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協会主催 第11回ネット輸出入EXセミナー

2017-06-10 [EntryURL]

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日本ネット輸出入協会主催 ネット輸出入EXセミナー

2010年から不定期で開催させていただいている「ネット輸出入EXセミナー」
日本ネット輸出入協会主催で毎回、ネット輸出入ビジネスのエキスパートの方々に貴重なお話をしていただいています。

日本ネット輸出入協会の塚原昭彦です。
今回の第11回目のセミナーは、
協会会員限定メルマガで月2回コラムを執筆していただいている西澤弁護士と、同じく不定期でコラムを執筆していただいている辰田税理士に登壇をお願いしました。
ネット輸出入の法務と税務に関するセミナーになります。
あとわたし塚原も「これから利益を取り続けるための輸出ビジネス」についてお話しさせていただきます。

ネット輸出入の法務と税務に関するセミナーになります。

  • 売上げをあげる必要性がある理由とは
  • 消費税の仕組み
  • 消費税還付を受けるに当たって必要な資料は?
  • 契約におけるリスク回避
  • 転売輸出ビジネスが厳しくなっている現状
  • 実際に税務調査で輸出と認められなかった事例
  • 物販以外のキャッシュポイントを作る
  • 今後の税金について気を付けたい話(主に消費税)
  • ライバルチェックはこうしてする(具体的な方法)
  • ネットビジネスにおけるPL法
  • 東京五輪までにやっておかなければいけないこと
  • 輸出ビジネスに欠かせない消費税還付で必要な手続き
  • 「輸出ビジネス」と「越境EC」
  • 禁止される契約の内容として消尽論
  • 代行業者に輸出の手続きをしてもらう場合に必要な事
  • 輸出ビジネスで気を付けたい消費税処理
  • 輸出ビジネスで利益を上げ続ける為にする仕事とは


などについてお話していただきます。
※内容は一部変更される場合があります。

今回登壇していただくゲスト講師の方々です。

一般社団法人 日本ネット輸出入協会 代表理事 塚原昭彦

もう無在庫転売では稼げない!
これからの利益を取り続けるための輸出ビジネスとは

大学卒業後、地元の銀行に就職。3度転職し、2007年独立。
新聞配達をしながらネットビジネスを続け、ネット輸出のサイト販売で大きく業績を伸ばす。そのノウハウを活かし、海外への個人輸出ビジネスのコンサルティングをはじめる。

2011年 超円高の中「世界一やさしい ネット輸出ビジネスの稼ぎ方」を上梓(計8刷)。

現在は、海外へのマーケティング、eBay・米アマゾン・サイト販売でのノウハウを個人と企業のクライアントにアドバイスしており、成功者を多数輩出。

コンサルティング以外に、企業の越境ECの総合サポート(サイト制作・翻訳・出品代行など)や、ジョイントで国内外の物販サイトを250以上運営している。

ジャパンタイムズ社の「100 next-era Leaders in Asia 2016-2017」(アジア次の100人の経営者)にネットビジネスの経営者で初めて選出される。

株式会社テントゥワン 代表取締役。※ 「輸出ビジネス」は弊社の商標登録です。


たつだ会計事務所 税理士 辰田美香

輸出ビジネスの消費税(仮)

2014_10_17Ast225135.jpg上場企業等でOLとして勤務した後に会計事務所へ転職。
その後、税理士法人や個人の会計事務所にて約10年間の実務経験を積む。
勤務中は法人や個人の決算申告、消費税申告、相続税申告など幅広く業務を担当。

様々な経営者と接するうちに、税理士は独立して自身も一経営者となることで、初めて経営者と話ができると感じ、平成24年独立開業。
専門用語を多用せず、丁寧に対応することをモットーに日々活動中。

大阪生まれの大阪育ち。小学生の娘一人を持つ母である。

■たつだ会計事務所 Webサイト http://www.tatsuda.net/


阿部・西澤法律事務所 弁護士 西澤真介

トラブル回避のために契約を知ろう(仮)

経歴:
大阪府枚方市出身
2009年12月 弁護士登録
2009年12月 高麗橋法律事務所入所
2014年4月 阿部・西澤法律事務所創設

主な仕事:
弁護士登録以来、現在まで継続している活動は以下のとおりです。
全国B型肝炎訴訟大阪弁護団
大阪弁護士会交通事故委員会
年に1回以上の少年事件、年に1回以上の法教育の出張授業(高校)


開催日時とお申し込み

■開催日時:2017年7月8日(土)14:00~17:00(休憩含む)
■開催場所:大阪 ■セミナー料金:10,000円(税込)


■セミナー終了後、懇親会がございます。
(希望者のみ 懇親会費4,000円は事前お支払いいただきます)

在籍6ヶ月以上の協会会員様はセミナー料金は無料となっております。
協会会員ない方で、6ヶ月前払いでご入会の場合はセミナー料金は同じく無料とさせていただきます。
尚、セミナー音声ファイルは協会会員全員にお届けいたします。

※ 会場は大阪市内の交通の利便性の良い場所を考えております。

お申し込みは以下よりお願いいたします。

●一般お申し込みは、以下よりよろしくお願いいたします。
セミナー参加代金は、
    10,000円となります。

セミナーのお申し込み
●6ヶ月分の月会費前払いしていただき、協会にご入会していただける方は、以下よりお申し込みをお願いいたします。
今回のセミナー代金は無料です。 セミナーのお申し込み
●日本ネット輸出入協会に、6ヶ月以上継続会員様は、以下よりお申し込みをお願いいたします。
  セミナー代金は無料です。

セミナーのお申し込み


※ セミナー後の懇親会にご参加していただける方は懇親会費4,000円を別途お支払いしていただきます。

カード各種

※尚、返金につきましては、セミナー開催前日まで受付させていただきます。 セミナー・懇親会ともお席の確保の関係上、当日キャンセルの返金はできませんので、予めご了承お願いいたします。

過去のネット輸出入EXセミナーの様子

ネット輸出入セミナー
ネット輸出入セミナー
ネット輸出入セミナー

ネット輸出入セミナー
ネット輸出入セミナー
ネット輸出入セミナー

セミナー会場でお会いすることを楽しみにしております。

協会設立の主旨である「ネット輸出入ビジネスの社会性と信頼性の向上」。
まだまだ「ネットビジネス=胡散臭い」というイメージは強いです。詐欺まがい、グレーゾンの手法でツールや情報販売をしているセラーが多いのが現状です。

わたしたちはルールとモラルを守って全うなビジネスをしていきたいと思っています。
今回のセミナーは、是非多くの方々にご参加していただきたいです。

一般社団法人 日本ネット輸出入協会
代表理事 塚原昭彦

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ヨーロッパの広告にみえる社会の関心と無関心 〜スイス公正委員会による広告自主規制を例に

2017-06-07 [EntryURL]

