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ツーリズムの未来 〜オーストリアのアルプス・ツーリズムの場合

2016-03-23 [EntryURL]

今日、24時間、様々なサービスに時間を問わずアクセスして、世界中から視覚・聴覚的な情報を簡単に入手することができます。また3D効果や4Dの技術で、臨場感あるバーチャルな世界を体感することも可能になりました 。これほど充実した情報と娯楽が提供される時代において、自分が時間と費用、労力をかけて行う「旅行」 に果たして意義や意味が、まだどのくらいあるのでしょうか。

スイスには「スイスフューチャー」という40年以上の歴史をもつ学会があります。学会名は万博のパビリオンにででもつけられそうな、かっこいい名前ですが、まじめなスイスの人文社会学系の学術研究団体です。この学会が年に4回発行する学会誌で、昨年、将来の旅行や観光について考える「未来のツーリズム」というタイトルの特集が組まれました。バーチャルな旅行や、スラムやチェルノブイリを観光するダークツーリズムなど、 様々な世界のツーリズムの傾向について取り上げる一方、冒頭の問いの答えるような指摘もみられました。今後もツーリズム(旅行)は廃れるのではなく、むしろこれまでにないような大きなチャンスを前にしているというものです。一体どういうことなのでしょうか。関連するエッセイの主旨を、補足しながら紹介してみると以下のようなことになります。

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まず、どんなにデジタル技術を駆使して臨場感あふれる体感が再現できるようになっても、それはあくまで再生可能なコピーの一種にすぎず、その場、その瞬間でしか味わえない一回性の価値をもつものとは、一線を画します。このため、ツーリズムのもつ再生不可能性やオリジナルの体験は、依然として高い価値を持つことに変わりなく、その地位は一般的に代替不可能なゆるぎないものと考えられます。

また、出始めのときに店頭に並んだりして苦労して手に入れて貴重に思えたタブレットやスマホが、今は、各家庭あるいは個々人で一つもてるようになると、たちまち大した価値をもつようには思えなくなるのと同様に、オンラインでつながることが誰にでもいつでも可能になることで、オンラインの常態化は、「特別のすごいこと」ではなくなってきます。それと同時に、つながり続けていることに逆に違和感をもち、それを是としない心境(考え方)を持つ人が逆に増えてゆきます。このような心境は、JOMO( the joy of missing outの略)と呼ばれ、直訳すると「機会を逸することの喜び」です。なぜ、こんな略語の形で呼ばれるかというと、それ以前からあった言葉 FOMO the fear of missing out に対峙して出てきた言葉があるためです。

FOMOは、すでにオクスフォード英語辞典にも掲載されているほど、近年の社会で頻繁にみられるようになった心理症状の一つです。直訳すると「機会を逸することへの恐れ」であり、いつもノンストップでオンライン、アップデイトして大切な機会を逃さない、すべてをいつでも手にいれられる状況に自分をおきたいという衝動にかられることであり、そうしないと大切なことを逸してしまうのではないかという危惧にさいなまされることです。このような衝動や危惧を解消しようと、オンライン活動へのコミットや時間をいくら多くしても、状況は改善されず、それどころか、ついにはオンライン機器から離れられないほど、強く依存することになります。

これに対して、全部が必ずしも欲しい、あるいはなくてはいけないとは思わない、またそんなことより、自分の充足感を大切にする考え方が、JOMOです。 現在、どのくらいこのような考え方を支持する人がいるのか、正確に把握されているわけではありませんが、今後、社会全体でオンラインの常態化が進み、対応のスピードがさらに加速化されるようになると、その反動として、社会でこのような考え方に共感する人の数が、一定数増えていくことが予想されます。

JOMOのような考え方をもつ人たちにとって、何をどのくらいということよりもむしろ、自分にとってなにが重要か、それはなぜなのか、という主体的で個人的な理由や関わりかたに強い関心をもちます。そのため、ツーリズムは、自分が主体的に独自の体験をすることができる格好の機会として、とりわけ好感をもって受け入れられると考えられます。また、自然の只中の静寂のようなオンラインを前提としないツーリズムも、 オフラインというなかなか日常では得られない「ぜいたく」な時空を提供するものとして、高く評価されるようになります。

これらの理由から、 ツーリズムには今後も大きなチャンスがある、という結論にいたるのですが、具体的にどのような側面や要素が重要になってくるのでしょうか。世界中にあふれているものや、どこでも再生可能なものではなく、それぞれの場所に独自で特別なもの、人、文化、伝統がクローズアップされてくるだけでなく、ツーリズム全体における自然環境の比重も増すと言います。将来、世界的に圧倒的多数の人が、地方ではなく都市に居住すると予測されており、その分、余暇を別の環境、自然環境で過ごしたいと考える人の数が増加すると考えられるためです。その際「持続可能性」が、 ツーリズムの重要な柱になるとします。自然環境を観光資源とする「自然」訪問型ツーリズムで 、環境を維持存続させることが不可欠なだけでなく、今後は、ほかの産業界と同じように、環境への負荷や環境からのインパクトを無視しては、産業として成り立たないとします。

