた人数の割合をみると、所属する教育課程により大きな違いがみられたこと。同じ年齢でも、ギムナジウム(中高一貫エリート校)の生徒は半分以上の55%が正しく見分けられていたが、普通中学の生徒の正解率は23%にすぎない。
  • 若年層は、情報を得るのに伝統的な新聞などのメディア媒体よりもソーシャルメディアを使う傾向が強く、ニュース紙面ですら広告と記事が見分けるのが難しいのなら、ソーシャルメディアの情報(スポンサーの宣伝をするインフルエンサーのビデオなど)を判別することも非常に困難だと推測される。
  • このため、若年層、できれば中学入学以前から、メディアについて学ぶことがのぞましいという見解にいたっています。


    メディア・情報リテラシー
    広告記事同様に、フェイクニュースにおいてもその性質や傾向を理解し、フェイク(偽)だと見破るための知識やスキルをもつことが非常に重要と考えられます。逆に言えば、メディアや情報分野についての基本的な知識や能力全般(以下、「メディア・情報リテラシー」と表記)を向上させることで、フェイクニュースの影響を大幅に減らすことができるはずです。つまり、「個々人のフェイクニュースへの免疫力を高める」とは、これに相当するといえるのではないかと思います。

    このような能力を広く社会全般に高めていくことへの関心は、ここ10年ほどの間に、どこの国でも非常に高まっており、様々な教育プログラムも実施されています。2016年5月から9月までEU28カ国で行われた調査では(Mapping, 2017)、EU全体で547のメディアおよび情報リテラシーに関するプロジェクトが行われていました。これらの多くは、出版メディア、放送局、また公共放送メディアは、学校やほかの教育期間と協力しながら、とくに若い人々にターゲットを絞って行うプロジェクトですが、高い年齢の世代を対象にしたプロジェクトもいくつかあり、全世代を対象にし、様々な形のプロジェクトが展開しているといえます。


    批判的な思考を鍛えるには
    そこでは具体的に、どんな内容が扱われているのでしょうか。

    上記の調査で、テーマとして最も多いのはメディアに対する「批判的思考」を身につけさせる学習でした。全プロジェクト547件の403件が、このことを扱っています (Mapping of media, 2016, p.28)。しかし、批判的な思考を鍛えるとは、もっと具体的に言うと、どのようなことになのでしょう。

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    「情報は速い。真実には時間が必要」
    ここでわかりやすくて参考になると思われるのが、ネット哲学者グラーザーPeter Glaserやメディア専門家のペルクセン Bernhard Pörksenの意見です。両者とも、一人一人がジャーナリズムの技能を身につけることが重要だとします。誰もが記事を掲載するといった情報発信をしたり、受け取った情報さらに拡散もできる現代においては、誰もがある意味でジャーナリストとなったということであり、そのため、ジャーナリストとしての技能は、全員に必要な教育の一部にならなくてはならないとします。

    ジャーナリズムの技能とは、わかりやすくいえば、情報をうのみにせず、慎重に扱うこと。情報の出所を確認し、複数の情報ソースを使い内容を検証すること。情報を公開したり拡散するのは、そのあとにすること。そして、部分ではなく全体像として理解するように努力することとしています(Wir sind, 2018)。

    ジャーナリストの技能をそれぞれの人がもつことは、例えば、なにかの事件が起きた時の情報の正確な把握にも役立つと考えられます。これまで、なにか事件が起きると、半ばパニック状態に陥っている人たちのなかで、一刻も早く事件の状況を把握したいと思うあまり、さまざまな噂やフェイクニュースに過敏に反応することがこれまでは横行し、それらの偽情報に社会が翻弄され、社会全体が不利益を被ることがたびたびありました。

    しかし、グラーザーが「情報は速い。真実には時間が必要」(Richter, 2006)と言っているように、良質のジャーナリズムは、その情報が正確であることを確認、実証するのが不可欠であるため、早く発信できるものではないということを、人々が自覚できたとすればどうでしょう。事件直後からでてくる事件を解明しているかのような、あるいはいかにももっともらしいような耳ざわりのいい情報は、むしろ不自然で偽情報の可能性が高い、と批判的にとらえる人が多くなり、それらにとびついて、社会が不本意に翻弄されることが少なくなるでしょう。

    逆にしばらく時間を経たあとに十分に正確な情報に重きを置き注視することができれば、人々は、有益な情報がしかもわずかな労力で得ることができることになります(Info, 2018)。

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    おわりに
    3回にわたってみてきた、法の整備、良質の公共メディアの維持、個々人のメディア・リテラシーの強化、というフェイクニュースの対策アプローチは、規模も対象者も、また、その効用の現れ方や効果があらわれることが期待されるタイムスパンも非常に異なるものでした。それらの違う対処を、異なる場面や行っていることが、全体として、フェイクニュースにより強い社会をつくっていくということであると思われます。


    <参考文献・リンク>
    Info ist schnell. Wahrheit braucht länger. In: Echo der Zeit, 7.4.2018.

    Külling, Céline, und Zeier, Dominique, "Durchblick behalten"Medienkompetenz bei Jugendlichen der Stadt Zürich, 23.11.2017.(2018年4月5日閲覧)

    Richter, Der Google-Briefschlitz. Das Internet macht faul und schneidet die Vergangenheit ab: Peter Glaser über die Zukunft des Journalismus in Zeiten der Online-Information. In: Zeit Online, 29. November 2013, 5:30 Uhr Quelle: ZEIT online, 3.2.2006

    "Wir sind unseren Medienmöglichkeiten mental nicht gewachsen". Interview mit dem Medienwissenschaftler Bernhard Pörksen. In: Börsenblatt, 13. April 2018.

    Zeier, Dominique und Külling, Céline, Jugendliche erkennen Native Advertising nicht als Werbung. In: Medienwoche, Magazin für Medien, Journalismus, Kommunikation & Marketing, 05.12.2017.




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