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地域社会に潜む郵便事業の未来 〜フランスの郵便配達員の新しいサービスを例に

今年最後の記事となる今回は、いつにもまして楽観的な想像力をたくましくさせ、新年以降の未来について思いをめぐらしてみたいと思います。具体的には、スイスの郵便事業の状況やフランスの郵便配達員が行っている新規ビジネスの事例をもとに、郵便事業と地域生活を支えるサービスやネットワークの未来の形について考えてみます。


郵便事業の現状
最初に、世界的な郵便業界の状況について、スイスを例に概観してみます。

前回の記事「人出が不足するアウトソーシング産業とグローバル・ケア・チェーン」でも触れましたが、オンラインショッピングの増加に呼応し、配達する荷物の量は世界的に急増しています。スイスでは、2016年は前年比で5.7%、2017年は前年比で6%増加しています。スイスでそれら荷物の約8割を扱っているのが、国営の郵便事体であるスイスポストです。概算では今年2017年の1年間で約1億3000万の荷物がスイスポストによって配達されました。2003年以降スイスの物流市場は自由化されましたが、今もスイスポストが圧倒的なシェアを占めるという状況が続いています。

一方、電子的な通信が進み、信書や書類のやりとりが急減する生活やビジネス環境の急速な変化に伴い、従来の郵便窓口業務の収益は、大幅に縮小しています。スイスでは今も年間一人あたり269の郵便物を受け取っており、ヨーロッパではスロベニアに次ぎ、郵便物の数が多いという統計結果はでていますが、それでも郵便局が扱う郵便物は、2000年から2013年の10年余りで半分にまで落ち込みました。

全国中に置かれている郵便局では、従来の郵便事業以外に金融・保険業務も行ってきましたが、郵便局の窓口での取引はこれらの業務も縮小傾向にあるため、長年地域に根ざして存在していた物理的な郵便局の存続が難しくなってきています。すでに2000年の現在までで全国3385カ所あった郵便局は1757カ所と、48%と大幅に減少しました。今年6月のスイスポスト社長へのインタビューでは、さらに459カ所の閉鎖が検討中であることが公表されています(Bürgler, 2017)。

現在扱う量が多い荷物の配送部門も、安泰の状況とはいえません。ヨーロッパや世界をまたにかけた荷物配送のライバル会社が多いだけでなく、将来、オンライン業界が独自に配送ルーツを構築しようという動きも今後、考えられるためです。

このため、郵便事業体としては、従来の業務に平行し、店頭での様々な物品(文具、チョコレート、ごみ袋等)の販売や、古紙やほかのリサイクル商品の回収や食料の配達など、新しい事業を各地で試験的に行いこれまで新しいビジネスへの参入を検討してきました。

そんななか、先月末スイスの消費者問題を扱う国営ラジオ番組「エスプレッソ」で、パリの郵便局のことがとりあげられました。以下、内容を抜粋してご紹介します(Liebherr, 2017)。

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パリの郵便職員の新しいサービス
フランスでも郵便事業は縮小傾向にあり(これまでの4年間で郵便物は2割減で、今後5年でさらに半減すると予測されている)、新しく参入するビジネスを探しています。その一つとして、数年前から、一人暮らしの人、主に高齢者を訪ねるという業務をはじめました。

今回の番組が取材したのは、週に1度高齢者の女性をパリの郵便配達人が訪ねるというものでした。郵便物があるなしに関係なく、週の決まった時間に定期的に訪ねるサービスです。このサービスを担当するにあたり半日間の特別な研修を受けた女性の郵便配達人は、女性とお茶を飲みながら、生活で問題がないかを女性にたずねそれを記録していきます。そして、必要に応じ、その場でできる用事を済ましたり、必要なものをあとで届けたりします。

サービスは、顧客に合わせて設定され、訪問は月に6回まで可能とされます。24時間ボタン一つで助けを求められるサービスは、月20ユーロで、毎週約20分(配達の仕事が多い時は短め)決まった時間を指定できます。

これまでに、このサービスに強い関心を寄せたのは、とりわけ高齢者の子どもや孫たちです。自分自身で訪ねる時間がなかったり、遠くに住んでいる人が、このようなサービスを重宝しているようです。ほかにもパンや医薬品を届けるサービスもはじまっています。

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他社を凌駕する「郵便配達員」というブランド力
このようなサービスを、郵便配達員がはじめた背後には、郵便局や配達人が長年かけて地域の住民たちとの間に培ってきた信頼関係がある、と番組では分析されていました。

確かに、一人暮らしの高齢者が、知らない人を自宅に招き、個人的な話や問題を打ち明けるということは、通常考えられないことであり、そのようなサービスに対し不安や抵抗感は非常に強いことでしょう。逆にいえば、いつも界隈で仕事をする姿を見かけ、実際に自分も世話になっている、身元のよく知れた郵便局配達員であるからこそ、成立可能なサービスといえるでしょう。

全般に、このような巷で信頼できる人物としてのステイタスを最大限に活かす、それを強みとするビジネスこそ、ほかの業界では簡単に参入しにくく、郵便事業体が大きなシェアを伸ばせる潜在的なビジネス分野であるといえるでしょう。具体的にどのような需要が潜在的にあるかは今後、細かく地域によって異なるニーズを見ていく必要があるでしょうが、そのような分野に新たな活路を見出そうという方向性は、前途有望のように思われます。

