新たな「日常」を模索するヨーロッパのコロナ対策(1) 〜各地で評判の手法の紹介

新たな「日常」を模索するヨーロッパのコロナ対策(1) 〜各地で評判の手法の紹介

2020-05-10

3月中旬から非常事態下にあったヨーロッパでは、数週間前から、緩和策が徐々に打ち出されるようになりました。今回と次回の記事では、これまでコロナ危機の対策として定評があった手法や、今後の対策として有望と思われるもの、またヨーロッパの非常事態緩和についてのこれまでの議論の論点をまとめながら、再スタートにのぞむ現在のヨーロッパの状況を概観してみたいと思います。

国家的な戦略が注目・評価されている国

まず、(特にドイツ語圏でのコロナ危機関連の報道をふりかえり)これまでの非常事態下の経過において、国としてうまく対処したとたたえられ、現在も、再開・緩和がほかの国に比べ順調に軌道にのっていると思われる主要な国をあげてみます。

オーストリア
オーストリアは、イタリアの状況を鑑みながら、自国のロックダウンをいち早く決断し(3月16日)、4週間後には、ヨーロッパで最も早くロックダウン解除に踏み切りました。すでにそれから4週間以上たちますが、現在も有効再生産率(一人の感染者から何人に感染が広がったかと記す数値。ヨーロッパでは、この感染率が、ロックダウンをすすめる指針として、よく使われます)が、1.0をはるかに下回る率で推移しており、国民が、自主的に模範的に行動をおおむねとっているものと判断されています。

ロックダウン解除の第二段階として5月はじめからは、外出制限が一切なくなり、10人まで人が集まる催しも認められました。5月半ばまでに普通の店舗やレストランの営業も再開し、(ただし室内に緊密な距離で人が集うライブハウスや映画館などは除外)。5月末からはホテルなども営業も認められ、本格的な夏季休暇シーズンに向けて着々と、観光地では地域全体の準備が整えられていく段取りです。

オーストリアのこのような「成功物語」を特徴づけるのは、政府の判断のタイミングとすぐれたコミュニケーション能力です。政府は、ほかのヨーロッパの国に先駆けて、ロックダウン導入の判断も解除の判断も迅速に行いました。それは、ある意味で、政府にとっては、国民の不満や不安を爆発させ、方針に同調しない人を増やす危険がある、一種の賭けでしたが、最終的に、緊急に全面協力する必要があることを国民に理解してもらい、政府の決断にうまく追随してくれるよう、うまくもっていったように思われます。(詳細は「ヨーロッパで最初にロックダウン解除にいどむオーストリア」)。

ドイツ
ドイツではもともと、ほかのヨーロッパ諸国に比べ、呼吸器などを備えた医療設備が充実していましたが、医療破綻に備え、さらに大規模なコロナ感染症患者の受け入れを迅速に強化したことで、世界的にも、コロナ危機に最強の医療施設をもつ国として注目されました。

このような最強の医療機関の受け入れ体制をバックに、ドイツも、オーストリアに続き、急ピッチで緩和政策をすすめています。5月上旬現在、ほとんどの店舗や博物館、学校の一部が、5月上旬から一切に再開を認められました。

スウェーデン
スウェーデンは、ヨーロッパ主要国で唯一ロックダウンをしない独自の路線を、コロナ危機当初からとってきました。大勢集まる集会の制限などは若干あるものの、店舗もフィットネスクラブも営業を継続しています。義務教育課程までの学校や保育園なども閉鎖されず、しかも、手洗いを徹底するなどの多少の変化はあったものの、基本的に学校の授業は、これまでと同様のやり方でされているようです。

スウェーデンも、ほかの先進国同様、グローバルなサプライ・チェーンが切れて生産業が停滞しており、観光やサービス分野では(人々の自粛ムードのあおりを受けて)大幅に売り上げが減少するなど、マクロ経済としては、ほかの国に劣らず大きな打撃を受けていることは確かです。しかし、それでも、営業を続けながらロックダウンをしているほかのヨーロッパの国々と同様に実効再生産率を低いままおさえこんでいるため、多くの国の羨望の的となり、ほかの国の経済界が緩和を要求する際の、よりどころとされてきました。

国民の間で、抗体をもっている人の潜在的な割合が(移動の自由がほかの国より大幅に認められているおかげでほかの国より)かなり高くなっていると考えられ、第二、第三の感染拡大の波がおとずれる危険が、ほかの国よりも少ないのではという予測・期待もされています。

コロナ対策としてユニークで有力な手法

次に、これまでのロックダウン下、あるいは今後のロックダウン緩和以降の生活・就業において高く評価されたものや、今後も「常態的な」コロナ対策として継続されていくと思われるものについて、具体的に紹介していきます。

●公共交通空間の「出会いゾーン」
ロックダウン下のオーストリアの首都ウィーンでは、4月9日から大都会の限られた公共空間を最大限、住民の福祉向上に活かそうと、都市の通りの各地を「出会いゾーン」に指定しました。

「出会いゾーン Begenungszone」とは、1996年以降、スイスではじめて導入され、その後ヨーロッパのほかの国でも採用されてきた、特別な機能をもつ公共交通空間です。