街角や新聞、インターネット上の広告で、不適切あるいは誤解を招く内容だと感じるものがあった場合、日本でもスイスでも広告審査機関に苦情を寄せたり、問い合わせをすることができます。企業の多国籍化や、ネットショッピングのグローバル化が進む現代においては、広告も各国似通ってきて、企業広告やそれへの苦情もまた、各国で類似してきているのでしょうか。 スイスの代表的な広告審査機関である「スイス公正委員会 Schweizer Lauterkeitskommission」によると、近年分野を問わず広告界で横断的に増えているのが、性差別に関する苦情だといいます。一方、日本では、インターネット上のバナー広告表現などが低俗だという苦情はたびたびあるものの、苦情自体も、また苦情へ下す審査機構の判断基準においても、「性差別的」かどうかが争点になるケースは、(少なくとも日本広告審査機構がインターネットで公表している報告を、今回調べた限りでは)みあたりません。 広告が、単にモノを売るための情報であるだけでなく、社会や時代を映すひとつの鏡でもあるように、寄せられる苦情の内容や、委員会の判断もまた、それぞれの時代の関心や価値観、感性などを強く反映しているのだと考えると、日本とスイスの間の現在の苦情の差異は、社会での関心や問題意識の差異そのものをあらわしていると言えるでしょう。 ただし、これから先も関心や問題意識や理解が、違ったままであるとは限りません。日本でも、次第にスイスの今の状況のように、「性差別的」な表現か否かが、近い将来、広告業界において大きな争点になることも十分考えられます。また現在、日本人の間では問題意識にのぼっていなくても、スイスやほかのヨーロッパから日本にやってくる人たちが、どんな視線で、現在の日本の広告を眺めているかを知る上でも、ヨーロッパの広告に対する関心のなかでも今日、大きな比重が置かれている「性差別的」 という概念と、それが広告の表現として具体的にどんなことを意味するのかを、把握しておくことは有益でしょう。 このため、今回は、現在のスイスにおいて広告における「性差別」的な広告表現とはどう定義・理解されており、そう判断されたものは、社会においてどう処理されているのかについて、広告の管理・点検・審査を目的として1966年から活動している中立的な独立機関であるスイス公正委員会の活動を中心にご紹介してみたいと思います。後半は、そのような「性差別」への厳しい監視の目をくぐり、あるいはそのような厳しい環境を逆に追い風にして、逆に増えている新しい広告の傾向についても注目し、今後、広告がさらにどのように変化していく可能性があるかについても一考を加えてみたいと思います。 170607-1.jpg 「性差別的」な表現とは 繰り返しになりますが、現代の広告界で苦情が頻繁にでているのが、「性差別(セクシズム)」というテーマです。特に2012年以降に増加傾向が強まり、毎年平均12%、苦情や相談件数が増えています。昨年は、スイス公正委員会によせられた広告に対する全苦情296件のうちの約10%が、 そのような性差別的(セクシズム)に関する苦情でした。 性差別的な表現とは、暴力的なシーンや公共空間で不快感を与える女性の姿や服装など端的な表現にとどまりません。女性や家事、男性は仕事といったステレオタイプ的な性別の役割分担を強調・助長するものや、特定の性別イメージを植え付ける表象の仕方も問題になります。 具体的にどのようなことかを、チューリッヒ市の同等課に所属する男女同権の専門家で、スイス公正委員会の顧問でもあるデルングス氏Anja Derungsのあげる端的な例からみてみましょう。デルングス氏は、こどもたちを対象にした中世の騎士の服の展示や販売において、男の子だけを対象にするのは、女の子が騎士(やその服)に関心がないと決めつけていることになり、男女の役割のステレオタイプを「セメント化」するものとして不適切ということになるといいます(今年5月のラジオ番組「トレンド」でのインタビュー)。 このたった一例からもわかるように、性差別に対する意識・関心は、大人の男女間の問題に限ったものではなく、老若男女の広い領域に及んでおり、将来、社会で活躍する若者や子どもたちが、性差別的な偏見や限定的な思考に縛られず、職業や生き方を選択できるようにするための道筋を示すことにも、大きな注意が払われていることがわかります。個人的には、史実(実際に存在した騎士の性別を含めた特徴)が、男女同権の配慮に比べると、過少に評価されていて、あまりよい例とは思いませんが、このような男女同権擁護の姿勢が、現在のヨーロッパにおいて、公式に全面に押し出されていることは事実です 。 170607-2.jpg ただし、総論として男女同権に誰も異論がないとしても、ほかにも問題があります。具体的な表現において、なにをどこまで表象することで差別になるのかという各論、詳細の問題です。実際に表現として可能か不可能かの線引きは難しく、判断は人(の世代、社会・文化背景、地域など)によって異なる部分が大きく、たびたび物議をかもします。特に挑発的なビジュアル表現でインパクトをねらうファッション部門の広告については、「性差別的(セクシズム)」なのか、単なる「セクシーな」表象(で無害)なのかで、よく意見が分かれます。 このため公正委員会では、性差別の専門家も、広告審議委員会に顧問に迎えることで、性差別の苦情がでた広告に対して、迅速に適切な対応をとるための体制を整えています。 スイスの公正委員会とメディアの公共圏の抑制力 次に、問題があると思われる広告は、具体的にどのように処理されるのかについてみてみましょう。まず、スイスの公共圏にある広告について(海外の企業の広告でも、スイス国内で広告されているものであればこれに該当します)疑問をもつ場合、誰でも原則として無料で、スイス公正委員会に苦情や相談の申し立てをすることができます。 受理された案件は、広告主である産業界、メディア界だけでなく、消費者からも代表者が加わった委員会で審議されます。そして苦情がでた広告が、不適切と判断された場合、委員会はその見解を広告主に伝えます。見解を受けた広告主が、そのあと広告をとりやめたり改善する場合は、それで話がすみますが、その後も、広告主が広告を取り下げない場合は、委員会は、その広告主(会社の名前)を、メディアで公表することになります。 委員会はあくまで自主的な審査機関であり、法的な強制力は一切もっていません。もともと企業が自由な経済活動の一環として広告をするなかで、問題に巻き込まれることを最小限にとどめることが委員会の意図であり、検閲のように自由な広告表現に直接圧力を加えるものではありません。しかし、「公表する」という手段は、実際には、社会的な圧力(影響力)としてかなりの有効な手段のようです。 というのも、「不適切な広告」の広告主として公表されることは、企業側にとって大きなマイナスのダメージを与えると恐れられているためです。このため、ほとんどの広告主は、 委員会から見解が伝えられた時点で、委員会の見解を重く受け止め、広告を取り下げたり、改善の努力をするといいます。 スイスでは、公正委員会以外にも、公共性を味方につけて影響力(圧力)を保っているメディアがいくつかあり、これらが多様な広告を網羅し、望ましくない広告を排除する有効なフィルターとして機能しています。代表的なものとして、まず、国営放送で消費者と企業の間のトラブルや問題について専門に扱う番組があります。毎週ドイツ語とフランス語の放送局で放送されるものや、毎朝ドイツ語圏放送されている番組があり、どちらも定評があり、長寿番組としてスイスで広く視聴されています。これらの番組の調査結果とリンクした形で隔週で発行される消費者雑誌「 K-Tipp」も、発行部数25万部、購読者数92万人以上の大きな影響力をもつメディアです。これらの消費者の立場にたった公正なメディアのおかげで、性差別的なものや名誉毀損になる広告が公共の場にたとえでてきたとしても、これら様々な次元の監視機能の網にかかり、99%はただちに除去されるしくみになっているといいます(Jakrlin, 2017)。 広告のなかに現れる男性像 このように現代のスイスでは、常に目を光らせて、広告が、性差別がない公平な広告であるかをチェックしているのですが、興味深いことに、このチェック体制で死角に入っている人たちがいます。これらの人たちは、広告のなかで、視聴者の笑いの対象となるような、粗野だったり不器用な役回りを頻繁に果たしているにもかかわらず、少なくともヨーロッパの現状では特に問題視されずに、広告として流され続けています。 それは、一体、どんな人たちでしょう。ほかでもない、白人の男性です。昨年の雑誌『ワトソン』に掲載された「女性が広告で愚かしく表現されると、性差別的だ。では、男性ではいいのか?」という記事もこのことを扱っていました。この記事によると、情けない役回りの白人男性の広告が、なぜ性差別的な広告として自粛対象にならないのかついては、諸説あるようですが、重要なのは、白人男性は(広告される社会において)社会的弱者でもマイノリティーでもないという事実のようです。このため、男性がコミカルな役になっていても、それを視聴する側は、社会的な差別を助長するものとはとらえず、他愛ないコメディのように受けいれられるというしくみになっているようです。(Ramazani, 2016) 170607-3.jpg 確かに、広告で苦情の的になるのは、通常、社会で弱い立場にいる人(あるいはそう思われている人)がばかにされるような表象や、その人たちの社会的に不公平な立場をより助長したり凝り固めるような表象する場合です。今日の欧米社会において、一般的にこのような立場から一番遠い(、と少なくとも社会で思われている)人たちが白人男性であり、逆に言えば、コミカルな役回りが広告で演じられていることは、一番社会的地位も権力もある地位にいることの証であるといえるのかもしれません。 ただし、スイスのこのような白人男性のコミカルな広告スタイルも、広告界が差別に敏感に反応するようになった今という時代の産物であるにすぎず、近い将来には消失する運命かもしれません。消失するパターンは、いくつが考えられるでしょう。そのようなステレオタイプ像が広告で増えることで、次第にあきられるということからかもしれませんし、性差別の対象を男性にも拡大して、男性を広告の笑いものにしてはいけないという配慮や圧力が社会に大きくなるからかもしれません。 あるいは、もっと大きな社会の根底からの変化からかもしれません。 今後、男女同権が叫ばれ、それに追随する政策や文化が定着していく、数十年という時間的なタームを経て、男性をどうみるか、あるいは男性自身が自分たちをどうみるかが、根幹的に変わっていくことは、十分予想されます。そうなると、今の広告に表象されるような男性の広告は、違和感を覚えるだけで、意味がなくなるでしょう。 おわりに このように現代のスイスの広告をみていくと、単に、その社会で「映し出していいもの」を映し出しているだけでなく、「映し出してはいけないもの(差別となるもの)」が何であるかも暗に示しているようであることがわかります。時代で望ましくないというものを覆い隠し、見せてもいい「美しいもの」だけをみせようとしているのだとすれば、広告は、単なる時代を映す鏡というよりは、白雪姫の継母がもっていた魔法の鏡に近いのかもしれません。 //// <参考サイト> ——広告における「性差別」的表現について Sex und Sexismus: Die verrückte Welt der Werbung, Solothurner Zeitung, 17.11.2010. Sexistische oder «sexy» Werbung?(スイス公正委員会のサイトの一部) Sexistische Werbung, Stadt Zürich (2017年6月3日) Christoph Bernet, «Body Shaming:» SBB sollen auf sexistische Werbung verzichten, Schweiz am Wochenende, 18.6.2016 Anja Derungs, Gerechtigkeit - auch für Männer, Von Blog-Redaktion, Tagesanzeiger, 20. März 2017 ——スイスの広告を監視する監視機関やメディアについて スイス公正委員会公式サイト Lauterkaitskommission 50 Jahre unlautere Werbung, Trend, SRF, 13.5.2017. (性差別的な広告については特に15分40秒ごろから) Olivia Müller, «Stark sexualisierte Werbung wird von einem Grossteil der Bevölkerung nicht goutiert», Dore Heim, Expertin der Lauterkeitskommission, im Gespräch mit Bernerzeitung.ch/Newsnet, 19.4.2012. Lahor Jakrlin, Wer kontrolliert die Werbung?, kf-NEWS, Medien, 5.4.2017. ——男性の広告での表象のされ方について Kian Ramezani, Frauen in der Werbung als blöd hinzustellen, ist sexistisch. Und bei Männern ist es ok?, Watson, 15.11.2016. Gardener, lawyer, Why are men being portrayed as idiots in TV commercials?, Quora, 6 Answers(2017年5月30日閲覧) Chanchal Biswas, Den Mann als Trottel hinzustellen, hilft euch Frauen auch nicht, NZZ, 25.3.2017. ——その他 公益社団法人日本広告審査機構公式サイト(2017年5月末閲覧) 野崎 佳奈子、「特集1 ネット広告の相談と問題点」『国民生活』(2016.8)、5−7頁。

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振 興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


フランスのキャリアママとスイスのミスター大黒柱の共通点  〜ヨーロッパの男女の就労に関する期待と本音

2017-06-02 [EntryURL]

フランスの母親とスイスの父親には、子をもつヨーロッパ人という以外、一見なんの接点もないように思われますが、意外な共通点があるようです。両者は共に、ほかのヨーロッパ諸国に比べてフルタイム勤務の割合が高く、同時にフルタイム勤務の実情と社会が期待するものの間に微妙なギャップがあり、しかもそれを公言しにくい雰囲気が社会全体にあるようなのです(ちなみに、この記事での「パートタイム勤務」とは、時間給で不規則に働くものではなく、年次休暇や病気休暇も法律で保障されている規則的な就業形態を主にさすものとします)。 母親も父親も、子どもを心配なく預けて働けることができ、男性だけでなく、女性もキャリアをつんで管理職など高いポジションに多く就く社会こそ、目指すべき未来の姿なのだと、ヨーロッパでも日本でも声高に叫ばれており、そういった理解が、現代の国際社会でのコモンセンスだと思っている方も多いのではないかと思います。 しかし、そうであるならば、男性も女性もフルタイムで勤務することでなんの社会とのギャップがあり、しかもそれが公言しにくいとは、一体どういうことなのでしょう。今回は、それぞれの就労状況とそれに対する社会での理解を整理してみていきながら、現実と理想が乖離する背景やそれが公言されにくい諸事情について、考えてみたいと思います。 170602-1.jpg

フランスの母親の働き方

フランスの女性の仕事と家庭を両立させる働きぶりは、高い出生率と並び、ヨーロッパでも世界でも誉れ高く、模範的な例としてよくとりあげられます。 優良な働き方を表す数値として、よく引き合いにだされるのが高い母親のフルタイム勤務率です。現在、フランスで働く母親の3分の2がフルタイム勤務であり、6歳以下の幼児をもつ母親でも6割がフルタイム勤務をしています。この割合は、北米やいくつかのアジア諸国ではめずらしい数字ではありませんが、ヨーロッパにおいては突出しており、特に隣の大国ドイツと比較するとその差は歴然としています。ドイツでは、就業する母親の半分以上がパートタイム勤務で、6歳以下の子どもがいるドイツの母親のフルタイム勤務率は3割以下です。 フランスとドイツのこのような母親の働き方の大きな違いは、どこからくるのでしょう。この問題には、就労上の法律・制度の違いや住宅付近の十分な保育施設の有無、企業文化の違いなど、様々な要因が関わっていますが、メンタルな違いも大きいとされます。それを裏付ける最近のデータがあります。ドイツでは子どもの保育施設の供給が進んだ結果、2006年から2013年までに保育施設に預けられる2歳以下の子どもの数は2倍に増加しているのですが、2015年でも6歳以下の子どもをもつ母親(20歳から49歳)のパートタイム勤務が7割以上と依然として高い割合で、母親のフルタイム勤務率はほとんどあがっていません。 具体的に現在のフランスとドイツの親の世代では子育てに対してどのような考え方の違いがあるのでしょう。ドイツ語圏では幼いうちはなるべく母親や近しい者が保育したほうがいいという考えが社会で今も根強く、子どもを保育施設に預ける親でも、週日5日すべてを施設に預けるのではなく、預ける日数や時間をなるべく減らそうとする人が多数派です。一方、フランスでは、子どもを預けることへの抵抗は(かってはありましたが)現在は少なく、むしろ、仕事をしないで子どもを家でみていることへの社会からの暗黙の批判的なプレッシャーの方が、女性に強く感じられるようです。子どもを自分でみていることは、「仕事をしている」とはみなされずに社会的に低い評価しかされず、外で仕事をしてはじめて、能力のある人と認められる傾向が強いとされます。 このような違いは、母親に対する言葉の表現にも見え隠れしています。ドイツ語圏では、自分で子どもの世話をみない母親について、「からす母さん」(生物学的にみると、からすはかなり子どもの面倒をよくみる母親だということですが)という批判的な表現がありますが、このような表現はフランス語には見当たらないといいます。 170602-2.jpg

理想化されるキャリアマザー像への異議

これまでヨーロッパでも日本でも、フランスの母親の働き方は賞賛され、女性の社会進出のお手本のようにとらえられてきましたが、最近、雲行きが少し変わってきたようです。 今年フランスとドイツで放映された特集 「スーパーマザーとキャリアマザー。危機にあるフランスの成功モデル」では、そのようなフランスの変化を全面的にとりあげていました。(この番組は、前回紹介した仏独共同文化放送局アルテの「Re:」という番組の一回分にあたります。この放送局や番組については「仏独共同の文化放送局アルテと『ヨーロッパ』という視点 〜 EU共通の未来の文化基盤を考える」もご参照ください) 番組では、子どもを小さい時から第三者に預けるという習慣に疑問をもつ母親、子どもを育てながら仕事をしていく上でよりよい職場環境を優先し、フランスではなく国境を接するドイツで仕事をすることを選んだシングルマザー、4人の子どもの母親でバーンアウトしたキャリアウーマン、また子どもと親が時間をもっと共有すべきだと考える小児科医などが登場し、これまで模範とされてきたキャリアマザー像に疑問を投げかけていました。バーンアウトした女性は、キャリアママを務めるのは本当に大変なことなのに、それを公言するのは、社会での一種のタブーになっている、とも語っていました。