前途有望なのは、それが郵便事業体のビジネスとして有望であるいう意味だけにとどまりません。単身の高齢者が今後一層増えて、様々なニーズがでてくることを考えると、安心して頼める便利なサービスに気軽にアクセスできることは、地域社会のライフライン(インフラ)として、大きな可能性を秘めているように思われます。

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地域全体のライフラインとして
高齢者のなかでは、普段は概ね一人で支障なく暮らしていける人のなかにも、身体的あるいは技術的に難しいことをいくつか抱えている人は多いでしょう。例えば、重い家具を動かすこと、はしごに登って天井の壊れた電球を替えること、電気機器の設定やメディアやインターネットの取り扱い方などは、日常茶飯事に起きる問題ではありませんが、いざ起きると、手に負えない問題の典型でしょう。

これらの問題に、ほんの少しの助けがあれば、不安が解消されたり、より快適に暮らせるという場合も多い、というここまでは、みなが簡単にわかることですが、しかし、どこにこういう助けを求めればいいのか、というと、意外に簡単ではありません。近所に親身になって助けてくれる知り合いがいれば問題ありませんが、さまざまな事情で、すぐに頼める人が必要な時に近くにいるとは限りません。

このような、ちょっと人に助けを求めたい時に、簡単に安価で信頼できる人を自分の家に呼んで、頼みごとをできるというサービスやシステムがすでにあるとすれば、どうでしょう。普段の生活での安堵感が格段増すと思っている人は多いのではないかとおもいます。


環境負荷も少ないサービスの形
スイスでは郵便配達員は、週に6回かそれ以上、4百万世帯の家の前を通過しているといいます。そのような巡回ルートをすでにもっていて、さまざまな住居に住む人にアクセスしやすいという条件は、地域社会で求められているサービスや交流を実現するための、大きなポテンシャルを秘めています。

遠くから注文してきてもらうのでなく、近くまで来ている人が立ち寄るという形で用を済ますことができれば、環境面でも(CO2削減や渋滞の緩和など)大きな貢献をすることができます。

スイスの郵便局の労働組合も、解雇される代わりに新しいサービスに参入することを歓迎しています。これから、このような郵便事業ならではの資源やこれまで培ってきた信頼を最大限に活用し、地域生活を充実させ、環境負荷も減らす新しいサービスがでてくるのであれば、郵便事業は、将来も十分生き残れることでしょう。


おわりに
郵便事業に限らず、人的また環境的な資源を大事にした地域生活を充実させる新しいサービスが、 奇抜な発想とともに、新年以降も、続々と世界各地ででてくることを期待しながら、今年の最後の記事を終えたいと思います。

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ウィーン、フンデルトヴァッサーハウス

<参考サイト>
Brühwiler, Peter. So viele Pakete wie nie - doch die Post muss sich neu erfinden. In: Aargauerzeitung, 10.3.2017 um 05:15 Uhr.

Bürgler, Erich, «Eine Jobgarantie kann die Post nicht geben». In: Tagesanzeiger, 25.6.2017.

Enz, Werner, Schweizer lieben Briefpost. In: NZZ, 24.11.2017, 11:28 Uhr.

Goebel, Jacqueline, Das gebrochene Versprechen. In: Wirtschaftswoche, 30.11.2017.

Lattmann, Thomas, Weniger Briefe und Pakete: Post jammert zu stark. In saldo 14/2013 vom 11. September 2013 | aktualisiert am 22. Februar 2016.

Liebherr, Charles, Wermelinger, Roland und Kressbach, Maria. In Frankreich wird der Briefträger zum Sozialarbeiter. In:SRF, Espresseo, 29.11.2017, 5:13 Uhr

Meier, Jürg, Päckli-Boom in der Schweiz: Kunden werden ungeduldiger. In: NZZ am Sonntag, 9.12.2017.

Paukenschlag im Schweizer Onlinehandel Amazon plant mit Post 24-Stunden-Lieferung. In: Blick, Publiziert am 23.11.2017 | Aktualisiert am 25.11.2017

Pilotprojekt Post testet Briefzustellung an weniger Tagen. In. Spiegel.de, 2.9.2017.

Post erzielt mehr Gewinn trotz weniger Briefen. In; NZZ, 10.3.2016, 11:13 Uhr.

Riklin, Fabienne und Camp, Roland, Päckli-Rekord für die Post. Der Shopping-Rausch im Netz beschert dem gelben Riesen ein glänzendes Jahr - weil aber nicht jede Lieferung pünktlich eintrifft, steigt die Zahl der unzufriedenen Kunden. In: Sonntagszeitung, 17.12.2017, S.36-7.

Schneeberger, Paul, Mehr als nur Filialschliessungen. In: NZZ, 6.6.2017. 20:41 Uh

Schneeberger, Paul, Wie die Post zu einem rentablen, innovativen Konzern wurde. In: NZZ, 28.9.2017, 08:49 Uhr



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