クラウドファンディングが切り開く未来 〜世界最高の成功率をほこるプラットフォームが示唆するもの

クラウドファンディングが切り開く未来 〜世界最高の成功率をほこるプラットフォームが示唆するもの

2019-11-11

先月、クラウドファンディングのヨーロッパ最大手のプラットフォームのひとつwemakeitのワークショップに参加しました。ワークショップでは、スイスのクラウドファンディングの最新事情から成功の秘訣まで、あれこれ興味深い話を聞くことができたので、今回は、この時の話を中心に、ヨーロッパのクラウドファンディング最新事情をお伝えします。

※ワークショップは今年10月24日ヴィンタートゥアWinterthur市がボランティア団体を対象に開催しました。この記事は、その時に得た情報やホームページ上の情報、またwemakeitから記事制作の目的で入手した会社概要資料をもとに作成しました。

クラウドファンディングとは

クラウドファンディングとは、インターネットのプラットフォームなどを通して資金を調達することで、寄付型、金融型や報酬型の3種類があります。寄付型は、文字通り団体や個人にお金を寄付するもので、街頭やダイレクトメールなどを通した従来型の寄付のデジタル版です(従来型の寄付による資金集めの近年の傾向や問題については「共感にゆれる社会 〜感情に訴える宣伝とその功罪」)。金融型は、投機や貸し出しなどに利用されるもので、不動産関係などに主に使われます。報酬型は、支援者から経済的な支援を受ける代わりに、なんらかの報酬(見返り)をわたす形で資金を募ります。

今回、話を聞いたプラットフォームは、この報酬(見返り)型であり、以下の話も、この形のクラウドファンディングについてです。

クラウドファンディングプラットフォームwemakeitの概要

クラウドファンディングのプラットフォームwemakeitは、2012年にスイスで立ち上げられ、現在、ヨーロッパでもっとも大きな規模のクラウドファンディングのひとつです。毎月約40万人がサイトを訪れ、これまでの利用者数は27万6000人、4098のプロジェクトが実施され、プロジェクトの総額は4940万スイスフラン以上です。プロジェクトの平均成功率(達成率)は65%で、世界最高峰の水準をほこっています。

会社のオフィスは、スイスのドイツ語圏(チューリヒ)、フランス語圏(ローザンヌ)、イタリア語圏(ベリンゾーナ)にそれぞれ1箇所と、オーストリアのウィーンにあり、クラウドファンディングでは、ドイツ語、英語、フランス語、イタリア語のうち1〜4言語の使用が可能です。

クラウドファンディングの流れ

なにかしたいこと(以下、「プロジェクト」と表記)のために必要な資金をこのプラットフォームで集めたい場合、具体的になにをどのようにすればいいのかについて、流れにそって説明してみます。

1。プロジェクトの詳細(集めたい金額、そのために必要なもの、工程表など)が決まったら、プラットフォームのサイトにアクセスし、申し込みをする
申し込みには、プロジェクトのタイトル、短い説明文章、ビデオ、プロジェクトの詳細の説明や、報酬の種類など具体的な内容を記入していきます。ちなみに、このプラットフォームでは、プロジェクトは1000スイスフラン以上でなくてはなりません。

2。(申し込みを受け)プラットフォーム側で、不正や詐欺などの疑いがないかを検証する
検証の結果、問題ないとされたものだけがプロジェクトとして掲載されます。

3。(プロジェクトが掲載されることが決定したら)キャンペーンの進め方の具体的な詳細(どのようにプロジェクトを進めていくか)を考え、準備する
例えば、プロジェクトのスタート前から、いろいろなチャンネル(デジタルなものや、地域の情報ツールなど)を用い、知り合いを中心に多くの人にプロジェクトをアピールし、潜在的な支持者にアクセスをしておくことが、重要とされます。

4。(プラットフォームに掲載され)プロジェクトがスタートする
プラットフォームのニュースレターで、登録している15万人に、プロジェクトのことが通知されます。

5。プロジェクトの期間が終了する
このプラットフォームでは、募集期間内に、事前に設定しておいた目標額に達成した場合、プロジェクトが成功した、ということになります。

成功した場合、プロジェクト企画者は、支援者からプラットフォームが受け付けた金額の9割を受け取ります。全金額の4%分は支払い手数料、6%分はサービス料としてプラットフォームにいきます。サービス料6%は、ほかのプラットフォームと比較すると若干高いとされますが、その分サポートも多いのをこの会社ではウリにしています。

