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観光ビジネスと住民の生活 〜アムステルダムではじまった「バランスのとれた都市」への挑戦


人気急上昇中の都市観光
近年、観光(旅行)者の数が世界的に急増していますが、なかでも急伸長しているのが都市観光です。都市観光とは、その名の通り、自然環境や周遊ではなく、観光先を都市にしぼった旅行のことで、World Trabe Trends Report によれば、2016年の都市観光者数は、2007年に比べ、60%も増加しています(Helmes, Trend, 2016)。

「海外旅行」と聞いて都市や地域をまわる周遊旅行を思い浮かべる方が多いかと思いますが、IPK World Travel Monitorの統計では、2016年世界全体でされた海外旅行のうちの26%が都市観光でした。これは、ビーチでの休暇(28%)の次に多い旅行の形態で、周遊旅行(19%)よりも高い割合を占めています(Hermes, Reiseziele, 2017)。

空前の都市観光ブームの帰結として、いくつかの人気の高い都市では、様々な問題がでてきました。その対処法として、ヨーロッパでは、訪問客数の制限から、観光地に似せたテーマパークを別の場所に設置するという奇抜な構想まで、各地でいろいろな検討がなされています(「世界屈指の観光地の悩み 〜 町のテーマパーク化とそれを防ぐテーマパーク計画」)。

今回は、そのような都市のひとつで、近年思い切った改革に踏み出したオランダのアムステルダムをとりあげ、そこでの具体的な対策案や長期的な構想を鑑みながら、世界的な観光ブームが地域社会にもたらす影響と可能性について、若干考察してみようと思います。

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観光客問題に直面す都市の代表格であるローマの光景


アムステルダムのマスツーリズムの現状
人口80万人のアムステルダムでは、観光客数が2005年には1100万でしたが、今年2018年には、1800万人にまで増える見込みであり、2025年には2500万人まで増加するとまでいわれています。このような観光客の急増で、アムステルダムで実際に起こっている問題、また今後一層深刻な問題になると予測されるものを整理すると、以下のようなことがあげられます。

●公共施設やインフラなどの公共財全般が、利用過多のため機能不全、あるいは質が著しく低下する。騒音やごみの破棄など環境や公害問題も増加

●交通量が過剰となり、市内のいたるところで渋滞が発生する。公共交通機関も混雑化

●市内のホテルや民泊の需要が増え、その結果市内の家賃が全般に上昇し、住民が住める住居が減る

●街の中心部が、観光関連のサービスや産業で占められ、代わりに、都市の生活者に必要な商店や飲食・レジャー分野のサービスが相対的に減る

●一般の住民が住めない、あるいは住みたがらない傾向が強まり、それらと連鎖して、地縁の希薄化、コミュニティーの衰退化がおこる


端的な数字をみると、

●都市中心部の観光客向け店舗が280店舗まで増加
●2005年から2016年までの11年間でホテルの部屋数が6割増加
●市内のアパートの2017年の平均価格は40万7000ユーロで、前年比で12%の上昇

という状況で、街の一般住民の生活は、急成長する観光産業によって多様な側面で圧迫されて、不便や変化を余儀なくされていることがわかります。

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「バランスのとれた都市」プロジェクト 〜マスツーリズムに対する市の具体的な対策
このような状況がせまってきて、このまま観光産業を野放しにしておくわけにはいかない、という危機感を抱くようになった市は、住民生活を配慮・優先する都市観光に舵を取りはじめます。

とはいえ、観光をコントロールすることに成功した前例も世界でまだなく、なににどう対処すればいいのか、最初は手探り状態でした。そこでアムステルダムが着手したのが、「バランスのとれた都市 City in Balance」というプロジェクトです。2015年から17年にかけて、都市の各地で小規模な様々な「実験」(規模を制限したプロジェクトの実施)を行い、その中身を検証するというものでした。

