テイクアウトでも使い捨てないカップ  〜ドイツにおける地域ぐるみの新しいごみ削減対策

テイクアウトでも使い捨てないカップ  〜ドイツにおける地域ぐるみの新しいごみ削減対策

2016-12-01

世界中、ごみ問題に頭を抱えていない国はないといってもいいでしょう。 環境大国と言われるドイツも例外ではなく、様々な次元で、ごみの削減への取り組みがみられます。そのドイツで、今年秋から、テイクアウト用の飲み物を入れるカップを対象にした、新しいリユースReuseの仕組みが、民間主導でスタートしました。 リユースとは、使用後に全部あるいは一部を再使用することで、リデュースReduce (ごみに後でなるものを、特に製造や販売 の過程で、できる限り作らないようにすること)やリサイクルRecycle (再生資源として再利用すること)と並んで、ごみ削減の3本の柱の一つと考えられています 。
正確にいうと、ドイツのなかのベルリン、ハンブルク、ローゼンハイムという都市での取り組みなのですが、地理的にも離れた3都市で、同じような仕組みがほぼ同時にでてきたということは、単なる偶然ではなく、使い捨てカップのごみがドイツ全体で共通して問題になっていることを物語っているといえるでしょう。ドイツの使い捨てカップをめぐる状況はどのようなものであり、これに対しでてきた新たなごみ削減対策には、どんな特徴や工夫があり、重点はどこに置かれているのでしょうか。ごみの削減という世界共通の課題に向けた、ドイツの最も旬な事例を、今回はご紹介したいと思います。
捨てられてごみになるカップ
紙やプラスチックでできた使い捨てタイプの飲み物容器は、誰もがよく目にし、使用することもよくあると思いますが、ドイツでどれくらい消費されているのでしょう?
バイエルン州の消費センターの環境専門家ツヴォイナー=ハンニンク氏Matthias Zeuner-Hanningによると、一年にドイツ人は平均130の使い捨てカップを使っており、そのうちの60カップは、熱い飲み物を入れる容器です。これだけを聞くと、たいした量ではない気がするかもしれませんが、これがドイツの全人口約8千万人の規模になると、年間30億の使い捨てカップがごみになっていることになります。一時間に換算すると32万カップ、1秒で89カップです。しかも数は年々増える傾向にあるといいます。ドイツの民間環境・消費者保護団体Deutsche Umwelthilfe (DUH)によると、ベルリンだけで毎日46万カップが捨てられ、一年では総数1億7千カップ、2400トン以上のゴミとなっています。毎日、ベルリンで使用し破棄される容器を並べると、ベルリンからヴィネチアまで並べられる距離になります。
使い捨てカップは単にごみを増やすだけでなく、容器を作るために水や森林、原油などの環境資源やエネルギーも莫大に消費し、二酸化炭素も排出しています。ローゼンハイムのプロジェクト公式サイト「リカップReCup」によると、年間使い捨てカップを生産するために4万3千本の木材、3億2千kWh(キロワットアワー/キロワット時)の電力量、2万2千トンの原油が使われ、11万千トンの二酸化炭素が排出されているといいます。端的に水を例にすると、300mlの紙コップを作るのに水だけでも、半リットル以上必要であり、コップに入る容量以上の水が容器づくりに消費されていることになります。
しかし、もしも10%、使い捨てカップの利用が減ると、一年間で1億5千リットルの水、4トンのごみ、32万 kWhの電気、2千200トンの原油を節約できることになるといいます。
ごみ削減案1 リサイクル
前述のドイツ環境・消費者保護団体(DUH)の行ったアンケートでは、85%の人が、使い捨てカップは、公共のごみ箱の負担になっていて、公園などの公共の場所がそれによって汚れていると考えているといいます。使い捨てカップがよくないという意識が人々に強くあるのなら、なぜごみを減らせないのでしょう。
ほかの飲料水容器を対象にしたごみ削減対策として、ペットボトルやアルミ缶のリサイクルは、よく知られており、普及もしています。ならば、カップもごみとして捨てないで、紙コップは紙としてリサイクルすればいいのでは、と手っ取り早く考えたくなります。しかし紙コップは、確かに紙を使ってはいますが、液体がもれないように合成樹脂でコーティングしてあり、紙繊維とその合成樹脂を分離するのが非常に難しく、古紙としてリサイクルすることができません。プラスチックのカップもリサイクルされるものは一部にとどまっています。ドイツでプラスチックのごみ全体で現在リサイクルされているものは、40%にとどまり、残りは一般ごみ処理場に向かう運命にあるためです。
