ゴミがでない通販、どこでも返却できる地域共通の持ち帰り用容器 〜「リユース」をテコにしたゴミ削減のしくみ

ゴミがでない通販、どこでも返却できる地域共通の持ち帰り用容器 〜「リユース」をテコにしたゴミ削減のしくみ

2020-10-20

ウィズ・コロナ時代に新たに問われるゴミ対策

コロナ危機で、人々が家にこもりがちになったことで、世界各地で、家庭からでるゴミの量が急増しています。店頭で購入せずオンラインで購入する機会が増えたこと、また、外食に代わって食品のテイクアウトが増えたことが、その主要な原因とされますが、新たなゴミ削減の対策を講じなければウィズ・コロナの時代、ゴミは増えつづけてしまいます。

今回は、「リユース(再利用)」の効果を最大限活かして、ゴミを減らそうとするヨーロッパの最新の動きについて、レポートします。具体的には、段ボールを使わない配達システムと、持ち帰り用の容器(食器)のリユースのしくみについてみていきます。今年2月にも、「ゴミを減らす」ことをビジネスにとりいれたヨーロッパの動きを連載しましたが、あれから半年余りをへて、ヨーロッパでは、さらにどんな展開となっているのか、最新事情をお楽しみください。

※「ゴミを減らす」をビジネスにするヨーロッパ事情を伝える(今年2月の)連載記事はこちら

(1) 〜食品業界の新たな常識と、そこから生まれるセカンドハンド食品の流通網

(2) 〜ゴミをださないしくみに誘導されて人々が動き出す

ポストで返却可能な包装資材 Kickbag

クリック一つでオーダーし、自宅で受け取る通販市場は、コロナ危機下、飛躍的に拡大しました。その結果、包装に使われていた資材(段ボールの外箱などの梱包材や緩衝材など)で、使用後破棄されるものも急増しました。

正確に言えば、段ボールをはじめとする紙類は、ゴミではなく、リサイクルされるケースが多くなってきましたが、一度の配送に使っただけで、包装・梱包材を、すぐに古紙としてリサイクルにまわすのも、もったいない。もっと効率的に、再利用するルートを作れないか。そんな課題をコロナ危機下、通販業社自身が自らに課し、エレガントに解決する画期的なアイデアをうみだされました。

それは、スイス東部、ザンクト・ガレンで、オンラインショップ「Stadtlandkind」を経営するツィンクTobias Zinggと、オンラインショップ「Stoff&so」を経営するフーバーMariella Huber によるもので、配達過程でゴミが全くでない、新しい包装の形と流通のしくみです。実物は、ぜひ「Kickgag」ホームページ(本記事のあとの「参考文献」にリンクがあります)の画像やビデオをご覧いただきたいのですが、以下、その使いかたとしくみについて簡単に説明します。

まず、通販元は、配送の際に、独特の包装材を利用します。一見なんの変哲もない細長い袋にみえますが、外面に長い、面ファースナー(マジックテープ)がついており、なかに商品を入れたあと、面ファースナーでふたを簡単にとじることができます。とじたふたに当たる部分に、宛先をはることができます。袋の素材は、ペットボトルやプラスチックなどのリサイクル材料を50%使用したものです。

顧客のもとに商品が届いたら、顧客は、商品を取り出したあとの包装袋を、折り線がついているのに従って、小さく折りたたみます(袋にはいくつか大きさがありますが、3回から4回で簡単に折りたたみが完了します)。ここでも、面ファースナーがあるため、ここでもテープは不要です。最後に、折りたたんだ一番上の部分に、(事前にオンラインショップからもらってある)返送用のアドレスシールを所定の場所に貼れば、家で顧客が行うリユースのための作業はすべて終了です。

あとは、それぞれの顧客が、この折りたたんで小さくなった袋を、最寄りの郵便ポストに投函すればおしまいです。折りたたむと普通の郵便のポストとほぼ同じ大きさになるため、手紙と同じように、ポストに投函することができます。郵便局のあいている時間にいって、窓口でそれを引き渡すような面倒なことはいりません。

