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男性が「女性の仕事」へ進出する時 〜みえない垣根のはずし方(2)

2019-10-05 [EntryURL]

前回、女性の性別に典型とされてきた仕事に男性を進出させることが、労働市場の観点から今後非常に重要となる、というUBSの報告書を取り上げました(男性が「女性の仕事」へ進出する時 〜みえない垣根のはずし方(1))。一方、報告書の指摘は、スイス社会に、当初、斬新に映り、メディアで一斉に報道されたものの、その後、現実社会に、新たな動きをつくりだしたようにはみえません。

それはなぜか。結論を先に言うと、男性の性別典型とされる仕事とおなじかそれ以上に、女性の性別に典型とされる仕事への敷居ためからだと考えられます。今回は、なにが敷居を高くしているのかを具体的にみていきながら、その上で、職業や専門の上でのジェンダーフリー化という問題について、改めて考察してみたいと思います。

「女性の仕事」の特徴

スイスにおいて「女性の仕事 Frauenberuf」とされる女性の就業が圧倒的多数を占める健康や社会分野の仕事にはいくつかの共通点があります。

まず、男性が多い業種に比べ給与が全般に低いことです。(高等教育課程の教師などは例外として)介護や低学年担当の教師の給与は全般に、スイス全般の給与と比べると低く、それが、男女の平均的な賃金格差を広げる理由の一つともなっています。

また、パートタイムの働き方が容易であることも、この職業分野の大きな特徴です。パートタイムという働き方は容易であるというのにとどまらず、すでに圧倒的な多数派の就業の仕方にもなっています。

例えば、現在スイスの教師のうちフルで働いているのは3割にとどまり、残りの7割はパート勤務です(ちなみに、スイスのドイツ語で規定されている教師のフルタイム勤務時間は年間で1916時間で、週になおすと約40時間)。近年、特にパートの時間数を減らす人が多く、50%以下のパートタイム勤務をしている小学校教師は教師全体の3割であり、州によっては教師の半数近くが就労時間50%以下の勤務の形をとっています。保健医療や社会部門(教育をのぞく)のパートタイム就業も55.2%です(BFS, 2019)。

逆に、これらの分野でパートタイムという働き方が、徐々に確立されたことが、女性にとって仕事と子育てなどの家庭の課題の両立を可能にし、女性に就業への道を開いてきた。つまりそれが、これらの分野において、女性の就業が多い直接的な理由でもあるともいえます。

一方このような女性の性別に典型となっている就業の仕方の特徴は、男性を人材として獲得する際には、大きな障壁となっています。男性の間では、パートタイム就業を希望する人はむしろ少数派であり、好景気で労働力は全般にどこの分野でも不足している状況下、ほかの仕事と比べて給料が低いこれらの業種に魅力を感じる人が少ないためです。

就労形態や給与面でもメリットを感じないだけでなく、介護や学校現場などにつきまとう「女性の仕事」という社会や個人が抱くイメージや先入観や、実際に女性が圧倒的に多い職場であることも、そこに入っていくことに、躊躇や抵抗を招きやすくしているといえるでしょう。

これらのことを考慮すると、男性を女性の性別に典型の職業にひきつけるのは、容易ではないことが想像されます。

性別典型の仕事の「ジェンダーフリー化」問題

これまで男女性別に典型的な職業や専門と言われるものを具体的にみてきて、どちらの場合も、就労環境や条件、また社会に根付いたネットワークや価値観、また職業を選択する本人の特性(なにを得意とするかなにが気にいるかなど)などが、本人が強く意識しているかいなかとはまた別に、水面下で深くからみあっいるようだということがわかってきました。それらが重なり合ってみえない垣根をつくって、別の性別の人たちへ門戸を開くのを難しくしているようです。

さて、ここで改めて、ふりだしの命題(どの職場でもジェンダーフリー化を目指すべき)にもどり、問い直してみます。男性および女性占有の職業をともにジェンダーフリー化はいかにして可能となるのでしょう。なにが優先されどこから手をつければいいのでしょう。

男女同権パラドクスの指摘をした著者の一人のStoetは、どうしたら女性のSTEM分野への進出が促進されるかという質問にインタビューで回答したことがあります(Fulterer, 2018)。これについては以前の記事ですでに言及してありますが、今回の論考をすすめる上でも参考になるため、その内容を再び紹介してみます。

著者は、「分別ある案」と「クレイジーな案」という二つの案を提示します。「分別ある案」とするのは、学校に在学中の生徒に科目を選択させないというものです。早期に科目を選択できなくすることで、STEM科目を長く勉強しなければならなくなると、女子生徒も、それらの科目への失望感を克服できるはずだとします。もう一つの「クレイジーな案」としては、STEM科目を専攻する女性への優遇措置(差別化)を提案します。例えば、授業料を学生が支払うイギリスではSTEM科目に進む女性の授業料を免除したり、大学の費用が無料のドイツでは女性だけに奨学金を出すといったものです。

一方、著者は後者の案に対し、「そのような経済的なインセンティブは機能するだろう」と楽観的な見込みをもちつつも、次のような疑問も呈しています。「しかし、公平な成果をもたらすために、不公平なシステムを打ち立てるべきなのでしょうか?」(Fultere, 2018)。

確かに女性のSTEM問題(女性でSTEM分野に進む人が少ないこと)は現在多くの国で、社会的に問題と捉えられており、状況を改善すべきという点ではほぼ社会で合意されていますが、具体的な施策として、女子が少ないので女子を優遇することと、女子と男子と同じに扱うこと、そのどちらがより社会の公平・平等に寄与する優先事項なのか、それほど自明ではありません。著者もその点を重くみて、あえて「不公平なシステム」にならないのか、と問いをたててみたのでしょう。

では、男性の進出を女性の独占的な職場や専門においても促進しようとする際はどうでしょう。当然、同様の問題がもちあがるでしょう。男性だけを対象にした待遇強化(例えば介護研修や教職課程に在籍する男性だけに奨学金をだすこと)をするべきか。それとも教育上の機会は、あくまで男女公平に保つべきなか。どちらが賢明と考えるかは、この場合でも、人や立場によってかなり異なってきそうです。

好きな仕事に従事するのは正当か

そもそも、男女平等パラドクスという現状の評価自体も、どの点を重視するかによって、違ってくるといえるでしょう。女性がまんべんなく男性が現在占有しているような分野においても、活躍するのが「男女平等」な社会のあるべき姿であるとするなら、STEM分野に進む女性が結果として相対的に少ないという現在の男女格差の少ない国で起こっているような状況は、望ましくないことです。

一方、そもそも、男女が好きな仕事が選べる自由のある社会で、個々人が自分で希望する職種を選び、自分のより得意な分野に進む女性が多いという状況は、非難に値することなのでしょうか。

少し話をずらして、男性と女性がボランティアでどんな仕事に従事しているかをみてみます。スイスの例でみてみると、男女がするボランティアの仕事は、どちらも人を助ける仕事であるという意味では共通しているものの、具体的な活動領域は、大きく異なっています。例えば、女性や育児や介護などソーシャルな分野が多く、男性は大工仕事やコンピューター、車の配車など、力仕事や専門を生かした仕事が好まれる傾向が強くあります。

ボランティアは生計を立てるためにすることではなく、自分の自由な時間を自分の自由な意志を使っておこなうものですが、ここで、ボランティアと生業である職業を対照化しながら考えてみます。

ボランティアであっても生業であっても、男女で従事する仕事がかなり異なっている。これが現在の事実ですが、これに対しどう考えるのが妥当でしょうか。ボランティアは自由時間にするという意味で、趣味と同じであり、原則として好きなことをやるのでもいい。一方、生業ではむしろジェンダーフリーを意識して男女が偏らずいろいろな仕事につかせることを奨励すべきだ。あるいはボランティアであっても、生業と同じように、女性も男性も性別に根付いた仕事を離れ、もっと積極的にこれまで従事していなかったような仕事に進出させるよう推進すべきだ。それとも、生業もボランティアも、その人が好きなことを選んで従事するのが望ましい、でしょうか。

おわりに

ここまでいろいろな角度から議論してきましたが、なかなか終わりがみえないので、この辺で、議論を一旦うちきりましょう。

議論がどう続いていくかという話とは全く別に、こんなことも言えるかもしれません。人々の好みや考え方はどんどん変化していくものなので、一見、現在男女同権の推進に付随して矛盾にみえる現象や、不公平で問題にみえる事項もまた、一時期のもの、一過性のものに過ぎず、時代が進むうちに、結び目がほどかれていくように、自然に社会のなかで解消されていくのかもしれない。

いずれにせよ、現在の時点で重要なのは、今みえている状況や問題に終始せず、まして、性別に典型とされる職業を、一刻もはやくジェンダーフリー化すべき悪しき存在として一面的にとらえることでもないでしょう。むしろ、その社会的背景やそこにある複数の意味や捉え方の変化を考慮しながら、性別に典型的な職業について、簡単な結論を追い求めず議論や解釈を継続していく。そのような息の長い関わり方をしていく覚悟なのかもしれません。

参考文献・サイト

Bundesamt für Statistik (BFS) (hg.), Schweizerische Arbeitskräfteerhebung (SAKE), Teilzeiterwerbstätigkeit in der Schweiz 2017, 17.01.2019, 8.30 Uhr

Fulterer, Ruth, Mint-Fächer: “Nicht allein die Biologie”. In: Zeit Online, 7. März 2018, 16:46 Uhr Editiert am 14. März 2018, 7:55 Uhr

Gender-equality paradox, Wikipedia (2019年9月2日閲覧)

Gruber, Katharina, Nicht überall ist Technik ein „Männerfach“. In: Ö1-Wissenschaft, 8.3.2018

Mädchen fehlen weibliche Vorbilder, Science ORF at, Publiziert am 13.02.2017

Nguyen, Duc-Quang, Das Geschlecht der Berufe Die Entwicklung der Geschlechter bei der Arbeit seit 1970, Swissinfo, 7. Mai 2018.

Obermüller, Eva, Paradoxie der Gleichberechtigung, ORF at, Science, 14.2.2018.

Stoet, Gijsbert/ Geary, David C., The Gender-Equality Paradox in Science, Technology, Engineering, and Mathematics Education. In: Psychological Science, February 14, 2018, pp.581-593.

UBS, Wirtschaft Schweiz. Mehr Stellen – aber genug Arbeitskräfte? Chief Investment Office GWM, 11 Juli 2019.