ここまで ツーリズムの将来の可能性をスイスフューチャーでの指摘に沿って、まとめてみましたが、「持続可能なツーリズム」 をもっと具体的に考える上で、オーストリアのアルプスの観光業界の現状と今後の指針は、示唆に富んでいます 。

オーストリアは、以前「オーストリア観光業界と日本人 」でもご紹介したように、ヨーロッパや世界各地からの観光客の集客に成功しており、国内総生産の15%が観光業という、世界有数の観光大国です。都市や文化施設の観光だけでなく、アルプスの「自然」を売りにしたツーリズムでも 名を馳せており、特に近年は、オーストリアではウィンター・ツーリズム(冬の観光・旅行)が、夏季のそれに宿泊数で上回るまで勢いを増しています。一見順風満帆にみえるオーストリアのウィンター・ツーリズムですが、実は根幹からゆるがされるような困難に直面しています。年々温暖化の影響が強くなっており、冬の観光名所である、アルプスのスキー・リゾートが大きな打撃を受けているのです。

アルプスは、フランス、ドイツ、スイス、イタリア、オーストリアにまたがるヨーロッパ随一の山岳地帯であり、観光業界からみれば、巨大な自然観光リゾートです。1950年代から夏季に大型バスなどで訪れるアルプス・マスツーリズムが始まり、それから10年ほど遅れて1960年代半ばごろからは、冬のスキー・ツーリズムが本格的なブームとなっていきました。近年はドイツ語圏のアルプス観光において、オーストリアが一人勝ちの状況が続いており、オーストリア一国だけで、全ヨーロッパのウィンター・ツーリズムの50%を占めるほどです。

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観光客急増の背後では、これまで大規模な開発が行われてきました。2000年以降、ロープウェーやゲレンデ、人工雪施設やリフトなどに80億ユーロが投資されており、現在、オーストリアには、330のスキーリゾートがあり、ゴンドラやロープウェーなどスキーリゾートの設備を管理・経営する会社数は880社にのぼります。特に年間4300万の宿泊数をほこるチロル州では、リフトやロープウェーなどの輸送手段が900 以上あり、スキー・ピスト(スキーゲレンド内のコース)は全部合わせると2400キロにまで及びます。

しかし温暖化によって、積雪量が大幅に減り、氷河も年々減っています。このため、オーストリア全体ではピストの56%、チロルに関しては ピストの75%までが人工雪頼みという状況です。人工雪は経済的に高価であるだけでなく、環境への負担も多大であり、経済・環境面どちらからみても長期的な問題の解決にはなりません。また、今後も温暖化は弱まるどころか、強まることが予想されるため、特に標高1500メートル以下の場所でのウィンタースポーツを中心にした冬のツーリズムは難しくなると考えられ、将来は現在あるアルプスのウィンタースポーツのリゾートの半分がだめになるのではと考えられています。

このような状況下、これまでのようなウィンタースポーツ中心のリゾート開発には疑問の声が強まっています。しかし、代わりに具体的に何をどうするべきなのでしょうか。これまで国や州の観光業界が議論を重ねてきて、現在、打ち出されている具体的な指針は以下のようなものです。

—-スキーリゾートの大規模化
新しく大規模なスキー場を作るということではありません。既存の近接するスキー場が、共通のリフト券などのチケットの発行や、スキー場間の輸送・交通網を発達させ、スキーリゾート・エリアを拡大することで、降雪が少ないスキー場などをお互いに補完しあうという施策です。山あいの山岳地域のどこにどのくらい雪が降るのかは、天気のきまぐれで、予想もできなければ、対策も施しようがないので、近隣のスキー場同士が競合のかわりに、相互扶助的な関係で、リスクを最小限にしようというものです。

—-冬の保養地として
もともと標高が低いスキー場や、中・小規模の零細スキー場には、大規模なスキーリゾートに統括されることは、魅力より負担が多く、適策とはいえません。そのようなスキー場には、むしろ冬の保養地としての方向転換がふさわしいとされます。

冬の保養地とは、散策やそりすべりなどの軽いスポーツとウェルネスを組み合わせたもので、冬に雪なしでもやっていけるようなツーリズムのあり方です。オーストリア観光協会の調査でも、冬のレジャーとして、ウィンタースポーツ以外のものにも潜在的に興味がある人が、かなり多くいることがわかってきました。特に高齢者は、一定の年齢以上に達するとスキーをしなくなるため、ウェルネスなど、スキー以外の需要が大幅に増えることが予想されます。(ヨーロッパの健康志向を汲み取って、施設として広く定着しているヨーロッパの「ウェルネス」 施設やビジネスについては、「ウェルネス ヨーロッパの健康志向の現状と将来 」をご参照ください。)