訪問客を集中ではなく拡散させ、問題を緩和するための、さまざまなレベルのプロジェクトが、住民やビジネス関係者、文化施設、都市の地区や学校など様々な人たちによって行われ、そこで試された内容の68%は現在も引き続き行われています。また、そこから学んだことを活かし、昨年以降、条例や計画が打ち出されるようになりました。具体的な条例や計画をいくつかご紹介してみます。

●観光バスとクルージング船の規制
観光客用のバスの旧市街への立ち入りおよび走行を禁止
大型客船が街の中心部の港に入港できないようにするため、大型客船が入港できる港を都市のはじに設置する計画。

●宿泊に関して
市内の大部分の地域でホテルの新設を禁止
Airbnb などを通した民泊を、2019年から年間上限30日とする(現在は60日)。

●祭りやイベント
これまで市内の中心に集中していた祭りやイベントを削減、拡散する

●観光客税
市内で観光客が宿泊した場合、朝食も含めた全宿泊料金の6%に当たる額を観光客税として支払う。(周辺地域に宿泊した場合は4%。税率を変えるて、市内に宿泊が集中するのを避ける試み)。今年5月の時点では、さらに7%に引きあげる案も検討中。

●商店
観光客に特化した小売や飲食チェーンの店舗(自転車レンタルショップも含む)の新設を旧市街で禁止

このように多岐にわたる観光規制構想に着手しはじめたアムステルダム市ですが、これでことがおさまる、と楽観視している人はいないといいます。「バランスのとれた都市」プロジェクトの担当者自身Eric van der Kooij も、「不完全で、相反する、あるいは常に変化している需要があり、それらはまた把握するのが難しいため、解決することは不可能なほど困難を極める」と率直にみとめています(von der Kooij, p.19)。

それでも、アムステルダムでは、観光業の拡張するにまかせる時代に回帰することはなく、規制や都市計画などによって、都市観光をできるだけコントロールすることを少なくとも当面は、市の重要な課題としていく模様です。

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観光都市の理想的な街並みとは
一方、どんな行政規制も諸刃の剣です。行政が規制・禁止という直接的な措置に踏み込むことで、別の弊害が起きたり、期待した効果があらわれないということはよくあります。今回のアムステルダムの件はこれからどのようなことになるのでしょうか。観光客向けの商店の新設の禁止を例に、もう少し具体的に考えみましょう。

市では、観光客向けの店舗の新設を禁止することで、「カフェやレストランが都市中心分から消失するのを防ぎ、多様なユニークでハイクオリティーの商店が引き続き街中にとどまることができるよう」 (City of Amsterdam, Policy)にするとしています。そして「アムステルダムの住人も観光客も独自の味をもつユニークでブティック風のショップをむしろ好むことがわかった」という市の調査をその根拠としてあげています。

一見、文句をつけようがない地域振興計画の模範的な正論に聞こえますが、その一方で疑問も湧いてきます。現在、世界中どこでも全般に小売は厳しい状況にあります。オンラインショップやディスカウントショップとの熾烈な競合関係にあるためです。市の中心部も例外ではありません。

観光客向けの店舗を規制したあと、かわりに住民の需要を満たしかつ採算にあう商店をどう展開することができるのでしょうか。採算のあう商店として成り立たせることが簡単ではなかったから、現に、市内では次第に観光客向けの店に場所を明け渡してきたその場所に、です。

規制を進めるだけでなく、これまで以上に柔軟で新しい発想が必要になってくるでしょう。観光客向けの店舗が進出してくる以前にあったような店舗展開を想定するのではなく、クロス・チャンネル商法を駆使した小売店舗(「デジタル化により都市空間はどう変化する? 〜バーチャルと現実が錯綜する「スマートシティ」の未来」)もひとつの可能性かもしれません。


