コロナ禍のヨーロッパのシェアリング・エコノミーとこれから

コロナ禍のヨーロッパのシェアリング・エコノミーとこれから

2020-12-10

今年をふりかえって

2020年も終わりに近づいてきましたが、シェアリング・エコノミーにとって、今年はどんな1年だったでしょうか。

まず、コロナ危機下、民泊と配車仲介サービス業界は全般に、利用者の激減というこれまでなかった事態に見舞われました。昨年まで、めざましい成長速度で世界的に普及し、シェアリング・エコノミーの代表格とされてきた、民泊と配車仲介サービスが、大きく後退しました。

これは、シェアリング・エコノミーの今年の状況全般を象徴しているのでしょうか。結論を先に言うと、そうとも限りません。シェアリング・エコノミーは、市場規模が小さいのに多種多様な形態があり、全般の状況を把握するのは容易ではありませんが、少なくとも、コロナ危機下も大きな打撃を受けずに、社会で堅調に存続しているシェアリング・エコノミーもありました。

今回から3回にわたり、コロナ禍にも存続あるいは成長をしたシェアリング・エコノミーの事例をとりあげながら、ヨーロッパのシェアリング・エコノミーの今年をふりかえり、来年以降のゆくえについても、考えをめぐらしてみたいと思います。

まず今回は、CtoCサービスとしてプロフェッショナルに事業化されたシェアリング・エコノミーだけではなく、環境問題や地域の事情を考慮した新しいシェアリングモデルが、市場や事業規模で推し量れない重要な機能を社会で果たしながら発展してきている様子について、3つの事例をとりあげながら、叙述していきます。

次回(「シェアリングによって変わる地域社会と生活スタイル(1)」)と、最終回(「シェアリングによって変わる地域社会と生活スタイル(2)」)では、わたしがこの秋から管理にボランティアとして関わるようになったシェアリング施設を例に、そこで気づいた点、特に地域社会や生活との関係についてより具体的にみていきます。これらの記事をとおして、シェアリングによってもたらされる地域や生活への変化と今後の発展の可能性について、俯瞰できたらと思います。

※今回の記事は、以下の記事のシェアリングに関連する部分を、下敷きにしています。

単身の高齢者が住み続けられる住宅とは? 〜スイスの多世代住宅と高齢者と若者の住宅シェアの試み

「ゴミを減らす」をビジネスにするヨーロッパの最新事情(1) 〜食品業界の新たな常識と、そこから生まれるセカンドハンド食品の流通網

買い物難民を救え! 〜コロナ危機で返り咲いた「ソーシャル・ショッピング」プロジェクト

※本稿は、ヨーロッパでのシェアリング・エコノミーが岐路にあることを、配車サービス仲介業者や、短期ルームシェアリングをあげて示した、昨年の以下の記事の続編とも位置付けられます。

ヨーロッパのシェアリング・エコノミーの現状と未来の可能性  〜モビリティと地域生活に普及するシェアリング 

多世代ルームシェアリング

まずとりあげたいのは、民泊や、学生のルームシェアリングとは別種の、新しいルームシェアリングの形です。高齢者と若い学生という、これまでなかった組み合わせのルームシェアリングです。

1992年ドイツのダルムシュタットではじまって以降、静かにドイツの各地に浸透していき、2019年時点で、ドイツの33都市でこのような仲介サービスが展開しています。もっともさかんなフライブルク市では、2002年から昨年までに、すでにルームシェアを1000件成立しています。現在は、このような多世代ルームシェアリング仲介サービスは、ドイツ国内だけでなく、イギリスやスペイン、スイスなどヨーロッパ各地にもひろがっています。

このような異色のルームシェアリングが各地で導入された背景には、ヨーロッパが抱える同じような事情がありました。

まず、老後、できるだけ自宅での生活を続けたいと思う人が多く、結果として、高齢者の一人暮らしが増えています。この結果、高齢者の住む住宅の大きさも、年々広くなる傾向にあり、例えばスイスでは、75歳以上の人の一人当たりの平均住宅床面積は、ここ30年間で70㎡から90㎡に拡大しています(「縮小する住宅 〜スイスの最新住宅事情とその背景」)。