Wittenhorst, Tilman, MINT-Studium: Frauen weniger interessiert, wenn sie die Wahl haben. In: heise online, wissen,20.02.2018 16:46 Uhr

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


男性が「女性の仕事」へ進出する時 〜みえない垣根のはずし方(1)

2019-10-02 [EntryURL]

今日のヨーロッパでは、就労の在り方として、性別により進む専攻や職業選択が制限されるべきでないというだけでなく、なんらかの制限する、構造的な問題や意識上の障害があるのであれば、それをできるだけ取り除くべきだという考え方もかなり定着しています。

このため、例えば、単なる企業の商品やイメージの宣伝だけでなく社会で一定の影響力をもつと考えられる各種の広告においても、女性や家事、男性は仕事といったステレオタイプ的な性別の役割分担を強調・助長するものや、特定の性別イメージを植え付けると思われる表象がないかが配慮されます(穂鷹「ヨーロッパの広告にみえる社会の関心と無関心 〜スイス公正委員会による広告自主規制を例に」)。

その一方、男女同権が進んでいるとされる国では、近年、「(教育上の)男女平等パラドクス」とよばれる現象が観察されています。これは、男女同権が進んでいる国と男女同権が進んでいない国を比べると、前者のほうが理工学分野へ進む女性の数がむしろ少ないという、逆説的にみえる現状をさします。例えば、フィンランドやノルウェー、スウェーデンでは、グローバル・ジェンダー・ギャップ・インデックスで上位に位置し、男女同権が社会で最も進んでいるとされる国々では、大学などの高等教育課程で理工系分野を専攻する全学生のなかの女性の占める割合は25%以下にとどまっています。その一方、同じインデックスで性差による差別が大きいとされる国々のほうが、平均して理工系科目を学ぶ女性が多い傾向にあります。最たる例は、アルジェリア、チュニジア、アラブ首長国連邦で、理工系科目の卒業者の40%が女性です(Stoet and Geary, 2018)。

男女同権が社会で進み機会が均等になればなるほど、女性と男性の専攻(専門)や職業選択における性別の差異はなくなるだろうというこれまで一般的だった楽観的な予想は、根拠に乏しく現実からかけ離れていることが証明されたといえます。

一方、スイスのメガバンクUBS が今夏に発表した労働市場に関する報告書は、これまで女性が占有していた職業や専門に、大きく注目しています(UBS, 2019)。

これらの話を次々耳にすると、女性だけでなく男性にとっても、踏み入れがたい性別に典型とされる職業や専門の傾向が、今日も依然として強く残っている、という印象を受けます。それは、(広告内容を変更することなどで)先入観や事情が近い将来にお大幅に修正・改善されるといった単純に片付かない問題のようです。

では、具体的に現代ヨーロッパにおいて、どんなことが職種や専門のジェンダーフリー化の足かせとなっているのでしょうか。

今回と次回を使い、以前扱った男女平等パラドクスの議論と合わせながら、UBSの新たな報告書の内容をみていき、性別に典型的となっていた職種や専門が、どのような社会的背景と結びついているのかをさぐっていきたいと思います。そして改めてこの問題について、どのようにとらえられる(べきな)のか、少し考えてみたいと思います。

※自然科学や工学系分野の総称として、この記事では、科学・技術・工学・数学の頭文字をとって、英語圏を中心にした一般的な「STEM」という表記を用います。


スイスで50万人が参加した「女性ストライキ」(2019年6月)


世界的に観察される男女平等パラドクス

男女平等パラドクス(ジェンダー平等パラドクス)という一見矛盾に満ちているようにみえる状況について最初に指摘し、こう命名したのは2018年のGijsbert StoetとDavid C. Gearyの論文です(Stoet and Geary, 2018)。論文で調査は、2015年のピサ・テスト(OECD(経済協力開発機構)が進めている国際的な学習到達度に関する調査Programme for International Student Assessmentの頭文字をとって通常PISAと呼ばれているもの)のデータをもとに67の国と経済地域の4475000人の15歳から16歳の若者の成績を分析し、いくつかの意外と思われる点とその相関関係について考察しました。

このことについては以前「謎多き「男女平等パラドクス」 〜女性の理工学分野進出と男女同権の複雑な関係」で紹介しましたので、詳しくはこちらをご覧いただきたいのですが、そこでの結論だけを抜粋すると、

●STEM科目以外に女子生徒にとって「よりよくできる科目」があり、他方STEM科目には成績の割には自信がもてないでいる。このような状況が、女子生徒が職業選択する時に大きな意味をもつ(職業選択に影響を与えている)のではと推測される。

●男女同権が進んでいる国では、自分がどんな分野が得意だとか好きだとかいう直接的な能力や願望が、職業選択に直接影響する一方、男女同権が進んでいない国では、生徒たちが住む社会的な環境が、進路決定に大きな影響を与える

より具体的に言うと、男女同権が進んでいる国では得意な分野を活かしたいという願望があって、読解のほうがSTEM科目よりも得意な女子生徒たちは、STEM分野ではなく、最終的にそれ以外の分野でのキャリアの道に進む、という方向に進みやすくなるということになります。

一方、社会的な保障が少なく、経済的にも将来への不安が大きく、男女同権が進んでいないような国々では、STEM分野のキャリアを積むことが、女性にとって安定した職や高収入のチャンスを与えてくれる数少ない進路となるため、好むと好まざるとに関わらず、STEM分野に進む女性が、相対的に増える結果になります。

ただし、このような結論(解釈)については、ほかのデータを使うと結論が矛盾することも指摘されており、完全な解釈とはいえないという批判もあり(Gender-equality)、今後さらに多様なデータからも検証されれば解釈がより洗練・緻密になり、修正される部分もでてくる可能性があります。しかしいずれにせよ、男女同権パラドクスが実際に現在観察できることは確かであり、そうなると、これをどう克服するかということは、男女同権化が進行する国々に共通する課題にもなりつつあるのではないかと思われます。

男性の進出をはばむ「女性の仕事」業界

ところで、現在のヨーロッパにおいて、女性だけが不在が目立つ職業や専門分野をもっているわけではなく、男性がほとんどいない職業分野というのもあります。典型的なのが、介護や教師、ソーシャルワーカーなど健康や社会分野での仕事です。例えばスイスでは介護士全体の9割、小学校教師では8割が女性で、州によっては低学年の担当教師の95%までが女性というところもあります。

女性不在の職業分野についてはこれまで問題視され、様々な対策や対応がとられてきた一方、これら男性が不在の職業分野についてはこれまでそれほど気に留められることがありませんでした。しかし今年7月にUBSが発表した労働市場に関する報告書『経済スイス』では、このような男性不在の職場に改めて注目し、その分野に男性が進出することの重要性を示唆しました(UBS, 2019)。

男性に独占されている職業や専門のジェンダーフリー化については、男女平等・同権を推し進めるという目的とリンクして議論されるのが一般的ですが、女性に占有されている職種のジェンダーフリー化を求めるこの報告書は、それとは異なる観点から問題が提起されていることで話題になりました。この報告書で関連する部分を、以下、まとめて紹介してみます(以下、報告書がスイス国内に限ったものであるため、スイスのみを対象としてすすめていきますが、ドイツでも同様の傾向がみられ、以下のような問題は、少なくともドイツ語圏に共通する課題であると考えられます)。

「女性の仕事」業界で期待される男性とその背景

●近年25年のスイスの労働市場の動向をみると、女性の就労が非常に大きくのびているが、その大きな理由の一つが、女性が圧倒的に多い分野の労働市場自体がとりわけ成長してきたことによる。健康や社会分野の職業で、1994年以来これらの分野の4分の3は女性が占めている状況が続いている。そして今後さらに数十年、さらにサービス分野、とりわけ医療や介護分野で市場がさらに拡大することが予測される。

●これまでは、増える労働力需要を主に女性の就労が増えることでなんとか補っていたが、すでに一部その供給は限界に達しており、今後、女性の就労人数が大きく増員されることは期待できない。すでに、教育やケアという社会に不可欠な分野で人手が深刻に不足しており、特にベビーブーマー世代が退職する数年後からは、状況がさらに悪化すると見込まれる(国の教育研究機関によると2025年には2015 年と比べ、スイス全体で12万人義務教育課程の生徒が増えると予想されている 筆者註)。

●これまで必要な労働力としてすでに多くの移民が就労しており、今後も必要な労働力を移民で補うとすると、これまでより3万人多く必要となり年間新たに10万5000人の移民の受け入れが必要となる。

●しかしこのことは、二つの新たな問題につながる恐れがある。一つは、受け入れの規模が大きくなることで政治的また社会的に移民への抵抗が強まり、かえって人の自由な移動や EU 市場が脅かされる危険がでてくること。このため移民によって労働力を増員するという策は、最初にとるべき選択肢ではない。二つ目は、EUの失業率が低くなってきたため、これまでのようにスイスが高い技術をもつ移民を、長期的に労働力として確保できるか自体がうかがわしい。

●このため、とりわけ人材が不足してるこの医療と介護業界は、「男性に魅力的になっていかなくてはならない。過去数十年間、社会は、「クラシックな男性の職業」において女性の割合をあげることに焦点をあてていたが、今後、労働市場の成長には、今後変換をする必要がある。すなわち男性が「女性の職業」に大幅に進出しなくてはならない」

つまり、この労働市場の動向について分析したこの報告書では、女性にこれまで占有されてきた職業・専門分野が広く男性に向かって開かれることの重要性が、労働市場という(これまでの職業のジェンダーフリー議論で)ほとんど重きが置かれてこなかった観点から指摘されたといえます。

おわりに

UBSの報告書は、マスメディアで大々的にとりあげられ、ケア・学校教育分野の人材不足へのこれまでにない新しい提言として、社会に一石を投じたようにみえます。一方、具体的になにをどうすべきかという議論はこれまでほとんどなく、報告から数ヶ月がたちましたが、なにも変化が見られないというのが現状です。

それはどうしてなのか。そして、どのようなことが性別典型の職業をジェンダーフリーにする突破口になるのか。次回は、これらの問題についてより踏み込んでみていきたいと思います。
※参考文献は、こちらの記事の下で一括掲載いたいます。

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


電話とメールで診断し処方箋は直接薬局へ 〜スイスの遠隔医療の最新事情

2019-09-22 [EntryURL]

前回、スイスが医療業界における患者情報のデジタル化についての現状と来年から始動するデジタル改革について、レポートしました(個人医療情報のデジタル改革 〜スイスではじまる「電子患者書類」システム)。

今回は、そのような医療データの扱いの変化に並行して、デジタルテクノロジーを利用し診療そのものを変革・拡大しようとする新たな試みとして注目される、スイスの遠隔医療Telemedizinについてレポートしてみたいと思います。

患者と保険会社にウィンウィンとなるか、遠隔医療

スイスでは2000年代から、「遠隔医療」と銘打ったICTを駆使した医療サービスを扱う会社ができはじめ、いくつかの会社は、今日、スイスだけでなく、フランスやイタリア、オーストリア、ドイツなど国外にも進出しています。ただし、これらの会社が行ってきた「遠隔医療」とは、基本的にコールセンターに待機する医師などの医療専門家に、医療の相談をする、いわゆる相談業務にとどまるものでした。

これに対し、スイスでは今年はじめから、遠隔医療サービスを提供している民間保険会社のひとつ「Swica」の遠隔医療サービスが、診療所としても認可され、これまでは医者に行かないと受けられなかったような医療サービスの一部を遠隔医療で受けることが可能になりました。

具体的に言うと、ひどい咳の症状、風邪、腰痛や膀胱炎など15種類の疾患を訴える患者の診療が、現在遠隔医療サービスの医師に認可されました。これらの病気と診断される患者に対しては、病院の医師と同様に、抗生剤をはじめとする薬の処方箋をだすことができ、また、放射線検査や血液検査、リハビリ治療などに患者を送ることもできるようになりました。

遠隔医療の手法は、これまでの医療業界の慣習にとらわれないのが特徴です。例えば、自分で疾患部分の写真をとっておくってもらいそれをみて判断する。専用アプリで症状としてあてはまるものを自身でチェックしてもらう。複数の専門家が電話で対応し、判断をする、などの手法が、定着してきました。

もちろん遠隔医療での診療は、医師が直接患者をみることができないため、限界があります。例えば、Swicaの遠隔医療サービスでは、病気休暇証明書(患者があり病気休暇が必要であることを認める内容の書類。スイスでは医師が公式に病気であることを認めれば、企業は社員に病気休暇をとることを認めなくてはいけないことになっています)の発行も可能となりましたが、患者を直接みないで、本人の説明や訴えだけで、医師が病気休暇が必要かを判断するのは、現実的には難しいものです。しかし(仕事のずる休みといった)不正な行為を手助けするものになってしまっては、スタートしたばかりの遠隔医療の信憑性にひびが入ってしまうため、最長で三日間の病気休暇しか認めず、また一人につき年間2回までしか病気休暇を認めないなど、独自のルールをつくって現在対応しています。

つまり、全般に、いかに診断の質をあげていくか、そのためにほかにどんな工夫の余地があるかが、遠隔医療の今の重要な課題であり、今後拡張路線にスムーズに移行できるかの鍵になるといえるでしょう。

今後拡大が予想される遠隔医療

このように遠隔医療は、まだはじまったばかりで、試行錯誤の部分や実際の有効性が問われ厳しく制限される部分も今後でてくるかと思いますが、大局的にみると今後、遠隔医療業務は必要不可欠で、市場としても一定の拡大をすると予想されます。その理由はいくつかあります。