体験型を重視する観光客の受け皿
また、一見パラドクスにもみえますが、観光客は、市内の店舗や公共空間を活性化する鍵でもあるのかもしれません。

ここでいう観光客といっても、すべての観光客をさすのではなく、新しいタイプの観光客です。彼らは、マスツーリズムをきらい、民泊を重視しながら、地元の体験を重視するタイプの旅行、つまり、新しい旅行スタイルを好む人たちです。

マスツーリズムを嫌い、地元の人々の生活のなかになるべく入りこみ、体験をしてみたいという好奇心が強い旅行スタイルは、現在世界的にみられ、ひとつの旅行トレンドになっています。この人たちにとっては、街並みや美術館だけでなく住民の生活をも含めた都市全般が観光の対象です。なるべくほかの多くの観光客を避け、その人たちが立ち寄らない穴場を求めて探索する人も少なくありません。

民泊ビジネスの急伸長の一因は、このような新しいトレンド(既存のホテルと観光名所の往復だけではえらえない旅行体験をしたいという)に後押しされたものと推測されます(「民泊ブームがもたらす新しい旅行スタイル? 〜スイスのエアビーアンドビーの展開を例に」)。

このような観光客は、都市のそこここに拡散して移動、居住するため、自分たちが観光地に多大なインパクトを与えているという自覚をあまりもっていません。しかしベルリンやアムステルダムのような都市で年間100万人規模で民泊する旅行者は、トータルすると、「マスツーリズム」同様に、まぎれもなく都市生活に影響を与えていると考えられます。市内で民泊のオファーが増えれば居住用の住居が減り、家賃全般が高騰します。その結果、住民は市外においたてられ、住民が減った市内には生活用品を売る小売店舗も地域コミュニティが消えていきます。つまり、市内の居住者に必要なインフラやアメニティーの質が、下がっていくことになります。

このように、大規模に都市に流入する観光客たちが、住民たちの生活を圧迫したり締め出すという見方がある一方、別の文脈からみると、同じ観光客たちは、都市の再活性化につながる駆動力になるという見方もできます。

地元の生活に触れたい観光客たちは、地元の人たちがいるような場所を求めて街の奥まで入っていき、住民たちの生活圏と観光ゾーンとの境はこれまで以上になくなってきます。そのような観光客の要望をとりいれて、案内情報や交通網などにも工夫しながら、うまく誘導し、広域に引き入れるようにできれば、マスの観光客のもたらす弊害が減るのと同時に、地域の経済や文化活動の活性化の効果など、住民にとって恩恵となる部分が多くなるでしょう。

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住民側にとって利益となる交流や学習
ヨーロッパのほかの地域では、観光客が多いことを逆手にとり、住民の生活を豊かにする文化的な資源として活用できないか、と積極的に模索する自治体もでてきました。

例えば、ユネスコ世界遺産に登録されているドイツの小都市レーゲンスブルクRegenbrug では、世界からやってくる観光客とコンタクトをとりたい住民に、あらかじめ観光局に登録してもらい、それを自治体の観光局が仲介しています。これは、従来の観光業とは一線を画す無償の人的交流であり、お互いに得難い体験をしてもらうことを目的としており、おとずれる観光客だけでなく、地域住民がこれを機会に文化交流や地域理解の機会として活用すること積極的に支持しているものと捉えられます。ほかにも、いくつかの都市で同様の活動がはじまっています。

このような観光客と地元住民の交流プログラムは、まだ小規模なものですが(あるいは小規模であることに意義があるのかもしれませんが)、このような観光客との交流が、住民にポジティブに認知されるようになれば、自分の都市ならではの文化的な資源として享受する人がでてくるだけでなく、住民たちの間に、おのずと観光への関心や理解が深まり、地域の観光の将来を考える際、開発と生活という二項対立的な考え方ではなく、折り合いを求める協調・協力的な見方に向きやすくなる、という利点があるかもしれません。

