容姿、財産、若さそれとも知性? 〜パートナー選びは、社会の男女同権の程度を示すバロメーター

容姿、財産、若さそれとも知性? 〜パートナー選びは、社会の男女同権の程度を示すバロメーター

2019-03-07

みなさんがパートナー選びで、重視するのははどんなことでしょう。容姿、経済力、性格、それとも趣味でしょうか。

近年、ドイツ語圏では、パートナー選びを社会の男女同権の進展と関連づけて説明する見解が、たびたびメディアでとりあげられ、注目されています。男女同権は社会的な権利や枠組みです。それが、どんなパートナーを選ぶかというきわめて個人的な問題、異性のどこに魅力を感じ選考するかという生理的な問題に、本当に関係していのでしょうか。

今回は、この新説が注目されるきっかけとなった2015年に発表された論文(Zentner /Eagly, 2015)をもとに、パートナー選びの新しい傾向をご紹介してみたいと思います。

男女同権の進展度は国によって大きなばらつきがあり、男女同権がパートナー選びに与える影響は、現在、いたるところで鮮明になっているというわけではありません。他方、速度は別にしても、世界的に女性の社会進出や男女同権は今後、着実に進展すると考えられます。このため、男女同権によって進むパートナー選びの変化が、世界的に社会が今後どう変化していくのか、新説に基づき、時代を少し先取りして、一望できたらと思います。

レポートの後半では、このようなパートナー選びの変化が、逆に社会に対してはどんな影響を与えるのか。憂慮される三つのパターンをみていきながら、考察してみたいと思います。

生物心理学的な解釈

人が生涯のパートナーを選ぶ時、どんな点が優先されるのか。そして、それはなぜか。これらを説明するのに、心理学者たちは、最近までの数十年間、進化心理学的な見解を重視してきました。

進化心理学は、進化生物学的な解釈やメカニズムに基づき人間の行動や心理を明らかにしようとする学問領域です。パートナー選びの傾向を人間が過酷な環境で生き延びていくための手段や知恵の延長に位置づけ、パートナー選好を時代や地域に関係ない人類普遍的な傾向としてとらえ説明します。

それによると、パートナー選びの傾向は次のようにまとめられます。男性は、女性に若さやそれが象徴される肌の美しさなどの健康的な特徴を求めます。なぜかというと、こどもをたくさん産むことができる健康な女性をパートナーとしたいから。一方、女性が、パートナーの男性に求めるのは資金や経済力。なぜなら、子どもを一人前に育てるために有利な条件や安定した環境を確保したいと望むから。双方がそれらを最優先することで、多くの子孫を残す、という共通の目標に最大限近づくことができる。

しかし近年、人々のパートナー選びやパートナー関係では、こどもをもたないパートナー関係や離婚率の増加など、現状は、生殖に関するロジックから説明しようとする進化心理学的な見解では、十分カバーできないケースが増えてきました。

それは、現代において、人々が、より自由に主観的な判断や感情でパートナーを選ぶようになったということであり、社会環境や文化などの外的な要素の影響が減ったことを意味するのでしょうか。

男女同権という社会システム

そういうわけではない、とオーストリアの心理学者ツェントナーMarcel Zentnerとアメリカの心理学者イーグリーAlice Eaglyは共著の論文で言います(主著者であるツェントナーはそれまでもパートナーの選び方について自身の研究も積み重ねてきましたが、この論文自体は100件以上の関連するこれまでの多様な分野の論文を検証し、そこにあらわれた共通したものを、新しいパートナー志向の傾向としてまとめたものです)。

二人は、そうではなく、進化心理学的見解で重視されていたこととは異なる、別の要素が、パートナー選びに影響を与えているため、と考えます。それは、男女同権という制度やそれが具体的に構築する社会システムです。

ここ50年間、地域的な差は大きく、個人や世代によっても差異がありますが、全体として、西側諸国を中心に、社会でのパートナー関係や女性の置かれた状況は、大きく変化してきました。換言すると、男女同権の方向に大きく進展しました。

男女同権が進むことで、主観的な問題で、社会の制度などとは無縁に思える個々人のパートナー選びの志向にまで変化がでてきた、というのが、論文の主旨です。

男女同権社会でのパートナー選びの特徴

具体的に男女同権が進むことで、パートナー選びにどんな変化がみられるのでしょう。論文で提示されている、男女同権が進んだ社会でのパートナーの選びの傾向(特徴)をあげているのは、以下のようなものです。