集まった資金が目標額に達しなかった場合は、プロジェクト不成立ということになり、その時点までにプロジェクトに資金を提供してくれた支持者たちに、送金額はすべて返却されます。この場合、プロジェクト企画者にも一銭もわたりませんが、逆に、手数料も一切発生しません。

成功の秘訣1。誰にアクセスするか、できるか

成功率が世界でもっとも高いプラットフォームのひとつであるというのが自慢のこの会社では、プロジェクトを成功させるには、いくつかの重要なポイントがあると考えています。ワークショップで示されたそれらのポイントを以下、紹介します。

まず、もっとも肝心なのは、共感したり、興味を持ってくれる人にできるだけ多くアクセスすることです。その意味で、まず大事なのは、自分の身近なところにいる人たちにしっかりアピールすることになります。家族、友人、近所づきあいのある人など、とにかく知り合いネットワークをフル活用します。実際、成功するプロジェクトの達成金額の30―50%は自分たちがもともともっていた知り合いネットワークでまかなっている、というのが一般的なケースなのだそうです。

次の段階として、それ以外の人たちで、そのテーマに興味をもってくれる人にどれくらいアクセスできるかが重要になります。その際アクセスすることが望ましい人々は、テーマとして興味をもってくれそうな人、地理的な関係(近いなど)で興味をもってくれそうな人、もともと支援をしたいと考えており適切なプロジェクトをさがしている人などです。

以前、馬に関するプロジェクトで、馬の愛好会のネットワークにプロジェクトのことが知られるようになった途端に、支持者が急増するということがありました。これは、テーマに興味をもつ人に的確にアクセスできた例といえます。

適切なプロジェクトを探している人というのは、定期的にいいプロジェクトがないかをチェックするSerial Backersと呼ばれる人たちや、文化や社会的な活動のスポンサーとしての活動をしている財団などの団体などを指します。

一般的に、直接の知り合いでない人たちにアクセスする時は、あからさまで単純な宣伝意図(例えば、「このプロジェクトに寄付してください」などといってリンクを送るといったもの)だけでは、あまり好感や関心をもってもらえません。このため、間接的に宣伝するにしても、まず関心をもってもらえるようどんな情報をどんな形で提供するか工夫をすることが大切になります。

これら直接の知り合いでない人たちの間の知名度が高まってくると、雪だるま式に知名度が高まっていく好循環に入る可能性があります。ちなみに、人にアクセスする時は、一般的にはEメール、少し親密な関係ととらえる場合、フェイスブックやWhats up(ヨーロッパで主流となっているソーシャルメディア)などのソーシャルメディアが一般的だそうです。

成功の秘訣2。スタートと期間、日時の最適化

プロジェクト期間は、募集期間は30日から45日が一般的ですが、統計的には30日の期間が一番成功率が高く、このプラットフォームでもこれを推奨しています。

プロジェクトは、スタートから数日が決定的に重要です。これまでの前例を分析すると、最初の数日間で、入金が多ければ多いほど、成功する確率が高くなっていました。しかし成功するケースでも、スタートからしばらくすると、「谷」(訪問数も入金数も減る)の時期が到来するのが一般的です。それでも終盤に再びもりあがることがで、成功にいたるというのが典型的なのだそうです。

成功しやすい時期というのは特にありませんが、逆にプロジェクトが成立しにくい時期はあり、それは夏と12月です。夏は夏季休暇にでている人が多いからで、12月は年末で忙しかったり、伝統的な形の寄付の機会などが多いからと想像されます。

成功の秘訣3。報酬に一工夫

報酬は、具体的に潜在的な支援者を支援へと誘導するきっかけとなることも多く、工夫のしがいがあるところだといいます。

報酬は、ほかとは一味違う趣向をこらしたり、潜在的な支援者が求めているもの、魅了されやすいものを考え、それらを十分配慮することが大切です。事前に、支援額に合わせて異なる報酬を提示すると、支援者にとって(好みの報酬に合わせて)支援額を設定しやすくなり、プロジェクトが選ばれやすくなるという誘引効果もあります。

報酬はモノである必要はなく、コトでもかまいません。時には突飛でインパクトのある報酬が、支援を獲得しやすくなることにもなります。あるプロジェクトでは、ある額を支援すると、そのプロジェクト主催者の母親から個人的に電話をもらう、という一風変わった報酬を提示しました。すると実際に、その額で支援したいという人が数人現れ、母親と電話で対話するようになり、結局プロジェクト期間が終わったあとも、母親と電話の交流をするようになったそうです。

