「ゴミを減らす」をビジネスにするヨーロッパの最新事情(2) 〜ゴミをださないしくみに誘導されて人々が動き出す
2020-02-24
前回(「ゴミを減らす」をビジネスにするヨーロッパの最新事情(1) 〜食品業界の新たな常識と、そこから生まれる食品のセカンドハンド流通網)に続き、今回も「ゴミを減らす」をビジネスにする可能性や、流通の新しいしくみを、最近のヨーロッパの動きをみながら、考えていきたいと思います。今回スポットを当てるのは、持ち運びや、消費などの用途に使用されるモノ、使用や消費前からすでにゴミになるとのがわかっているモノに対する削減の取り組みです。
記事の後半では、前回、今回扱ってきたものを補完するものとして、商品のライフサイクル(商品がつくられ、使用され、ゴミになるまでの周期)をなるべく長くすることに貢献するビジネスについても、触れたいと思います。
包装しないでバラ売りする店
前回扱った、もともと使える(食べられる)ものであってもゴミとなるものの量も非常に大量でしたが、商品の持ち運びや保存といった、利便性のために使われ(使用後に例外なく即座にゴミとなる)容器や梱包材などのゴミの量も深刻です。
これら、商品が売れる売れないに関係なく、ゴミになることが当初からわかっているモノを減らすには、どうすればいいでしょう。究極の答えは、とてもシンプルで、簡単にみつかります。容器や梱包材をいちいち捨てずに、何度も繰り返し使うようにすればいいわけです。ただし、それが、これまでの流通・小売の流れでは難しかったの事実です。ならば、そこで、なにか工夫の余地はないか。
そんな発想で、新しい売買のスタイルをとる店が生まれました「梱包しない店Unverpackt-Laden」と呼ばれる店です。
具体的にどんな売買をする店なのか、ヴィンタートゥーア市の「むき出しの品物bare Ware」という名の店内を、例として、のぞいてみます。
店は街中の一角にあり、一見なんの変哲もない普通の自然食品や自然コスメティックを扱っているこじんまりした店のようですが、よくみると、商品の売り方が、スーパーや一般の小売とかなり違います。店内で売られている、穀物や香辛料、はちみつなどの食品や、洗剤やシャンプーなどの商品は、大きな容器に入っており、どれも量り売りを原則としています。
つまり、ここのお店の顧客は、自分で家からからの容器をもってその店へ行き、からの状態でまず重さを計り、その後、欲しい商品の中身をいれてから再度、重量を計ります。そして、(差し引いた)容器に入れた分量の料金を会計で支払います。ちなみにこの店では、容器を持ち合わせない人も店頭で購入できるように、空き瓶などの容器も若干用意してあります。
梱包しない店の店内の様子。 シャンプーもクリームも、自分でもってきた容器に中身を入れて購入する
ヴィンタートゥーアの店は、2017年5月に二人でスタートしましたが、現在14人のスタッフを抱えるまでに成長しており、市内唯一の梱包をしない店として、市内での認知度もかなり高くなってきたようです。
ちなみに、現在、スイスでこのような「梱包しない店」は37箇所あります。これらと、もともと包装や梱包をせずに販売する習慣が強い(農家が直接販売する)街の定期的な市場などを合わせると、食品や日常生活用品を、梱包・包装のゴミを出さずに商品を購入できる機会は、かなり増えてきているように思われます。
布製のエコバックより、商品の形がくずれにくい籐製のかご
食品の容器を減らすしくみ
テイクアウェイ(テイクアウト)の飲食産業が、年々拡大しているヨーロッパでは(「ドイツの外食産業に吹く新しい風 〜理想の食生活をもとめて」)、テイクアウェイの容器類も、毎日大量に破棄されるゴミの代表的なアイテムとなりつつあります。
他方、マイカップを持ち歩くなど、テイクアウェイ市場で容器を使い捨てにしないための消費者の意識も強まっており、ゴミ削減の手法が各地で模索されています。昨年コラムで、スイスの大手飲食店が相次いで参加をはじめた、どこでも(提携している店に)返却可能なリターナブルの容器のシステムについて紹介しましたが(食事を持ち帰りにしてもゴミはゼロ 〜スイス全国で始まったテイクアウェイ容器の返却・再利用システム)、これも、そのような流れの好例といえます。
リターナブルの容器を並べているファミリーレストランの一角
ドイツでも、リターナブルのコーヒーカップを流通させる試みが、4年前から、いくつかの都市ではじまりました(「テイクアウトでも使い捨てないカップ 〜ドイツにおける地域ぐるみの新しいごみ削減対策」)。その後の現在までの展開について、業界をリードする「リカップReCup」を例にみてみます。
リカップは、学生時代からゴミの削減について施策を模索していた二人の青年(Fabian Eckert と Florian Pachaly)が、小都市ローゼンハイムで実験をしたことがきっかけで起業された会社です。実験とは、街の26のベーカリーとカフェに、使い捨てのカップの代わりに、デポジット制の(提携先のどこにでも返却可能な)共通のプロトタイプのコーヒーカップを使ってもらうというもので、2016年11月から、8週間行われました。この実験の画期的な点は、使ったコップを、購入したお店だけでなく、提携しているほかのどの店舗にも、使用後洗浄などせずにそのまま返却できることです。ビール瓶などでよくあるリターナブルの瓶と流れとしては、ほとんど同じですが、カップをリターナブルするというのは、はじめての試みだったといいます。