オーストリアにとって、スキー客はこれからも、重要な観光客グループであり続けるにせよ、恵まれた自然環境のなかの保養地の滞在を主目的とするようなツーリズムが今後はもっと成長していくと考えられます。

—-夏の避暑地として
同じ地域でも、ハイシーズンを半年ずらして夏季にすると、新たなチャンスが見えてくるのでは、という提案もあります 。地中海一体も温暖化の影響で、夏に45度以上を記録する日が50日以上続くのもめずらしくなくなってきています 。そのため、これまでは、夏季休暇に太陽を求めて南下していた北ヨーロッパのバカンス客も、猛暑がひどくなるにつれ、南ヨーロッパから足が遠のくかもしれません。また、南ヨーロッパ在住の人たちにとっても、夏の暑さを逃れる避暑の需要が高まることも考えられます。そのため北と南両方面から、 格好の滞在の場として夏の涼しいアルプスで過ごす人の割合が今後増えるのでは、という希望的な予測があります。近年こそオーストリアでは、冬のウィンタースポーツ・ツーリズムの攻勢が目立っていましたが、夏季のアルプス観光が再び流行るようになるのかもしれません。

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ただし、夏季のアルプスのツーリズムが再び活性化されたとしても、ツーリズムの最大資源である自然環境の維持保存や温暖化対策を至上命題とする、持続可能なツーリズム路線からはずれることは避けねばならず、「ソフトツーリズム」がキー概念として掲げられています。ソフトツーリズムとは、大規模な開発による集客効果でツーリズムを成り立たせるいわゆる「ハードツーリズム」という形態に対峙するツーリズム概念で、もともと地域がもっている独自の資源、自然風景や生態系、史跡や文化、生活習慣などを活かすツーリズムのことです。アルプスであれば、山の景色や牧草地の合間をぬった散策道や登山コース、地域の動植物との間で育まれ培われたきた食事や住文化、風習の享受や体験などが、ソフトツーリズムのコアとなるでしょう。

生活や社会環境の急激な変化や自然や気候の変動など、世界全体や地域を直撃する影響や変化を前に 、転換を余儀なくされているのはオーストリアのアルプス・ツーリズムだけではありません。今後、現状に安住したり、問題から目をそらすのではなく、それぞれの国や地域が、いかに新しい課題にどう対応して構造変換していくかが、それぞれの地域のツーリズムの将来の明暗を分けていくことでしょう。

参考リンクと文献

—-未来のツーリズムについて(今回紹介した要点が掲載されている『スイスフューチャー』のエッセイ)
Barbara Gisi, Schweizer Tourismus im Jahr 2040 -Ein Essay, swissfuture, 01/2015, S.3-5.

Gerd Leonhard, Echte Erlebnisse statt Beliebigkeit, swissfuture, 01/2015, S.6-8.

—-オーストリアのウィンターツーリズムの将来について
Bundesministerium für Wissenschaft, Forschung und Wirtschaft, Klimawandel und Tourismus in Österreich 2030. Auswirkungen, Chancen und Risiken, Optionen und Strategien. Studien-Kurzfassung, Wien 2012.

Florian Gasser, Sie opfern die Alpen, zeit online, zeitonline, 22. November 2012.

Stefan Müller, Die Kleinen sterben aus, zeitonline, 10. 11. 2014.

Österreich wegen Klima im Wandel, zeit online, 17. November 2014.

Wintertourismus Schnee war’s, Süddeutsche Zeitung, 24. Januar 2016.

Die Zukunft des Wintertourismus, ÖGZ, 05.11.2015.

—-他の参考サイト
What are FOMO and JOMO?

FOMO (Wikipedia, ドイツ語版)

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


株式会社アームズ・エディション 代表取締役 菅谷信一 氏

2016-03-22 [EntryURL]

sugaya.jpg株式会社 アームズ・エディション 代表取締役
一般社団法人 日本動画マーケティング協会 代表理事
一般社団法人 竹田ランチェスターアカデミー 代表理事

1969年、茨城県笠間市生まれ。獨協大学外国語大学卒業後、日立製作所関連会社で人事・教育を担当した後、障害者のための福祉施設「茨城福祉工場」で社内企業家として続々とヒットビジネスを企画する。2001年に独立開業。

インターネット業界歴18年のキャリアにおいて、建設業、製造業、サービス業など幅広い業種で、YouTube動画を活用した集客法を企業に支援し、これまでに総額50億円以上の売上アップの実績を持つ「YouTube集客専門コンサルタント」。

