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菜食の未来の形 〜 「乳」の文字が消えたEU圏の豆乳のその先


動物由来の食品の消費を減らそうという意識
世界的な人口の増加に伴い、肉や乳製品の消費が増えています。世界保健機関(WHO)によると、1997年から99年の間の世界での肉の 一人当りの消費量は年間平均36.4kgで、牛乳の消費量は78.1kgでしたが、2030年には肉が45.3kg、牛乳は89.5kgに増えると予想されています。一方、同じ世界保健機関は、2015年、赤肉や加工肉の摂取が大腸ガンを発がんする危険性を高めるという報告もしており、肉の多い食習慣に対し健康面から警鐘を鳴らす声も年々強まっています。

このような世界の肉食による環境への負荷や健康をとりまく状況をふまえて食糧のなかでも特に肉や乳製品を一切食べなかったり減らし、そのかわりとして菜食の食品を消費しようとする人が近年、増えてきています。今回は、肉や乳製品の代替食品としてこれまで普及してきた菜食食品に対し、EU 圏で今年から始まった規制についてとりあげながら、菜食食品の将来について少し考えてみたいと思います。


広がるソフトな菜食志向
菜食ブームを詳しくみてみると、肉を食べない菜食主義者や、肉だけでなく乳製品までも一切とらないヴィーガンという人たちが相対的に増えているだけでなく、普段肉も乳製品も食べる人たちのなかでも、肉や乳製品のかわりに菜食専門食品を購入するケースや頻度も顕著に増えていることが観察されます(詳細は、「肉なしソーセージ 〜ヴィーガン向け食品とヨーロッパの菜食ブーム」をご参照ください)つまり、徹底・一貫した菜食主義ではなく、肉や乳製品の摂取の回数や量をなるべく減らそうというソフトな菜食志向が、社会全般に広がってきたといえます。

このような社会で裾野が広くなってきたソフトな菜食志向の人たちは、どんな風に野菜を摂取しているのでしょう。サラダやラタトゥイユのような伝統的な野菜料理の頻度や量を増やすだけでなく、本来動物性の食品を使った料理を、材料の一部あるいは全部を植物由来の材料で代替するという料理も好まれているようです。例えば、ひき肉風の大豆を使ったラザーニャや、チーズの代替食品を使ったピザ、米粉とココナッツミルクの焼き菓子などです。代替品に代えるだけなら、新しいレシピもほとんどいらないため手間がかかりませんし、それまでと変わらないメリハリのあるバラエティー豊かな食生活が楽しめます。これまでの食習慣に近いため、違和感も少なくて済むのでしょう。

実際、肉や乳製品を代替するこれら菜食の加工食品は、種類も売り上げも、年々右上がりで増えており、それらは、自然食品専門店やインターネットショップだけでなく、普通のスーパーでも多数の種類を購入できるようになってきました。

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6月の出来事
このように順調にドイツ語圏でも普及してきている菜食加工食品ですが、今年6月に、これまでのあり方に一石を投じるような出来事がありました。これまで、ヴィーガン向けの乳製品が含まれない食品に、本来乳製品に使っていた名称、バター、ミルク、チーズなどをの言葉を用いて「豆腐バター」「植物性チーズ」などという名称をつけて販売されることがたびたびみられ、慣用的な表現としても定着していましたが、今年6月、欧州司法裁判所によって、商品としてそれらの名称を利用することをEU圏内で、禁じる判断が下されたのです。

きっかけは、ドイツの「トーフタウン」という会社の販売するヴィーガンや菜食主義者用の食品でした。この会社ではこれらの商品に「チーズ」や「生クリーム」を意味する言葉を商品の名称にして販売していましたが、乳製品を販売するある会社(名前は非公開)が、これらの名称のついた商品が、本当の乳製品と区別しにくいと、社会公正競争協会 Verband sozialer Wettbewerbに苦情を出しました。社会公正競争協会は「トーフタウン」に警告を出し、最終的にトリア地方裁判所での訴訟になります。訴えを起こされたトリア地方裁判所ではしかし、自ら判決をくだすのではなく、欧州司法裁判所に委ねたため、今回、EU全体に有効となる判決が、欧州司法裁判所から下ることになりました。


食品名称は成分を反映したものでなくてはならないという原則
これにより、EU圏では、例えば豆乳の「ミルク(乳)」という字が動物性の乳製品を本来表しているとみなされ、「豆乳」ではなく「大豆ドリンク」というような別名称でしか販売できないことになります。「ミルク(乳)」や「チーズ」といった本来乳製品(動物由来のもの)に使用されていた言葉を、ほかの商品にも拡張して利用すると、動物性か植物性かの区別がしにくくなり、誤って購入する人がでる恐れがあるというのが、今回の判断です。