1。とにかく便利
いつでもどこからでも簡単に電話でできるため、気軽に相談でき、相談だけでなく、場合によっては処方箋をだしてもらったり、リハビリ治療への許可をだしてもらえるなど、物理的に医者にいくという手間をひとつスキップした次の段階にすぐに進めます。時間的な拘束が少ないこのコンビニエンスさは、通常の医療機関とは比べものになりません。

2。医療コストが減る
遠隔医療では、少なくとも現状では、相談はもちろん、処方箋や紹介状の発行もすべて無料でやってもらえるため、患者にとって経済的にも魅力的です。Swicaによると、昨年まで、(相談業務だけにとどまったにも関わらず当時から)遠隔医療に対して、年間で50万件の電話があったといい、すでに高い需要を示していますが、医療行為が拡大した今年以降、さらに需要がのびることが予想されます。

このような医療モデルは、患者だけでなく保険会社やひいては国全体にとってもメリットが大きいといえるでしょう。電話の相談や診断だけですみ、病院に行かなくてもすむ人が増えれば、その分、医師にかかると発生する医療コストが減るためです。

現状で唯一、遠隔医療の診断が認可されている民間保険会社Swicaでは、すでに病院にいく前に必ずこの遠隔医療に相談することを義務付けるという保険商品として扱っており、今後、このような、遠隔医療を利用することで医療コストを抑制し、被保険者の負担も少なくする新しい保険モデルが増えていく可能性があります。

ちなみに、Swicaでは、この遠隔医療サービスを、自社の保険に加入している人に限定していますが、今後、加入保険会社を限定せずこのサービスを提供することも検討中だそうです。

3。医療スタッフ不足の対応策として
現在、スイスでは(ほかの国同様)医療スタッフの不足が大きな問題です(このことについての詳細は「帰らないで、外国人スタッフたち 〜医療人材不足というグローバルでローカルな問題」)。都心部はそれでもまだ医療機関が十分ありますが、郊外にいけばいくほど深刻な医療機関や医者や医療機関不足に悩んでいます。そのような物理的に医療機関が不足する地域の人々にとって、アクセスできる医療サービスがあることは、非常に重要であり、今後、医療スタッフ不足に対応する有望な策として、遠隔医療の拡充が、各地で推進される可能性があるでしょう。

おまけ 外国語で症状を伝える時

ところで一方で、医療サービスがどんどん便利になってきているとしても、患者本人が症状についてうまく伝えることができなければ、いい診療を受けることはできません。特に、遠隔医療では、直接診てもらわない分、自分が自分の症状をうまく伝えることがより重要となるでしょう。

外国に滞在中、医療施設にお世話にならなくてはならなくなった時、そこで痛感するのが言語の壁です。医療サービスを受ける側のこのような問題について、最後に少し言及してみたいと思います。

普段使わない難しい病名や体の部分の名前などを外国語で理解・確認することももちろん一苦労ですが、それはとりあえず、対訳を辞書などで調べればことはすみます。それよりも、わたしにとって医療現場で言葉の壁として立ちはだかり、難易度が高いように思うのは、病気の症状について、どう叙述・表現するかという問題です。このような難易度の高い翻訳は、いまだ自動翻訳でも不可能です。

端的な日本語を母語とする自分自身を例にあげてみます。母語の日本語では、体の異変を表現しようとすると具体的にぴったりする言葉がすぐ頭に浮かびます。ずきずきする、きりきりする、ひりひりする、ぱくぱくする、ふらふらする、ぼーとする。。。そして、日本語がわかる人に、これらの言葉を使って伝えると、通常、すぐに相手にも状況を察してもらうことができます。

しかし、ほかの言語では、(わたしの場合ドイツ圏なのでドイツ語では)、このような症状をどう表現できるでしょう。結論から言うと、残念なことにぴったり対応する語彙がありません。ものごとの状況や気持ちや音を音的に表現する、これらオノマトペ(擬音語・擬態語などの総称)と言われるものは、言語専門家によると、日本語に特徴的で、日本語では非常に豊かな一方、ほかの言語にあまりないのだそうです。

この手の表現手法がないドイツ語で、無理やり音的な表現で症状を試そうとすれば、たちまち「稚拙」な印象を与え、大人が医師と交わすまじめなやりとりの場には全く不適切な感じです(オノマトペがただちに稚拙に感じられるのは、オノマトペが大人の語彙にほとんどないのに対し、こどもの言葉の世界や語彙には少しあるためだと思われます)。

ではどうすればいいのでしょう。ドイツ語では、全般に、その状態を客観的にみて表現するというのが、一般的な手法です。痛みがひどければ、強さを、1から10の数で痛みの度合いを表すといった方法がよく使われます(例えば、10が自分が想像できる最も強い痛むの程度と仮定して、痛みは8といった風に)。どんな痛みかについては、第三者的な叙述、例えば、刺すような痛み、強い疲労感、船酔いのような気持ちの悪さといった言い方をします。

しかし、ここで問題にぶち当たります。痛みの強度は数で示すだけなので問題ありませんが、どのような痛みかを十分表現するには、一定の言語能力が不可欠です。ドイツ語の語彙が多い人であれば、自分の症状を十分表現できるデータバンクが頭にあり、そこから随時適切なものを引き出して利用すればいいのでしょうが、ドイツ語の語彙が少なくそのようなデータバンクが頭にそもそもない人はどうすればいいのでしょう。

仕方がないので、知っている言葉を駆使して、自分の症状のイメージに合うような客観的な表現を、日本語のオノマトペを参考にしながら探し、あとは、うまくそれが相手に伝わるように祈ります。さいわい普通の病気の症状は、(地球に住む同じホモ・サピエンスのかかる病気として)世界共通であり、こちらの説明がつたなくても、医療スタッフのほうでもおおよそ想像がつくようです。わかったような神妙な顔で、わたしの(若干怪しげな)症状説明を聞いてくれることが多く、病気の時に、途方にくれるほど困ることは、これまでありませんでした。しかしそれにしても、頭にオノマトペでのぼってくる身体の症状を、ドイツ語の客観的な表現に入れ替えて伝えるという作業や努力は、自分の具合が悪い時は、とりわけ骨の折れる難しい作業に思われることは確かです。

おわりに

歴史的にみると、200年の歴史をもつ西洋医学の医療は、現在、デジタル化という大きな転換期をむかえているのかもしれません。少なくともテクノロジーは整いつつあり、それをいつ、どのように導入するか、ということが問われる段階にあるのかもしれません。

ただし、全国民が関わる壮大なプロジェクトであり、成功させるのはどこの国でも簡単ではないでしょう。国民からの信頼を得られず実質的に医療データのシステム導入が進まなかったり、安全な診察が実現できず利用がままならないという事態も、十分ありえます。

しかし、住民に便利なサービスとして定着し、医療全体の質を向上させられたら、どんなにすばらしいでしょう。多くの国でこれを達成し、医療を一段ステップアップした明るい境地に導いていってほしいと願わずにはいられません。

参考文献

Arztzeugnisse per Telefon sind im Streitfall nichts wert, Medinside. Das Portal für die Gesundheitsbranche. Veröffentlicht am: 05. Juni 2019 6:47

Bürgi, Marc, Medgate und Medi24 machen sich nun auch im Ausland Konkurrenz, Handelszeitung, 27.02.2019

Diener, Esther, Swica-Ärzte dürfen Zeugnisse und Rezepte neu am Telefon geben, Medinside, Das Portal für die Gesundheitsbranche., Veröffentlicht am: 09. Januar 2019 9:04, Letzte Aktualisierung: 10. Januar 2019 20:38

Eco -Elektronisches Patientendossier krankt, ECO. Das Wirtschaftsmagazin, SRF, 16.9.2019, Montag, 22:35 Uhr

ehealthsuisse, Fragen und Antworten zur Umsetzung (2019年9月17日)

EPD elektronisches Patientendossier (2019年9月17日)

Himss Europe, Digitales Ökosystem Gesundheitswesen - Vorgaben, Umsetzen, Versprehen einlösen, Swiss Health Summit 14.-15. Sept. 2015, Kursaal Bern Schweiz.

Nachts klopft das Herz lauter. Telemedizin. Die Telemediziner von Swica sind Tag und Nacht erreichbar. Wir haben bei der Spätschicht mitgehört. In: Der Landbote, 11.9.2019, S.3.

Swica-Ärzte dürfen Zeugnisse und Rezepte neu am Telefon gebenVeröffentlicht am: 09. Januar 2019 9:04, von Esther Diener Letzte Aktualisierung: 10. Januar 2019 20:38

Telemedizin-Startup: «Häufig ist kein persönlicher Arzt-Patientenkontakt notwendig», Medinside. Das Portal für die Gesundheitsbranche. Veröffntlicht am: 17. Oktober 2018 7:00, von cm Letzte Aktualisierung: 03. Mai 2019 19:27

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


個人医療情報のデジタル改革 〜スイスではじまる「電子患者書類」システム

2019-09-20 [EntryURL]

超高速の検診

スイスで定期的に検診(婦人科)に行きますが、病院に足を踏み入れたから定番検診メニュー(尿・血液検査、血圧・体重測定、検査結果についての医師からの報告、内診、最後に再び医師との話し合い)を一通り終え、病院を出るまでの所要時間は、特になにも問題がない場合、20分以内です。

このことを日本の人に話すと、たいてい短いと驚かれます。世界中どこの医療機関でもおおむね検査内容は同じだと考えると、スイスと日本で所要時間の差はどこからでてくるのでしょう。結論から先に言うと、医療機関での患者の個人データの扱い方の違いが大きいように思います。

今回は、このような差を生み出していると思われる、スイスの医療データの扱いについて焦点をあててみていきたいと思います。次回は、最新の遠隔医療の最前線の状況を追い、2回の記事をとおして、スイスの医療分野の最新テクノロジー事情を概観してみたいと思います。スイスの具体的な事情を、自分の普段接している医療現場の状況と照らし合わせることで、違いだけでなく、共通する課題についても眺望していただく機会になればと思います。

診療の背景で共有されている患者データ

まず、具体的に現在の一般的なスイスの診療の流れを追いながら、医療機関での患者の個人データの扱われ方を、みていきましょう。

スイスでは、電話やメールなどで予約をとってから診察や検診を受けるのが普通ですが(ただし救急や休日医療などでは、事前に予約をとらずに来院できる場合もあります)、予約の際、院内の患者のデータと照合され、来院歴などが確認されます。

すでに来院したことがあれば院内にすでに情報があるため、予約当日は、保険証の内容の変更などがない限り、書類作成や保険証等の提示は一切必要ありません。指定された時間に行って名前を告げるだけで受け付けは終了し、すぐに診療をはじめられることになります。

初診の場合は、書類記入が必要なこともありますが、それでも、いくつかの質問項目に答える程度の簡単なものです。というのも基本的な個人のデータは、スイス在住者がすべて保持している保険証のICチップに入っているためです(ちなみに、スイスの保険について説明すると長くなるので、ここでは割愛しますが、全ての居住者に基礎医療保険の加入を義務付けているというという点では国民皆保険と似ています。しかし実際の保険業務は、複数ある民間保険会社がそれぞれ窓口となって行なっており、保険会社は、基礎医療保険に加え、独自の異なる保険商品を保険加入者に提供(販売)しています)。


保険会社Visana のカードの見本図
(ほかの会社のカードも記載されている内容や位置はほとんど同じ)
出典: https://www.visana.ch/de/privatkunden/services/versichertenkarte;jsessionid=06B215190C8A4EB5D0BC031BE0637ADD


現在、ICチップに入っている個人のデータとは、連絡先や社会保険番号、保険会社や保険の種類などの基本データ類です。ただし、本人の希望で、緊急時の対応などに便利な個人の健康や医学情報(例えば病歴、アレルギー、飲んでいる薬の種類、予防接種の有無や血液型など)もいれることが可能です。

診療代金の請求書は、患者にではなく、医療機関から直接保険会社にいくため、診察終了後はすぐに退出することができます(患者が支払う費用の明細や請求書は、後日、保険会社から郵送されます)。薬局で処方された薬をもらう場合も、同じように保険証のICチップの情報を介してすすみます。