一円のコストもかけず短期間に成果を出し、超アナログ世代の経営者でも簡単に実践できる独自の「菅谷式YouTube戦略」を提唱し多くの実践成功者を輩出している。

年商3000万円・下請け9割の建築板金業を3年で年商2億、元請け9割に(茨城県水戸市の株式会社MURATA)、年商2400万円の工作機械販売商社を1年で年商1億6000万円に(埼玉県春日部市の株式会社鈴喜)各々、業績向上させるなど、即効性のあるネット戦略で支援するのが特徴。

2010年に著書「ネット経営逆転の法則」(ごま書房)を出版以降、「YouTube大富豪7つの教え」、「不況知らずのランチェスター最強経営力」など、YouTube戦略、ネット戦略、経営戦略関係の著書をコンスタントに出版。「あなたが先に儲けなさい」(経済界)はamazon500万冊の頂点の総合第一位、「YouTube動画でビジネス・人生を10倍開花させる法」(セルバ出版)は、韓国でも翻訳出版される。

全国で年間70回ほど開催されるセミナーでは、自身が手がけた豊富な業績改善事例を取り上げ、その舞台裏をユーモアも交えて赤裸々に紹介することが最大の特徴。 15分に一度の笑いで学ぶリラックスした雰囲気の講演スタイルながらも「次の日からそのまま真似して実践できる。」、「何から取り組めば良いがよく分かる」と全国の経営者に反響を呼んでいる。

現在、全国の中小企業へのコンサルティング、講演、著書執筆に精力的に活動中。

公式ブログ http://www.sugaya-shinichi.com/


2016年04月15日号 誰も知らないYouTube成功の真実 その1
       「再生回数ゼロでも業績倍増の秘密」
2016年05月15日号 誰も知らないYouTube成功の真実 その2
       「100円でできる動画の反応を10倍にする方法」
2016年06月15日号 誰も知らないYouTube成功の真実 その3
       「YouTube実践成功企業に共通する継続習慣化実現の理由」

販売していないサイトで4,000ドル売れました

2016-03-21 [EntryURL]

自分の扱っている商材は他人に言わないほうがいいです。
ライバルに真似される、ライバルに参考にされるからです。

わたしは海外サイト販売が得意ですが、サイトURLは絶対公開しません(仕入先・提携先との契約もありますが)。
本は2冊出版させていただいていますが、そこでもURL記載は断りました。

日本からは閲覧不可にしています。コンサルティング会員さんにもそのようにしてもらっています。
ライバルに見られていいことはひとつもありませんので。

自称「売れているサイト」として公開しているサイトは、

ハナから売れていないサイト。

前は売れていたサイト(今は売れていない)。

(仕入れができなくなったなどの理由で)販売できなくなったサイト。

が多い感じがします。
公開しているサイトを真似しても売れないです。

公開して売れているサイトももちろんあります。
わたしの知り合いの国内サイトなどですが、

適正に広告を出稿しライバルより安くアクセスを集められているサイト。

ライバルが追いつかないくらいのオーソリティサイト。

特別な仕入れ(代理店契約・提携など)ができるサイト(信頼感・価格競争)。もしくは自身がメーカー。

と、ライバルには一朝一夕で真似できないサイトなら公開しても大丈夫です。
が、それでもやはりわたしは公開否定派です。

あとひとつ、堂々と公開してもいいサイトがあります。

ライバルが「真似できない商材」を扱っているサイトです。

実は複数のコンサルティング会員さんで最近連発でこの話が出てきました。

免許や認可を必要とするもので、それぞれかなり障壁は高いです。
一般人だとほとんど無理ではないでしょうか。

多分みなさん「海外で人気があるけど売ることができないな」、と想像できる商品です。
今回3つのそのそうな商材のご相談を受けわたしもとても楽しみです。

ライバルはまず入ってこれません。

しかしここはプラスでもありマイナスでもあります。
わたしたちモノを持っていないセラーは、その分野で突き抜けることは難しいですが、いろんな商材を扱えるというメリットがあります。

「仕入れ」と「販売方法」。売るため・利益を得るための重要な両輪です。
しかしまず習得するのは販売方法からです。

仕入れから入りたいという人もいますが、これは成果がなかなかでません。
折角いい商材でも売る力がなければ、誰にも買ってもらえません。

ですので先に販売方法、売る力を身につけてそれから特別な仕入れを目指します。
仕入れの交渉もその方がスムーズです。

商品有りきで販売するのはとても難しいのです。
ですので会員さんたちが苦労して扱えるようになった商材は、簡単には売れませんが、いったん芽が出たらそれこそオーソリティサイトになれます。
一生懸命サポートさせていただこうと思います。

話はちょっと変わって、わたしもいくつか公開しているサイトがあります。
その中のひとつのサイト。弊社クライアント・コンサルティング会員さんでしたら全員ご存知のサイトです。