郵便局は、この空になった袋を、手紙のような通常の郵便物と同様に、宛先にある発送元に届けます(返却の郵送代は無料ではなく、郵送代をだれからどのように回収するかは、郵便局とオンラインショップがあらかじめ合意されています)。

袋を郵便で受け取った発送元は、別の顧客向けにまた、袋の宛名をかえて、袋を再び利用します。現在使われている包装袋は、約30回ほど、利用することができるといいます。

このようなリユース可能な包装材による配達が可能になれば、オンラインショッピングの環境負荷を大幅に減少させるだけでなく、顧客の手間ひまも、郵便ポストにもっていくだけと、最小限になります。段ボールのように、つぶして、ひもでしばってリサイクル場所に持っていく手間ひまが不要となり、家庭のゴミも余計にでません。


スイスの郵便ポストの例

スイスポストとの共同開発

このアイデアを考案した二人は、早速、スイスポスト(スイスの国営郵便事業会社)に相談にいきました。いくら環境やビジネスモデル、またエンドユーザーにも使いやすいものであっても、既存の流通網にうまく入ることができなければ、利用価値がないに等しいためです。

スイスポストのほうでも、これまで、独自に、環境負荷の少ない輸送方法を求めていたため、今回の相談を受けて、すぐに強い関心を示し、袋の開発や試験的な運用計画に全面的に協力することになりました。

現在、6ヶ月の試験期間が早速はじまっており、考案者が所属するオンラインショップが、実際にこの袋を使っての配送をおこなっています。

最終的にスイスポストがこのしくみを採用するかは、実験期間である半年を経過したあとに決まる予定ですが、すでに、非常に大きな反響があるようです。

まず、この二つのショップの顧客の間では、大変このシステムは好評で、ほとんどの顧客が、袋の返却に協力しているとのことです。また、この袋の構想が生まれたあと、袋と同名の会社「Kickbag」も2020年7月に設立されたのですが、その後、この袋について国内外から多くの問い合わせが多くよせられているとのことです。

近い将来、このような新しい包装材と配送のしくみが(少なくとも袋包装で中身が壊れる心配がない布製品などにおいて)、急速に普及するかもしれません。

使い捨てプラスチック製品の禁止が間近にせまるヨーロッパ

次の話題は、食事の容器についてです。ところで、2018年10月末、欧州議会は、使い捨てプラスチック製品の使用を禁止する法案を571対53の賛成多数で可決し、2019年5月には、EU理事会が、海洋汚染などの原因となるプラスチック製品の利用を減らすため、2年をめどに使い捨てプラスチック製品の流通を禁止する国内法を整備することが求める法案を採決しました。

これを受けて、ドイツでは、今年、9月17日、使い捨てプラスチック容器等の利用を禁止する政令案を可決されました。今後、連邦参議院(上院)での審議を経て施行される予定ですが、来年2021年の7月3日以降、持ち帰り(テイクアウト)用途で今日一般的に普及している、使い捨てのプラスチックの容器(皿、コップなど)とカトラリー(フォーク、ナイフ、スプーん、箸)の生産、流通、使用が禁止されることになります。


販売が禁止されるものの例
出典: Die Bundesregierung, Einweg-Plastik wird verboten

リサイクルではなくリユース

このように、来年夏以降、EU では、世界的にも先進的で大胆な使い捨てプラスチック抑制政策がはじまる予定ですが、その対策としては、プラスチック製品を、木製のカトラリーや紙製のストローなどに代替したり、あるいはリサイクルできるものにするという発想にとどまらず、リユース型をもっと増やすのが理想的でしょう。

そして、このような「理想」は、とどかない理想であるだけでなく、数年前からすでに、現実になってきました。「リカップReCup」(飲み物)や「リサークルreCIRCLE」(食べ物の容器)のしくみがそれです。