男性は、女性の家事におけるクオリティ(クオリティの直訳は「質」ですが「能力」も含めた「質」を指していると思われます)の重視が減り、教育や知性を重視する傾向が強くなります。男女同権先進国のフィンランドでは、女性よりも男性のほうが、パートナーの学歴(修了課程)を重視する人の割合が高く、女性に美しさや丸みをおびた体つきより、知性を優先する男性のほうが多いという結果になりました。

一方、女性の方は、外見を、いままでよりむしろ重視する人増えてきました(経済力以外のファクターが女性でむしろ重視されるようになったと解釈できるかもしれません)。

また、女性が男性に求めるものと、男性が女性にもとめるものの差がなくなり、似通ってくる、というのも、男女同権が進んでいる国での特徴です。男女同権先進国のフィンランドで、この傾向は顕著でした。全般に、男女ともに同じような学歴や生活背景の人を選ぶことも増えてきました。

これらの、男女同権の進んだ国に観察されるようになった傾向は、ひとつの社会だけみていると、変化がみえにくく、認識されにくいですが、男女同権が進んでいない国と比較すると、とらえやすくなります。例えば、男女同権が進んでいない国では、女性は男性に経済力や資金力があるかを重要な項目とし、男性は女性の若さを重視するという(従来の進化心理学的な解釈で説明できる)傾向が今でも強くみられます。トルコでは、パートナーの収入が重要と思う女性の割合が、フィンランドに比べ2倍いました。

以下の表は、男女同権と新しいパートナー志向の強い相関性をまとめたものです。X軸が男女同権の進行度(Gender Gap Index, 2010右側にいくほど進んでいる)、Y軸が男女のパートナー選びの際の差異の大きさ(上にいくほど差異が大きい)を示しています。男女同権がもっとも進んでいるフィンランドで差異が最少である一方、男女同権が進んでないトルコでは、差異が大きくなっています。


お金のあるところに愛がある

フィンランドのように男女同権が進んでいる国は、もともと女性や男性の好みが違ったのではないか。つまり、フィンランドの特徴は、男女同権が直接関係しているとは言えないのでは、と思われる方もいるかもしれません。

しかし、そのような疑いは、パートナー選びの傾向と男女同権の関係を国際比較した研究によって根拠がないものとわかります。2012年のツェントナーの研究では、10カ国3177人と、31カ国8952人を対象に、二回パートナー選びで重要なことについて聞くインターネットアンケート調査を行いました。その結果はどちらもほぼ同じで、男女同権強い国では、伝統的なパートナーに求める型がなくなる傾向となり、男女同権が弱い社会ほど、経済力のある男性、若い女性、という均一的な好み(一定の型)がみられました(Gleichstellung, 2012)。

つまり、ここでは、フィンランドなどの地域の特殊性より相対的な傾向が強くみられます。それぞれの国や地域によって若干の違いはあるにせよ、現在の先進国においては、100年前から少しずつ女性の社会での進出のしくみを整備してきたヨーロッパやアメリカ全体の歴史の潮流から大きく外れずに歩んできており、それによる影響が、どの国にも例外なく、相対的に、パートナー選びに現れている、という現象です。

蛇足になりますが、20年ほど前に、たしかフィンランドに伝わる、ということわざを聞いたことがあります(ただし、もしもわたしの記憶違いで、フィンランドではなくほかの国のことわざであったとしたら、ご容赦ください。訂正すべき点をご存知の方がいらしたら、ご指摘していただけるとありがたいです)。それは、「お金のあるところに愛はある」というものでした。社会風刺のようにもとれますが、フィンランドとて、ほかの国となんら違わず、長い(進化心理学的な説明がおおむね適用可能だった)歴史の上では、経済力のある男性が女性にもてやすい、つまりパートナー選びで選ばれやすいという現象が、フィンランドで一般的に認めていた。このことを、このことわざは雄弁に物語っているように思われます。

このように男女同権とパートナー選びにはっきりした相関関係が認められるのなら、逆に言うと、社会でどんなパートナーが好まれるかをみることで、その社会の男女同権の程度がわかる、つまり、パートナーの好みが、男女同権の程度を示す一種のバロメーターにもなっている、と言うこともできるでしょう。