まずはこんな感じで作ってくださいというサンプルサイトです。
いたってシンプルなものです。

そのサイト、サンプルなので商品は並べていますが決済はできないようになっています。
ですがアクセスはまあまああるし、海外から質問もたまにくるんです。

「販売していないのでごめんさい」と返事しているんですが、先日ちょっと変わった問い合わせがありました。

「会社のパーティーのプレゼント(?ゲームかなんかの賞品とぼくは理解しました)にしたいがアメリカから買ったら間に合わないので」ということでアジアの国の方からいただいたのです。

いくらでも探せばあるでしょうにわざわざ問い合わせしてまで。

でもなんか面白そうですですね。

利益を乗せて金額を提示しました。PayPalで支払ってもらいました。
しばらくするとまたメールがあり、別の商品の価格を教えてほしいとのことです。

詐欺のにおいがプンプンしてきました。

これも言い値で決済完了。
住所を調べてみるとなるほど会社みたいです。詐欺ではないのかな。

その後も何度もメールでやりとりし、結局18個の商品4,000ドルくらいお買い上げいただきました。

やりとりたいへんでしたが利益も10万超えているので良かったです。

言い値ではありましたが、もちろんぼったくり的な料金設定ではありませんでしたし、3回目からは円決済にしてもらったらので利益確保できた感じです。

反対にお客様も詐欺に遭うのではという不安はありました。
実店舗の写真や、他の販売サイトを見せてほしいと要望がありました。

英語のプロフィールページや協会のサイトなどをお見せして納得してくれました。

今日も連絡があり、この取引がうまくいけば継続的に日本の商品を紹介してほしいと書かれていました。

いいお客様なのか、それとも新たしい詐欺なのか。
また機会がありましたらご報告させていただきます(笑)。


肉なしソーセージ 〜ヴィーガン向け食品とヨーロッパの菜食ブーム

2016-03-15 [EntryURL]