つまり、スイスでは関連する機関や企業間の患者情報の共有がすすんでいるおかげで、内容的に繰り返しが多い書類作成や、それに関連して発生するもろもろの事務手続きなど、患者にとっても医療機関にとってもわずらわしい作業とそれにかける時間が大幅に少ないのだと思います。

「電子患者書類」 〜患者情報の共有の拡大化

それでもスイスでは、現行のやり方はまだまだ無駄や問題が多いという考えから、来年の2020年の春からは、情報処理をさらに大幅に合理化させる「電子患者書類Das elektronische Patientendossier (略語: EPD)」と呼ばれる壮大な患者情報のデータバンクのシステムが始動する予定です。

新しいシステムは、いくつかの点で、患者情報の管理・保存の仕方がさらに便利になります。現在のスイスでは、医療機関が共通してアクセスできる情報は、上述のように患者が希望すればほかのデータもいれられますが、基本的には患者の基礎情報(住所や保険会社や保険番号)のみで、診療や病歴についての情報は、医療機関がそれぞれ個別に保管しています。ちがう医療機関で受けた治療や処方された薬の最新情報がほかの医療機関に共有されていないため、必要な過去の情報を入手したり、確認しなくてはならない場合、電話などでほかの医療機関にいちいち問い合わせなくてはいけませんでした。

これに対し、電子患者書類では、患者ひとりひとりに対する情報(例えば、レントゲン写真や処方された薬類、病歴、アレルギー、接種した予防注射の種類や日時など)が電子書類として統括され、インターネットでアクセスできるようにします。病院等の医療機関は、常に総合的でかつ最新の患者の情報を容易に入手し、また新たに情報を追加することができるようになります。

このようなシステムが作動すれば、患者や医療機関、また社会全体にとっても大きなメリットがあると期待されています。

まず、データが統括され、関連する医療スタッフすべてがその最新の内容をみることができることによって、医療上の危険が減り、無駄もなくなると期待されます。例えば、高齢の患者に対し、医師、介護士、薬剤師などが情報を共有することで、複数の医療機関から処方された薬の量や種類が適切かを確認し、薬のとりすぎや危険な組み合わせを防いだり、ほかのプログラムと照合しながら総合的な健康改善計画をたてることができます。

意識がもうろうとして救急で病院に運ばれた人でも、電子患者書類があれば、患者のアレルギーや病歴がわかるため、それらを考慮し診療することができます(ただし、この際は後日、緊急のため電子患者書類を閲覧したことを患者に伝えることが義務づけられています)。患者自身も、いつでも自分の情報を閲覧することができ、これまで以上に、自分の健康状態や医療措置への理解が深まり、主体的に医療に関わる余地が大きくなるかもしれません。

複数の医療機関に患者の情報を問い合わせる手間や、独自の患者データのアップデートや保持の必要がなくなることは、医療部門全体の人出不足を緩和し、コスト削減にもつながるため、社会全体がその恩恵にあずかることにもなります。

関連するアクター(医療関係者と患者)ができるだけ多く参加するシステムを目指して

ただし、この情報共有システムは、病院や介護施設がこの電子患者書類への参加を義務づけられているのに対し、患者と個々の医師(開業医)については、参加が任意とされています。もちろん、できるだけ多くの患者や医師たちが参加することがのぞましいのは確かなのですが、強制はしていません。それは、患者や医師の危惧や諸事情に配慮しているためです。

例えば、患者のなかには、このようなインターネットでアクセスできる形で情報が置かれることで、自分の健康・医療情報が第三者に流出したり乱用されたりするのはないか、と憂慮する人が、少なくとも当初は少なくないと想像されます。

そのように憂慮する人の気持ちを無視して、はじめから強制して参加させるのもひとつの可能性でしょうが、スイス流では、強制はせず、別のやり方をとることにしました。それは、一方で患者の情報を安全に保持できるようつとめ、他方で、このシステムについての啓蒙キャンペーン(電子患者書類の安全性やメリットについて国民にさまざまな形で丁寧に説明する)をすすめるというものです。ある程度時間をかけて多くの人に納得して利用してもらうことが、長期的にみるともっとも混乱が少なくシステムを移行させることになるとみているようです。

システムにおいては、不正な情報流出などのサイバー犯罪対策はもちろん、悪用や乱用を未然に防ぐ目的で、利用方法や利用者も明確に制限します。例えば、この情報は、医療機関と患者個人だけにアクセスが可能とし、保険会社や雇用者の閲覧は一切認めません。また、患者は、電子患者書類を利用するとしても、すべての情報をすべての医療機関に公開する必要はなく、医療機関のだれがどのような情報をアクセスすることまでを認めるかを、患者自身で決めることができます。同時に、情報がアクセスされた場合はすべて記録され、誰がいつみたかを、いつでも確認することができます。

開業医などの医師にも、システムの移管が簡単でない独自の事情があります。患者の情報を容易に入手したりアップデートできることに基本的に医師は賛成であると思われますが、これまで手書きのカルテで患者情報を管理してきたところでは、システム変更が困難なためです。このため、これまで患者のデータを手書きのカルテで保存していた場合で以後電子患者書類に参加する場合は、過去のカルテをすべて電子患者書類上に反映させる義務はなく、新しいデータのみを掲載するだけでいいなど柔軟な対応をとっており、またシステム参画のための補助金をだすなど、今後、医師がシステムに参画しやすくする環境をととのえることが検討されています。

おわりに

電子患者書類システムは、スイスでは来年以降の導入予定ですが、すでにカナダやオランダなどでは導入され、日々実績が積み重ねられています。これらの先例を参考にしながら、来年以降、スイスの医療も、さらに患者にも医療スタッフにも使いやすいものになることが期待されます。

次回は、医療のもうひとつの新しいトレンドとして、遠隔医療についてレポートします。
※参考文献は次回の記事の最後で一括して提示します。

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
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カーボンニュートラルに空を飛ぶ 〜水と大気と太陽光で燃料が量産される未来

2019-09-12 [EntryURL]

悩める航空業界に希望の光?

多くの人にとって飛行機は、出張や旅行をする際、切り離して考えられない乗り物です。しかしこの便利で速い乗り物は、大量の二酸化炭素(CO2)を排出し、地球の温暖化を加速させてしまうという悩ましい問題をかかえており、さらに悪いことに年々フライトの数は世界的に増加していることで負の影響が一層深刻になっています。このような状況を憂慮し、ヨーロッパでは昨年から「フライトシェイムFlight shame」という言葉(飛行機に乗ることは恥さらしだ、という意味)が使われはじめ、若者たちを中心とする環境デモでも、飛行機の利用の抑制を訴える声も強まっています(ちなみにフライトシェイムは、スウェーデンで昨年新語として使われるようになった「Flygskam」の英語訳です)。

そんななか、今年6月、スイスを中心とするドイツ語圏であるニュースが流れ、注目を集めました。スイスのチューリヒ工科大学が100%カーボンニュートラルの燃料を開発したというものです(カーボンニュートラルとは、二酸化炭素の排出量と吸収量が同じ量であることを意味します)。

そしてその3ヶ月後の今年9月初旬、この画期的な燃料開発を飛躍的に進展させるため、すべてのフライトに課徴金を課し、2050年には飛行機の燃料をすべてカーボンニュートラル化するという国会議員や工科大学の教授らが提案する野心的な案が、スイスの主要な日刊紙『ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング』の日曜版(NZZ am Sonntag)の一面で発表されました(Benini, 2019)。

技術的な革新に(過剰に)期待をすることで、複雑な環境問題を単純化してとらえようとしたり、現実を直視することから目をそらすのは問題です。しかし、現実が複雑さと困難さであたかも八方塞がりかのようにみえる時、めざましい技術が開発され、それが新たな展望を切り開いてくれるのではと希望をもつことは、(たとえ現実にそうはならなくても)新しい原動力につながる可能性があり、貴重でしょう。

少なくとも今回スイスにおいては、この画期的な技術の話を聞いて、次のステップへの希望を感じ、自らも協力的に動く姿勢をみせた人たちがいました。それは航空業界です。航空業界は、この提案が、長距離、短距離を問わずすべてのフライトに課徴金を課すという(一見、航空業界から不満がでてきそうな)案であるにもかかわらず、歓迎の姿勢を示しました。

ただし、まだ発表されたばかりで、今後この提案が国会にもちこまれ、実際に通過するかは全く不明です。とはいえ、とりあえず、来月の10月20日の連邦議会総選挙に向けて選挙戦が終盤を迎えつつあるスイスでは、選挙戦の重要なテーマである環境問題を政党や政治家がとらえているかを計る具体的な材料のひとつとして、この斬新な提案が、世間で注目され、議論の引き合いにだされることは確かではないかと思われます。

今回は、このスイスの最新のホットな技術について紹介してみたいと思います。

大気と太陽光でつくる液体燃料という6月のセンセーション

今年6月、チューリヒ工科大学のシュタインフェルト教授Aldo Steinfeldとそのチームが、カーボンニュートラルの画期的な燃料を開発したというニュースがスイスのメディアをかけぬけ、人々をうならせました。しかもこれをつくるのにはたった二つの材料、太陽光と大気だけだといいます。

大学側の概要説明によると、しくみは以下のようなものです。

●太陽光をパラボラ反射鏡で3000倍に強化し、パラボラ反射鏡の焦点部分にある化学反応器内部を1500度の高温にする。その太陽光化学反応器に、大気からとりこんだ水と二酸化炭素を入れる。

●化学反応器の中心部分には、特殊な構造をもつ酸化セリウム(CeO2)のセラミックが入っており、これが触媒となって、高熱によって水と二酸化炭素が分化され、水素と一酸化炭素の混合物である合成ガスが精製される。


出典:
チューリヒ工科大学サイトのビデオ”Carbon-neutral fuel made from sunlight and air”


●これを液化すると、ガソリン、ジェット燃料(航空用のジェットエンジンに使用する燃料)、メタノールなどの炭化水素(炭素原子と水素原子だけでできた化合物)の燃料になる。燃料は、通常の燃料と同じように、直接車や飛行機に利用できる。

通常の燃料と同様にこの燃料を燃焼する際にも二酸化炭素が発生しますが、もともと大気からとった分の二酸化炭素しか排出されないため、カーボンニュートラルな燃料ということになります。

電池にはない液体燃料のすごさ

ところで、ここで不思議に思われる方がいるかもしれません。飛行のエネルギー供給源として、ソーラーパネルやそれを蓄電する電池という、もともとカーボンニュートラルな方向に求めず、なぜわざわざ液体燃料化にこだわるのだろう、と。

確かに、現在、太陽光パネルのエネルギーで飛行することも不可能ではありません。実際に、2015年から16年にかけて、ローザンヌ工科大学のソーラー・インパルスSolar Impulseという飛行機は、太陽光だけで飛行し、世界一周を果たしました(ちなみにソーラー・インパルスは不天候の際に日本の名古屋にも立ち寄りました)。

しかし、このソーラー燃料精製技術の事業化を目指すスピンオフ会社Synhelion のCTOであるフーラーPhilipp Furlerは、「液体燃料は、依然として、エネルギーが最も豊かな物質である。バッテリーに比べ20から60倍多くのエネルギーを含んでいるためだ」といい、このため、いくつかの用途では、今後も不可欠なのだとします。例えば長距離飛行では、必要なエネルギーをすべてバッテリーでまかなおうとすれは、飛行機は重くなりすぎ飛べないため、将来も液体燃料を使う可能性がきわめて高いといいます(ETH, CO2, 2019)。

ちなみに酸化セリウム(CeO2)のセラミック触媒は、特許を取得している特別なものですが、それ以外の構想や技術、つまり太陽光と二酸化炭素は利用し液体燃料をつくるという研究や開発は、世界各地でも試みられおり、近年実現された事例がいくつも報告されています。