男女同権の社会が抱え込んだ深刻でリアルな問題

男女同権社会化がすすみ、パートナー選びに影響がでるという新説がわかったところで、ここからは、論文を離れて、このような新しいパートナー選びの傾向が本当であったら、社会にどのような影響を与えるのかを考えていきたいと思います。

論文では男女同権社会では、同じような学歴や類似した社会環境の人を選ぶことが増えていくということが指摘されていました。同質的な社会背景や学歴をもつ二人が、パートナーとなること、これはパートナーとなった二人にとっては、いたって自然ななりゆきで、なんの問題ももちろんないでしょうが、他方、この現象が社会全体に広がっていくと、社会に少なからぬネガティブな影響がでてくると危惧されます。その三つのパターンを以下あげてみます。

1。ダブル・キャリアとノン・キャリア
歴史家マイセンは、家族やパートナー関係の二人がどちらも高いポジションを占める「ダブル・キャリア」組と、そうでない組ができるといいます。

当然ですが、管理職や教授職など高いポジションの数は、どのような組織や企業でも限られた数しかありません。このため、二つのポジションを両方ともを、高い学歴どうしの一つの家族(あるいはパートナー関係の人たち)がとってしまうと、逆に、二人がどちらも高いポジションにつけない家族がでてくることになります。

このような現象は、社会格差に拍車をかけるという点で、「社会全体からみると、問題だ」とマイセン(Maisen, 2018)は警鐘を鳴らします。

近年、パートナー選びがオンライン上でされることが多いことも、このような傾向を強めるかもしれません。

現実の出会いからパートナー選びをはじめる場合は、偶然の要素がカップリングに影響を与える可能性がありますが、オンラインのパートナー選びのアルゴリズムでは、収入や学歴、出身など、事前に希望した条件があれば、それに合わない人に会うことはまずありません。事前にこれらの条件でふるいにかけてマッチした候補者だけにしか出会えないこのシステムでは、同質のクオリティの人同士がカップルになる可能性がきわめて高くなります。ちなみに、アメリカではすでに結婚する人の3人に一人がこの方法でパートナーをみつけています(Fuster, 2019)。

2。社会が階層化し、それが固定化
富める人どうしがパートナーとなることで、その人たちはさらに富みを増やしますが、その一方、貧困層はさらに貧困になります。結果として、社会格差が広がり、それが常態化し、固定化していきます。

社会動態が著しく停滞するという意味では、さながら、社会が階層化していた前近代の時代にまいもどったかのような状況になることが危惧されます(現代社会が階層化し前近代のような様相になっていくという指摘は、ほかの方面からも指摘されています。「人出が不足するアウトソーシング産業とグローバル・ケア・チェーン」。)

3。パートナーをもたない人、結婚しない人が増える
今日、教育だけに限ってみると、男女同権のレベルをすぎ、女性の学歴が男性の学歴と逆転し、高くなる傾向がつづいています。

例えば、スウェーデンでは昨年大学入学登録した人の割合は女性が57%(男性は43%)でしたし、スイスで大学入学資格を取得した人の割合は女性が56%でした。アメリカとフランスではすでに女性のほうが大学卒業者が10%多くなっており、スロベニアやエストランドでは20%にまでなります。世界全般にそこのような女性のほうの学歴が高くなる傾向があることが、世界銀行の最新のレポートでも報告されています(Rost, 2019)、

このような教育上の傾向が続くあるいは維持され、同時に、同等あるいはそれ以上の学歴の異性を求める志向もまた続くのであれば、結果はどうなるでしょう。男女ともにパートナーをみつけにくくなります。

つまり、社会全体としてみると、パートナーをもたない、もてない人たちが増えることになり、家族やこどもをもたない人も増えることになります。男女の学歴の差が、パートナーをみつけるのに大きな支障になる衝撃的な事例は、すでにあります。東ドイツの出生率が0.8まで落ち込んだ原因をさかのぼると、男女で学歴に大差があったことが、大きかったというものです(詳細は「出生率0.8 〜東西統一後の四半世紀の間に東ドイツが体験してきたこと、そしてそれが示唆するもの」)。

それへの解決方法は?