今年の初め、寒くて暗い夕方6時前に、スイスのある菜食レストランを訪れました。夕食にはまだ早い時間なのに80席ほどもあると思われる席は、ほぼいっぱいという、ほかの店がみたらうらやましい限りの盛況ぶりで、店内は、見渡すかぎり女性でした。この光景、その時は尋常でないように思えたのですが、今から考えれば、スイスやドイツの今日の食事情をよく映し出していたようです。
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肉を食べることは、豊かさの証であり、一種のステイタス・シンボルのように社会で捉えられていた時代が、ヨーロッパでも日本でもありました。しかし、スイスやドイツでは、少なくともそのような連想は、すぎさって久しいように思われます。かわって近年人気を博しているのが、肉をさける菜食志向(菜食主義)です。これに伴って、菜食主義者向けの食品の売り上げも急速に伸びています。ドイツでは2015年、菜食主義者向けの食品の総売り上げは、4億5400ユーロを記録しました。菜食への関心の高まりは、菜食の調理法への関心にもつながっており、著名なコックAlfred Biolek とEckart Witzigmannの菜食の料理の本「我々の料理本」は、これまでに30万部以上が売れています。料理教室でも、菜食専門コースが定番コースとして設けられ、人気を博しています。
菜食食品産業のなかでも、特に最近急成長している分野があります。ヴィーガンという新しい菜食主義の人に合わせた食品類です。ヴィーガン(ドイツ語では「ヴェガンVegan」と発音されます)とは、菜食主義協会から分離して1944年にイギリスで設立された「ヴィーガン協会」に由来し、乳製品は摂取する従来のベジタリアンと異なり、肉だけでなく、動物からつくられるすべてのもの、乳製品から卵、はちみつまで控え、皮革や羽毛なども使わない、あるいは使用をなるべく最小限に止留めようとする人たちのことです。
2015年2月の『ジュートドイチャー・ツァイトゥング』新聞の記事によると、ドイツでは食品から、化粧品、服飾品、花壇用の土にまでいたるヴィーガン関連商品市場は、2010年から毎年平均17%の成長しており、7億ユーロの市場規模とされています。2011年にドイツのベルリンで開店した「ヴェガンツ」というヴィーガンのための初の総合スーパーマーケットは、開店の翌年2012年にはすでに4店舗となり、売り上げも160万から600万ユーロまで増やしました。そして現在は、6000以上の商品の品揃えで、チェコ、オーストリア3カ国を中心に、多くの店舗とも提携しながら、さらに事業を拡大する勢いです。スイスにはまだ総合スーパーのようなものはありませんが、 環境意識が高い人に支持が高い生協で、全国的な小売販売網をもつ「コープ」では、150商品をヴィーガン向けに販売しており、売り上げは毎年2桁で拡大しているといいます(コープの環境負荷の少ない社会を目指した取り組みについては、「バナナでつながっている世界 〜フェアートレードとバナナ危機 」もご参照ください。
値段だけをみると、ヴィーガンの商品は一般商品の2倍以上もすることも多く、かなり高額です。それでも市場が急成長しているのは、やはり割高でも堅調に売り上げを伸ばしてきた有機農業食品や商品と類似したところがあるように思います。それは、顧客の姿勢といえるようなもので、欲しいものであれば、多少高額であっても買い求める、という値段よりも商品の質にこだわる一貫したものです。ヴィーガン向け商品が、 今後、有機農業商品に匹敵するほどの市場にまで拡大するのではないか、という予測もあります。ちなみに、2014年、ドイツでは有機農業関連商品は、前年比で5%増の80億ユーロの売り上げがありました。
ケルンの商業研究所の今年初めのプレスリリースによると、ヴィーガン向け商品として特に売上が伸びているのは、肉の代替食品、朝食関連食品、乳製品の代替食品の3分野です。
<肉の代替食品>
160315-2.jpg肉の代替食品とは、その名の通り、肉ではないのに肉のような食感が味わえるものです。 ウィンナー類はその典型で、大豆を主原料としたもの、小麦粉のプロテインを入れるなど各種あり、一般のスーパーでも売られています。2015年肉なしソーセージ7種の販売をはじめたソーセージ会社リューゲンヴァルダーでは、同年末の総売り上げの総計が、肉なしソーセージが全売り上げの3分の1を占めました。ナゲットやとんかつ、肉団子のようなものも、一般のスーパーの冷蔵・冷凍食品売り場で、頻繁にみけかるようになりました。マクドナルドでも、2010年2月からドイツでは菜食「ヴェギバーガー」を販売するようになり、毎月220万個が売れている状況です。
<朝食関連食品>
ヨーロッパで朝食と言えば、パンやミューズリー、コンフレークなどが一般的です。パン食では、牛乳や卵といった動物由来のものが入っているだけでなく、 チーズやバター、はちみつなど動物由来のものを合わせて食べるのが恒例です。これらの成分を除いたり、代替した食品が増えてきています。もともとグルテンアレルギーをもつ人のために開発されてきた パンやクッキー、パスタやスナック、お菓子類などを広く販売している南チロルの会社 Schär も、このこの10年で売り上げが5倍に伸びたといいます。
160315-3.jpgミューズリーは、燕麦(えんばく)の押し麦にナッツ類や果物を加え、さらに牛乳やヨーグルトをかけてふやかしながら食べる、コーンフレークなどのシリアル食品の元祖といえる食品です。1900 年に健康な食事療法としてスイスの医師によってもともと考案されたミューズリーは、健康的でしかも簡単に用意できることから、スイスでは20世紀を通して次第に家庭の食卓に浸透していきました。戦中戦後の時期は、スイスのドイツ語圏では、夕飯の定番として食されるようになり、家庭以外にも、刑務所やホーム、修道院、軍隊のメニューにでてくるようになります。1970年代以降は、健康志向の強まりを受けて、世界的にもとりわけ朝食の定番の一つとなっています。ドイツやスイスでは、ごはんを作る時間がない忙しい人や学生の間では、朝食以外の軽食としてもよく食べられています。
<乳製品の代替食品>
160315-4.jpg元来のヨーロッパには、乳製品が比重を占める食文化があります。このため、乳製品の代替食品の需要も大きいようで、豆乳などやライスミルク(米からつくるミルク)は、一般のスーパでも販売されている最も定番の代替食品です。さらに、ケーキの装飾様に泡立てられる植物性の生クリームやココナッツミルクのヨーグルト、また乳製品の代用品を使ったパイ生地など、これまで想像していなかったような新たな代替食品も次々と開発、改良されて毎年、新しく市場にでてきています。
世界的にみると、菜食主義が圧倒的に多いのはインドで、2億人もいます。しかし、近年の欧米でみられる菜食志向、菜食主義者たちは、インドの伝統的で宗教的な菜食主義者とは、動機も社会的背景も異なっています 。