それでも、今回のスイスの技術が注目に値するとすれば、国際的(ヨーロッパ内)な研究協力体制のもと事業化の道を着実に進んでおり、現在はまだ非常に高価ですが、具体的な実現可能目標がみえてきた点でしょう。2010年以降、二酸化炭素を大気からとりだす技術の商業化や、液体燃料化技術を市場に参入させるためのスピンオフの会社がつくられ、2016年からはじまったヨーロッパ共同プロジェクトSUN-to-LIQUIDの一環として、マドリッド近郊の太陽光化学反応器での大規模な実験もスタートしています。2025年までに、大規模な商業的燃料精製施設を建設することも計画されており、その施設が完成すれば、年間1000万リットルの液体燃料メタノールが精製できると見込まれています。

2050年までの壮大なプロジェクト

9月上旬にだされた提案は、現在国会で導入が検討されているジェット燃料関連税(環境税の一種)で有力視されている還流案(課徴金を国民にもどす案)の対抗案として出されました。

自由緑の党(緑の党よりも経済分野を重視する環境政党)の国会議員で化学者ボイムレMartin Bäumleと環境政策の専門家でチューリヒ工科大学教授パットAnthony Patt、また自由民主党政治家で物理学者のメッツィンガーPeter Metzingerが、細かい試算を重ねた結果具体的なモデルとして提示したのは以下のようなものです。

全フライトに課徴金を課し、その税収をすべて、大規模な太陽光施設を世界の好条件の場所に設置するなど膨大にかかる開発研究費用に直接あてる。これによって、現状では通常の石油や燃料にくらべ3〜4倍高い合成燃料の精製コストを大幅に下げて大量に精製していく。フライトでは徐々に通常の燃料の分量を減らしていき、2050年には飛行機を100%カーボンニュートラルの燃料だけで飛ばす。

三人の試算によると、合成燃料の開発に必要な課徴金の金額は、比較的低額におさえられるといいます。例えばチューリヒとニューヨークの往復フライトでは、当面70スイスフラン、ヨーロッパ内のフライトではそれより低い額で採算がとれるとします。

航空関連業界の反応

航空業界の温暖化対策として新しいモデルを提示したこの提案に対し、航空関連企業はそろって肯定的な反応を示しました(Benini, 2019)。

例えば、チューリヒ空港のスポークスパーソンのビルヒャーPhilipp Bircherは、「航空業界が徐々にカーボンニュートラルになるために、中期的には合成燃料がもっとも現実的で、それゆえもっとも望ましい手段であるという見解に同意」する、と今回の提案の歓迎の意を表明しています。スイスのフラッグキャリアSWISS(通称名。正式名称はスイス・インターナショナル・エアラインズ)のスポークスパーソンのミュラーKarin Müllerも、将来の航空業界において、カーボンニュートラルに飛行するというのが唯一のオプションだという認識を示し、直接開発のための課徴金という提案に賛成しています(Benini, 2019)。

おわりに

航空業界からのエールは、この提案を国会で通過させる追い風となるでしょうか。また、今後この提案が仮にスイスの国会で認可されたとして、膨大な太陽光を集めるための大規模施設を国外(スイスよりも太陽光が豊富な国や地域)に設置するための、国際的な協力体制は順調に構築されていくでしょうか。そして、飛べば飛ぶほど地球温暖化させてしまうという飛行機の宿命は、いつか変わることができるのでしょうか。

この果敢なチェレンジが、航空業界だけでなく飛行機を利用する裾野の広い多くの人たちの関心をひきつけて、この先順調にすすんでいくことができるのか、固唾を飲んで見守りたいと思います。

参考文献

Benini, Francesco, Subares Fliegen: Neue Abgabe soll Durchbruch ermöglichen. und Neuer Vorschlag für eine tiefe Flugkicket-Abgabe. In: NZZ am Sonntag, 8.9.2019, S.1 und 11.

ETH Zürich, CO2-neutraler Treibstoff aus Luft und Sonnenlicht, Medienmitteilung, 13.06.2019

ETH, «CO2-neutraler Treibstoff aus Luft und Sonnenlicht»(ビデオ)In: ETH Zürich, CO2-neutraler Treibstoff aus Luft und Sonnenlicht, Medienmitteilung, 13.06.2019

ソーラー・インパルス、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』(2019年9月10日閲覧)

Zeroual, Omar/ Muri, Fitz, ETH zündet Energierevolution - Aus Sonnenlicht und Luft entsteht Benzin, SRF, News, Aus 10vor10 vom 13.06.2019.

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
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「移動の自由」のジレンマ 〜EUで波紋を広げる新たな移民問題

2019-09-07 [EntryURL]

移動からみるヨーロッパの危機

今回はヨーロッパでの「移動(移住)」について考えてみたいと思います。とはいえ、難民危機のようなEU圏外からの移動についてではなく、EU圏内で認められている移動についてです。

今日のヨーロッパ連合(EU)において、人の自由な移動は、EUの経済的な発展だけでなく、互いを理解し、未来にむけて協調的な基盤をつくるためにも基本的、重要不可欠なものとしてとらえられています。7月に扱った若い学生たちの移動を奨励する留学プログラム「エラスムス」もそれを確信しているがゆえに成り立っている、世界最大規模の交換留学プログラムでした(「世界最大の交換留学プログラム「エラスムス」 〜「エラスムス」世代が闊歩するヨーロッパの未来」)。

一方、総人口5億1200万人のEU圏内で自由な移動が認められて、壮大な規模で実際に移動が起こるとどうでしょう。人口や社会にどのような変動や影響を及ぼすのでしょうか。端的に言えば、移動によるインパクトに一国や一都市で対処するのが難しい状況になります。

今回は、このような状況や問題について、スイスの新聞『ノイエ・チュルヒャー・ツァイトンク(NZZ)』日曜版に掲載された先鋭のヨーロッパ政治学者イワン・クラステフIvan Krastev の最新のインタビュー(Mijuk, 2019)や著作を参考にしながら概観し、どんな対処が可能なのかについて、少し考えをめぐらしてみたいと思います。

ちなみに、東ヨーロッパも含めたヨーロッパ全体を見渡すクラステフの卓見については昨年も同紙で紹介され、今回のインビュー記事は、それから1年後のヨーロッパの状況をアップデートする内容とみることもできます(この記事の抜粋とそこからの考察を2本の記事にまとめたものは、「東ヨーロッパからみえてくる世界的な潮流(1) 〜 「普通」を目指した国ぐにの理想と直面している現実」、「東ヨーロッパからみえてくる世界的な潮流(2) 〜移民の受け入れ問題と鍵を握る「どこか」派」)。

EU圏内の移動、移住の実態

冷戦終結以来、ヨーロッパでは大規模な人口移動が続いています。冷戦以降、ポーランドから250万人、ルーマニアからは350万人が流出しました。そして、この流れは、東側から西側へという一方向に偏ったものでした。

クラステフは、「少し前まで移住は(ヨーロッパの 筆者註)外からくるものが最も大きな問題だった」が、これについては、現在ヨーロッパにおいては、EUの国境を超え自由に流入することをみとめず一定の規制をすることで、ヨーロッパの合意ができており、ヨーロッパ内で意見が分裂する問題ではもはやないとします。その一方、「現在は、内部の移住が問題となっている。それはシェンゲン協定と人の自由な移動だ」とします(Mijuk, S.6.)(シェンゲン協定とは、1985年以降はじまった、EU圏内を国境検査なしで自由に移動できること許可した協定のこと)。つまりヨーロッパ外からヨーロッパに入ってくる難民や移民は、現在ある程度コントロールできるようになったものの、EU内の移動には制限が基本的になく、その移動の量や質が、EUの社会や政治的な問題となりつつある、という見解です。

例えば、冷戦終結以降現在までに、ポーランドから250万人、ルーマニアからは350万人が流出しました。東ヨーロッパ全体では、1990年から今日までで1200から1500万人が祖国を去っています。

その移動の主たる世代は若者たちで、いずれも恵まれた経済や生活環境に惹きつけられての移動です。若者たちは単純労働の口を探して動く人たちもいますが、専門的な職業訓練を受けたものも多く含まれています。例えば、ルーマニアでは2年間で1万人の医師が国を去っていますし、家庭の老人の介護要員など、西側のサービスやケア産業全般の足りない人材の多くも、東ヨーロッパからの人材にたよっています(「人出が不足するアウトソーシング産業とグローバル・ケア・チェーン」)。

結果として、東ヨーロッパの国ぐにでは、全体の人口減少もさることながら、深刻な専門家不足にも陥っており、クラステフは、このままの状態では、国の様々な機能を維持することができなくなるだけでなく、若者が国を去り、保守的な年配の人たちが残ることで、政治システムも硬直化し、悪循環につながるだろうと予測します。そしてなんとかこれをくい止める施策を投じなくてはいけないとします。

問題の深刻さが近年、送出国の国民たちにも鮮明に把握されるようになってきました。現在、中部、東部のヨーロッパの国々では、チェコ、イタリア、ギリシアとスペインを除き、すべての国では、外国からの移住者よりも、外国への移住者のことについて危惧をしており、ポーランドやハンガリー、ルーマニアなどでは、経済的な理由で外国へ移り住むことを制限することに賛成する人も増えています。

人口の大規模な移動にどのように対応すべきか、できるのか

しかし、移動の自由は、これまでEUが謳う重要な自由の一つであり、どこの国の人々にも与えられてきた権利です。それを制限する権限を誰がどういう形でもつべきなのでしょうか。

そもそも、移動の流れをむりやりにでも食い止めることで問題は解決するのでしょうか。移民としてでていく国には、でていくなにか理由や問題があるということになりますが、それを見ずに、移動する人だけに焦点をあわせ、その人たちをどう、どこにどれくらい配置するか、という話をするので、長期的な解決、広い社会全体に配慮した解決になるのでしょうか。

いずれにせよ、人口が流出する(東ヨーロッパなどの)国々だけで解決できる問題でないと思われます。ではなにが必要なのでしょう。結論を先にいうと、解決を目指すのであれば、むしろキーとなるのは、流出していく国よりも、受け入れ国で、それにどう対応するか、どこまで協力的に関われるかという点ではないかと思われます。

例えばルーマニアから移住する人がもっとも多いのはドイツで、2016年の1年間で7万人以上の人がルーマニアからドイツに移住していますが、ドイツのように移民が流入する国は、概して豊かな国です。このような受け入れに積極的な豊かな国が、移民を送り出す国に配慮し、その国にもなんらかの恩恵を与えるよう関わることができないでしょうか。

簡単に解答がだせるような問題ではもちろんありませんが、ヒントになりそうな具体的な動きをふたつあげてみます。

医療スタッフに関する世界的な協定

ひとつは、2010年、世界健康保健機構の総会で定められた「保健医療人材の国際採用に関するWHO 世界実施規範(日本語訳)」です。(「帰らないで、外国人スタッフたち 〜医療人材不足というグローバルでローカルな問題」)。

今日、世界的医療関係者が不足しており、よりよい市場や就労条件を目指してグローバルに人々が移動しており、その割合が年々増えていますが、人材の移動の増加に並行し、国から国外への医療スタッフの流出が際限なく続くことで、送出国が長期的に深刻な影響を受けることも、国際的に認知されるようになってきました。このため、医療人材の移動による不公平を緩和し、世界的に協調的にこの問題に取り組むためにつくられたのが、この世界健康保健機構の指針です。200カ国近い加盟国によって合意され、行動規範として推奨されることになったこの「保健医療人材の国際採用に関するWHO 世界実施規範(日本語訳)」では以下のようなことがうたわれています。

1。人材が不足している国からは受け入れない
2。国内の従業者と同じ扱いをする
3。受け入れ国と供給国の両者の国際的な協力を強める
4。国内従業員の需要を補うための措置をとる
5。海外の医療スタッフについては、データを収集し、研究プログラムや定期的な評価などを行う

これは、あくまで規範であり法的な強制力を伴うものではなく、また移民の権利を制限するものでもありませんが、各国に自覚や自主規制を訴え、逸脱する行為の監視や抑制をする国際的な枠組みとして、倫理規範に加盟国が合意した意義は大きいとされています。