この結果が大変好評であったため、会社を設立し、正式に事業としてスタートすることになりました。
リカップ社がすすめるリターナブルのコーヒーカップのシステムを簡単に説明すると、まず、リカップ社のコーヒー・カップ(約1000回までの利用が可能と言われる高品質のプラスチック製カップ)を使いたい飲食店や小売業者は、リカップ社のサイトでパートナー登録をします。パートナーは、システム代金と呼ばれる、管理費(12ヶ月契約の標準プランでは、月額31ユーロ。つまり1日1ユーロ)を支払うと、希望する数とサイズのカップをひとつにつき1ユーロで、リカップから借受けることができます(ちなみに、契約は6ヶ月や24ヶ月でも可能ですが、管理費用が前者は36ユーロで、後者は28ユーロです。カップの種類は、0.2、0.3、0.4リットルの3種類あります)。
パートナー事業者は、コーヒーなどの飲料水の販売時に、カップを、さらに自分の顧客にも1つにつき1ユーロのデポジットで貸し出します。この際、使い捨てでなく、リカップのカップを選ぶ顧客には、20セントや30セントの割引をするなどのインセンティブが推奨されています。顧客は、パートナー事業者のどこにでも、使用済みカップを戻すことができ、その際、デポジットの1ユーロを返却されます。リカップのカップを扱っているお店(パートナー事業者)は、リカップのアプリで全国、どこの地域でも、簡単にさがすことができます。
2017年5月にミュンヘンで正式にスタートしたころは、まだパートナーの数は、カフェやベーカリーなど50店舗にすぎませんでしたが、当初から、メディアが、ごみを減らす画期的なシステムとして注目し、頻繁に報道したため、関心をもつ店舗や地域が、その後、全国的にひろがっていきました。
現在は全国で、3000の店舗がパートナーとなっており、ハイデルベルクとアウグスブルクとのふたつの都市では、大手ファストフードの、マクドナルドも試験的にリカップを利用しはじめ、本格的な採用を現在、検討しています。昨年末に問い合わせした際、国内からの問い合わせが非常に多く、その対応に追われて国外への問い合わせになかなか応じられない状況だという返答でしたので、ここ数年でドイツ国内の市場が、一段と広がっていくのかもしれません。
ちなみに、今月1月末、リカップ社は、ドイツの主要メディアの一つ『ディ・ツァイト』が選ぶ今年の「持続可能性への勇気賞」にノミネートされました(3月に受賞者が決定)。
成功の秘訣
現在、ドイツには、リカップだけでなく、ほかにも同様のリターナブル・カップのシステムが、それぞれ一定の地域を拠点にして、いくつかあり、この4年間で、テイクアウェイの市場の拡大と並行して、リターナブル・カップのシステムが定着しつつあるようにみえます。
その成功の要因を考えると、単に、ゴミを減らすという、人々の環境意識に響いたからということでなく(それももちろん大きな要因ですが)、リターナブル・システムに直接関連する三者である消費者、店舗、地方自治体それぞれにとって、メリットを生むしくみとなれたことが、かなり大きかったのではないかと思われます。
まず、消費者は、これによって、(使い捨てをカップを使用しなくてはいけないという)良心の咎めを受けずに、気楽にテイクアウェイができるようになりましたが、それだけでなく、リカップを選択することで、若干の割引サービスも受けられるようになりました。
店舗にとっては、戻ってきたカップの洗浄という新しい手間が発生しますが、使い捨て容器の購入費用はかからなくなり、ごみ削減に貢献することで、店のイメージアップが期待できます。パートナー店としてアプリに掲載されたり、使用後のカップを返却するのに立ち寄る人も増えてくると、顧客が増える可能性も高まります。
自治体にとっても、使い捨てカップが減ると、直接ゴミの処理費用が減るだけでなく、公園などの公共空間や施設のゴミ箱があふれて美観を損なうといった景観上の問題も少なくなります。このため、自治体によっては、積極的にホームページなどを通じて、地域の商店に、リターナブルのカップの使用をよびかけるところもでてきました。
このようにみていくと、今後、消費者と店舗、自治体の三者がすべて得をするウィン=ウィンの状況が続くことで、普及がすすんでいくことが容易に予想されます。
リカップと同様のコンセプトで現在、ドイツ、ゲッティンゲンを中心に展開している
リターナブル・カップのひとつ「フェア・カップ」
出典: FairCup https://fair-cup.de/
潜在的なゴミをなるべくゴミにしないためのしくみ、受け皿
さて、ここからは番外編として、新しい動きではありませんが、ゴミ対策としてすでに長い実績をもち、貢献している、スイスにいくつかの動きをご紹介してみたいと思います。