まず、その動きを特に牽引しているのが、圧倒的に女性であることが特徴です。Friedrich-Schiller-Universität Jena の4000人の菜食主義者を調べた調査では、7割が女性と圧倒的多数を占めましたが、同様の傾向は欧米諸国でもみられます。菜食主義になる動機は、道徳倫理的な理由がもっとも多く、63%でした。それを詳しくみると、動物の大量飼育方式への猜疑心や、環境意識などが多く、個人的な健康志向(肉食が体に悪いという現代医学の総合的な判断を背景にして)を理由にあげる人も2割いました。ほかにも菜食主義者は、20代以下の若い女性が多く、平均的な学歴よりも高く、5割以上が特に特定に宗教に帰属しておらず、大きな都市にすんでいるという特徴がみられます。
女性の菜食化が進む一方、男性の肉食依存傾向は依然として強いようです 。ドイツの調査では、量も女性の2倍を食べているというデータもあります。それでも倫理的観念から従来の肉食に対してやはりためらいを感じる人は増えてきており、ステーキを食べるなら有機飼育にものにするなど、飼育方法や肉の質を考慮して選択する人は増えているようです。
ところで誤解してはいけないのは、菜食志向が強まり、ヴィーガン向け食品が急展開しているといっても、実際のヴィーガンの数は欧米で、未だ決して多くはないことです。2013年のドイツの調査では、ヴィーガンは、全人口のわずか0.5 %で40万人にすぎません。スイスでも、菜食主義者が全人口の3%、ヴィーガンは0.3%とされます。つまり、徹底した菜食主義者やヴィーガンが急増しているというのではなく、倫理的な理由や環境への配慮、また自己の健康改善・維持を理由に、肉の消費をこれまでより減らし、かわりに菜食やヴィーガン用の食品をたびたび購買する、という普通の人が顕著に増えているようです。前述のドイツのヴェガンツというヴィーガンのためのスーパーでも 顧客の6割は、菜食でもヴィーガンでもなく、環境や健康意識の高い普通の人だといいます。肉の代替食品や菜食料理は、毎日肉を消費したくない普通の人にとって、新しい食事摂取の方法として、目新しく、好感をもって受け取られているのでしょう。このような消費行動は、健康を重視する風潮でやはり高い人気がある寿司食とも、通底するものがあるように思われます 。
これだけ人気と期待が集まっているヴィーガン向け食品ですが、本当に体にいいのかという点では、疑問視する人もいます。特に代替食品に関しては、確かに植物性の油分を凝固させたり、味を整え、賞味期限をのばすために、多くの添加物が使われており、実際に、肉なしミートボールの原材料欄をみても、そのリストの長さと添加物の多さに戸惑います。ただし、現状がそうであるというだけであり、今後も食品の開発や改良がすすむことで、より添加物の少ない良質の食品が確立されていくのかもしれません。そして、ヴィーガン向けという新たな 食品や調理法が発展していくことで、 近い将来、ヨーロッパの食文化全体が刺激され、より豊かな食文化が、新たに生まれてくるのかもしれません。
さて今回、菜食やヴィーガン向けの食品について注目してみましたが、本物の肉や乳製品入りの食品を手本に、代替食品が次々に現れてきたことが、 わたしにとって強く 印象に残りました。ヨーロッパが海外から取り入れてきた食文化は多々ありますが、代替食品は、寿司やタイカレーのように、オリジナルの食材や調理方法をそのまま踏襲・取り入れる輸入食文化とは、 全く異なるものです。ヨーロッパの伝統的な食品や食文化、ウィンナーやミートボール、牛乳やパイ菓子といったものを、全面拒否するのではなくむしろ逆で、一応形や食感は残し、中身を自分たちの望ましいと思うものに代替しようという、一見むちゃくちゃにみえる「換骨奪胎」型の、 折衷的な食文化なのです。少なくとも今の段階ではそういうことができます。だからこそ、あまり抵抗感がなく購買する人が増え、人気が高まっていると言えるかもしれませんが、裏返して考えると、幼いころから培ってきた食習慣は、想像以上に根深く体になじんだものであって、倫理や環境への配慮などの理性的な思いだけで簡単に破棄することがいかに難しいものであるかを、改めて示しているように思います。
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参考リンク・文献
—-ドイツの菜食ブーム全般について
Carsten Holm, Eine Welt ohne Wurst, Der Spiegel, ERNÄHRUNG, 17.1.2017.
Anne Waak, So gut und teuer ist die Rettung der Welt, Die Welt, 2.12.2011.
—-ヴィーガニズム、ヴィーガン向けの食品・商品について
Franziska Pfister, Vegan ist das neue Bio, Wirtschaft, NZZ am Sonntag, 21.2.2016.
Vegan-Boom: Kernmarkt der vegetarischen und veganen Lebensmittel wächst auf 454 Millionen Euro, IFH Köln, Institut für Handelsforschung, Pressemitteilung, 22.02.2016.
Silvia Liebrich, Das neue Bio, Süddeutsche Zeitung, 11.2.2015.
Veganismus, Wikipedia (Deutsch)
ヴィーガニズム、ウィキペディア 日本語
Tiere? Nein Danke! - Veganer erobern die Schweiz, SRF, 10.8.2013.
—-ミューズリーについて
Müsli, Wikipedia (Deutsch)
Birchermüesli: Weltweit bekannte Schweizer Spezialität, Betty Bossi.
—-菜食志向の人の特徴について
Christina Jung, Weiblich, jung und fleischlos, Weltvegetariertag 2013, 1.10.2013. Eco Woman,
Frank Ufen, Weitaus mehr Frauen als Männer essen vegetarisch, Wiener Zeitung, 14.2.2013.
Sebastian Herrmann, Der typische Vegetarier Weiblich, jung, fleischlos, Süddeutsche Zeitung, 13.3.2014.