ドイツでのフランス女性の取り上げられ方

確かに、この女性がいうように、女性のキャリア志向に否定的な意見を公言するのは、一種のタブーになっているきらいがあるのかもしれません。少なくとも大方のドイツ語圏のメディアでは、フランスの女性の働くモデルを賞賛・神聖視する記事が圧倒的で、疑問を呈するものはほとんどありません。 このようなドイツ語圏での状況は、独自の文脈も強く関連しています。ドイツ語圏では、女性の社会進出がフランスやスカンジナビアなどのヨーロッパ諸国より「遅れている」という理解が少なくとも表面上は一般的で、「進んだ」お手本をこれらの国に求めるという、大ざっぱな構図が存在しています。このため、今の(まだお手本に近づいていない)段階で、お手本の国の女性の問題を検証したり、がたがた議論するよりも、まずは、フランスに「理想とする目標」の役を演じてもらいたい、そしてそこに近づくためドイツをともかく前進させたい、そんな前のめりの姿勢が、まず、あるように感じられます。 それに歩調を合わせるように、メディアにも力学的な作用が働いているように思われます。フランスの女性のキャリアを肯定することで、「リベラルなメディア」というお墨付きを社会から得られやすくなる一方、批判的な記事を掲載すれば、フェミニストに槍玉にあげられたり、「封建的」や「家父長的」などのレッテルが貼られるリスクが高まる、という目にはみえない力学的作用です。 そうとはいえ、賞賛したり肯定的な側面をみるだけでは、フランス女性の就業の一面を描写しているのにすぎず、キャリアを達成した母親たちの今の要望やほかの問題は、わからずじまいです。実際に、フランスでは近年、パートタイムを望む女性が増えてきており(Siems, 2016)、もちろん、経済的な理由でフルタイム勤務を今後も希望する人も多いでしょうが、従来ドイツに比べ非常にパートタイム勤務の雇用先が少ないフランスの労働市場にも、今後変化がでてくるかもしれません。これに並行して、メディアの報道も、賞賛一辺倒ではなく、フランス女性の働き方の長所と短所を公平に扱い、より現実を直視する論調に、変化していくかもしれません。

スイスのMr. 大黒柱

さて、ところ変わって、スイスの父親はどのように働いているのでしょう。2011年のプロ・ファミリアの調査では、男性の10人に9人が、可能ならパートタイム勤務がしたいという回答をしています。一方、昨年10月の調査結果では、子どものいるスイスの男性の9割近い87%が、フルタイム勤務をしています。パートタイム勤務の希望と実際の勤務形態の間にあるこの大きなギャップは、どこからくるのでしょう。 ひとつの大きな理由は、会社側、特に中小企業における消極的な姿勢です。中小企業は、スイス全会社の99%にあたり、全雇用の3分の2を占めていますが、パートタイム勤務が増えることによる費用や事務作業の増加が、零細企業にとってはかなりの負担になるためです。 一方、大企業においては、事情が大きく異なり、むしろ会社のイメージをあげるために、保育施設の設置や自宅勤務体制の整備などと並行して、パートタイム勤務も奨励しているところが多くみられます。しかしそのような環境や条件が整っていても、大企業でもパートタイム勤務はそれほど多くありません。例えば、UBS銀行での男性従業員のパートタイム勤務は8%、製薬・ヘルスケア企業のロッシュでは5%、食品会社ネスレでは1.8%、3万2千人の従業員を抱える世界最大の人材派遣会社Adecco にあっては、 0%です。 全般に、パートタイムの雇用先が少ないわけではありません。スイスはヨーロッパでも有数のパートタイム大国と呼ばれるほど、パートタイム勤務の割合は高くなっています(全就労者の36%)。ただし、その圧倒的多数は女性で、男性ではありません。(スイスで普及しているパートタイム勤務の詳細については、「スイス人の就労最前線 〜パートタイム勤務の人気と社会への影響」)をご覧ください) 170602-3.jpg

本音が隠れるアンケートの回答

こうみていくと、雇用環境が男性のパートタイム勤務願望を抑圧している、という簡単な構図では理解できません。ではほかに、どのような理由が考えられるでしょう。昨年調査を行ったヘルマン氏は、興味深い指摘をしています。 今日のスイスにおいて、パートタイムは、「理想」像として「男性に、社会的に(注射のように)接種されて」おり、パートタイムがしたいと「言うことが、今日期待されて」いる。このため、アンケートで個人の見解が問われれば、その期待にそった模範的な回答が返ってくるが、本人の本心と、必ずしも一致していないのではないか、というのです。つまり、本音がアンケートに反映されていないだけで、男性のなかには今も、これまでとあまり変わらず、家族の大黒柱として働くことに強い生きがいをもっており、その気持ちが、子どものために仕事の時間を減らしたいという希望よりも強い人がかなりいるのかもしれないとい言います。(von Ah, S.22)。 確かに、仕事でも家事でも男女が平等公平である社会であるために、男性も仕事だけではなく家事や育児をすべきだという考え方が一斉を風靡するようになり、その一環としてスイスでも20年来、「新しい父親」の働き方として、パートタイム勤務を奨励・もてはやす傾向が強くなってきました。一方、スイスではこれまで、女性のフルタイム勤務率に続き、男性のパートタイム勤務率においても、ほかのヨーロッパ諸国に「遅れ」をとっている国という構図があります。オランダの男性就労者の22%、スウェーデンでは12%がパートタイム勤務しているのに対し、スイスのパートタイム勤務の男性は10.9%(2015年)です(ちなみに、ドイツにおいてはさらに低く9%(2016年)です)。このため、ヘルマン氏の言うように、仕事を減らして子どもの面倒をみるよりも、フルタイムでバリバリ働きたい、そんな気持ちがあっても公言はしにくい目にみえない心理的なバリアが、社会に存在しているのかもしれません。 ヘルマン氏の指摘を聞いて、さもありなん、とうなずきたくなる経験を数年前にわたし自身もしました。勤めている遊具のレンタル施設「ルドテーク」が、 週日に加え土曜も開館することになり、それをローカル雑誌上で広報する記事を担当した時のことです(ルドテークについての詳細は、「スイスの遊具レンタル施設」をご覧ください)。見出しを「ようこそお父さんたち!」として、週日働いているお父さんたちでも、これからは土曜に立ち寄ることができます、という内容を盛り込んだのですが、この部分に、文章校正担当の同僚からストップがかかり、文章が書き換えられました。修正後の文章を読んで、父親がフルタイム勤務であることを当然視あるいはそのような傾向を助長するようなタイトルや内容が、(実際がどうであるかとは関係なく)男女平等を目指す社会で、公的な性格が強い団体が掲載する記事としては適切ではない、という理解が、校正者にあったことがわかりました。社会の現実とは別に、スイスにおいて暗黙にしかし歴然とした社会的な公式見解があることを、その時はじめて実感しました。 ただし、男性の働き方が徐々に変わってきていることも事実です。スイスの男性のパートタイム勤務者は2010年から2015年までの5年で7.3%から10.9%に確実に増えています。若く新しい世代がこれから父親となっていく今後に、さらに、男性のパートタイム勤務割合が増えることは十分考えられます。

おわりに

今日、就労のあり方や男女の仕事の分担については、ワーク・ライフ・バランスや一生現役説、イクメンなど様々な考え方が、時流にのって世界をかけめぐっています。それらの考えが社会でいざ目指す目標と掲げられると、今回みたように、現実と理想に乖離が生じたり、本音と建前の間にずれやねじれがでてくるものなのかもしれません。

参考文献・リンク

——フランスの母親の就労について Re: Supermutter & Karrierefrau, Frankreichs Erfolgsmodell in der Krise, arte, Deutsche Erstausstrahlung, 17.03.2017. OECD-Studie zu Partnerschaftlichkeit in Familie und Beruf, “Die Frauen in Deutschland wollen durchaus arbeiten”, Monika Queisser im Gespräch mit Manfred Götzke, Deutschlandfunk, 20.2.2017 Margarete Moulin, Frankreich: Liebe auf Distanz, Die frühe staatliche Betreuung in Frankreich hat ihren Preis. Frauen fühlen sich zunehmend entfremdet von ihren Kindern, Zeit Online, 5. September 2013 Dorothea Siems, OECD-Statistik Der Schein-Sieg deutscher Frauen in der Arbeitswelt, News on die Welt (Welt N24), 07.03.2016. Angela Luci, Frauen auf dem Arbeitsmarkt in Deutschland und Frankreich. Warum es Französinnen besser gelingt, Familie und Beruf zu vereinbaren, Friedrich Ebert Stiftung, März 2011. ——スイスの父親の就労について Manuela von Ah, Mythos Teilzeit, Gewellschaft Väter, Wir eltern. In: Für Mütter und Väter in der Schweiz, 6/2017, S.20-29. Dr. Michael Hermann, Mario Nowak, Lorenz Bosshardt, Sie wollen beides.Lebensentwürfe zwischen Wunsch und Wirklichkeit. Bericht zur Umfrage, sotomo, gesellschaft, politik und raum, 7. Oktober 2016, Zürich. Statistisches Bundesamt: Neun Prozent der Männer arbeiten in Teilzeit, ZEIT ONLINE, 1.11.2016. ——その他 Beschäftigungsstatistik, Eurostat Statistics Explained, Daten von August 2015. Frankreich und Deutschland: Die zwei ungleichen Schwestern der Familienpolitik, connexion emploi(2017年5月23日閲覧) Eltern, die Teilzeit arbeiten, Detatis, statistisches Budesamt, Indikatoren (2017年5月28日閲覧)

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


株式会社リンクカラー 代表取締役 藤原誠 氏

2017-05-27 [EntryURL]

fujiwara.jpg1985年生まれ兵庫県出身。
紙媒体のフリーライターを経験。

その傍らWEBマーケティング(特にSEO)を勉強し個人で実践。
様々な難解キーワードで上位表示を達成。

WEBコンサルタント会社を経て、2009年に株式会社リンクカラーを設立。

現在は大手ポータルサイトのSEO対策を行っている。 またSEO対策だけではなく、様々な媒体を使ったお客様の集客をサポートしております。


2017年05月30日号 意外と抜けてしまうSEO対策の本質
2017年06月30日号 MFI(モバイルファーストインデックス)導入前に気をつけておきたいこと
2017年07月30日号 トップページは上位表示されにくい?最近のグーグルが評価するサイトとは

仏独共同の文化放送局アルテと「ヨーロッパ」という視点 〜 EU共通の未来の文化基盤を考える

2017-05-23 [EntryURL]

EU諸国における EUへの帰属意識と愛着の薄さ

2012年にEU がノーベル平和賞を受賞した際、EU諸国の現地の反応が印象的でした。自国の誰かがノーベル賞を受賞すると、出身国の人たちは自分や身内のことのように誇ったり、喜びに沸くという光景がよくみられますが、EUが受賞したと聞いても、当のEU諸国の人々の反応は、冷ややかで、他人事のようですらあり、 喜びに満たされたお祭りムードにはほど遠いものでした。 もちろん、ブリュッセルを中心に喜びの声を表明する政治家はいましたが、そのころEUの深刻な財政危機問題が話題になっていたこともあり、メディアでも、受賞を素直に喜ぶというよりは、EUが直面する状況を改めて総括・直視する機会として使う以上の盛り上がりはなく、概して批判的であったと記憶しています。EUのノーベル賞受賞のニュースに対するこのような全般に冷ややかな反応は、理由はどうであれ、EU内の人々のEUに対する帰属意識や愛着の希薄さを端的に示しているようにみえました。 さて、それから数年たった現在はどうでしょう。昨年10月ドイツで行われたアンケート結果をみると、6割のドイツ人がEUは正しい方向に進んでいないと不満を抱いており、ヨーロッパ人というよりドイツ人としての意識が強い人は、ドイツ人よりヨーロッパ人だと感じる人の割合(27%)の2倍以上の62%でした。EU の中心的な存在で、EUの経済圏からの恩恵を最も受けているはずのドイツでこうなのですから、ほかのEU の国ではさらにEUへの帰属意識も愛着も薄いことが容易に想像されます。 170523-1.jpg
パリのグレヴァン蝋人形館

確かにEU内の政治や経済的な統合は進んでいますが、その歴史はまだ浅く、加盟国28ヵ国のゆるい連帯の形にすぎないため、政治・社会・文化・経済的にも非常に異なる背景の国々を一方向に束ねるような帰属意識や求心力が生まれてくることは、たやすくはないでしょう。公用語だけでも24言語(話されている少数言語を含めると60言語以上)という複雑な言語分布のため、隣国どうしのコミュニケーションすら簡単ではありません。

ヨーロッパの共通文化基盤になるものは?