これについては、これまでも記事で何度か、紹介してきましたが(「食事を持ち帰りにしてもゴミはゼロ 〜スイス全国で始まったテイクアウェイ容器の返却・再利用システム」、「「ゴミを減らす」をビジネスにするヨーロッパの最新事情(2) 〜ゴミをださないしくみに誘導されて人々が動き出す」、「テイクアウトでも使い捨てないカップ 〜ドイツにおける地域ぐるみの新しいごみ削減対策」」)、今回、半年ぶりに、再び調査してみると、これらの動きに、さらに新しい展開がみられました。来年以降は、上記のような使い捨てプラスチック禁止の流れをうけて、使い捨てプラスチックの代替物として、これらが、いっきに主流のひとつのトレンドになっていくのかもしれません。目が離せないこのようなヨーロッパの、容器のリユースのしくみについて、今回は、スイスが本社のスタートアップ会社「リサークルreCIRCLE」を例にとって、最新事情をお伝えします。

リユースを定着させるキーは、利用のしやすさ

「リサークル」は、テイクアウェイ容器の再利用システムを社会に根付かせることを目的に2017年に起業された新しい会社です。

リユースできるいわゆるリターナブル(返却可能)な容器素材はいくらでもこれまでもありましたし、自分で持ち歩くコーヒーカップも近年、ずいぶん店頭で売られるようになりました。

しかし、それでも食器のリユースは、これまで、お持ち帰りの食事文化に浸透してきませんでした。なぜでしょう。「リサークル」は、この理由を追求し、その問題を最小限にするような形やしくみを追求しました。

例えば、ある人が、地域の食品店Aからランチ食を購入するとします。そこで提供される容器が、使い捨て容器とリターナブル(つまりリユースできるもの)から選べるとしたら、その人はどちらを選ぶでしょう。ゴミを減らすためにリターナブルしたほうがいいだろうと思う人は少なくないでしょう。しかしそう考える反面、食後に食器をいつ返せるか、とちょっと考え、それが時間的に難しそう・面倒そうだと思ったら、それを断念して、使い捨て容器を選択してしまう人がどうしても多くなってしまうのではないでしょうか。

しかしもしも、リターナブルの容器を返すのが、面倒でなく、しかも割引もあるなど経済的に魅力があるとすればどうでしょう。リターナブル容器の利用にまわる人が一転して増えるかもしれません。

このように、人々がリターナブルのものを率先して使いたくなるような、しくみづくりが、リターナブルの容器を定着させるのに、とりわけ肝心だ、とリサークル社は考えました。

例えば、(自分が購入した店舗に限らず)オフィスの近いカフェBや駅の近くなどスーパーC店など、返却したいと思った時の、そこからかなり近い便利な場所で返却できるとしたらどうでしょう。帰路や、ちょっとした寄り道だけで返却が可能なら、リターナブル容器を使ってくれる人が増えるのではないか。容器は結構かさばるので、返却することで、自分のゴミ箱の中身が増えないのも魅力です。これは、ゴミ袋が有料化しているスイスでは、経済的でもあります。さらに店が、リターナブルの容器を選択する人に若干割引するようになれば、利用者は一層増えるかもしれません。

リサークル社は、このようにリターナブルの容器を使うことの従来の敷居の高さを検証し、むしろ使うことで魅力が増すよう構想を練りました。そして、たどりついたのが、持ち帰りに使われる容器を限られた店舗でなく、地域一帯広域で共通するものにし、共通の容器のデポジットを食品購入時に顧客に支払ってもらい、返却の時に返金してもらうという構想でした。


リサークル社の持ち帰り用容器
出典: Coop

現在までの順調な展開

このしくみは、提携店は多ければ多いほど、使いやすくなります。逆にいうと、そこがネックでうまく機能しないことも考えられますが、さいわい、スイスでは、このしくみが、順調に軌道にのりつつあるようにみえます。2020年9月上旬現在、スイスでは、大手二大スーパーを含めた1300の飲食店舗がリサークル社の共通の容器を使うパートナーとなっており、リサークル社の推定では、毎日約5万食分の容器が、これらの容器を利用して提供されています(Pfister, Coop.)。