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ごみ削減案2 マイ・カップ持参のリユース
スターバックスなどのいくつかの大手コーヒーショップでは、カップを持参する人に割引をするというサービスをして、容器のリユースを支援する動きもでてきています。今年の7月中旬からは、ベルリン市内を走る鉄道駅約60カ所と自然食品店などが共同で、「ベルリンのためのマイ・カップ」という名前のカップも売り出しました。このカップをもって市内に36カ所にある自然食品店でコーヒーを買うと、割引サービスが受けられるというものです。
マイ・カップのリユースは、確かにごみ減量の観点からみると優れているのですが、いくつかの難点があります。常に自分でカップを持ち歩かなくてはいけず、使用後に持ち帰って自分で洗う手間も必要です。また、それぞれの店舗で異なるカップを指定しているため 、それぞれのお店に合わせたカップが必要になります。また、このようなサービスを行っている店舗はまだ少なく、たまたま飲みたくなった場所の近くに、持参のカップが使える店があるとは限りません。このため、よいサービスではありますが、実際にサービスを利用する人の数は限られ、一般的な動きとはなっていません。
ごみ削減案3 リターナブル・カップのデポジット制度
リサイクルも難しく、マイ・カップのリユース制もいまいち使いにくい。それならば、と新たにはじまったのが今回の試みです。一言で言えば、リターナブル・カップによるリユースの制度です。リターナブルとは、何度も洗って使うことができることを指します。つまり、ビール瓶などでよくあるリターナブルの瓶と流れはほとんど同じですが、カップをリターナブルするというのは、はじめての試みだそうです。
まず、コーヒーショップで飲み物を購入する際、デポジット料金(あずかり金)をあらかじめ上乗せした代金を払います。それを自分用として所持して利用することももちろんできますが、デポジット制なので使用後に、デポジット料金と引き換えに返却することができます。この制度の最大の特徴は、返却先は、購入したお店や同系列のお店だけでなく、市内でこの制度に参加しているほかのどのお店でもいいことです。このため、返却のため、購入店まで戻る必要がなく、飲んだら最寄りの提携する店にそのまま返し、またすぐ手ぶらになることができます。購入・返却できるすべての店はアプリで簡単にさがせます。ベルリンで9月半ば、ハンブルクとローゼンハイムでは11月からはじまりました。
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消費者と店舗の両方が得をする制度
この制度によって、まず消費者は、 使い捨てカップを使わないでコーヒーなどの飲み物を購入できる店の選択肢が広くなったのと同時に、容器の持ち歩きやその洗浄にわずらうこともなくなりました。現在のところ提携する店はそれほど多くありませんが、提携店が一定地域に比較的集中しているため、その地域内にいる限り、いつでも好きなだけ持ち出せ、簡単に返却できる使い勝手がいいシステムとなっています。
ローゼンハイムでこのプロジェクトの立役者であるパハリー氏とエッケルト氏Florian Pachaly, Fabian Eckertは、店舗にとっても損になるどころか恩恵が大きいと言います。 なぜなら、まず、カップは顧客が自分で払うため、店舗側は食器洗浄機で洗う以外、使い捨て容器のようにカップ費用も大きな手間もかかりません。それにもかかわらず、ごみ削減や環境に貢献することになり、お店のイメージアップにもなります。さらに、カップの返却に 店に立ち寄る人と新たな接点ができることは、店にとっても新たな顧客獲得のチャンスになると考えられるためです。
これまで、コーヒーショップや販売機などで販売する小売業者は全般に、効率や採算性、また販売不振を恐れて、飲料容器のリユースに消極的でした。しかし、リターナブル・カップのシステムは、少なくともこのように理論上は、ウィン=ウィン(消費者と店舗の両者が得をする)構想であると言えます。
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街で楽しく普通にできるリユースを目指して
このリターナブル・カップのデポジット制度は、スタートこそほぼ同時期でしたが、リターナブル・カップは、それぞれの都市で優先・重視することを反映して、都市によって色も形も素材もかなり異なっています。