今後も共通する文化が希薄で、政治・経済・制度上の枠組みとして存続することも考えられますが、共通の文化基盤が、年月を重ねながらすこしずつ、醸成されていくことも考えられます。もしもそうであるとすれば、共通する文化基盤とはどのような形でしょう。 多様な文化的背景をもつ中間層が今後も社会の中核を占めるのであれば、それは、これまでの歴史上でみられたような、排外的な政治イデオロギーでも、まして植民地を世界に拡大化しようとする帝国主義的な思考でももはやないことは、確かでしょう。ヨーロッパの精神的な支柱としての役割をある程度果たしてきたキリスト教も、ここ数十年、西側諸国を中心に顕著に進む脱キリスト教化を考慮すると、求心力を今度再び高める可能性は低いように思われます。(ヨーロッパ、特に西欧での脱キリスト教化と、新たな連帯や精神性を求める最近の動きについては、「スイスのなかのチベット 〜スイスとチベットの半世紀の交流が育んできたもの」もご参照ください) むしろ、EU内の共通する文化基盤が将来できてくるのだとすれば、EU内のお互いについての見聞やEU全体についての理解が、少しずつ多様な形で折重なり、塗り替えられながら集積されて、何世代かを経たのちに、それが総体としてなんらかの「ヨーロッパ」らしさを形成していくというシナリオが、もっとも現実的である気がします。 170523-2.jpg

「ヨーロッパ」という視点をもった放送局

ところでヨーロッパには、一国の視聴者だけを対象にするのではなく、ヨーロッパ全体を射程にいれた放送局がすでにいくつかあります。フランスとドイツによって共同で設立され、ヨーロッパ全体を見渡す、また政治でも経済でもない独自の文化的な視点を重視し、四半世紀コンテンツを産出・放映してきた放送局アルテArteはその一つです。 これまでの時代では国のなかの求心力を高めるのにそれぞれの国の公共放送が果たしてきた役割は非常に大きいものでしたが、多種多様な国々の集合体であるヨーロッパで、しかもデジタルメディアが一斉を風靡し、メディアの地平線が限りなく広がる現代や将来において、このような「ヨーロッパ」を志向する放送局の番組は、どのくらいヨーロッパ社会で影響力をもちうるのでしょうか。

アルテについて

そもそもなぜ、ヨーロッパ志向の放送局が設立され、そこでは実際にどんな放送がなされているのかを、アルテを例にみていきながら、放送メディアの現在、将来のヨーロッパ(EU)への影響力について少し思い巡らしてみたいと思います。 フランスとドイツが共同して文化専門の放送局を設立するという構想は、1980年代からフランスに隣接するドイツのバーデン=ビュルテンベルク州の州首相やミッテランフランス大統領らよって提唱されはじめ、1990年10月に、ドイツのコール首相とフランスのミッテラン大統領の間で正式に決定されました。 決定した1990年10月には、東ドイツが西ドイツに再統一されるという歴史的な出来事があり、ドイツにとってだけでなく、ヨーロッパ連合にとっても新しい時代の幕開けを感じさせる時でした。期を同じくして共同の放送局を設立が決まったことは、二カ国が、EUの進展のためにより強く結束しあうことを確認しあう意味合いが、設立において大きかったと思われます。その後、ヨーロッパの放送局の間の協力関係が広がり、現在は、オーストリア、ベルギー、イギリス、スウェーデン、フィンランドの公共放送との間で番組制作やコンテンツの共有化もすすんでいます。ちなみに放送局アルテ自体は、フランスとドイツのそれぞれの公共放送受信料の収入の一部で95%がまかなわれています。

番組の特徴と番組「Re:」

具体的な番組内容については、ご興味がある方はぜひ下記の参考サイトからご自身でご確認いただきたいのですが、一言でまとめると、一国の利害や関心にとどまらない、より高次の問題意識や共通理解、また解決への糸口をさぐる姿勢が目立ちます。多数の国で同時にそれぞれの母語で視聴されるという性質上、扱う対象は広範で、偏った報道を自制する体質であることも特徴です。特にドキュメント部門においては定評があり、2カ国共同放送局がスタートした当初は放送局の存在意義を疑う声が強かったのとは打って変わって、現在では、放送局としての独自の地位が確立されているといえます。 今年3月からスタートした、アルテらしいと呼べる新番組について具体的に紹介してみましょう。「Re:」という番組で、週日月曜から金曜の週日夜7時45分から30分という、視聴者が比較的多い時間帯に放映されています。 この番組は、「新聞の見出しの後ろの隠れている」もの、つまりセンセーショナルな話題ではなく、ヨーロッパの現実にいる様々な人や職業や状況に焦点をあてることを主眼にしています。今年からこの番組がスタートした背景には、世界やヨーロッパが置かれている現在の状況が大きく関係しているようです。世界やヨーロッパで蔓延している「ポピュリズム的な反対意見に」ジャーナリズム的な視点から対峙することを目指していることが番組紹介にも書かれており、 安直で刹那な解答や感動より、むしろ視聴者に考えさせたり、「ヨーロッパを個人的に感じられるよう」にさせ、長く持続する解答を提示したり、問題を提起することを目標と掲げています。 フランスの初めてのゲイのイスラム指導者、コソボで少数民族ロマが経営するホテル、オランダのコーペアリング(複数の親による子供の共同保育)、ヨーロッパのユーチューバー、イギリスの漁師など、これまで取り上げられてきたものに相関性はありません。ヨーロッパの今を、違う場所と角度から断片的に切り取ったようなそれぞれの回の番組内容が、全体として、ヨーロッパの今を浮かび上がらせているような構図です。

フランスとドイツでのテレビ放映

番組の視聴方法は、従来のテレビ放映とネット経由の二つがあります。テレビ放映は、1992年5月30日の放送開始当初から、ドイツ語とフランス語の完全 2カ国放送です(正確にはフランス語放送とドイツ語放送の2放送局があり、ゴールデンアワーの番組は生活風習の違いのため、フランスではドイツより30分遅れて放映されていまうが、それ以外はほとんどすべて同じ内容を同時に放送しています)。 フランスでの視聴者市場占有率(全テレビ視聴時間におけるそれぞれの放送局の視聴割合)は、2014年から2015年にかけて、2%から、2.2%に増え、現在約1200万人以上が視聴しています。ドイツ語圏では文化放送局の競争が激しいため、ドイツでの視聴者市場占有率は、1%にすぎませんが、ドイツ内で9百万人が視聴している計算になります。この数字は、ドイツのほかの公共放送局の市場占有率12−13%と比べるとはるかに低いですが、近年も変わらず安定しています。チェルノブイリやミツバチ死滅の危機などの個々の特番では、ドイツとフランス合わせて200万人以上の視聴があったこともあります。 170523-3.jpg

ネット経由での視聴

アルテでは、1996年から公式サイトを立ち上げて以降、ケーブル、アンテナ、衛星放送によるテレビ放送に並行して、テレビの放送とインターネットを相互補完できる環境の充実化にも力をいれてきました。放送される番組の85%は、ヨーロッパ全域でインターネット上で最低1週間いつでも視聴できる体制がとられており、2012年からは、ライブストリーミングもスタートしました。 ネット経由の視聴は近年、顕著に増えています。2015年公式サイトからのビデオコンテンツの視聴回数はトータルで2億1900万回あり、前年比で、34%増でした。これまでテレビ放送の市場占有率では変化のないドイツでも、ネット経由で視聴者数は増加しています。若者の視聴もネット経由で増えました。アルテではライブストリーミングやビデオ配信でだけでなく、視聴者とのネット上でのインターアクティブな議論のプラットフォームも重視しており、最新コンテンツと議論のプラットフォーム両者へのアクセスが容易なフェイスブック上のフォロワーは、現在約184万人います。 アルテの番組のネット配信の恩恵を特に受けているのは、ドイツやフランス以外の国に住むヨーロッパの人々です。特に、仏独以外でもケーブルを通じてテレビ放映がみられる国が以前からありましたが、2015年から、オンラインの放送番組の一部がヨーロッパ全域で、スペイン語と英語の字幕がつけて配信されるようになると、ヨーロッパ在住の人の55%までが母語で、アルテの番組を視聴できることになりました。2016年11月からはポーランド語の字幕の配信もはじまりました。

これから改めて問われるアルテの実力

この番組も含めアルテの番組はすべて、文化という切り口からのアプローチであり、直接的に社会や政治を動かしたり、影響を与えるものではありません。その一方、放送以来一貫した「ヨーロッパ」としての視点自体が、ヨーロッパという広大で複雑で把握しにくい超国家機構を、感覚的あるいは身近にとらえる、少なくともそのきっかけにはなっていく可能性は十分あると思われます。 特にインターネット経由で、むしろアルテのコンテンツがこれまで以上に簡単にヨーロッパ中で入手できるようになったことで、一層広範にインパクトを与えたりメッセージが届く可能性が高くなったといえるかもしれません。その意味では、アルテは、これまでヨーロッパ統合への寄与を評価する賞を多数受賞してきましたが、 これからが影響力が試される正念場なのかもしれません。

付記 〜カルチュラル・セキュリティという観点から

以前、「カルチュラル・セキュリティ 〜グローバル時代のソフトな安全保障」という記事で、渡辺靖氏が唱えている「カルチュラル・セキュリティ」という概念に触れました。それぞれの社会のもつ文化の価値を創出、活用、発信し、海外の市民との対話や交流が促進され、最終的に国内と海外が一緒になってコミュニティを形成することが、ついには自国のセーフティーネットになるという意味で、文化が安全保障の一部になりうるという考え方でした。 EU圏内の人々にとっても、国単位でなく、「ヨーロッパ(あるいはEU)」という視点をもつこと、そしてヨーロッパ内の経済や政治的な次元だけでない、別の形のつながりを意識したり、実際にお互いを知る機会を増やしていくうちに、ゆるやかな連帯の形がつくられていくのだとすれば、それは、どんな扇動的な政治プロパガンダや急進的な改革運動よりも、ヨーロッパの治安や安定に寄与する「カルチュラル・セキュリティ」の一翼を担うのかもしれません。

参考サイト・文献

——ドイツ人の EUについての理解(アンケート調査)について Thorsten Spengler und Christiane Scholz, Die Sicht der Deutschen auf Europa und die Außenpolitik. Eine Studie der TNS Infratest Politikforschung im Auftrag der Körber Stiftung, Oktober 2016 EU-Skepsis: Deutsche sehen Europäische Union auf falschem Weg, Die Zeit, 29. November 2016. ——放送局アルテについて アルテ公式サイト 20 Jahre Arte: Qualitätsprogramm in der Nische, news.de, 29.05.2012 Arte, Wikipedia (ドイツ語)(2017年5月14日閲覧) Arte produziert Flüchtlingsserie «The House», Solothurner Zeitung, 23.2.2016. ——番組「Re:」について Re: Was dich bewegt. Reportagen aus Europa. (公式サイト)

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
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単身の高齢者が住み続けられる住宅とは? 〜スイスの多世代住宅と高齢者と若者の住宅シェアの試み

2017-05-16 [EntryURL]