9月半ばからは、チューリヒ工科大学の学食やカフェテリアも提携パートナーに加わり、キャンパスで提供されるほぼすべての食事が、リサークル社の容器を用いてテイクアウェイできることになりました。ちなみに、大学の昨年の調査ではキャンパスで提供されている食事の約5%が、持ち帰りされています(ETH Zürich, Verpackungen)。

リサークル社は、世界最初に、食べ物の容器の広域(地域)のリターナブルの仕組みを構築しただけでなく、その後、ほかの国でも提携パートナーをみつけ、2019年以降、ドイツ、ベルギー、アイルランド、フランスでも同様のサービスがスタートしています。

このようなリターナブルの容器に鼓舞され、2019年2月からは、すべての容器をリサイクル容器にする世界初の食品デリバリー会社(Holy Bowly)もドイツで誕生しました。

リターナブルの容器について

現在リサークル社が扱っている容器は、現在5種類あります。400 ml、600ml、1200ml、1000ml(真ん中に仕切りがあるタイプ)、900mlで、パートナーである店舗は、このなかから、それぞれ自分の店に合うものを選ぶことができます。

すべて、きっちり蓋がついており、蓋は液体もこぼれないようきっちりしまるようになっており、冷凍も電子レンジも、洗浄機も利用が可能です(顧客は、洗う必要はなく、提携パートナー先が一括して洗います)。容器は通常、150から200回の使用ができるとされます。ちなみに、テイクアウェイの人気料理のひとつピザ用の容器についても現在、検討中だといいます。

おわりに

今回とりあげたふたつのリユースの事例は、単に環境負荷を減らすという発想ではなく、社会や地域全体で、幅広くつかってもらうために使いやすさに強くこだわっているのが共通する特徴でした。

そのようなしくみを全くゼロのところから構築するのは、非常に大変です。しかし、リユースは、リサイクルよりもずっと環境負荷も作業工程も少なく、利用できる状態にもどすことができるため、環境対策として、ずっとすぐれています。これから「リユース」を重視した画期的な発想がますます増え、それらが社会で定着していくことが期待されます。

参考文献

・包装資材のリユースについて(Kickbag)
Kickbag ホームページ

Baettig, Livia, Mehrweg-Versandtasche- Der «Kickbag» soll die Karton-Flut bändigen, SRF, News, Samstag, 29.08.2020, 14:29 Uhr
Sieber, Cynthia, Neue umweltschonende Verpackungslösung, St. Galler Nachrichten, 09.09.2020 05:05

Scherrer, Alexandra, Notime und Kickbag – Bewegung in der Zustelllogistik, blog.carpathia.ch, 2. September 2020

PPS Pressedienst, Nachhaltiges Online-Shoppen ohne Verpackungsmüll, 18.08.2020

・容器のリユースについて(reCIRCLE)
ETH Zürich, Verpackungen und Take-away- Geschirr in der ETH-GastronomieBestandsaufnahme und Handlungsempfehlungen zur Reduktion der Umweltbelastungen, Oktober 2019

Hirsbrunner, Andreas, Vier von neun setzen voll auf ökologisches Mehrweg-Geschirr. In: bz Basellandschaftliche Zeitung, 29.5.2019.

Keller, Michael, Von Wegwerf zu Mehrweg, ETH Zürich, 08.09.2020

Morat, Jeannette, reCIRCLE – Mehrwegsystem für Takeaway-Betriebe. In; Stephanie Thiel • Elisabeth Thomé-Kozmiensky • Daniel Goldmann (Hrsg.): Recycling und Rohstoffe – Band 11, Neuruppin 2018, S.79-94.

Pfister, Franziska, Coop verbrannt Plastikbesteck. In Supermärkte und Take-away gibt`s ab sofort nr noch Mehrweggabeln aus Holz. Sie sind nicht gratis. In: NZZ am Sonntag, 13.9.2020, S.25.reCIRCLE(ドイツ)

reCIRCLE(スイス)

reCIRCLE: Takeaway und Lieferung in nachhaltigen Mehrweg-Behältnissen für die Gastronomie, 08.07.2020

Struß, Björn, Mehrwegsystem gegen Plastikmüll, Weser Kurier, 23.09.2020

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥーア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


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