EU圏内ではもともと自由な移動が認められているため、通常個々人が組織や会社と契約し就業しています。しかし医療スタッフやまたほかの高度な専門職の人材など、送出国が輩出することで社会に大きな打撃を与える分野においては、このような協定を参考に、受け入れ国だけでなく送出国も、なんからの恩恵を享受できる具体的なしくみをつくっていくことが、長期的な視点からみて望ましいと思われます。

移民政策と途上国援助を一体化させる方針

もう一つのヒントは、スイスの移民政策と途上国援助を合わせるという方針です。スイスはこれまで移民政策と途上国援助を全く別の目的とカテゴリーで行なってきましたが、2015年のヨーロッパ難民危機以来(現在は流入する難民が減っていますが)、二つの別個に行なっていた政策を見直し、移民が多く入ってくる国に重点を置いて開発援助を行う方針への切り替えを模索するようになりました。

例えば、これまで開発援助の対象であったラテンアメリカからは少しずつ撤退し、今後援助の中心は、北アフリカと中東、サハラ以南のアフリカ、アジア(中央、南部、南東)、東ヨーロッパにしぼり、対象国を46カ国から34カ国に減らすとします。開発援助の対象にする基準としては、まず、当事国の援助の必要性、次にスイスの国としての利益、そして三番目に、国際的に比較してスイスの援助の付加価値の高いものであることを重視する方針を打ち立てています(Die Schweiz, 2019)。

ここでの移民政策の「移民」は主に、経済移民や難民など、様々な理由からスイスで難民申請をする人などを指しており、上記の高度な技術をもつスタッフの受け入れに関する協定が対象にする人々とは異なります。一方、難民としてスイスなどに渡ってくる必要がなくなるように、移民たちがでてくる国に、効果的な開発援助を行うという主旨は、人々の移住を、送出国への支援と関連づけているという点で、最初の医療就労者の協定の例と相通じるものがあるでしょう。

ただし、このようなスイスの方針の転換については、開発援助という世界の豊かな国が協調しながら行なっているプロジェクトを、一国の移民政策を尺度にして、方向づけるのは正しくなく、世界的な貧困の克服や持続可能な開発などの優先課題を軽視したものである、とOECD開発援助委員会からは批判されています。しかし、スイスとしては、これまでよりも対象国を減らし集中的に援助することで効果を高めるという主張で自国の方針転換を正当化し、当面これを撤回するつもりはないようです。スイスは2021年から向こう4年間の開発援助をこのような方針でやっていくことを今年5月に決定しました。

おわりに

「移民」「移動」というと、とかく、排外主義的な人たちの言動や暴力、衝突が目立ち、そのことに注目がいきがちですが、それは移動や移民の流入・流出の問題の、ほんの一部のテーマにすぎません。

国を変えて大量に移動するという現象は、非常に多様な要因や複雑な受け入れ国と送出国の需要と供給が作用して起きており、逆に言うと、国外への人口流出を防ぐために愛国主義や国の連帯を訴える声や排外主義の動きなどで、抑制、制御できる範囲は限られているといえます。また、移動者を送出する国だけでも、受け入れる国だけでも解決できる問題ではありません。

このため、利害や経済力などが大きく異なる国々どうしであっても、(存続の危機に瀕する東ヨーロッパ各国を救済し、EUとして共存共栄していくためには)これまで以上にお互いに協力して、移動に対する対策や措置をすすめていくしか、希望をつなぐためにEUに残された道はないのではないでしょうか。

参考文献

Alabor, Camilla /Friedli, Daniel/ Kucera, Andrea, Cassis setzt auf “Switzerland first». In: NZZ am Sonntag, 14.4.2019, S.9.

Die Schweiz soll in weniger Ländern Entwicklungshilfe leisten. In: NZZ, 2.5.2019, 13:35 Uhr

イワン・クラステフ著庄司 克宏監訳『アフター・ヨーロッパ』岩波書店、2018年 (Krastev, Ivan, After Europe, Philadelphia, 2017.)

Mijuk, Gordana (Interview), «Die Europäer fürchten sich vor der Zukunft». In: NZZ am Sonntag, 9.6.2019, S.6-7.

OECD kritisiert Neuausrichtung bei Entwicklungshilfe, SRF, Freitag, 5. April 2019, 18:00 Uhr

OECD日本政府代表部、OECDの概要:開発援助委員会 - DAC: Development Assistance Committee(2019年4月15日閲覧)

United Nations, Department of Economic and Social Affairs, Population Division. World Population Prospects: The 2017 Revision, Key Findings and Advance Tables. Working Paper No. ESA/P/WP/248, 2017.

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


ベネチア旅行記 - ジョジョの奇妙な冒険 聖地巡礼

2019-09-04 [EntryURL]

ベネチアの歴史

イタリアの水の都「ベネチア」は、「ヴェネツィア」「ベニス」「ヴェニス」などいろんな表記があります。この記事では「ベネチア」で表記したいと思います。

ベネチアは共和国として1000年も繁栄し、「アドリア海の女王」「アドリア海の真珠」と称えられました。

828年、聖人を祀るために、サン・マルコ寺院が創建されました。
11世紀に、十字軍遠征が始まり、1202年からの第四次十字軍で地中海の要所であるコンスタンティノープルが陥落したことにより、ベネチア共和国は黒海の覇権を握りました。
1381年にはトリノでの講和条約が結ばれ、アドリア海と地中海を手にし、東方貿易を独占するようになります。

ヨーロッパと東方の交易がベネチアを経由することで、ベネチアには大きな富をもたらせられることになりました。有名な「東方見聞録」のマルコ・ポーロはベネチア商人です。
その後、ベネチアは絶頂期を迎え、絵画においては「ベネチア派」の画家たちが活躍し、工芸では、ガラス細工やレースが発展しました。

1571年のレパントの戦い以降、トルコとの戦いは17世紀まで続きます。
1630年にペストが大流行し人口が激減します。そして、1797年にナポレオンがベネチアに侵攻。ルドヴィゴ・マニンが無血開城を受け入れ、ベネチア共和国1000年の歴史に幕が閉じました。
その後、オーストリア、フランスの支配下に置かれ、1866年にイタリア王国に併合され現在にいたります。


関空~ドバイ~水の都ベネチアへ

飛行機は、昨年のロシア行きに続いてエミレーツですが、関空からもA380が飛ぶようになりましたので、今回はビジネスで行くことにしました。アメニティセットはブルガリです。
ドバイでトランジットしてベネチアに向かいます。

座席はゆったりしていて長時間のフライトでもとても楽です。
深夜便ですが食事が出ます。洋食にしました。ワインもいただきほろ酔いでぐっすり寝ました。

ドバイで約4時間待ち時間がありました。
ラウンジでゆっくりすることにします。
とても広く、どこに座ろうか悩みました。食べ物・飲み物なんでもそろっています。
シャワーもありますし、チビッコが遊べるスペースもあります。

ドバイからベネチアまでは約6時間くらいだったでしょうか。読書していたらあっという間でした。ヴェネツィア・テッセラ空港(VCE)に着きした。
空港にはエミレーツの配車サービスが待ってくれていました。やはりイタリア人は陽気です。こちらが少し英語で挨拶と質問すると、矢次にベネチア観光案内やお勧めの店、お土産など早口で楽しそうに教えてくれました。
30分くらいかかってでしょうか。英語苦手なのに、久しぶりの英語で頭フル回転していました。

多分サンタルチア駅近くのフェリー乗り場に降ろしてくれたと思います。
ベネチア最大の特徴と言えば、「運河」です。
街での移動は徒歩か船になります。ベネチアは、自動車や自転車が走っていないのです。物流や郵便配達がたいへんだと思いました。

ホテルまでのフェリー乗り場に案内してもらって、そこからボートでホテルに向かいます。
今回のホテルは、JW MARRIOTT VENICE RESORT & SPA。ベネチア本島からフェリーで15分くらい。早朝から深夜まで動いているので特に不便は感じませんでした。
予約のとき決済は終わっていましたが、チェックイン時デポジットされます。宿泊税やチップなどもそこから引かれます。2019年7月からの訪問税はどこで払ったのかわかりませんでしたが、どうやら交通機関の運賃に含まれているようです。
お部屋は広く清潔感があり気持ち良く過ごせました。朝食がとても美味しかったのが嬉しかったです。


ジョジョの奇妙な冒険 聖地巡礼

ジョジョの奇妙な冒険 第2部

リアルト橋は、2部でジョセフとシーザーがリサリサと会う場所として描かれました。jojo リサリサ

400以上架かるベネチアの橋の中でも最も美しいとされるのがリアルト橋で、カナル・グランデ運河にかかる最古の橋です。

設計したのは、アントニオ・ダ・ポンテですが、ミケランジェロが一般公募に参加したことでも有名です。

ぼくたちが行く前の7月19日、リアルト橋のたもとでコーヒーを淹れていたドイツ人バックパッカー警察に通報され市外への退去を要請され、950ユーロの罰金を科されました。5月に制定されたベネチア版の迷惑防止条例に違反していたためです。
ルイージ・ブルニャーロ市長は、「ベネチアは敬意をもって扱われなくてはならない」と声明を出しました。


サン・マルコ広場は、世界一美しい広場とも称されるベネチア一の観光名所です。
荘厳なサン・マルコ寺院や高くそびえ立つ鐘楼など見所だらけで、囲む回廊を含めた大部分が大理石で出来ています。

リサリサがお茶しているとこにスリと遭遇しジョセフがボコボコにした場所です。

世界的な観光地なのでスリや置き引きはあるのでしょうが、治安面は全く不安はありませんでした。

鐘楼の上からの景色は絶景です。


ジョジョの奇妙な冒険 第5部

5部の巡礼のメインは、やはりサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会です。同じ名前のサン・ジョルジョ・マッジョーレ島にあります。

サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会は、「水辺の貴婦人」と称されている美しい教会で、1610年に完成しました。設計は16世紀を代表する建築家パッラーディオ。「柱廊と入り口上部の調和」と「左右対称の柱の配置」が特徴だといわれています。
正面祭壇の脇には、ティントレットの「最後の晩餐」と「マナの収集」が配されていて、礼拝堂には、ヤコポ・バッサーノの「羊飼いの礼拝」などの素晴らしい絵画の数々が飾られています。

ボスの指令に従い、ブチャラティとトリッシュはエレベーターで鐘楼に登ります。
このエレベーターに乗りに来ました。
このエレベーターの中で、ボスはスタンド能力で時間をふっとばし、トリッシュの手首を切断し連れ去ってしまうのです。

ボスめ!!!!!!