前回の記事(「縮小する住宅 〜スイスの最新住宅事情とその背景」)で、スイスでは社会構造やライフスタイルの変化が進んで、住宅の需要が変化していることを扱いました。実際、コックを雇い共同食堂で住人が夕食をとることができる住宅(Genossenschaft Karthago, Zürich Wiedikon)や、環境への配慮や居住スペースの最適化のため住人の車所有を禁止する集合住宅、また喫煙者が入居できない住宅(Genossenschaft Schönheim, Eyhof)など、これまでにないユニークな住宅が、新たな人々の要望の受け皿として建設されるようになりました。 新しい住まいのあり方が模索される動きのなかで、しかし特に、社会的に大きく関心をもたれているのは、年々増えている高齢者の単身世帯を対象にした住まいです。現状では、スイスの単身の高齢者にとって、単身でずっと暮らすことと、老人ホームに入居すること以外に、選択肢はほとんどありません。しかもどちらの場合も、すでに質的にも量的にも問題や限界に直面しています。単身者の高齢化が進むと次第に行動範囲や人との関わりが減り、孤独に陥りやすくなるだけでなく、体力や身体機能の低下に伴い、物理的な生活面でも様々な不自由や支障に悩む人が増えます。他方、老人ホームという選択肢は、そもそも老人ホームに入居せず、できる長く自宅に住み続けたいという希望をもっている人がほとんどのため難しいだけでなく、仮に現在あるような形の老人ホームに高齢者の相当数が入居するとなれば、自治体にとっては財政的に膨大な負担になり、ホーム現場でも、さらに深刻に人手不足に陥ることになります。 もしも、高齢者世帯がほかに選択できる住宅があるとしたらどうでしょう。今回はそのような期待がよせられている、多世代住宅と住宅のシェア(同居)という二つの新しい取り組みについて、ご紹介します。 多世代住宅 どのような住宅がどこにどれだけ建つかは、住宅がたつ周辺地域の社会構造に、数十年先まで、大きな影響を与えます。例えば、子育て家族世帯のような特定の世代が一時期に集中して住めば、数十年後に、高齢化や過疎化がいっきにすすみ、地域社会全体が深刻な機能不全に陥る危険があります。このような、いわゆる「社会的な時限爆弾」(Hirsekorn, 2016)を回避するため、多様な世代を混在して住ませるようにすることは、今日の地区計画や宅地開発において重要な課題になってきています。 多世代共生を、地域全体の話としてだけではなく、ひとつの集合住宅内においても実現し、緊密で協力的な隣人関係を居住者の共同基盤として根付かせることができないか、そんな構想をもとにした住宅も、最近少しずつ現れてきました。これらの住宅の呼称はいくつかありますが、ここでは、最も一般的な「多世代住宅 Mehrgenerationenhaus 」という呼称を使うことにします。 住人が出会い、集いやすくするための空間設計 多世代住宅が具体的にどのような特徴的構造やしくみをもっているのかを、2013年に完成したヴィンタートゥア市の住宅協同組合ギーセライGiessereiを例にみてみましょう。 集合住宅ギーセライは、156戸の賃貸住宅(2棟)と共同スペースからなっています。賃貸住宅は、様々な年齢層の住人が住むことが想定され1.5部屋から9部屋までの広さの多種多様な間取りのもので、合計すると43種類あります(スイスでは10㎡以上の仕切られた室内空間を「部屋」、6〜10㎡未満の部屋は「半部屋」と定義します)。現在の350人の住人は、以下のグラフに示されているように10代未満から80代まで幅広い年齢層からなっています。 170516-1.png
住人の年代分布グラフ(赤が2014年、緑が2015年4月末の住人の年代別の割合を示しています) 出典: http://www.giesserei-gesewo.ch/siedlung/mehrgenerationenhaus
住人どうしが交流し、集える機会が多くなるように、従来の集合住宅よりも多くの共同で使える場所が、多く設けられているのも特徴です。例えば、住人全員が利用できる遊具や花壇つきの内庭やロッジア(片方が外に開かれた廊下)だけでなく、住人だけを対象にした飲食施設「スリッパ・バーPantoffelbar」、作業場、情報デスクなど、共同の屋内施設が多くあります。ほかにも、共同洗濯室(スイスの集合住宅では、洗濯機を個々の住宅に設置せず、共同の洗濯室が地下スペースなどに設置されているのが伝統的で、今も多くの集合施設に置かれています)にコーヒーメーカー付きの小さな休憩スペースをつくり、各住宅についているバルコニーの間には仕切りをあえて作らず、住人どうしが気軽に行き来できるようにするなどの工夫もみられます。 積極的に参画する、交流する、支援しあう さらに、この住宅では、住宅に関する管理・運営をすべて住民自身が担う体制をとっており、住人は全員、清掃、事務、電気関連の管理などの住宅の運営や維持に関わる奉仕作業を年間33時間、行うことになっています。このため、年間を通じて互いのために行う奉仕作業を通じて、住人たちはさかんに交流することになります(ただし、仕事や健康上の理由で奉仕できない人は、奉仕時間を代価で組合に支払うこともできます)。 170516-2.png ほかにも、住人の間で様々な自発的な交流や助け合いを奨励するために、「時間銀行」のシステムを導入しています。「時間銀行」システムは、いくつかの異なる名称でも呼ばれますが、個々人がボランティア(奉仕)した時間を、お金を銀行に貯金するように貯蓄し、必要な時にほかの人のボランティア行為と交換できるようにしたシステムで、地域のボランティアを円滑に進めるための有力なシステムとして、世界各地ですでに実践されているものです。例えば、車での輸送や、子どもの一時預かりなど、住人がほかの住人に奉仕サービスを提供すると、それに費やした時間数がバーチャルな時間銀行に貯蓄され、必要に応じてその時間分をほかの人からの奉仕サービスとして受けることができます 。 このような住宅の空間的な構造や、住宅維持・管理への参画制度、住人のネットを介した相互支援ネットワークに加え、もともとそのような社会的なつながりを重視して入居してくる人が多い(住宅協同組合長Yvonne Lenzlinger の言)ことが拍車をかけ、従来の住宅よりも、住人どうしの関わりが、これまで多く形成されてきているといいます。すでに交流があれば、お互いに助け合うことがさらにやりすくなるという、相乗効果も生まれるでしょう。 さらに、長期的な観点でもこの多世代住宅には大きな利点があります。集合住宅内に様々な大きさの住宅があるため、数年後あるいは数十年住み続けた後、家族構成が変わるなどの理由で、それまで住んでいた住宅の広さが最適でなくなった際に、住宅間の移動や交換がしやすくなるからです。住人がお互いよく知っていれば、お互いに融通をきかせやすくなるでしょうし、 住宅がかわっても、なじみのある同じ敷地内に住み続けられることは、大きな特典といえるでしょう。 高齢者と若者の住宅のシェア(同居) 一方、広い住宅に住む単身の高齢者が、自宅に住み続けながらも、居住の快適性を向上させることができるようにする新しい取り組みもでてきました。高齢者と大学生が住宅をシェアし、同居生活するというものです。 スイスでは、高齢者の住む住宅は年々広くなっています。75歳以上の人の一人当たりの平均住宅床面積は、ここ30年間で70㎡から90㎡に増えました。一方、大学生、大学の近くの都市に住みたい学生は、安価な住宅をみつけることが非常に難しい状況が続いています。この二者をうまく組み合わせ、学生は高齢者の住宅の1部屋を借りて住むことで、お互いウィンウィンになろうというのが、住宅シェア構想です。 この構想では、学生は高齢者の住宅の1部屋を借りますが家賃は払わず、その代わりに、毎月、借りている部屋1㎡あたりにつき1時間分の時間を、高齢者の要望することにあてる義務を負います。具体的にしてほしいことは高齢者個々人が決めることができます。買い物や掃除、庭の手入れなどの家事だけでなく、いっしょに散歩にいくといった余暇の時間の相手になることを頼むこともできます。 高齢者と学生の住宅シェアは、スペインやイギリスなど、ほかのヨーロッパ諸国では、かなり前から導入されているようですが、スイスでは、2009年にチューリッヒ州で導入されたばかりです。しかし、学生側の潜在的な需要は高かったようで、このプロジェクトが始まってわずか2年の間で、すでに327人の学生が応募しています。 一方、学生に部屋を貸す側である、高齢者の方をこのプロジェクトに賛同させるのは、学生ほど容易ではなかったといいます。しかし、このプロジェクトを主催した組織 Pro Senectute が、高齢者から厚い信頼が寄せられているスイス最大の高齢者支援組織であり、ボランティア・スタッフが高齢者の説得に根気よくあたったおかげで、スタートからの2年間で最終的に 54人が部屋の提供者として登録しました。 170516-3.png
高齢者支援組織Pro Senectuteの住宅シェアに関するリーフレット 出典: http://pszh.ch/wp-content/uploads/2014/10/Faltblatt_Wohnen-f%C3%BCr-Hilfe_Nov-2014_yto_Final-Version_2-1.pdf
実際に、同居に至るまでには、お互いの相性や生活のリズムなど、様々な要素が関わるので、単なる住宅探しのような簡単なマッチングではありませんが、生協新聞のような社会に広く普及している メディアでも、高齢者と若者の住宅シェア制度を肯定的に取り上げられており、社会的にも少しずつこのような住み方が認知されるようになってきています(スイスの主要なメディアの一つとしての生協新聞の役割については、「スイスとグローバリゼーション 〜生協週刊誌という生活密着型メディアの役割」をご覧ください)。 この結果、現在は、チューリッヒ州以外でも、同様のプロジェクトが広がってきています。スイスでの老人ホームの入居者は現在、60代で1%、70代で3%、80代以上でも19%にとどまっており、つまり、ほとんどの高齢者が自宅に住み続けている状況であり、今後も、住宅シェアが増える潜在的な可能性はかなり大きいと考えられます。 おわりに 今回扱った多世代住宅と住宅シェアの試みは、まだスタートしてから日が浅く、事例もそれほど多くありませんが、今のところ順調に進んでいるようで、一人暮らしの高齢者が抱えるような孤独や心理的な負担、また生活にまつわる多様な問題が、通常の住宅にいる場合よりも、かなり削減できるのではないかと、期待されています。特別な住宅や高齢者の専門的な支援サービスなしに、高齢者の一人暮らしや自宅での居住を可能にしたという意味でも、画期的といえるでしょう。 スイスでは、ベビーブーマ世代の高齢化が急速に進む今後、高齢の単身居住者が増え続けていくことは確実です。高齢化する住人たちが、どう地域や住宅のなかで長く快適に生活できるのか、そして、ほかの住民や地域社会側と高齢者双方にとってウィンウィンの状況に近づけていくためには、どうしたらいいのか、そのために何ができるのか。これらはかなりの難題に違いありませんが、これからも、奇抜な発想や斬新な試みが続々登場し、住み方が発展・進展していくことを、大いに期待したいと思います。 <参考サイト・文献> ——新しい住宅、住み方全般について Soziales Wohnen: Zwischen WG-Zimmern, Grosshaushalten und Generationen Alex Hoster, Wohnen wie in der Zukunft, Winterthur, Landbote, 16.3.2016. Daniel Meier, Autofahrer unerwünscht, Hintergrund Schweiz, NZZ am Sonntag, 30.4.2017, S.25. Silja Kornacher, Zusammen weniger allein, Migros-Magazin, Nr.2,5.1.2015, S.13-16. Andrea Kucera, Mehr als wohnen, Neue Formen des Zusammenlebens, NZZ, 13.11.2013. Helwi Braunmiller, Die «neuen Alten» wollen anders wohnen, Puls, SRF, 5.3.2010.( 社会学者で高齢者研究大家François Höpflinger教授へのインタビュー) Spezialsendung «Wohnen im Alter», Puls, 5.3.2012. ——多世代住宅、とくに住宅協同組合ギーセレイについて 公式ホームページ Giesserei, das mehr-generationen-haus 建築家Galli Rudolfのプロジェクト紹介サイト(建物の外観や住宅の間取の詳細が提示されています。) Maya Fueter, Das Mehrgenerationenhaus, Die ökologisch vorbildliche Giesserei Winterthur bietet Wohnen für Jung und Alt, NZZ, 11.10.2013. Till Hirsekorn, «Soziale Zeitbomben» entschärfen, Landbote, Winterthur, 20.5.2016. Nähr und Distanz in der Alters-WG,31. 10. 2015, Freiburger Nachrichten magazin am wochenende Jürgen Rösemeier-Buhmann, Altes Konzept neu entdeckt: Einmaliges Generationenhaus in Winterthur, nachhaltig leben(2017年5月10日閲覧) Flexibel und für jedes Alter, Beobachter Extra, 20/2016, S.13 Mehrgenerationenhaus, Wikipedia (Deutsch)(2017年5月7日閲覧) ——高齢者と若者の住宅シェアについて WG spezial. Alt und Jung utner einem Dach, Familie, Coopzeitung, Nr.47, 17.11.2015. Wenn Studenten mit Senioren eine WG gründen, 50Plus, Wohnen(2017年5月7日閲覧) Wohnen für Hilfe - Generationenübergreifende Wohnpartnerschaften. Ein Interventionsprojekt von Pro Senectute Kanton Zürich, Age Impuls, Oktober, 2012, S.1-8.