ローゼンハイムは、500回以上利用できる耐久性を追求したシンプルなもので、デポジットは1ユーロと安く設定しています。カップがなるべく長く使えることと、多くの人に使ってもらいやすくすることが、とりわけ重視されています。
これに対し、ハンブルクとベルリンでは、それほどの耐久性はないかわりに、カップのデザインにこだわりがみられます。例えば、ベルリンで使われているカップは、見た目と触り心地も重視して竹を主素材としており、デポジットは二つの都市よりも高めの4ユーロですが、シンプルな白地をベースにしており、リターナブル・カップというより、目新しいスタイリッシュなカップといった印象を受けます。
ベルリンの発起人の一人ペヒ氏Clemens Pechは、このようなカップを採用したことについて、視覚だけでなくハプティック(さわり心地)にもこだわることで、街で持ち歩くのが億劫にならず、誰もが「楽しくリユースでき」、「普通の習慣になる」ことを目指したためとしています。 (Vieweg, 21.11.2106)。
ごみ削減への飽くなき挑戦
まだ3都市どこも、制度が始まってから日が浅く、提携店も少なければ、知名度も低く、成果について判断したり、今後の展開を予想できる段階とはいえません。しかし少なくとも、どの街でも、提携店や、リターナブル・カップの利用者は、 少しずつ増えているようです 。現在、ベルリンでは1500のリターナブル・カップが出回っており、スタート時点より4店舗多い、16店舗が参加しています。ハンブルクでは13店舗、都市人口約6万人の小都市ローゼンハイムではすでに20店以上が参加しています。
地域の店舗と消費者がいっしょに取り組む3都市のごみ削減対策の健闘を、まずは祈りたいと思います。一方、たとえこれらがうまくいなかったとしても、これらに刺激されてまた新たなアイデアや工夫が生まれて、ごみ削減への不屈の挑戦が、これからも続いていくことを願ってやみません。
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参考サイト
——使い捨てカップのごみの現状について
Webseite der DUH-Kampagne: www.becherheld.de
Sei ein Becherheld!, Deutsche Umwelthilfe
(2016年11月25日閲覧)
——ベルリンのリターナブル・カップ・プロジェクトについて
公式サイト”Boodha - Just swap it”
Martin Vieweg, Kampf der Pappbecher-Flut! Mehrweg statt Einweg. Projekt “Boodha - Just swap it”, natur. Das Magazin für Natur, Umwelt und besseres Leben, 21.11.2016.
——ローゼンハイムのリターナブル・カップ・プロジェクトについて
公式サイトReCup
Isabelle Hartmann und Dagmar Bohrer-Glas, Umweltsauerei Wegwerfbecher Coffee To Go-Becher zum Ausleihen in Rosenheim, 17.10.2016.
Coffee-to-go-Becher - Rosenheimer StartUp mit Initiative zur Müllreduzierung, Stadt Rosenheim, 17.11.2016.
“reCup”: Rosenheimer entwickeln Pfand-Kaffeebecher,
Ab November erhältlich, Rosenheim24de
, 11.10.16 07:49 aktualisiert: 12.10.16 12:34
——ハンブルクのリターナブル・カップ・プロジェクトについて
公式サイト”Refill it!”
——他
ベルリンの「ベルリンのためのわたしのカップ」公式サイト

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振
興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


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