コロナ危機を契機に登場したポップアップ自転車専用レーン 〜自転車人気を追い風に「自転車都市」に転換なるか?

今回と次回では、都心部の移動のあり方の大きな変化として、コロナ危機以降、注目されている自転車とその周辺事情について扱ってみたいと思います。具体的には、ヨーロッパ各地の自転車ブームやその背景、また購買とは違う自転車利用手段として人気が高まっている定額制(サブスクリプション)の長期レンタルサービスなどに注目していきます。

これまでのヨーロッパでの自転車走行をめぐる状況

すでに半世紀前から、人にもコミュニティにも環境にもやさしい交通手段として自転車を有望視する考え方がありましたが、実際にヨーロッパ全体をみると、車や公共交通に比べ、自転車交通がさかんな地域はむしろ少数派でした(自転車交通を促進するために長年投資を続け、その結果、住民の自転車利用率が急激に上昇した好例であるアムステルダムとコペンハーゲンについては「カーゴバイクが行き交う日常風景 〜ヨーロッパの「自転車都市」を支えるインフラとイノベーション」)。

ロンドン、パリ、ローマ、ベルリンなど、大きな都市になればなるほど、車や歩行者道、路面電車などがごった返しており、自転車専用レーンはほとんどなく、自転車利用人口が少ないでという傾向が、少なくとも最近までみられました。

また近年は、若者の自転車利用の仕方にも、変化がでているようです。スイスの若者の間では、20年前に比べ、主要な移動手段として自転車を利用する若年層の割合が、半分近くに減っています。この理由は複合的なもので、個人差や地域差も非常に大きいでしょうが、スマートフォンを利用したいため、自転車に乗る代わりに公共交通機関を利用したい人や、自転車の運転技術が未熟な若者が増えていることなどが、その主要因と推測されています(「自転車離れするスイスの子どもたち 〜自転車をとりまく現状とこれから」)。

総じて、自転車利用を促進しようとするかけ声は常に聞こえるわりに、必ずしも、直線的に自転車利用者数が増えてこなかったというのが、ヨーロッパの最近までの実情です。

コロナ危機による自転車専用レーンの躍進

しかしコロナ危機が到来したことで、自転車をめぐるこのような足踏み・停滞状況は、がらりと変化しました。

目をみはる変化は、とりわけ、これまで自転車走行におよび腰だった大きな都市で顕著にみられます。コロナ危機からまもなくして、公共交通の理由を減らし自転車走行を奨励する目的で、自転車専用レーンをつくる措置が各地で打ち出されました。ベルリンでは、3月25日から暫時的に自転車専用レーンがもうけられ、現在、15.16kmあり、さらに7.2km延長する予定です。パリでも、50キロを暫定的な自転車専用がつくられ、感染の被害がひどかったイタリアのミラノでは、9月までに25km、ローマでは、今後150kmの自転車専用のレーンを設置する予定です。ベルリンやミラノの暫時的な自転車専用レーンは、当初数ヶ月の予定でしたが大幅に変更し、今年末まで延長されることも決まりました。

こちらをクリックするとダウンロードできます。ウィキペディアコモンズなので、自由な利用が認められている画像です)

ベルリンで最初にできたポップアップ自転車専用レーン (Provisorischer Radweg am Halleschen Ufer als Maßnahme gegen die Corona-Pandemie 2020)
出典: Nicor / CC BY-SA (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0) Wikimedia Commons
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Radweg_Hallesches_Ufer_2020-03-26.jpg

実際、ベルリンでは、車を所有していない世帯が、全体の43%と半数を占め、公共交通をなるべく使わないで大きな都市で移動するため、多くの人にとって、現状では、自転車が現実的で有望な手段になったと思われます。

自転車の用途 通勤とレジャーの両方で重宝

自転車は、現在、通勤とレジャーという、異なる用途どちらにおいても、重宝されているようです。

スイスのコロナ危機下の(1200人の18歳から65歳のスイス人を対象にしたGPSデータの調査をもとにした)自転車走行距離の分析によると、ロックダウン時期のスイスでは、2019 年秋に比べ平均、1日の走行距離が、ほぼ3倍(680メートルが約2キロ)に増えていました。外出の自粛が要請されていたロックダウン下では、歩行を含め、ほかの移動手段での移動距離が減りましたが、自転車の走行距離だけが急伸長していたことになります(Balmer, 2020)。

ロックダウンの時期は、職場に通う人が通常よりずっと減ったはずなので、それでも、これほどまで自転車走行距離が伸びているという事実は、なにを意味するでしょう。

まず、外出の自粛が要請されていても、どうしても通勤しなくてはいけなかった人たちがおり、その一部が、自転車に乗ったと考えられます(学校はすべて閉鎖だったので通学目的の走行はありません)。その中には、通常も自転車通勤していた人もいたでしょうが、これまでは公共交通を使っていたけれど、コロナ危機下、ソーシャルディスタンスをとって通勤するために、自転車に乗り換えた人たちが一定人数いたと考えられます。もちろん公共交通を避けるという同様の理由で、自家用車を利用した人も多くいたでしょうが、通勤距離が短ければ、気候もちょうどよい時節柄だったので、自転車が、好まれたのかもしれません。