本当に間違いやすいかについては異論もでていますが、数年前に、パッケージの絵や商品名で連想される成分が一切入っていないティーバックのお茶が禁止された時と同じように、商品名やイラストは、本来、商品の成分品質を明記、保証するものでなくてはならず、故に入っている材料に忠実な商品名称をつけなくてはならないという原則が重視されたようです。

ミルク(乳)が入っていないものには、ミルクという名称を使ってはいけないという原則は、本来動物性の乳製品に使われていた言葉、クリーム、バター、チーズ、ヨーグルトなどでも有効となりました。しかし、ココナッツミルクのように、すでに慣用的に定着しているとされる名称は、例外として今後も使用を認められることになりました。

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今後のおこりうる肉に代替食品への反響
今回問題になったのは、乳製品の名称を使う食品についてだけであり、肉のはいっていないソーセージや肉の代替食品の名称に関してではありません。肉の代替商品についての表記は、それぞれの国で消費者に誤解や混乱がないように質を保証できるようにつとめるべき、という見解にとどまりました。しかし、ドイツ国内では、これを受けて農業大臣が、動物由来の食品に考慮して、新しい商品に対する独自の表記の仕方を関係官庁に要請したと報道されています。

具体的に将来、肉の代替食品に対して、ドイツやヨーロッパでなんらかの規制や禁止がでてくるのかは、今のところ全くわかりませんが、食肉加工食品と形状も名称もよく似ているものが、乳製品の時と同様に誤解される危険があると、訴えられたり、判断されたりする可能性はあるでしょう。また、今回の結果を受けて、裁判所の訴訟といった、社会で公的に争うような状況にいたる前に、企業が自主的に名称を変えていくことも十分考えられます。


菜食文化の転機?
そう考えると、この事件は表面的には品質保証とそれをどう記述するかという問題にすぎませんが、菜食加工食品の今後の発展を考える上で、もしかしたら、ひとつの転機になることかもしれません。

というのも、今まで、多くの菜食の加工食品は、動物由来の食品がもっていたイメージを利用することにためらいは少なく、むしろそれを商品をアピールする土台にして発展してきたといえるからです。本物の肉の味に少しでも近づくように、菜食加工食品を販売する会社はどこも、強化剤、結着剤、香辛料抽出物などの最適な調合に精力的に取り組んできましたし、形も色も、ウィンナーやチーズなど動物由来の食品に似せることが当たり前のようになっていました。このような見かけや味の工夫のおかげで、抵抗感がなく食欲もそそられる、菜食のひとつの形が形成されてきました。その意味では、動物性食品の模倣は、菜食ブームの原動力になっていたといえるかもしれません。(ただし人工的な香料、甘味料、保存料、ビタミンなどが多く含まれていることに対し、健康面から危惧・批判する声は、近年、一段と強くなってきているようにも思われます)

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しかしこれからは、このように色、味、形を、従来の動物由来の食材の食習慣を踏襲する形で発展してきた菜食の食材や加工食品が、いや応なくそれらの動物由来の食材のもつイメージを脱却し、食材として新たなアイディンティティーを醸成する時代に移行していくのかもしれません。

今回訴えられた会社はの商品紹介サイトは現在更新作業中とのことで、新しくなったネーミングやパッケージをみることができませんが、これからこの会社に限らず、菜食加工食品がまずは、どう改めて自分たちの商品を表象・アピールしていくのか、そしてそれらに消費者がどう反応していくのか、今後気になるところです。

前回、伝統的な食習慣や食品に代わるものとして有望視されている最新の食材について扱い、未来には全く新しい食品ができあがってくるかもしれないという専門家の未来予想をご紹介しましたが(「新しい食文化の幕開け? 〜ドイツ語圏で有望視される新しい食材」)、菜食加工食品の現状も、これからの新しい食品文化への変化を、後押しするものになるのかもしれません。

次回は、いかに食糧を都市において供給するかという問題にシフトして、引き続き、ヨーロッパの未来の食文化について 考えていきたいと思います。


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<参考サイト>
WHO, 3. Global and regional food consumption patterns and trends: 3.4 Availability and changes in consumption of animal products(2017年6月12日閲覧)

EuGH-Urteil zu pflanzlichen Produkten Doch nicht alles Käse, Tagesschau, 14.06.2017.

EuGH-Urteil Nach "Tofubutter"-Verbot: Was wird aus Leberkäse und Kokosmilch? In: MRD, Nachrichten, 14.6.2017.

Urteil des Europäischen Gerichtshofes Veganer Käse darf nicht Käse heißen. In: Der Tagesspiegel.14.6.2017.

「トーフタウン」のホームページ

Peter Mühlfeit, Urteil des EuGH zu veganen Milchprodukten Die Milch muss aus dem Euter kommen. In; SWR aktuell, SWR. 16.4.2016.



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