しかし、そのなかで自分の住居が広すぎると思っている単身の高齢者の数は少なくなく、単身で自宅に住み続けることを希望しつつも、不安や孤独を感じる高齢者も多くいます(孤独な人の増加という今日ある深刻な世界的な問題については、「会話が生まれる魔法のベンチ 〜イギリスの刑事が考案した「おしゃべりベンチ」」)。

他方、大学に近い場所に移住を希望していても、安価で適切な住居をみつけるのが難しく苦労している大学生もまた、大勢います。

この二者のお互いに必要なものと提供できるものをうまく組み合わせることができないかという発想から、生まれたのがこのルームシェアリングです。

このルームシェアリングは同居者の組み合わせも独特ですが、同居のルールも実にユニークです。学生は高齢者の住宅の1部屋を借りて一緒に住むが家賃は払わなくてもよく、そのかわり、学生は、毎月、借りている部屋1㎡あたりにつき1時間分の時間を、高齢者の要望することに費やさなくてはならない、という決まりです。高齢者には、掃除や買い物などの家事を要望する人ももちろんいるが、いっしょに散歩をしたり話し相手を要望する人がかなり多いといいます。

高齢者の単身居住にまつわる問題が解消され、同時に、住居がなかなかみつからないあるいは経済的に余裕が少ない学生に無料で住める場所を確保ができるという、この高齢者と学生双方にとってのウィン・ウィンのルームシェアリングは、今後も、需要は減らず、社会に根づいていくものと思われます。

余剰食品の仲介サービス

店頭で売れ残った食べ物の余剰を、分け合う・シェアすることで、廃棄する食品を減らそうという、新しい仲介サービスも生まれてきました。

先進国では日々、大量の食品がゴミになっている。スイスでは全食品の3分の1が廃棄処分されているとされ、ヨーロッパ全体で捨てられている食料総額は、年間1000億ユーロにも相当します。このような状況を緩和しようと、店頭でその日に余った食品(余剰食材や売れ残り食品)を、必要な人が買い請けられるよう仲介するサービス「Too good to go」が、2016年にデンマークのコペンハーゲンで誕生しました(以下、頭文字をとってTGTGと表記する)。

サービス開始からまもなく、TGTGはほかのヨーロッパ諸国でも急速に広がり、現在、ヨーロッパ14カ国とアメリカでサービスを展開されています。今年、コロナ危機で外食産業が大きなダメージを受けたにも関わらず、利用者やパートナー数を順調にのばし、パートナーとなっている店舗は約64500店、ユーザーは2900万人で、この仲介で廃棄処分を免れた食事は、5300万食にのぼります(11月下旬現在)。スイスでも大手スーパーはすべての支店で、このサービスを行っています。

このサービスのながれは以下のようなものです。
・余剰を販売したい飲食店や小売業者は、ピックアップ先の住所、提供したい時間帯、余剰のおおよその食品の種類と分量(なにが余るか詳細はもちろんわからないので、「ベリタリアンフード」「パン類」「加工していない食料品」などおおまかな分類しかない)、値段を登録する(価格は、定価の約3分の1が目安)。

・余剰をシェアしたい人は、ダウンロードしたアプリで、好きなオファーをあらかじめ予約し、余剰が提供される指定の時間と場所にそれを取りに行く。

ちなみに事業者にとっては、TGTGに支払う仲介手数料はわずかですが、分配するのに手間ひまがかかるし、安価で提供するため、これ自体は大きな収益にはならいといいます。それでも、TGTGのパートナーになる店舗がヨーロッパ中で急増しているのは、近年、食料廃棄への関心が消費者の間でも高くなっているためでしょう。食品を扱う企業にとって、食品廃棄を減らすための努力は、社会的責任であり、顧客へのプラスのイメージのアピールにもなっていると考えられます。