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振 興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
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縮小する住宅 〜スイスの最新住宅事情とその背景

2017-05-09 [EntryURL]

1980年代以降スイスでは、より広い住宅への需要が高まり、宅地開発や住宅建設が各地で大規模に進められてきました。しかし近年は、むしろ小規模の住宅の需要が増えており、住宅不足が目立つようになってきています。拡大志向から一転し、縮小傾向になった住宅事情の背景では、なにが起きているのでしょう。また、近い未来に、どう続いていくのでしょうか。今回は、このようなスイスの住宅をめぐる新しい状況についてまとめてみます。 広くなる住宅とそれを喜べない人たち スイスでは1980年から2014年の間に、一人当たりの住宅床面積は、34㎡から45㎡と 1.3倍大きくなりました。 この間、人口が630万人から820万人へとやはり約1.3倍増えているにもかかわらずです。つまり、いかに大規模に住宅建設がこの時期進められたかを如実に物語っていると言えますが、これを後押ししたのは、ほかでもない、より広い住宅に住みたいという人々の強い願いでした。確かに、長い間、広い住宅は、 マイカーを持つこと同様、社会の大多数の人にとって「豊かさ」や「快適」さを示す象徴であり、多くの人々にとって、人生の大きな一つの目標であったといえます。 170509-1.jpg しかし最近、このような理想の住宅イメージに変化が現れてきているようです。その端的な例として注目されるのが、2014年のSchweizer Haushalt-Panel (SHP スイスの社会や生活条件の長期変化についての調査研究)結果です。スイスの全世帯数の1割にのぼる35世帯が、自身の住居が大きすぎる、と感じているという結果がでました。特に、80代の人たちは、50代に比べ、住居が広すぎると思う人の割合が4.5倍も多くいます(Delbiaggio, et al., 2017)。 高齢者が特にそう感じるのは、物理的、また精神的な理由があると考えられます。もともと子どもがいた特に住み始めた住宅であれば、子どもたちが独立し家を出ていくと、部屋がいくつも余分になります。また、高齢者は、掃除や庭の手入れなど家の管理をするために必要な体力が低下するため、 若い人以上に同じ住居の広さに対しても、不安や負担を感じることが多くなるでしょう。 小規模な住宅の不足 住居が広すぎると思うのなら、狭い住宅に引っ越せば、問題はなくなるはずです。しかし、実際には転居がいくつかの事情で容易ではないため問題となっている、というのが今のスイスの状況です。 なぜ、狭い住宅に引っ越せないのでしょう。まず端的に、小規模の住宅の絶対数が不足しているためです。クレディスイスの調べでは、スイスでは一人もしくは二人の世帯が240万世帯あるのに対し、1〜3の部屋数の小さな住宅(スイスでは10㎡以上の仕切られた室内空間を「部屋」、6〜10㎡未満の部屋は「半部屋」と定義します)は、160万戸しかありません。 170509-2.jpg 住宅の需要と供給のミスマッチ 小規模の住宅を特に必要としているのは、単身世帯です。現在、単身の世帯は、スイスの全世帯の35% 、125万人を占めており、32%を占める二人世帯を上回る、最も多い世帯の形です。(ちなみに3から4人の世帯は13%。残る5人以上の世帯はさらにまれです。) 年々増える単身世帯の需要を、新設住宅市場も全く無視してきたわけではありません。過去5年間に1〜2部屋だけの小規模な住宅の建設は、スイスでは2649件立てられており、これは、それ以前の過去5年間と比較すると、3倍以上の戸数になります。しかしそれでも、2000年以降市場に出てきた住宅の69%は、4部屋かそれ以上の部屋数の住宅で、単身世帯に適切な小さな住宅の建設はわずか1割にすぎませんでした。 このような状況の救世主として、これまでの住居よりもさらに小さな、最大30㎡くらいの広さの住宅、通称「ミクロ・アパートメント」(アメリカの「マイクロユニット」と呼ばれるものにほぼ相当するもの)と呼ばれるものが注目されています。 ドイツではすでに普及してきているため、 新しい都市の安価な住居としてスイスでも人気が高まるのでは、と専門家はみていますが、まだ本格的な建設はまだ緒についたばかりで、どの程度スイスで定着するかは予想がつきません。 結局現状としては、単身世代に最適と考えられる1〜2部屋の住宅数は、全住宅の18%にすぎず、単身者は、平均して74〜78㎡という、床面積が広く、高価な住宅に一人で居住している状況です。 小規模な住宅への転居を妨げるほかの問題 住宅の絶対数が足りないこと以外にも、小さい住宅への転居に、障害となっていることがいくつかあります。例えば、スイスの特に都心では賃貸住宅に住んでいる人が多いのですが、長く住んでいた広い住宅に住み続けるほうが、小さい住宅に移るよりも家賃が安くなるという、一見矛盾するような(長く居住する賃借者を本来保護するはずの)賃貸住宅全般にみられる状況が、スムーズな転居を妨げています。 また、競争率の高い品薄物件のなかから、自分に合うものをみつけだし、大きな住居からそこまで引っ越しするまでのプロセス自体が、高齢者には、躊躇されるのに十分な、膨大な労力を伴う作業であることです。 このため、転居を効果的に進めるため、今後は、住宅需要の現状に合わせ、住宅市場だけでなく、住居を移りたい人のためを積極的に支援したり相談できるプラットフォームを充実させること、また、小さい住居に住む人に助成金や税金政策で支援・優遇することなどの対策をとりいれることが効果的だと、専門家たちは指摘しています (Delbiaggio, et. l., 2017)。 170509-3.jpg 単身世帯は誰? ところで単身世帯とは、具体的にどんな人が多いのでしょうか。典型的な単身世帯とされるグループは、2つあります。まず一つは、また家族などをもつことがまだ少ない、25歳以下の若い世代です。そしてもう一つは、60歳以上の世代層です。60歳以上の40%以上が現在一人住まいであり、85歳の人に限れば、一人住まいをしているのは7割にものぼります。今後ベビーブーマー世代が高齢化すると、単身世代はさらに増え、2030年には、世帯全体の4割近い、38%を占めると予想されています。 一方、高齢者やパートナーや家族を持たない若年以外で、パートナーや家族がいてもパートナーがいる人でも、別のところに住居をもち、様々な理由で、単身の住宅を求める人も増えてきました。理由は、単身赴任だけでなく、職業上複数の拠点が必要であったり、パートナーがいてもそれぞれの独立した生計と距離感を好むため、など様々ですが、ライフスタイルの変化や、家族構成の変化、ネット環境の変化によりコミュニケーションの可能性の多様化など、現代の社会の様々な要素が、単身化を可能に、あるいはその拍車をかけることにつながっていると言えるでしょう。 卑近な例ですが、わたしの住む集合住宅では、子供と親の4人という伝統的な家族世帯はわたしたちだけで、ほかの住人は様々な暮らし方をしています。別の場所に住むパートナーと週末だけいっしょに過ごす世帯、仕事の関係で二つの住居をもっている世帯、一つの住宅を共同で利用している複数世帯、別荘と自宅を常に行き来する世帯、と一戸一世帯という枠におさまらないケースばかりで、常に誰かが移動していたり、別の場所にいて、日によって集合住宅に住んでいる人数が変動しています。 今後スイスでは、ますます、家族などの人間関係のあり方やの職住の仕方、またライフスタイルが多様になっていくことが予想されるので、それに呼応して、従来の家族構成を念頭においた住宅以外のものの需要が増えることは確かでしょう。そう思うと、人数も構成も、また住み方(ここでは特に自身の住宅に宿泊する頻度の意味)も様々な世帯が入居している私の集合住宅ような状況は、これからますます一般的になっていくということなのかもしれません。 おわりに 日本でも最近、これまでの宅地開発や住宅建設の在り方の見直しを求める野澤氏の『老いる家 崩れる街』が話題になりましたが、スイスと日本の一見、様相がかなり違って見える二国の住宅問題には、意外に共通項が多いようにみえます。 というのも、両国ともに、モビリティーの変化や、高齢化、家族形態の多様化など、先進国全体に共通する新たな社会現象や構造変換が、それぞれの国や地域の住宅の需要を変化させ、そのことによって供給のミスマッチが生じていると捉えられるためです。もしそうであるなら、住宅をめぐる構造や需要の変化への対応という、日本でもスイスでも焦眉のテーマは、国や地域固有の問題であると同時に、お互いに参考にし合えるテーマや対策も少なくないのかもしれません。 次回は、小規模の住宅の供給がまだ十分でない現状において、どのようなほかの解決法がスイスで探られているのかをご紹介しながら、引き続き、先進国で全般に顕著に増加傾向にある単身居住の問題について考えてみたいと思います。 <参考サイト・文献> ——スイスの住宅事情全般と単身世帯の住宅について Credit Suisse, Schweizer Immobilienmarkt 2017: Mieter gesucht. Credit Suisse veröffentlicht Studie zum Schweizer Immobilienmarkt 2017 Katia Delbiaggio, Gabrielle Wanzenried, Alleine im viel zu grossen Haus, Die Volkswirtschaft, 1-2/2017, S.1-4. Jeder Zehnte findet seine Wohnung zu gross. Was sich machen liesse, um in der Schweiz der Wohnflächenkonsum zu bremsen, Wirtschaft, NZZ, 9.12.2016, S.27. Allein zu Hause, Invest Immobilien, NZZ am Sonntag, 19.3.2017, S.45. Marc Bürgi, Die Schweiz entdeckt die Mikro-Appartements, Trend, Handelszeitung, 15.03.2017. ——その他 野澤千絵『老いる家 崩れる街 -住宅過剰社会の末路』、講談社現代新書、2016年。 藤森克彦『単身増社会の衝撃』、日本経済新聞出版社、2010年。

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振 興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


ヨーロッパの大都市のリアル 〜テロへの不安と未来への信頼

2017-05-01 [EntryURL]

私事になりますが、先月パリのシャンゼリゼ通りでイスラム過激派の警察への襲撃があった時、ちょうどパリにおりました。事件現場は観光客で賑わう目抜き通りであり、おのぼり観光中だったわたしも、事件の前日にそこを訪れたばかりでした。これまでも、ヨーロッパ各地のテロのニュースを耳にはしていましたが、スイス在住の身としてはどこか他人事のように考えていたので、今回、自分の滞在している都市でちょうど起きたことで、改めて色々考えさせられました。 とりわけ気になったのが、実際にテロがあったヨーロッパ諸国の人たちは、日常の生活のなかでこのような状況をどう捉え、心理的に乗り越えていけるのかということでした。しかし、私自身はフランス語が解らないため、フランス語を通してそれをリサーチすることはできません。そこで、昨年12月末、クリスマス市にトラックで突入するテロがあった際のドイツのメディアの内容をふりかえってみると、ドイツでは当時(今も変わりませんが)どう難民を受け入れるかという問題について国家を二分して議論されている状況であり、テロの事件も、その延長上で語られ、難民政策などに絡めた政治的な発言が圧倒的であったという印象でした。 そんななか、未来研究者のマティアス・ホルクス氏Matthias Horx氏のコメントは、私の疑問に直接答えてくれるような指摘をしており、一考に値する示唆を含んでいると思われますので、今回、ご紹介してみます。記事の後半では、ホルクス氏の意見を受けながら、住民ではなく、観光として訪れる立場から、テロの問題についてどう関わることになるのかについて、今回のパリでの個人的な体験や所感をもとに考えたことをまとめてみます。 現代のヨーロッパにおいて頻繁に意識にのぼるテロの問題や潜在的な危険性について、政治的な議論とは全く別の次元、住民また観光客の立場にひきつけて考える今回の拙稿が、オリンピックも間近にひかえ、大勢の海外からの旅行者を迎えいれる立場になることが頻繁になってきた日本在住の方々や、仕事や旅行で自分自身が海外に渡航される方々にも、なにかの参考になることができればさいわいです。 170501-1.jpg