モノにとって、いつかはこわれたり、不要となるのは、避けられません。例えば、長年使っていた電気工具も、部品が壊れて使えなくなることがありますし、新しい食器を買ったことで、スペースの関係で、これまで使っていた食器を手放す必要がでてくることもあります。これらは、これまであげてきた(余剰のゴミや梱包の)ゴミよりは、(すぐにゴミになるのでなく、長い期間利用される分)問題視されることは少ないですが、ここにも、ゴミを減らすために工夫の余地はあるでしょうか。
まだ少なからずある、とわたしは思います。使われる期間を少しでも長くすることができたり、使わなくなった時点でそれをほかにまだ必要とする人に受け渡すことができれば、相対的にゴミの量は減らすことにつながるためです。
スイスでみかけた、商品のゴミになるまでのライフライクルをなるべく引き延ばすためにの、有効なサービス・ビジネスの例を、以下、紹介してみます。
できるだけゴミになるまでの周期を延期するしくみ
まず、破損したり紛失した部品を、簡単に修理できるような環境を提供し、必要ならば修理のサービスも請け負ってくれる場所として、大型工具専門店が重要な役割を果たしているように思います。例えば、スイス大手工具専門店の一つハスラーHasler では、専門知識をもつ数十名が常に店頭で待機しており、店頭や電話で、修理に関する多様な相談を受け付けています。
それと同時に、生活環境に存在するありとあらゆる工具や家具、インテリア類の部品類が取り揃えられており、それらを(自分で修理することができる人には)販売するかたわら、修理業務を請け負っています(参考文献に、ハスラーの店内が実際にみられるサイトを提示してあります)。自分で直すことが難しい電気工具などが壊れた場合の修理代は、新品の値段の半分以上になはならいことを保証しており、修理中は、無料で代替商品を利用することもできます。
これらのリソースを駆使すれば、家具や用具、機械類などで、破棄せずに、なおして、長く使うことができるものはかなり多くなります。
修理に必要な電気工具や、よく利用される道具類の一部は、貸し出しサービスもしているので、それらの道具類をレンタルですませ、自ら購入することを省くことで、ゴミをださないようにすることもできます。
いろいろなものを受け入れるリサイクルショップ
壊れていなくても、手放したい時もありますが、そんな時、もしもゴミという選択肢以外のものがあれば、ゴミにならずにすみます。
スイスには、ゴミ箱に直行せずにすむ、有望な選択肢があります。リサイクルショップです。リサイクルショップ自体は、どこの国にもあり、決して、めずらしいコンセプトでもなんでもありませんが、スイスのリサイクルショップが言及に値するのは、使用感が強くあるものや、非常に多様なものを、かなり柔軟に受けいれるためです。
例えば、使用された絵葉書、一部使用された包装紙や壁紙、あみかけの毛糸がついた編み棒、はぎれ、サビていたり古ぼけた用具類、手作りの木工品や縫製品、松葉杖、古い家族写真、洗浄したジャムの空き瓶などを、リサイクル・ショップでよく目にします。これら、持ち主の判断によってはゴミとして捨てられてそうなものでも、ゴミ箱に直行する前に、リサイクルショップでもう一度展示されるチャンスがあれば、だれかが気に入って購入してくれ、ゴミになるまでの周期が延期されることになるでしょう。
おわりに
二回にわたってゴミを減らす、をビジネスにした事例をみてきましたが、これらの事例を見返すと、ゴミになるかならないかは、質や量の問題にとどまらず、受け皿やしくみの有無に大きく左右されるように思われてきます。
また、関わってくる異なる立場の人たちが、それぞれ、できるだけ恩恵を受けられるものであればあるほど、その受け皿やしくみは、存続・発展できる可能性が高いともいえるでしょう。
そのような着想を、ビジネスとして定着させるのは決して簡単なことではないですが、ゴミを減らすという「需要」は、依然として多分にあり、その意味で、この「需要」に応えるビジネスチャンスもまだ多く眠っているといえるかもしれません。
参考文献
Too good to go, 1 Jahr Too Good To Go in der Schweiz, Zürich, 19. Juni 2019
Vogel, Benita, Vorkämpferin gegen Verschwendung. In: Migros Magazin, S.46-49.
unverpackt einkaufen ohne verpackung
Unverpackt einkaufen, Wo kann man in der Schweiz unverpackt einkaufen?, 16. Januar 2020
穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥーア市 Winterthur 在住。
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