働きたい母親がこどもを連れていける、託児所つきのコワーキングスペースのプロジェクトでは、潜在的な支援者が、幼少の子どもをもつ若い母親たちであると想定し、そのような人たちをとらえる報酬になるよう工夫したといいます。(コワーキングの)子どもの数時間の託児無料券や、菜食レストランのクーポンなど、働きたいと考える母親の心理やライフスタイルを考え、そこで需要のあるものを報酬として提示にしました。

成功の秘訣4。紹介ビデオの活用

プラットフォームのプロジェクト紹介サイトでは、ビデオを載せることができますが、これは、直接プロジェクト企画者の表情やプロジェクトをみせることができるため、潜在的な支持者との間に確かな信用を築くための、最重要なツールと位置付けられます。

このため、どうしてもなくてはならない、というわけではありませんが、ある方が好ましいですが、プロが作るようなビデオである必要はなく、コンパクトにメッセージが伝わるものがよいとされます。結局、重要なのは、プロジェクトの内容なのであり、それがしっかり伝わる内容であることが肝心です。

成功の秘訣5。こまめに近況をアップデート

スタートしたら、最低でも1日15分は自分たちのプロジェクトサイトのチェックすることをプラットフォームとしては、すすめます。質問があったらそれに迅速に答えるのはもちろんですが、ほかにも、なんらかの新しい情報をインプットすることが、人々から関心をもちつづけてもらうのに重要なためです。

新しい情報として、例えば、そのプロジェクトにゆかりの深い場所やものなどの発祥や由来などが、これまで好評だったといいます。

ほかの特徴

そのほかの参考になりそうなクラウドファンディングにまつわる一般的な情報も、以下ご紹介してみます。

・このクラウドファンディングの支援額は、一件あたり平均140スイスフラン

・プロジェクトは、何回も行う人もいるが、1回限りの用途で利用する人のほうが多い

・プロジェクト企画者、支持者たちは共に、ソーシャルメディアを使っている人で若い人が多いが、それだけでもない。今日、デジタル世界とアナログ世界は乖離しているというより、両方を使い分けている人が多く、クラウドファンディングを利用する人たちも、両方の世界を行き来している人たちが多い。このため、換言すれば、クラウドファンディングという形は、少なくとも現状においては、伝統的な(ダイレクトメールなどの)寄付という形と、住み分けて、共存しているものと考えられる。

おわりに クラウドファンディングの可能性

今回ワークショップに参加して、クラウドファンディングという新しいツールが、単なる資金集めのツールとしてだけでなく、社会にほかにどんな作用・影響をもたらす可能性があることがわかりました。

とりわけ印象的だったのは、プロジェクトの立ち上げから終わったあとまで、様々な人たちと交流する機会が多くあることです。

プロジェクトの前や期間中は、多くの人に自分たちのことや目指すことを積極的に訴える(宣伝する)過程で、様々な人々との交流が生まれます。これまでプロジェクトやその主催者と全く縁のなかった人たちが、プロジェクトを通じて知り合いになっていったり、あるいはすでに知ってはいてもしばらく縁が遠くなっていた人たちが、プロジェクトを機に、再び近い距離(関係)にもどってくる機会ともなります。

さらに、プロジェクトの目標額を達成したら、それでおしまいではなく、祝いのイベントを設定するなどして、新しくつながった支持者と交流し、関係を保ったり、深めたりします。

つまり、クラウドファンディングは、プロジェクト企画者にとって必要な資金調達を可能にする貴重なツールであることも確かですが(特に画期的なモノへの挑戦や開発には今日代替不可能な優秀なツールとなっています「生活の質を高めるヒアラブル機器 〜日常、スポーツ、健康分野での新たな可能性」)、それだけでなく、たとえ、目標額に到達せずプロジェクトができなかったとしても、企画者・支援者双方が、いろいろな人と知り合い、互いの思いを交換しながら、新しいネットワークを広げていくという意味で、意義のある行動であり、貴重な機会であるといえそうです。

支援者側からみても、プロジェクトが成立する前から関わり主体的にプロジェクトに関与し、その経過をとおして共感するプロジェクトや共感しあう仲間たちとの間で交流することができるこのような協働的なプロセスは、大きな魅力なのでしょう。クラウドファンディングの投資額が年々増加しているという事実が、それをなにより物語っているといえます。

見方をかえれば、クラウドファンディングは、もちろん成功すればそれに越したことはないですが、たとえ成功しなくても、その過程ですでに(同じ志をもつ社会のほかの人との新たな交流の機会をつくるという)目標を部分的に達成できるということであり、そのような副産物が、クラウドファンディングで得られるとりわけ大きな「報酬」といえるかもしれません。

参考文献

we make itホームページ

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥーア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


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