不安ではなく冷静さと楽観的な落ち着きを

フランクフルトとウィーンに拠点をもつ未来研究所を率いるマティアス・ホルクス氏の意見は 、多角的な調査に基いたものでありながら、わかりやすいため、なにか不穏な動きや社会を騒がすような事象がでてくるたび、その発言が注目されます(ホルクス氏の仕事については、下の参考サイトや、「『リアル=デジタルreal-digital』な未来 〜ドイツの先鋭未来研究者が語るデジタル化の限界と可能性」及び、「ジャーナリズムの未来 〜センセーショナリズムと建設的なジャーナリズムの狭間で」をご覧ください)。昨年末のベルリンのテロ事件の後にも、複数のメディアでホルクス氏へのインタビューが報道されました。この内容について以下、まとめて紹介してみます(ただし、ホルクス氏のコメントを直訳して羅列するだけでは、読みにくいと思われたので、わたしの解釈な言葉を補いながら紹介させていただくことをご了承ください)。 まず、ベルリンの事件についてどうとらえればいいのか、という単刀直入の質問に対しては、「成人するということは、不安もまた自分の人生に統合するということ」であり、今回の事件に限らず、人生がつねに危険を伴うものであるということを自覚するということは、成人としての必須の資質だ 、というところから話をはじめます。そして、その上で危険性を冷静に分析、捉えることの重要性を強調します。そうすれば「確率的には、いまだに階段から落ちて命を落とす可能性のほうが、テロの犠牲になるより100倍も高い」(Horx, 29.12.2016)(つまりテロに巻き込まれる危険はいまだ非常に少ない)といった明白な事実関連が容易にわかるはずだからです。 しかし、逆に、一旦不安になると、負のスパイラルに足を踏み入れることになるといいます。人は(理由はどうであれ)一度不安になると、注意力がそれだけにそそがれることによって、冷静な判断を欠くようになり、不安にとらわれてしまうからです。そして、そんな不安をもっていれば、それこそテロの思う壺だといいます。ヨーロッパの住民の生活が不安で覆われることが、テロが勝利することになるからです(Horx, 29.12.2016)。 不安と憎しみの関係については、独特の興味深い見解を示します。「不安が過剰になれば、憎悪の感情に感染する。憎悪の感情は、複雑な形の不安以外の何物でもない。不安をもつ人は、自分がその不安から逃れたいがために、なにかを憎悪するにすぎないのだ」(Horx, 29.12.2016)とし、不安から始まる思考の末路が、憎悪だけを残し、なんら生産的な問題の解決にもならないことを示唆します。 それでは、不安を抱くかわりになにを目指せばいいというのでしょう。ホルクス氏は、難しい今のような時代にこそ、冷静さ(落ち着き)が大切だと断言します。(Horx, 29.12.2016) そして、テロに対しては、過剰に反応せず冷静さを保ち、賢明に無視することが必要だとします(Horx, 30.12.2016)。そのために、不安を増幅するだけの(低質な)メディアの消費を避け、社会に蔓延しているヒステリックな気分から距離を置くことの重要性も説きます (Horx, 29.12.2016)。 ホルクス氏は、不安な心理に油を注ぐようなメディアの報道の代わりに、 「いかに多くの恐ろしいことが起こらないか」に目を向けます。例えば、毎日地球の上を4万便の飛行機が無事に発着していることは、ニュースにこそなりませんが、まさに奇跡だと言います (Horx, Zukunftsreport, S.11) 。冷戦時代には冷戦が終焉を迎えることを誰も想像できなかったのに、実際には突如実現したことなどを例にして、どんなことも意外なところから解決の糸口がみつかり事態が改善する可能性があることを改めて指摘します。それゆえ、悲観や「不安のかわりに、未来に対して楽観的でいること(信頼をもつこと)Zuversicht」が大切であり、楽観的でいることが、社会において、「ある種の義務のようにすら自分としては、思っている」(Horx, 29.12.2016)とも言います。 ホルクス氏のこのような意見は、彼一人の突飛なものではなく、現在のヨーロッパにおいてある程度底流をなしているのかもしれません。少なくとも、ホルクス氏の意見は、ベルリンの事件のあと約4ヶ月後に起きたストックホルムのテロ事件についての、スイスの主要日刊紙NZZ紙面上で語られていたことに通底しています(Hermann, 10.4.2017)。ストックホルム住民が、感情的に逆上せずに、自分たちの民主主義を信じる動じない毅然とした態度でいることをほめたたえ、このような住民の毅然とした態度が、 テロ行為を支持する人々に対しかえって打撃となる、と考えるスウェーデンのテロ専門家の意見を引用・紹介していました。難民や自国のイスラム系移民への敵対意識を煽るような政治的な言動がとかく目立ちがちな今日のヨーロッパにおいても、そのような態度を支持する姿勢が、一定の手堅い広がりをもっている(あるいはこれからもっていく)のだとしたら、ヨーロッパのテロをめぐる心理は、ニュースで流れてくる時事的表層的な動きから第三者が単純に想像するものとは違ったものにみえてきます。

観光客の目に映るパリ

さて次に、テロが起きた前後のパリの治安と安全性について、個人的な体験をもとにまとめてみます。まず、テロの前も後もパリ全般の様子で、緊迫した印象は個人的には特に受けませんでした。テロの翌日夕方に、事件場所にほど近い凱旋門の見学に行きましたが、この時も、相変わらず人と車がごった返し、二日前と変わらぬ印象でした。ただし、大統領選挙直前であったためもあり、従来以上にテロへの警戒は通常以上に強かったと考えられます。事件が起きる前から美術館や公共施設では例外なく、入り口で所持品の検査があり、空港なみの人と荷物の細かい保安検査を行っているところも多くありました。デパートやショッピングセンターなど観光客や住人が集まる民間施設においても所持品のチェックが行うのが一般的でした。街の歩道などの公道は、定期的に清掃されて、ゴミ箱も人通りの多い目に付きやすい場所に、すべて透明の袋で中身が常に見える状態で置かれていました。これらの監視体制に加え、警察や軍人(と思われる制服をまとった人たち)がパトロールする姿を、街では1日数回みかけました。 170501-2.jpg もちろんトラックで突っ込む事件や、突然ナイフで危害を加える等の犯行は、これらの措置で防げるものではありませんが、これらの措置によって、都市の住民や観光客の安心感が高まることは確かでしょう。副次的な効果として、すりなどの軽犯罪への抑制効果もありそうです。 観光客にとって、治安の問題と同様に重要なのは、何かあった時に、どのような情報ツールやソースがアクセス可能かということではないかと思います。日本でも、言葉を解さない外国人が、地震などの非常時には、突如社会的弱者の立場に陥ることが指摘されていますが、テロに限らず、言葉がわからない国で、なにかの困難やわけのわからないことが起こった時、情報を的確に入手できるかいなかは、決定的に重要です。 今回テロ事件発生直後、わたしは幸い、宿にしていたパリ市内のウィークリーアパートにすでにもどっておりました。外出中であったならば、事情の把握が遅れたり、電話回線が一時的に混乱してつながりにくかいなどの問題にあたったかもしれませんが、今回はアパートの無線LANが支障なく使えたため、インターネットで自分の解する言語(今回はドイツ語)で速報を聞いたあと、すぐに家族や友人に安否を知らせることも問題なくできました。しかし、今後、万が一の場合に備えて、海外では地域のインフラ事情(電話やインターネットはもちろん、それを利用できる電気自体の確保も含め)や土地の言葉を自分が理解できるかによって、情報の入手と自分の情報の伝え方の双方の手段を考え、できるだけ複数のルートをそれぞれ想定できるようにすることが、自身の課題として浮かびました。

テロ事件の翌日の様子

テロ事件の翌日は朝から、パリから電車で30分ほど離れたヴェルサイユを訪れたのですが、宮殿前の広場には、驚くほど多数、数万人はいたでしょうか、の人々が入場券を求めて延々と列になっていました。スポーツのスタジアム以外でこんなに大勢の人を一箇所でみるのは初めて、と思うほどの人の数が、きれいに列を作って整然と並んでいました。いかに多くの観光客がパリ周辺に滞在しており、テロ事件の翌日でも観光をアクティブに続行しているという事実を(自分も同じですがそれはさておき)、文字通り目の当たりにして、再び感慨深く思われました。 170501-3.jpg その人たちにとって、テロの翌日であっても、フランスは、輝く文化やゆるぎない歴史を目の当たりにできる場所であって、テロの二文字が前面に立ちはだかり、あとのことは不安や恐れの霞みがかかって何もみえなくなっている、というような存在ではありませんでした。誰にとってもテロが気になる時勢だからこそ、テロ以外のことに目を向けて、フランスを闊歩する観光客の存在は、パリ(やフランス)とほかの世界をつなぐ大事な存在のように思われました。 もちろんその場にいかなくても、様々な形で当地に想いを馳せ、理解や共感することはある程度できるでしょうが、世界各地から膨大な数の観光客が直接フランスを訪れ、実際に自分たちの目で見聞・交流し、感じとり、それぞれの国にもどっていくことの意味は、計り知れないように思います。少し理想論的な言い方になりますが、これら直接訪れる人たちとの関わりを通じて、テロ問題で揺れる当地の住民を孤立させないだけでなく、正常で冷静な心境を共有しあい、また共感や理解を深めることは、次にまた世界のどこかでなにかの非常事態があった時にも、お互い理解・協力しあえる土台になるのではないかと思いました。

おわりに、住民として、観光客として

これから先もどこで何が起こるかわかりませんが、冷静に判断する住民と、テロ以外の側面からその国や都市の文化や住民を見よう、理解しようとする海外からの関心が絶えずあれば、テロにたちすくむことなく、世界は前に進んでいけるのではないか、少なくとも、そうあってほしいと強く願います。

参考サイト

——メディアでのマティアス・ホルクス氏の発言 Matthias Horx Trend- und Zukunftsforscher(ホルクス氏の発言が掲載されている主要なメディア報道一覧 ) Matthias Horx im Interview zu Terror-Angst, Trump und Klimawandel, Frankfurter Zukunftsforscher : “Es gibt die Pflicht zur Zuversicht”, Frankfurter Neue Presse, 29.12.2016. Trendforscher Horx: “Der Hass-Populismus wird uns verfolgen”, Zukunftsaussichten, Berliner Morgenpost, 30.12.2016. Hg. Von Matthias Horx, Zukunftsreport, 2017, Das Jahrbuch für gesellschaftlicheTrends und Business-Innovationen, 2016, Frankfurt am Main. ——世界中の人々の生活に関わるデータを公開しているサイト(未来研究所が、長期的視座から人々の生活の変化を観察する資料としてよく引き合いにだすサイト) Our World in Data ——スウェーデンのテロ事件について Rudolf Hermann, Schwedens Tage danach, Terrorattacke in Stockholm, NZZ, 10.4.2017 Expert: Swedish reaction is a setback for terrorists, Radio Sweden, 8.4.2017.

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
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放課後の子どもたちの活動をマネージする 〜スイスのお稽古事事情

2017-04-24 [EntryURL]