これまでも、貧困層に提供するといった形で、余剰食品を有効利用する試みはありました。もちろん、それには違う社会的に大きな意義がありますが、TGTGのような、店舗と消費者の間で余剰を分配するマッチングサービスは、店舗が、日々異なった量と種類で発生する余剰を柔軟に処理していくためには、きわめて有効なしくみといえます。

ちなみにTGTGは、事業のパートナーである飲食店がロックダウン下で経済的に大きた打撃を受けていることを配慮し、春のロックダウン期には、期間限定で、テイクアウェイのサービスを無料でTGTG冒頭の画面で提示するサービスも、通常の業務に並行し行なっていました。

買い物難民救済ボランティア仲介サービス

コロナ危機下、買い物難民となった人々とスイスのボランティア(人の善意という無形のスキルの貸出)をマッチングさせる新たなサービスもでてきました。

非常事態下のスイスでは、65歳以上の人や、基礎疾患などがあるいわゆる「感染リスクが高い人たち」は、できるだけ外出しないよう推奨されていましたが、この人たちの日常的な買い物が問題となりました。大手スーパーのオンラインショップはすぐに申し込みが殺到し、数週間、実質上、注文ができない状態が続いており、近隣に助ける人がみつからない人たちは、買い物難民となってしまいました。

全国に発生したこのような買い物難民を支援するしくみとして、ロックダウンからわずか1週間後の3月24日、スイスの最大大手小売業者である生協のひとつ「ミグロMigros」は、買い物ボランティア仲介サービスをはじめました。

「アミーゴスAmigos」とよばれるそのサービスは以下のような流れです。
・まず注文希望者が、ウェッブか電話で、配達希望日時と、アミーゴスの6000余りの食品類から欲しいものを選択する。
・すると、あらかじめアプリ登録していた該当エリアのボランティア全員に依頼が届く。
・ボランティアで依頼を受託した人は、アプリの注文リストと指示に従い、店舗で商品を購入・決済し、そのまま示された道順にそって注文者の家まで商品を届ける。

ミグロの店舗は全国いたるところにあり、電子決済で現金の授受は発生しないため、誤解や不正、あるいは近距離でのコンタクトが生じにくく、注文する側にとっても、ボランティア側にとっても使いやすく、すぐに大きな反響がありました。全国展開をはじめて二週間余りした4月16日までに、買い物のボランティア登録者人は21850人おり、20843件の注文・購入が成立しています。注文は、平均して、注文完了後たった6秒で、買い物ボランティアをみつけており、利用者(注文)のつけた評価値の平均も4.97(5.0が最高)と非常に高くなっています。スイス最大の高齢者関連全国組織(財団)プロ・ゼネクトゥーテPro Senectuteもアミーゴスの利用を推奨し、実際にアミーゴスで注文した人の81%は、66歳以上でした。

このようにコロナ危機下で大きな貢献を果たしたアミーゴスだが、はじめから順調であったわけではありませんでした。実は、昨年、テスト期間と称して、同じ名前のサービスが一部の都市で開始されていたのだが(ロックダウン直後にサービスが開始することができたのは、基本システムがすでに昨年にできあがっていたためであった)、12月でサービス停止に追い込まれていました。

停止に追い込まれたのは、社会から強い批判があったためです。配達料が安すぎ(配送業界全体のダンピングにつながる)という批判もあったが、配達サービスの人の扱いについて、とりわけ手厳しい批判がでました。スイスでは、近年、配車サービスや配達仲介業者の運転手を被雇用者とする見方が法律専門家の間で一致しており、同じ観点からアミーゴスの配送サービスについても「小売業のウーバー」とする厳しい批判がなされたのでした。

これに対しミグロは、配達の報酬は、お隣どうしの助け合いの代償にすぎず、プロセッショナルな配送サービスではない。また、仲介手数料もミグロは一切とっておらず、配達料はすべて配達した人にいく、と説明し、ミグロと配達人の関係は就労関係ではないと、当初、主張していましたが、非難を免れるのはやはり難しいと判断したようで、12月はじめにテスト期間の終了と同時に、プロジェクトが打ち切られる運びとなりました。