ベルンなど、スイスのいくつかの観光地では、学校教育の場に、地域の観光の歴史や観光業について学ぶプログラムを導入するケースもでてきました。まだ正式な学校のプログラムに組み込まれたものはなく、期間が限定されたプロジェクトにすぎませんが、その概要をみると、自分の街の観光の役割や意味、課題について学んだり、実際に見学や体験することに力を入れた体系的なプログラムが用意されていることがわかります。

地域の観光について公平な見地から多角的に学ぶ機会は、将来、観光関連に就業するかしないかとは関係なく、都市観光が一般の住民たちの生活にも影響を与えるようになった現代のような時代には、これまで以上に大きな価値があるでしょう。


おわりに
都市観光の規模が小規模の時にはほとんど住民生活に影響がなく、観光客と住民の住み分けが摩擦なく成立していましたが、大規模になってくると、多様な部分に、住民との生活に接点や摩擦がでてきます。

このため、アムステルダムでは、観光を再考し、住民優先の観光に舵をとりなおしましたが、都市における「観光」の意味を改めて考え直さなくてはならなくなる、このような機会は、見方を少しかえれば、観光をどう地域生活や経済活動に活用できるかを検討するよい機会である、と捉えることもできるかもしれません。

もちろん観光客の大量流入によって圧迫される部分は「問題」となり、規制の対象になることが多いでしょう。一方、観光という新たな窓口を通じ、世界に視点が広がったり、その交流から、あらたな文化や経済の発展につながる可能性もあります。観光という視点から自分の街を改めて観察することによってはじめて、みえてくる自分の街の価値もあるかもしれません。

アムステルダムの都市観光と住民生活の「バランスのとれた都市」への挑戦ははじまったばかりですが、今後の世界中で同じようにマスツーリズムの問題を抱える都市にとっても示唆に富む成果がでてくれることを期待したいと思います。


<参考サイト>
Amsterdam will Tourismus einschränken. In: Tagesanzeiger, 17.05.2018, 23:10 Uhr

Bern Tourismus. Tourismus macht Schule.(2018年6月12日閲覧)

Boztas, Senay, Amsterdam bans new tourist shops to combat 'Disneyfication' of city. In: Telegraph, 5 October 2017 • 6:53pm

City of Amsterdam, Policy: City in Balance (2018年5月30日閲覧)

Corder, Mike, Touristenansturm Einige Bewohner Amsterdams sehen nur die Flucht als Ausweg. In> Welt.de, 12.12.2017 | Lesedauer: 4 Minuten

Eric van der Kooij, City in Balance, Gemeente Amsterdam, 26 mei 2016.

Atelier Urbain Urbaniste et directeur de la direction de l'équilibre
Helmes, Irene,Reiseziele An den Grenzen der Gastfreundschaft. In: Süddeutsche Zeitung, 6. Juli 2017, 05:25 Uhr

Helmes, Irene, Trend Städtereise und die Folgen Ersticken Touristen die schönsten Städte? In: Süddeutsche Zeitung, 17. März 2016, 10:03 Uhr

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Luebke, Anna, EXCESSIVE TOURISM BECOMES A CONCERN FOR THE TOURISM SECTOR. In: Tourism Review News, Mar 12, 2018

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Moor, Richard, OVERTOURISM PROTESTS SPREADING AROUND EUROPE. Toursm Review News, Aug 28, 2017

OECD Tourism Trends and Policies 2018 (Summary in Japanese) / OECD諸国の観光業 トレンドと政策2018年版、日本語要約

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Reisen mit Einheimischen Bloß kein Tourist sein. In: Spielgel Online, Sonntag, 25.01.2015 07:30 Uhr

Rodriguez, Cecilia, 多すぎる観光客に悩むアムステルダム、大麻や性産業を一部規制か, Forbes Japan, 2018年5月21日

Whitehead, Joanna, Amsterdam to hike tourist tax and clamp down on beer bikes and Airbnb. In: Independent, Thursday 17 May 2018 10:14




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