スイスでは塾に通う子どもたちが増えてきましたが、ほかのヨーロッパ諸国に比べるとその割合はまだ低くとどまっています。一方、学校にはクラブ活動のような課外活動が一切ありません。このため、スイスの子どもたちには放課後、比較的長い自由な時間があることになります(詳しくは、「学校のしくみから考えるスイスの社会とスイス人の考え方」と「急成長中のスイスの補習授業ビジネス 〜塾業界とネットを介した学習支援」をご覧ください)が、子どもたちは、どうすごしているのでしょう。結論から先にいうと、1つか2つお稽古事をするというのが、(特に小学生の間では)一般的です(ここでの「お稽古事」とは、学校以外のところでなんらかの形で子どもたちが習うものやその行為全般を指すこととします)。 日本と学校システムや家庭事情、また生活リズムが異なるスイスでは、どんなお稽古事があるのでしょう。今回は、スイスで人気のお稽古事に注目しながら、スイスの子どもたちのお稽古事事情について概観してみたいと思います。 親の期待を背負う運動系お稽古事 近年の調査で、ほかのヨーロッパ諸国同様に、スイスの子どもたちの間で運動不足や太りすぎの子どもが増えてきていることが、よく指摘されます。豊富なコンテンツが楽しめる快適なデジタル環境が整った住居が増え、子どもたちが家にこもりがちになっているのが主要な原因のようです。このため、いかに子どもたちを家にこもらせず、「健全に」放課後を過ごさせるかが、社会全般においても親の間でも、強く意識されるようになってきました。しかし、子どもを毎日、放課後運動するよう促す時間も余力も、親にはなかなかありません。そんな放課後事情を抱えるスイスで親にとっての救世主となるのが、お稽古事です。特に日が短くて寒いたべ外遊びが難しい冬の季節には、子どもたちが運動不足になる(と少なくとも親たちは思っている)ため、お稽古事が重宝されます。 運動系のお稽古事には、地元のなんらかのスポーツクラブ(ここでいうスポーツクラブとは、サッカーやハンドボールなど個々の種目毎に結成されたクラブのことで、フィットネスクラブのことではありません)に所属して行う活動、自治体がイニシアティブをとって行われている各種のスポーツプログラムへの参加、企業や個人がビジネスとして行っているお稽古事、の主に3種類あります。 スポーツクラブは各地にあって、それぞれの地域に根ざした歴史も長く、子どものお稽古事としても非常に定着しています。男子はサッカー、女子では体操クラブがその好例です。スポーツクラブの多くは、クラブに所属する大人たちがボランティアで子どもたちの指導をしているため、比較的安価で参加できることも大きな魅力です。スポーツクラブには入りませんが、ボーイスカウトやガールスカウトなどの週末の野外活動を中心とするクラブも、いまだに根強い人気があります。 子どもたちに体を動かす機会を増やすため、放課後の時間のスポーツプログラムを格安で開催する自治体も近年増えています。これらのプログラムは、ダンス、アイススケート、合気道などの種目別コースだけでなく、スポーツが苦手な子どもたちのための特別のプログラムなど、子どもの興味、体力や技能に合わせ、気軽に始められる幅広いオファーであるのが特徴です。 サーカスの授業 企業や個人が提供するお稽古事では、スイミングやバレエなどのクラシックなお稽古事に加えて、目新しいものやユニークなものも増えています。ここではその一例として、スイスで近年人気が高く、しかし日本ではあまり知られていないお稽古事として、サーカスの授業を取り上げてみます。 サーカスと日本で聞くと少し突飛な感じがするかもしれませんが、スイスにおいてサーカスは、クリスマスやイースターなど休暇のたびに、町にやってくる季節行事や伝統文化の一部となっており、今もなお、子どもから大人まで広い層を魅了するエンターテイメントです。このため、スイスの子どもの間ではサーカスに対して親近感も関心も相対的に強く、ジャグリング道具などのサーカスの基本道具は、日本のけん玉のように、今も子どもによく遊ばれる遊具の一つです。 170424-1.jpg
サーカス等のアクロバティックな運動のための遊具・道具類
サーカスの授業では、具体的にどんなことをするのでしょう。ジャグリングや皿まわしのような小道具を使った練習だけでなく、玉乗り、曲芸用自転車、一輪車、空中ブランコ(揺れずに静止しているブランコの上での演技が中心)、縄わたり、吊り下げた布(空中で布をたぐりよせて体を固定し演技する)などを使った練習もします。年齢や能力に応じて習えるものは異なりますが、どの子も週1度の練習だけでも年間の練習を通じてかなり上達するので、それを披露するために、 年に一度、家族や知人を招いて行われるサーカスのショー(発表会)も開催されるのが一般的です。 普段は体験することができない本格的なサーカスの道具の使い方を習い、さらにそれを人前で披露して拍手をあびるという体験は、子どもにとって格別なようです。サーカスの授業の人気はかなり高く、 受講を希望しても、半年や1年クラスに空きができるまで待たなければならないこともめずらしくありません。サーカスの授業受講者数全体を把握できる統計データは見当たりませんが、参考までにいくつか数字をあげておきますと、スイス・サーカス連盟のサイトで紹介されている 「子どもサーカス」と「サーカス学校」と称される団体は現在、全国で、27団体あります。この中の一つであるチューリッヒに拠点をもつサーカス学校の一つ「マロッテ」だけでも、400人以上の生徒がいます。 170424-2.jpg OECDの調査によると、スイスでは学校のクラブ活動が一切ないにもかかわらず、15歳の子どもたちの73.1%が学校以外でスポーツを行っており、他のOECD諸国の同年の子どもたちのスポーツをしている割合(69.8%)よりも上回っています。このような結果は、とりもなおさず、様々な運動系のお稽古事が各地で提供されていることのおかげだといえるでしょう。 音楽教室のアラカルト化 運動系のお稽古事の人気が高いといっても、楽器の演奏のレッスンという伝統的なお稽古事ジャンルも健在です。ただし、一望するのが難しいほど多種多様なオファーが揃っている現代のお稽古事業界では、どんなお稽古事も安泰とはいえません。楽器の演奏を教授する音楽教室も例外でなく、むしろ、ほかのお稽古事に比べ、今日、苦戦を強いられいるジャンルとすらいえるかもしれません。 というのもまず、ほかのお稽古事に比べ経済的な負担の大きいためです。運動系のお稽古事が大勢で一緒に受講できる場合が多いのに対し、音楽系はプライベートや少人数のレッスンが多く、授業料の相場は高くなります。公式に認可された音楽教室は自治体や州からの助成を受けることができるため、親が負担する月謝は(自治体により若干違いがありますが平均すると)ほぼ半額ですみますが、それでも団体のスポーツ系のお稽古事に比べ割高です。 また、当然のことながら楽器は地道な練習をしないと上達しませんが、デジタル機器で簡単に音楽を演奏・操作できることが可能な今日、地道な練習や忍耐力が必要な楽器の演奏が、どこまで、今の子どもたちを惹きつけられるかは不明です。このため、楽器の演奏というお稽古事は、今日、ほかのお稽古事に比べ相対的に、経済的にも精神的にもハードルが高いお稽古事であるといえます 。 このような状況下、音楽教室側の方も生徒離れが進まないよう、色々な工夫をしています。まず、習える楽器の種類が大幅に増えました。例えば、ヴィンタートゥア市にある創業25周年のプライベートの音楽教室「プロヴァ」で教えている楽器数は、いわゆるヨーロッパのクラシック音楽の楽器にとどまらず、アフリカ、南米、オーストラリアなど世界各地の民族楽器にまで及んでおり、40種類以上にのぼります。 また、レッスンを受けるだけでは単調になりがちな音楽の楽しみ方を広げるように、様々な企画もされています。例えば、ヴィンタートゥア市とその周辺で6000人の生徒(青少年のみ)に音楽授業を提供しているNPO組織「青少年音楽学校」では、自分の楽器の演奏力を磨いたり経験を積むのに直接役立たせるためのコンクールや検定試験はもちろん、ほかの楽器を演奏する生徒との大小様々な合同演奏会やワークショップ、合宿なども毎年開催しています。経済的な負担を最小限にとどめて多角的に音楽を学べるよう、優秀な生徒に対してはさらに、ほかの音楽教室生徒との合同演奏会や追加レッスン、音楽理論の授業なども無料で提供しています。 170424-3.jpg
管楽器を学ぶ生徒のワークショップの風景
決まった時間と場所で習うだけでなく、楽器の種類や演奏の形や機会のオプションも増やし選択できるようにする、言わば音楽教室のアラカルト化は、子どもにも親にも好評のようです。かつて圧倒的多数派だったピアノやギター、リコーダーを習う生徒がいなくなったわけではないものの、相対的に人数が減り、別の楽器、ファゴットや、アルプホルン、ブルースハープ(ハーモニカ)など多種多様のマイナーな楽器を演奏する子どもたちが増えています。長期休暇中の音楽教室の合宿は、働く親にとっての子どもの預け先としても貴重です。楽器を体験できるイベントや街角での演奏会は、生徒にとってよい経験となるだけでなく、音楽教室にとっても多様な楽器を習う子供達の姿を披露でき、自分たちの教室をPRする機会にもなります。総じて、音楽教室の生徒数の変動は少なく、子どもたちの間で、今も手堅い人気の高いお稽古事であり続けています。 おわりに 家でテレビやデジタルゲーム漬けになりがちな子どもたち、一方それを見かねて、子どもに何か別のことをさせたい思う親たち。そんな親の心理を汲み、子どもたちもうまく取り込んでお稽古事業界が繁盛している、というのがスイスの状況のようです。スイスの放課後はこれからも、お稽古事に通う子どもたちやそれを送迎する親たちが、街のあちこちを忙しく行き交う光景が途絶える気配はなさそうです。 <参考文献・サイト> ——子どもの運動不足と肥満について Irene Berres, Übergewicht Europa, deine dicken Kinder, Spiegel.de, 9.2.2017. Families can’t tackle obesity alone, iFamily, Feb. 8, 2017. Für arme Kinder kommt es besonders dick, 20 Minute, 16.9.2011. «Ärmere Eltern haben häufiger dicke Kinder», 20 Minuten, 26. Juni 2015. ——サーカスの授業について FSEC/VSZS/FSSC «myStory» - In der Zirkusschule (1/5) , SRF, 07.09.2013. ——音楽教室について die jugendmusikschule Wintertur und Umbegebung, Musikschu-Post. Informationen, Berichte und Hinweise für usnere SchülerInnen und Eltern, 01/2017. Musikschule Prova(2017年4月15日閲覧) Sandro Portmann, Die Blütezeit der Musikschulen ist vorbei, Zentralplus.ch, 03.02.2015, Musikschulen, Zahlen und Fakten(2017年4月15日閲覧) Verband Musikschule Schweiz(2017年4月15日閲覧) Ursula Burgherr, Die musikalischen Einsteiger werden immer jünger, az Aargauer Zeitung, 8.8.2016. Karen Schärer, Dank Sozialrabatt in die Musikschule?, az Aargauer Zeitung, 28.8.2012.

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振 興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


越境ECでは、絶対に収入の柱を集中させてはいけません

2017-04-19 [EntryURL]

輸出ビジネス®エキスパート養成講座5期の方でアマゾンアカウントがサスペンドされてしまいました。 その方に落ち度はありませんので、解除されるかと思いますが、資金はその間、凍結されてしまいます。 アマゾン・eBayのサスペンドは怖いです。 特にアマゾンは、昨日までたくさん売れていたのが、いきなり0になるのです。 しかも資金は90日間凍結。 月に数千万の売上がありアマゾンに貢献しているとか全く関係ありません。 月数千万円の売上とすると、仕入れも大きな金額です。キャッシュフローが悪くなると仕入れの支払が滞り、ビジネス自体が立ち行かないこともありえます。 ネットビジネスは外的要因の強いビジネスです。 絶対に収入の柱を集中させてはいけません。 次の6期の養成講座でアマゾン新規登録の方々には、 アマゾン本社のグローバルセリングチームのサポートを受けれるようになりました。 最近はカテゴリー申請も難しいですし、不解なサスペンドなど、ぼくでは対応できかねる部分を相談できます。これは大きいです。 是非ご活用していただきたいです。 弊社のコンサルティング会員さんには常々、 eBayだけ、アマゾンだけ、ではなくeBayとアマゾン、そして「サイト販売」。その他、輸入ビジネスやアフィリエイト、コンサルティングなどのサービスなど、複数のキャッシュポイントを作ってくださいとお伝えし ています。 そして実は、それは複数の収入の柱という意味合いより「リスクヘッジ」の方が意味合い的には大きいということです。 海外サイト販売をしている会員さんで、1つのサイトで売上が100万円以上の方はたくさんおられます。 みなさん時間かけて作り上げて成果を出していただいています。 その方々に次にお伝えするのは、サイトの分散であったり、新しい販売方法の着手です。 もしGoogleのアルゴリズムが変って検索結果が下がってしまったり、広告が打てなくなったりしたら冒頭のサスペンドといっしょです。いきなり売上が0になります。 輸出ビジネスで、年間6億売上げている古い会員さんがおられます。 運営サイトは30個を越えたと先日報告していただきました。 この方も7年前は全くの初心者でした。 アマゾン・eBayの複数アカウントの運営、サイトの量産することで、大きな売上と利益を継続できます。 サイトは作るのに時間かかりますし、作ったもの全部利益がでるということはありません。弊社運営サイトでも売れないサイトはいっぱいあります。 考え方としては、養成講座でよく言っているのですが、サイトは本当に1つで5万円利益を出せたらいいと思っていて、それを10個、20個と増やしていきたいです。 ネットビジネスのいいところはたくさんあります。 その中のひとつに、「コピーができる」ということがあります。 人のコンテンツをコピーするという悪いことではなくて、成功事例をコピーするということです。 自分の売れたサイトをコピーしていけばいいんです。 レイアウトは全部いっしょでいいです。それがまたアクセスが増えてきたり、売れてくればいろいろ外観も変えていきます。 これを一人でもできるのがネットビジネスのいいところで、作った海外販売サイトは365日24時間ずっと世界に営業してくれる営業マンなわけです。 主婦の方も、輸出ビジネス全くの初心者の方も、養成講座を修了して続けていただいている方々は複数のサイトを運営されています。 「正しい方法の継続」 弊社がその方法をお伝えしますので、みなさんは継続し続けてくだされば成果が出ます。

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