今回取り上げたパートナー選好の新説が本当に正しいのかという問題とは別に、この三つのシナリオは、すでに先進国で起こってきているものであり、今後、深刻な打撃を社会に与える大きなテーマとなってくるかもしれません。

なにかできる対策はないのでしょうか。歴史家マイセンは、「このジレンマの社会福祉的観点に即した解決策は、女性が再び台所にもどることでもないし、以前のモデルのように医者が女性看護師と結婚することではないだろう」と明記した上で、「しかし、もしかして女性医師が男性看護師というのは?」と問いかけます。

女性医師と男性看護師という組み合わせは、高いキャリアや学歴の女性と、そうではない男性のパートナー関係を象徴しています。つまり、男女同権でなかったころの傾向(この例に沿っていえば、男性医師と看護師のカップル)でも、現在増えてきている男女同権の影響がみられるパートナー傾向(男性医師と女性医師のパターンや、男女両方とも看護師のパターン)でもない、新しい時代の新たなパートナー選びのパターンができないか、というオープンな問いかけです。

100年前や50年前、あるいは20年前のドラマや映画をみていて、いかに男女のふるまいやパートナーの役割分担が、この間で変化してきたのかを実感し、愕然とすることがありますが、そう考えると、今後も、パートナーの選び方も、今みえてきた方向にだけ進まず、また新しく変化していくのも可能な気がしてきます。しかしそれはどのような形で可能になるのでしょうか。

確かなことは、近未来において、社会が目にみえない階級のようなものができあがって、あたかも封建時代にまいもどったかのような特権階級と貧民層に分化する社会になる傾向や、格差の広がりや出生率の低下による(労働)人口の減少などは、社会全体としては、決して好ましくないということです。

男女同権という新しい自由を手にいれた人々が、今後、パートナーとなる人を、学歴や収入で狭い選択肢から選ぶ(あるいは選択肢が狭くなりすぎて選べなくなる人が続出する)のではなく、もっと広い視座から選びたくなる社会、そのようなパートナー選びをする人の背中を押し、共感し、応援するようなオープンな社会で、これからの社会であってほしいと願います。

参考文献

Fuster, Thomas, Gegensätze ziehen sich eben doch nicht an – das vertieft die sozialen Gräben. In: NZZ, 25.2.2019, 08:12 Uhr

Gleichstellung verändert Partnerwahl, Science, ORF.at, Kategorie: Gesellschaft Erstellt am 07.09.2012.

IQ vor Schönheit. Worauf achten Männer bei der Wahl ihrer Partnerin? Eine neue Studie stellt ein Klischee auf den Kopf. In: Berner Zeitung, 2016-02-10 14:56

Maissen, Thomas, Strategien gegen den sozialen Abstieg, Gastkolumne. In: NZZ am Sonntag, 2.12.2018, S.18.

Mehr Frauen mit besserer Bildung. In: Neue Zürcher Zeitung, 14.10.2016, S.15.

Partnerpräferenzen und Partnerwahl, Universität Innsbruck (2019年3月3日)

Psychologie: Männer wollen kluge Frauen, Medieninformation, Universität Innsbruck, 10.2.2016

Rest, Katja, Gebildeten Frauen gehen die Partner aus, Gastkolumne. In: NZZ am Sonntag, 17.2.2019.

SWR2 Wissen. Das Geheimnis der Partnerwahl -Konvention und EvolutionVon Iska SchreglmannSendung: Donnerstag, 14. Februar 2019, 8:30 Uhr, Redaktion: Charlotte GrieserRegie: Christiane Klenz Produktion:BR 2018

Zentner, Marcel, & Eagly, Alice H. (2015). A sociocultural framework for understanding partner preferences of women and men: Integration of concepts and evidence. European Review of Social Psychology, 26(1), 328-373.

Zentner, Marcel, This is what dating could look like 100 years in the future, MODERN MATING. In: Quarz, December 26, 2017

Zentner, M., & Mitura, K. (2012). Stepping out of the caveman’s shadow nations’ gender gap predicts degree of sex differentiation in mate preferences. Psychological Science, 23, 1176-1185.

わたしが参照したのは、この論文そのものでなくそれについてまとまた以下の記事です。
Gleichstellung verändert Partnerwahl. Science ORF at, Kategorie: Gesellschaft Erstellt am 07.09.2012.

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
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