鐘楼の上からの眺めも美しいです。



ここで、ブチャラティとボスの闘いが繰り広げられます。
ブチャラティは顔から携帯電話を出しましたね。



たどり着くのに苦労しましたが、ジョルノたちが、スクアーロとティッツァーノに襲われたレストランも見つけられて良かったです。



ライオン像を破壊してDISCをゲットする指令を受け、ホワイト・アルバムのギラッチョと闘ったサンタ・ルチア駅。残念ながら見学できませんでした。jojo サンタ・ルチア駅

「『ベニスの商人』とか『ベニスに死す』とかよォ~~。なんで『ヴェネツィアに死す』ってタイトルじゃあねえーんだよォぉぉぉォーーッ。」で有名なギラッチョですが、

この闘いでの名言は、「『覚悟』とは!!暗闇の荒野に!進むべき道を切り開くことだッ!」でしょう。


ベネチア観光と食事

サン・マルコ寺院は、ベネチアで最も有名な寺院であり、世界遺産にも登録されています。聖マルコの遺体が眠っています。壮大な外観に圧倒されますね。内部の装飾も豪華で素晴らしかったです(写真撮影禁止)。夕方に行ったので空いていました。見学は無料です。

ゴンドラにも乗りました(80€)。
ため息の橋(Ponte dei Sospiri)は、16世紀に建設された歴史ある橋です。

ゴンドラで観光する場合、必ず通る有名スポットで、夕方にため息の橋の下でキスをした恋人は永遠に結ばれると言われています。

ロマンチックなスポットとしてとても人気となっていますが、この橋はドゥカーレ宮殿と牢獄をつなぐ橋でした。


サンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会サンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会隣の新しい博物館「プンタ・デッラ・ドガーナ」に行ってきました。安藤忠雄氏の手がけた内装が評判です。もとはヴェネツィア共和国の海の税関で、2007年にフランスのピノー財団コレクションを展示する現代美術館としてオープンしました。

ここは面白かったです。前衛的すぎて全く理解できませんでしたがとても楽しめました。

帰りの飛行機はミニラウンジにも行けました。食べて飲んでぐっすり寝れたのであっという間に関空に着きました。楽しかったです。是非また行きたい街です。


一般社団法人 日本ネット輸出入協会
代表理事 塚原昭彦


株式会社マーケティングスマイル 代表取締役 中井学 氏

2019-09-03 [EntryURL]

odahara-s.jpg株式会社マーケティングスマイル 代表取締役。
サラリーマンの副業からネットビジネスをはじめて独立し法人化。

現在、eBay輸出を中心にサイト販売や輸出コンサルタント、コンテンツ販売、アフィリエイトなどを展開。


2019年09月05日号 ネットビジネスで成功する思考法
2019年10月05日号 eBayで売上を増やす方法
2019年11月05日号

ドイツの若者は今世界をどのように見、どんな行動をしているのか 〜ユーチューブのビデオとその波紋から考える

2019-07-25 [EntryURL]

ドイツの国内の問題であり世界的に共通する問題として

前回からヨーロッパの若者に注目していますが(「世界最大の交換留学プログラム「エラスムス」 〜「エラスムス」世代が闊歩するヨーロッパの未来」)、今回は、5月に行われた欧州議会議員選挙でドイツの若者が具体的に起こした行動をみていきながら、今、若者たちが社会や世界をどのように見、自分たちをどのように位置付け、実際にどのような行動をしているのかについて、さらにスポットをあててみたいと思います。 そのなかでみえてくること ―デジタルコミュニケーションの時代の政治の在り方や、若者と中高年の世代の間の意見の違い、その間のコミュニケーションの仕方、地球温暖化の問題などー は、どこの国でも今後、重要になってくることであり、それらの課題にどう取り組み、そして国内の議論の場を新たにつくりあげていくかということもが大きく問われることも共通しているでしょう。このため、ドイツの例が、ほかの国においても共通する課題を読み取り、考察する手がかりになればと思います。

選挙前夜の突然の出来事

5月の末、ドイツをはじめEU諸国では5年に1度の欧州議会議員選挙がありました。ヨーロッパや世界全体では、EU懐疑派や極右政党の動向に強い関心が向けられた選挙であったように思いますが、ドイツ国内では、それと同じかあるいはそれ以上に国内の話題をさらったある出来事(事件?)がありました。 選挙日(国によって若干違いますがドイツでは26日)の約一週間前(5月18日)に、リゾRezoという26歳のユーチューバーが、キリスト教民主同盟(メルケル首相が所属する保守政党。以下では「保守与党」と表記)と連立政党である社会民主党に対する厳しい批判をした55分のビデオをユーチューブで公開し、それが選挙前で800万回以上視聴されたためです(6月5日現在の視聴回数は約1400万回)。選挙直前にはこのビデオの主旨を簡潔に繰り返す3分のダイジェスト・ビデオも、リゾと90名のユーチューバーによって作成され、配信されました(ビデオのリンク等は、参考文献に掲載してあります)。 選挙では、緑の党が第二党に躍進し(5年前の得票率は10.7%であったのに対し今回は20.5%)、これまで不動の二大政党の地位にあった保守与党も社会民主党(中道左派)は大きく得票率を減らしました(保守与党は前回の35.3%から28.9%、社会民主党は27.3%から15.8%)。 ユーチューバーのビデオ・コンテンツの二大政党への批判が、ドイツの政治事情を大きく揺るがす直接的なインパクトを、選挙を通して与えたのだとすれば、これは、ドイツでこれまで誰も予想していなかった、新たな境地です。 前代未聞の状況に一体なにが起きたのかと誰もが思い、これが何を意味するのかと背景をさぐり、これからなにが起こりうるのか、と考えずにはいられなかったのでしょう。このビデオがでてから2週間、このビデオやそれと選挙との関係について、メディアはこぞって報道していました。

ビデオの内容

まず、ビデオの内容について簡単にご紹介します。1時間近いビデオは、「キリスト教民主同盟(CDU)の破壊」というタイトルで、保守与党がいかに問題であるかについて、いくつかのテーマから議論しています。タイトルに「破壊」とありますが、リゾは、自分が保守与党を破壊しようというのではなく、ビデオで明らかにするようなファクト(事実)によって、保守与党は内部から破壊されていくのだ、とします。つまり、そのくらい保守与党には問題があるということをあげていく内容です。
後半部分では若干著作権や戦争や武器をめぐる人道的な問題などにも扱っていますが、最初の部分で、また最も時間をさいて(30分弱)扱っているのは、地球温暖化の危機とそれについてドイツ政治の取り組みについてです(ここでも環境のテーマだけを取扱います)。 まず、環境温暖化の危機がいかに深刻で目を背けてはいけない問題なのかを、学術文献を紹介・引用しながら、しかし中高生でもわかるようなわかりやすい解説で説明します(13ページの文献リストは、ビデオとは別に文書ファイルとしてネット上に掲載されています)。ちなみにその内容に関しては、ビデオが出されたまもなく複数の専門家たちによってファクト・チェックされ、間違いがないとお墨付きをもらっています。言い方を変えれば、ビデオが基づいているファクトや見解は、現在の圧倒的多数の研究者や専門家たちが合意している見解を反映したものといえます。 環境温暖化の危機が非常に深刻で刻一刻を争う問題であることをおさえた上で、二酸化炭素(CO2)を大量に排出する石炭火力発電所廃止は2038年まで延期するなど、リゾには到底考えられない環境温暖化を妨げる政策を続けている与党を、無能として痛烈に批判します。そして「未来を破壊し、環境を破壊し、それによって命を軽んじる」としか思われない政策をつづける保守与党や社会民主党に投票しないように強く呼びかけます。 ちなみにリゾは、通常、音楽を中心にしたユーチューブビデオを制作し、ドイツ語圏でも最も人気のあるユーチューバーの一人ですが、このような政治に関するビデオを制作したことも、公的に意見を述べるのもはじめです。自分自身も政治のような話をするのが一部の人の反感を買うことはわかっているが、それでもビデオを作さずにはいられなかったのは、数十年後に地球環境が破壊されたとしても、自分を振り返って、自分は「論理的に、学問的な結論に基づき、キリスト教的・人道的な価値観に基づいて正しく行動したと言いたい」からだといいます。そして「君もそう主張できるようであってほしい」と言ってビデオを終えています。 ユーチューバーが突然、このようなビデオを流したことで、背後に組織や政党があるのかと勘ぐる声もありましたが、リゾは、自分の意思でしたことで、政党やなんらかの活動から依頼を受けたわけではないと断言します。

環境危機こそ最優先の政治課題とする見解

このビデオは、6月5日現在、118万の高評価がつき、5万3000の低評価マークがついています。わたしの個人的な感想を述べさせていただくと、大変よくできていると思いました。 上記のように内容が学術的な調査をもとにした堅実なものであるだけでなく、55分にわたって政治を語る一方的なビデオ独演会でありながら、若い世代にもあきさせない軽さとテンポを保ち、それでいて分別ある態度で自分の主張をしっかり伝えています。批判も感情にまかせたり罵倒するような話し方でないところも、とても好感がもてます。そして、とくと彼の話を聞いた後、今の若者やその子供や孫たちの将来のことを、自分が十分に考えていたかと自問しました。 近年のヨーロッパは近年失業率こそ全般に減る傾向にありますが、難民や移民に関する社会的な対立や、格差問題、医療スタッフの深刻な不足など、懸念材料には事欠かず、気候変動や環境問題を重要と把握し位置付けている反面、ほかの問題を差し置いてもラディカルな措置を必要とする課題だという意識は、社会全体としてはそれほど強くない(あるいはなかった)のではないかと思います。 しかし、リゾのビデオでは、このままでは、環境危機の負のスパイラルに陥り、元にもどるもどることは不可能。残された時間は9年しかなく、どんな言い訳もできない。環境危機こそが最優先の政治課題であり、そのためには与党に委ねておいてはいけない、と訴えます。 このビデオをみて、数日後の欧州議会の投票で、与党に投票しないドイツ人がかなり実際に多かったとしても、うなずけるきがします。

中高年が仕切る政治にノーをつきつけた若者

実際に、リゾのビデオが選挙にどのくらいの影響を与えたのでしょう。実験して検証できるわけではないため、推測するしかありませんが、現状では、投票行動にリゾの影響がかなり大きかったというのが、一般的な見方です。ドイツの公共放送ZDFは、その影響に「リゾ効果」と早々に命名すらしています。ただし、リゾ自身は、自分のビデオが、それほど大きな役割を果たしたとは思えないという見解を示しています。 リゾはユーチュブで92万人のチャンネル登録者をもつ、ドイツ語園で著名なユーチューバーであり、このビデオをいち早く、そして最も多く視聴したのは、圧倒的に若い世代でした。わたし自身も、このビデオの存在を最初に知ったのは、ティーンエイジャーの息子にすすめられたからでした。 リゾも、環境問題が、これからの若い世代やその先の世代の未来に決定的な影響を与えるものであり、だからこそ若い世代に、自分の未来を壊さないような決断を選挙でするよう促します。 ビデオの感想欄で、「ビデオを最後までみた。これからすることが三つある。ビデオを親にみせる。ビデオを学校のクラスにみせる。選挙にいく」(Quiet Dudeのコメント)というものがあり、これには2万8千回(6月5日現在)の「いいね」がついています。このビデオをみてこのような感想をもつというのが、このビデオをみた標準的な若者たち(ドイツの選挙は18歳から)の反応であり、だからこそ、視聴数がわずかの期間に急増したのでしょう。 選挙結果は、18歳から29歳の若者で緑の党を選んだのが31%、保守党が14%、社会民主党が9%でした。今回はじめて選挙資格を得て投票した人たちだけをみると、36%という圧倒的多数が、緑の党を選び、保守党(11%)と社会民主党(9%)を合わせてもまだ、緑の党の5割強にしかならない結果となりました。これらの結果を、上述のドイツ全体の投票結果と比べると、若者たちが30歳以上の中高年の世代とかなり異なる投票行動にでていたことがよくわかります。 今年4月22日からの1ヶ月間行われたアンケート調査(Diekmann, 2019)では、18才から29才の若者で、ドイツの政府(政治)は問題解決能力がないと回答した人が81%にものぼり(65歳以上では72%)、温暖化対策が最も重要な課題とする人の割は約30%いました(65歳以上では16%)。4 月16日から29日まで行われたヨーロッパ8カ国の若者(18〜24才)を対象にした別の調査では、ドイツの回答者の51%が、環境と気候変動対策が、ヨーロッパの未来のテーマで最重要と回答し、8カ国で最大となっています(Drüten, 2019) これらの調査はビデオ以前のもの、あるいは以前から始まっており、リゾの指摘するとおり確かに、ビデオ以前からでてきた様々な要因がからんで、今回の選挙結果になったと考えるのが適切でしょう。スウェーデンの16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリGreta Thunberg の呼びかけに触発されて、今年初めから活発になり毎週金曜に続きられるようになった、環境政策のラディカルな促進を訴えた「フライデーズ・フォー・フューチャー」などの若者のデモ活動の影響や、2万6800人のドイツ、オーストリア、スイスの科学者たちが共同で声明を出すなど、地球温暖化防止のための活発な活動がドイツで全国的に展開されてきたことは、特に大きかったでしょう。 言ってみれば、短い期間に大量に視聴されたリゾのビデオは、選挙において、それまで床に少しずつ並べられてきたドミノを一押しするような効果をもたらす、タイムリーなものであったといえるかもしれません。 環境危機を重視する政治意識や今の与党に不満をもつといった直接的なことだけでなく、この選挙結果は、若者の間に強くなったもろもろの意識もまた映し出されているように感じられます。それを言葉に表すと、若者たちが、自分たちは半人前でもないし、まして同じような考えでもない。自分たち自身の意見をもっているし、それを選挙行動などを通じて、社会に示すこともできる。社会を構成する重要な一部であり、特に先の未来の社会について何が重要かを判断し、決める権利があるはずだ、といったことではないかと思います。 これは、多数のメディアが、今回の選挙結果の背景として指摘するような、これまで政治は中高年に仕切られ、若者の意見も、また若者の生きるこれからの時代についてもあまりに軽視されていると感じているという、若者の現在の思いと表裏一体でもあるともいるかもしれません。