通常の公共交通空間は、車道や歩行者道など、機能で空間が分けられていたり、信号や横断歩道などで、交通が整理されています。これに対し、出会いゾーンには、横断歩道も信号も歩道と車道の区別は一切なく、すべての横断・交通が同時並行してできる地帯です。

すべてが進入を許され、信号や横断歩道がないかわりに、出会いゾーンでは安全性を担保するため二つのルールが徹底されます。一つは、歩行者の優先(車両は一時停止して歩行者が行き交うのを待ちます)、もう一つは車両の時速20キロ制限です。これにより、車両と歩行者が共同で道路を利用しますが、交通は混乱せず、むしろ渋滞がなくスムーズに流れるようになるとされ、駅前や市の中心部、学校付近、居住あるいは商工業地帯など、様々な車両同様多くの歩行者が利用する交通地帯において、各地で、出会いゾーンがこれまでつくられてきました(「ヨーロッパの信号と未来の交差点 〜ご当地信号から信号いらずの「出会いゾーン」まで」)。

オーストリアでもこのような出会いゾーンにはやくから注目し、これまでもいくつかの地域で採用されてきましたが、ウィーン市はコロナ危機の最中、市内の多くの道路を暫時的に、出会いゾーンに指定しました。

指定された道路には、早速、出会いゾーンであることを示す写真のようなプラカードが、とりつけられました。

出会いゾーンは、すぐれてコロナ危機対策に適しています。歩行者は歩道だけでなく、道路全体を歩けるため人が密集するのを避けやすくなります。感染の危険の高い人たちも含め、散歩や運動目的で、外にも安心してでかけられやすくなります。

一方、ロックダウン下では車の交通量が全般に減ったため、渋滞も問題になりません。車両通行止めと違い、走行スピードを落とせば車も走行できることで、車がないと不便な輸送の問題もありません。

この出会いゾーンの措置は好評だったようで、4月22日、市はさらに広域を出会いゾーンに指定し、ロックダウンが緩和されてきた5月中旬においても、依然として撤回されていません。

●デジタル図書館
ロックダウン下では、通常の(紙媒体の本を扱う)公立図書館業務は停止されました。しかし、家で所在なくまとまった時間ができる人が急増したという意味では、通常より、本への需要が増えたともいえます。実際、このような需要をくんで、デジタル図書館の設備のあるところは、大盛況となりました。

例えば、イギリスでは、3月、電子書籍やメディア(本、雑誌、オーディオブック)が全国で昨年の3月に比べ63%多く借りられました。今年ロックダウンが始まって最初の三週間で、図書館は12万人の人が新しく会員登録しました。このなかにはこれまで一度も図書館を利用したことがない人も多く含まれているとのことです。少し前まで、図書館は利用者が減り存続の危機にあったのとは対照的で、閉鎖が決まっていた10箇所の図書館の閉鎖計画も現在ストップしているといいます(Löhndorf, 2020)。

スイスでも、同様に、ロックダウン下、電子書籍関係の貸し出しが積極的に行われていましたが、それと並行して、一般図書の賃出も、オンラインで注文されたたものを自宅に配送する、デリバリー・サービス(一部有料)の形で行うところがかなりありました。

ちなみに、図書館を利用するために必要な会員になるには、地域住民であることを証明するなんらかの証明書が必要であったり、(スイスの公立図書館のようにもともと図書館が)有料サービスの場合は振込が必要で、地域外からの人が利用することを制限するしくみになっているようです。

●屋内スペースの屋外化
ロックダウン以後の屋内の活動の仕方として、人が近距離に近づくのを避けるために、入場の人数を制限したり、テーブルや椅子など人が利用するもの間隔を大幅にとる、といった対処法が一般的ですが、いっそ屋内であることにこだわらず、できるだけ屋外にだしてしまったらどうか、という大胆な発想もでてきました。

例えば、リトアニアでは、飲食店が、屋外にも机や椅子をおいて商売できる特別の許可をだし、実際に、100件以上の飲食店が、許可の申請をだしました。これにより、しばらくの間、ほかの机や歩行者から2メートルはなしてセッティングするという条件を満たせば、歩道にも、街の広場も記念碑の前にも、椅子や机を置くことができるようになりました。デンマークでは小学校の再開当初、教室のかわりに、(現在使われていない)サッカースタジアムで授業を行うという案もありました(実現されたかは不明)。

先述の出会いゾーンとおなじで、発想を柔軟にして屋外空間を、公共資源として積極的に有効利用する案がどんどんでてきて実施されれば、(距離を気にしたり人数制限が多く慎重にスタートせざるをえない)街の空間に、少し活気がでてくるかもしれません。

次回につづきます

次回(「新たな「日常」を模索するヨーロッパのコロナ対策(2) 〜追跡アプリ、医療情報のデジタル化、地方行政の采配、緩和政策の争点」)では引き続き、コロナ対策として注目される手法について引き続き紹介し、非常事態緩和の議論でてきた問題や、これからの方向性についてもさぐってみたいと思います。
※ 参考文献は次回の記事のおわりに一括して提示します。

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥーア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


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