それと同時に、レジャー目的でも、自転車が頻繁に利用されたと推測されます。スイスの場合、非常事態期間も自体が禁止されていたわけではなく、スポーツや気晴らしのために外出することが認められていました。この期間、自転車は、公共交通や自家用車での移動に比べ、小回りがきくので、ルートも目的地選びにも融通がききやすく、混み合った道路や場所を避けやすいというメリットがありましたし、走行自体が、この時期にも可能だった貴重な屋外での運動の機会となりました。自転車専用レーンなどが未発達の市街地域なども、ロックダウン期間は人や車の交通絶対量が、数割減っていたため、従来より走行も格段しやすく、広い範囲で、サイクリングを楽しむ人が増えたのだとしても不思議はありません。

現在ヨーロッパは外出規制がなくなり、また夏季で日も長く、自転車走行に最適の時期がしばらく続きます。このため、これから数ヶ月は少なくとも、通勤目的でも、レジャー目的でも自転車に乗る人が、かなり多くなると予想されます。

自転車専用レーンは「やりすぎ」か、「妥当」か?

ただし、このような自転車ブームの背景や今後の見通しを考える上では、コロナ危機による生活や社会の需要の変化だけでなく、政治的な動きや、対立を生むポテンシャルについても留意する必要があるでしょう。

暫時的な自転車専用レーンを推進している都市の政情をみると、どこも緑の党が強い都市です。緑の党は、コロナ危機以前から、自転車交通を推進しようとしていましたが、あまり進展がなかったところに、コロナ危機がおとずれ、これを契機に(悪い言い方をすれば、どさくさにまみれて)、暫時的な自転車専用レーンを迅速に設置していきました。つまり、現在は、一応「暫時的(ポップアップ)」とうたわれている自転車専用レーンも、いずれは恒常的なものとして定着させたい、という強い思いが、設置した緑の党の側にはあるといえるでしょう。

実際、アムステルダムやコペンハーゲンの事例をみると、自転車走行のための環境がある程度整えば、自動的に自転車利用者が増え、あとは自然な相乗効果として(利用者が増えるからさらに自転車交通が交通政策で重点課題となるということを繰り返し)、自転車都市の姿ができあがった、という展開であるため、需要を掘り起こすような環境をどんどん整えていくことは、「自転車都市」になっていくためのひとつの確実で効果的なやり方であるといえるかもしれません。

ただし、強引に片方がすすめようとすれば、違う片方で、強行に反対・抵抗する別の動きも引き起こします。例えば、車両交通関係者は、暫時的な自転車専用レーンは、渋滞や駐車スペース減少を引き起こるのではと懸念しますし、自転車ではなく、むしろ歩行者の移動の安全を優先すべきだという人々の間でも、自転車レーン優先の考え方は不人気です。実際、ドイツの公共交通機関の利用は現在も、コロナ危機以前の半分以下にとどまっていますが、車の交通量は8割程度まで回復しており(コロナ危機下は通常の1割まで減りました)、自転車専用レーンが、社会の対立問題として先鋭化するのも、時間の問題とかもしれません。

長期的に自転車都市を目指すのなら、増えていく自転車利用者のために、自転車専用レーンの延長・拡張や、市内の駐輪スペースの大幅な拡大を継続して行うことが不可欠です。政情がコロコロ変わり一貫性がない交通政策がとられるようでは、自転車交通推進のための初期投資(道路、専用の橋、駐車スペースなど)も無駄になりかねません。そのためには、都市改造への覚悟や一貫した方針が、ある程度、社会で合意されていることが理想であり、重要でしょう。

そのような交通優先と共存をめぐる本格的な議論や合意形成はひとまず脇において、コロナ危機の迅速なひとつの折衷案・妥協案として、すべての交通を遮断せずに許容するマルチ道路に暫定的に変更する都市もでてきました(ウィーンとブリュッセル)ドイツ語圏で「出会いゾーン」、世界的には「シェアードストリート」や「シェアードスペース」)と称されているものです。道路全域を歩行者、自転車、車両などすべてが互いに十分に、十分距離をとりつつ、スローな速度(最高時速20km)で移動することでそれぞれの需要を満たす試みです(「新たな「日常」を模索するヨーロッパのコロナ対策(1) 〜各地で評判の手法の紹介」)。

次回(「ヨーロッパの自転車最前線 〜進む自転車のサブスクリプション化」)は、自転車の新しい利用の仕方として、サブスクリプション制の自転車をとりあげます。

※参考文献は、次回の本文の下に一括して提示します。

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥーア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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