しかし打ち切りからわずか3ヶ月後におとずれたコロナ危機で、買い物難民が社会問題となると、上記のように、アミーゴスが再び注目されるようになったというわけです。ただし、再び始動したアミーゴスは、「ビジネス」よりずっと「ソーシャル」に近いコンセプトとなっており、昨年の試験期間と、以下のような点で異なっています。

・買い物代行はボランティア行為で、注文者は謝礼として5スイスフラン払うことはできるが、あくまで任意であり、基本的に代価を支払われない(昨年のアミーゴスは、配達する人に一定の額が支払われていた)

・注文ができるのは、感染のリスクが高い人のみ(昨年のアミーゴスでは誰でも注文することができた)

・コロナ危機という非常時のみのサービス

コロナ禍がつづく現在も、このサービスへの需要は高く、サービスは継続しています。

おわりに

シェアリング・エコノミーの代表的なモデルであり、事業規模としても圧倒的に大きい民泊と配車仲介サービス事業者は、2010年代半ば以降、進出したヨーロッパ各地で、軋轢をうむようになりました。その理由を一言で言えば、仲介サービス事業者や利用者の利便性とは別に、就労者の就労環境や地域生活への影響に重きが置かれる傾向が社会に強まってきたため、といえます。これらの事業者にとっては、当初のビジネスモデのままでは難しく再考を迫られていたといえますが、そんな延長線上で、今年は、さらにコロナ禍となり、さらに苦境にたたされることになりました。

これに対し、今回、とりあげた三つのシェアリングモデルのたどってきた軌跡は対照的です。ヨーロッパの地域的文脈や需要・関心を受けながら、問題解決のオータナティブの手段として誕生して以降、コロナ危機下も大きな影響を受けず、堅調な活動が続きました。

多世代のルームシェアリングとTGTGは、シェアリングの対象範囲を拡大し、狭義の「エコノミー(経済性)」にこだわらず、他分野にまたがり、ソーシャル(社会的)、あるいは環境負荷削減というミッションとつながることで、地域に安定的に定着し、需要を拡大させています。

アミーゴスは、昨年は、社会でつまはじきにされ凍結せざるをえなかったにも関わらず、ビジネスモデルを社会の期待や需要に合わせて変更されたことで、社会で賞賛される画期的なソーシャル・プロジェクトとして社会にカンバックを果たしました。

ところで、シェアリング・エコノミーというコンセプトがヨーロッパで次第に知られるようになったころ、シェアリング・エコノミーについて、これまでなかった便利なサービスとしてだけでなく、地域のコミュニティの活性化や環境・温暖化対策としても貢献するのではないかという期待感が強くあり、好意的に受け止める人が多くみられました。1000人以上のドイツ人を対象にした2012年の調査報告書によると、シェアリング・エコノミーの利用者の圧倒的多数が、持続可能性や環境負荷を配慮すると回答しています。調査を行なったリューネブルク大学教授ハインリヒスらも、シェアリング・エコノミーがもたらす新しい「協力的な消費」は一過性のものではなく、従来の個人の占有を前提とする経済市場を補充するものとして発達し、一つの流れとして定着するのではないかと推測していました(「シェアリング・エコノミーを支持する人とその社会的背景 〜ドイツの調査結果からみえるもの」)。

シェアリング・エコノミーがヨーロッパではじまり約10年がたち、上記のような当初の期待や推測に沿うものが、紆余曲折を経ながら、すこしずつ定着してきたといえるのかもしれません。

これからも多様な時代や社会の局面に合わせ、社会福祉や環境など複数領域を縦断する目標を実現するためのツールとして、シェアリング・エコノミーの可能性が広がっていくことに、期待したいと思います。

次回とその次の最終回では、今年の秋からスタートしたシェアリング施設を、一人称で観察・体験した経験をもとに、シェアリングが与える社会や人々への生活への影響や新たな発展性について、さらに考えていきます。

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥーア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


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