保守党政治家の反応と対策

さて、リゾのビデオについて、上の世代の人々はどんな反応をしたのでしょう。もちろん多様な意見や反応があったでしょうが、メディアでとりわけ取り上げられ、ひときわ目立っていたのは、名指しで非難された保守与党の政治家たちの反応です。 当初、ユーチューブで自分たちの意見を、リゾと同じ年齢の保守党政治家を動員して作成しようとしましたが断念し、自分たちが信頼し得意とするコミュニケーションツール(既存のマスメディアを通じた発言や、反論文書のネット上の公開、リゾへの討論への招待)を通じての批判や対話を試みました。 まず、リゾへの反論として、11ページの文書をネット上に選挙直前に政党のホームページで公表しました(5月23日)。しかし詳細にわたる反論であるということ以外はほとんど報じられず、リゾのビデオを視聴した若者を中心に広範にアピールできるようなメディアツールでもなかったため、選挙行動にはほとんどインパクトはなかったと思われます。 リゾに対しては、自分たちが得意とする討論という形で直接向かい合いたいと希望し、招待しましたが、断られたため不成立に終わりました。リゾは、自分が吃音であること(ビデオは編集されているので、吃音であることはわかりません)をその直接的な理由としてあげ、自分個人が議論にでることが重要なのではなく、自分が訴えた内容について議論することが重要なのだとも強調しました。ただし投票後に条件つきで討論に応じるという声明をそのあと出しており、今後討論が成立する可能性はあります。 最も失敗に終わったのは、保守与党党首クランプ=カレンバウアーAnnegret Kramp-Karrenbauer(メルケルの後任)の発言でした。選挙後、デジタルメディアの言論の自由を規制すべきだと言っているようにもとれる、踏み込んだ言及をしたことで、若者だけでなく社会全体から不評を買い、連立を組む社会民主党からも距離を置かれ、より不利な立場に追い込まれました。 政治家たちは、それまで一切関心ももっていなかったし、関係もないと思っていなかったユーチューバーが、いきなり攻撃をかけられて、余裕をもって対応できなかったのだ、と空回りに終わった始終を、弁解したいところでしょうか。しかし、それを考慮したとしても、全般に感情的な反論が目立ち、リゾを中心とする若者の気持ちを理解したり歩み寄るためのコミュニケーション手段も姿勢も乏しく、同じドイツ語を話しているはずなのに、若者とのコミュニケーションが成立していない、という印象はぬぐえませんでした。 そのような保守党の政治家たちの言動について、『シュピーゲル』のコラムニストで、デジタルメディア通のロボSascha Loboは、「まちがうことができる箇所をすべてまちがった」(Lobo, 2019)と評しています。

新しい政治的議論の場ができるチャンス

ところで、ロボは、彼の1時間強のポットキャストの番組で、リゾのビデオについて、選挙行為への影響や、環境政策への効果といった直接的な相関関係からではなく、より広い脈絡からあれこれ分析をしています (Lobo, 2019)。そこでとりわけ興味深かった指摘について、わたしの言い方でまとめさせていただき、紹介してみます。 これまでドイツで政治的議論というと、必ず移民・難民問題になった。極右や一部の保守勢力にとって、移民・難民問題がほとんど唯一の政治的テーマであり、これによって自分の敵か味方を区分し、またこのテーマによって支持者を増やしてきた。そしてこのテーマがでてくると、必ず、極右勢力とそうでない人という二手に分かれ、意見が対立し、議論は先に進まずデッドロックとなった。 しかし、リゾのビデオは移民の話が一切でてこない。政治的に最も優先されるべきとする地球温暖化の問題に特化している。そして、保守与党を集中的に批判している(極右政党も入れるのは問題外だとしていて間接的に批判はしてはいるが)。 これによって、リゾは政治討論のテーブルを一掃し、討論の対立軸も新たにつくりだした。ここでの対立とは、極右対アンチ極右ではなく、保守与党とアンチ保守与党である。このように、政治的な議論の場(テーマ)を全く違うふうにあつらえ、そこで対立する項目も仕切り直すことで、極右勢力がほかの人と同じような立場で討論の壇上に立つことを可能にした。そして、やっと普通の議論(これまで極右がしていたような一つのテーマについての敵と味方に別れた堂々巡りの議論ではなく)を可能にした。これこそが、これまで延々と平行線がつづいたドイツの政治的討論で、状況を打破できる解決策かもしれない。 つまり、リゾが地球温暖化という極めて狭い特化したテーマを扱ったことで、ドイツの政治討論の場が活性されるかもしれないという希望的観測であり、もしそうであるなら、このようなステージにドイツを運びこんでくれた「リゾに感謝をしなくてはならない」と、結んでいます。 たったひとつのビデオに、そこまでの影響を期待していいのか、と、にわかに信じがたいような気もしますが、もしもそうであるなら、そのような可能性があるとすれば、確かに、(リゾがそれを意図していたかに関係なく)、近年硬直した対立が際立っていたドイツの政治空間に、ひとつの貴重な果実を実らせたことになるでしょう。

まとめとおわりに

この一連の動きで、わたしにとってとりわけ興味深く感じられたのや読み取れたように思えたことをまとめてみると以下のようになります。 ―政治とは全く無縁なところにいると思われていたユーチューバーが、ユーチューブのビデオを使って、国の政治を痛烈に批判したこと ―それが、たった1本のビデオ(正確には3分のダイジェスト・ビデオも加えると2本)であり、選挙前のたった一週間に公開されたものであるにも関わらず、ドイツ中に大きな反響をもたらしたようであること ―環境危機への対策が、最重要の政治的課題と認識している若者が多いこと ―与党政治家たちは、若者のそのような行動や意見を想定していなかっただけでなく、対応にも失敗し、さらに窮地に追い込まれたこと ―若者たちは、選挙行動で、中高年の意向にノーをつきつけ、同時に、自分たちの行動が社会でもちうる可能性を自覚しつつあること そして、これらの背後でもうひとつ明らかになったことがあったように思います。それは、(これまでよく知られていた)東側と西側の溝、極右とそれに距離を置く人の溝以外にも、ドイツのなかにいくつもある人々の間の溝ができていることです。 若者と中高年の溝、伝統的なマスメディアを好む人ともっぱらデジタルメディアを使用している人の間の溝、伝統的なやり方と世界観で仕事をしている人とユーチューバという新しいジャンルの就労・生き方をする人との溝。 それらは、ほとんど気にもとめられていなかった溝や、可視化されていなかったものです。それらの溝は、あることに気づかずにいたほうがよかったのでしょうか。そうかもしれませんが、溝に気づいてしまった以上、それを埋めることは簡単ではありません。また、溝を深く掘り下げていくだけでも、不和と相互の不信以外になにもでてこないこともまた、ドイツ人は近年強く学んできました(「ドイツ発対話プロジェクト 〜フィルターバブルを脱ぎ捨てた先にみえるもの」「人は誰とでも対話できるのか 〜プロジェクト「ドイツは話す」からみえてくる希望と課題」)。 少し視点をずらして、考えてみましょう。多くの人々が一つの国に暮らすということは、当然、社会や文化的背景、性格的な差異などをもつ人がいるということであり、社会グループ化した人たちの間に溝が生じるのも不可避です。 しかし、溝ができたからイコール、デッドロックなのでなく、溝があっても、溝の反対側の人と対話するために自分にまだ何が可能か。自分のコミュニケーションの仕方や流儀、メンツなどにこだわらず、溝のそばまで歩み寄って、溝をこっちからわたろうとしてみたり、あちら側の人が溝をわたろうとしていたら手助けしたり、あるいはお互いに溝の底から、上をみあげてみたり。そのようなことを、溝に隔てられた双方が柔軟に考えていけるようであったら、どうでしょう。 今回の選挙騒動を機に、新たな対立項をもつだけでなく、溝のある人どうしのコミュニケーションの仕方についても、若者やまた若者以外の世代が、考えてみることができれば、ドイツの政治も環境対策も、新たなステップに進めるのかもしれません。

参考文献

Rezo ja lol ey, Die Zerstörung der CDU(リゾのビデオ「キリスト教民主同盟(CDU)の破壊」) Hier sind alle Quellen vom CDU-Video. Hoffe es ist alles korrekt übertragen. Falls irgendwo ein Flüchtigkeitsfehler drin ist oder so, schreib mir gern auf den verschiedenen Socialmedia Plattformen 🙂 (リゾのビデオの参考文献リスト) Rezo ja lol ey, Ein Statement von 90+ Youtubern, YouTube (リゾと90余名のユーチューバーのビデオ, 2019年5月24日公開) //// Backers, Laura et al., Kinder der Apokalypse. In: Der Spiegel, Nr.23/1.6.2019, S.12-21. Brost, Marc, Der Aufstand der Jungen. Wahlkampf auf YouTube, Aktivismus statt Routine und die Grünen als stärkste Kraft: Die Erstwähler verändern die Regeln der Politik, Die Zeit, Politik, S.3. CDU, Offene Antwort an Rezo: Wie wir die Sache sehen, 23.05.2019 Drüten, Carolina, Junge Deutsche sorgen sich mehr ums Klima als der Rest Europas, Welt.de, Veröffentlicht am 25.05.2019 | Lesedauer: 5 Minuten Europawahl 2019 Die Ergebnisse in der Übersicht. In: Der Tagesspiegel, 27.05.2019, 16:10 Uhr Europawahl-Ergebnisse nach BundesländernAfD triumphiert in Brandenburg, Grüne in Hamburg - so haben die Wähler abgestimmt. In: Focus Online, Dienstag, 28.05.2019, 17:43 Fridays for Future ホームページ(ドイツ語) Lobo, Sascha: der Debatten-Podcast #95 - Digitalpolitik der GroKo - Marathon im Fettnapf, Spiegel Online, Sonntag, 02.06.2019 11:20 Uhr Oberender, Thomas, Die revolutionäre Kraft von 55 Minuten Youtube „Wir sind Rezo“, Der Tagesspiegel, 30.5.2019. Rezo-Effekt? So reagieren CDU und SPD auf die Europawahl - heute+ Livestream | ZDF, 0:00 / 19:05, 2019.05.27. Rezo, Wikipedia (2019年6月4日閲覧) Scientists for Future Tilo Jung, BPK: “Scientists for Future” zu den Protesten für mehr Klimaschutz - 12. März 2019(2019年6月5日閲覧)

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


ACM株式会社 代表取締役 徳留大輔 氏

2019-07-20 [EntryURL]

徳留大輔1986年福岡県生まれ 早稲田大学商学部卒 大学卒業後ITベンチャー企業に就職し、大企業向けERPシステムの営業を行う。 その後BtoCビジネスへの興味から飲食企業に転職し、SVや店舗管理業務に携わる。

2016年に個人事業として海外向けの越境EC販売を始める。同年9月に業績好調のため法人化。 販売プラットフォームやサプライヤーの拡大を行う。

海外商品の代理店販売事業、輸入や国内EC事業への参入も行い現在に至る。

ACM株式会社HP https://acmjp.com

2019年07月30日号 Amazon輸出等においての仕入先の拡大①
2019年08月30日号 Amazon輸出等においての仕入先の拡大②
2019年09月30日号 Amazon輸出等においての仕入先の拡大③

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