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振
興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


プラセボ 〜 医学界と社会保険政策で注目される理由

2016-03-08 [EntryURL]

スイスでは、2009年に国民投票があり、代替医療(民間医療)を医療として憲法で正式に認めることが決まりました。これによって、ホメオパシーや中国伝統医療(針治療など)などの五つの主要な代替医療が、恒常的に健康保険の対象となる道が開かれたのですが、ひとつ困ったことがでてきました。当初、国はそれぞれの代替医療の効果や目的、それにかかる費用を客観的に検証して、適切と判断されるものを正式に2017年から保険適用しようと考えていたのですが、代替医療の効果を計るということ自体が、かなり難しいことがわかったのです。
ある医療行為がどれだけの効果をもつかを計る、という考え方は、今日の西洋医学においては非常に重要です。ある医療行為が適切であることを示すために、科学的根拠(evidence)を提示し、その科学的な根拠に依拠して医療をすすめるという「根拠に基づく医療 EBM(Evidence-based Medicine)」が、西洋医学で普及してきたためです。このため西洋医学同様に健康保険に適用化するにあたって、代替医療にも同じような科学的根拠を求めようとしたのでした。
西洋医学において「科学的根拠」を明らかにするためによく利用されるものに、プラセボ(偽薬)というものがあります。名前の通り、薬の偽物です。薬に、薬の開発者が主張するような効果が本当にあるのかを調べる際、複数の被験者にその薬とプラセボのどちらかを服用してもらいます。プラセボを服用した人よりも薬を服用した人のほうに、効果が強く現れれば、その薬は合格です。しかしプラセボより効果が少ない、あるいは同じくらいの効果しか認められない場合は、薬として不適と判断されます。実験を公正に行うため、薬を渡す医師当人もどちらが本物の薬かわからないようにするのが一般的です。
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さてやっと、今回の本題に入ってきますが、このプラセボ、単なる偽薬のはずだったのですが、意外な効果があることがわかり、医学界で注目を集めるようになりました。特にドイツでは、その傾向が顕著です。プラセボの研究に、ドイツ研究振興協会(DFG)(日本での科学研究費助成事業を行う日本学術振興会に相当します)から、2011年から3年間の研究に2600万ユーロ、2014年からの3年間の研究の継続にはさらに増額されて2800万ユーロの研究費が配分されており、ドイツのプラセボ研究は世界の最高峰を占めています。それに先立つ2010年3月には、ドイツ全国の14万人以上の医師で構成される中央自治組織 (BÄK)が、プラセボについて、医学部の医師養成課程及び研修において取り上げて医師が見識を深めるとともに、また実際に医療現場でも、プラセボの利用することを奨励する、という見解を出しています。
なぜ、薬の効力のないプラセボに多額の研究費がつぎ込まれ、しかも医師が積極的に利用することまで奨励されているのでしょうか。結論から先にいうと、プラセボに、場合によって薬のような効果が現れることがわかってきたためです。医師の間でも広く認められるようになってきたこの現象は、「プラセボ効果」と呼ばれます。近年の研究論文やそれついての報道や解説をもとに、以下、プラセボ効果について簡単にまとめてみます。
プラセボ効果を理解するためのわかりやすい実験として、プラセボ研究の第一人者エンクPaul Enck教授がドイツ、テュービンゲンで学生を被験者にして行ったものを、まず紹介してみましょう。被験者に回転する椅子にそれぞれ乗ってもらいます。気分が悪くなったところで、 生姜のような強い刺激物(プラセボ)を口にしてもらい、一つのグループ には「これを飲むともっと気分が悪くなる」、 もう一つのグループには「これを飲むと気分がよくなります」という説明も加えます。するとその結果、最初のグループでは気分が悪くなる人がさらに多くなり、後のグループでは気分が悪い人の数が減りました。今回の実験のように、プラセボをもらうことで、本来プラセボの成分にはないような効果が症状に現れること(特に望ましい効果の方)が、プラセボ効果です。
プラセボが効果を示す詳細のメカニズムはいまだにわかっていませんが、自分のなかの回復治癒力が、なんらかの形で活性化されるからと言われています。ただし、プラセボ効果はいつもあらわれるわけではなく、効果を引き出すためには、いくつかの条件があると考えられます。それをまとめると、以下の2点にまとめられます。
まず、患者がその医療行為とそれに付随して伝達される情報に対し、一定の期待あるいは注意を向けていることです。ただし必ずしもそれを信じる必要はないようです。自分で「信じている」気がなくても効果が現れることがあります。一方、主治医のように大きな信頼を置く人から受けるプラセボは、より効果があるとも言われます。ただし、今回の実験でもみられるように、よい効果だけでなく、伝達される情報によっては症状の悪化を引き起こす場合もあります。このような効果は「ノセボ効果」と一般的に呼ばれています。
また本人が「医療行為を受けている(あるいはそれが医薬品である)」という意識をもつような環境あるいは儀礼的なプロセスがあることも、プラセボ効果を引き出す決定的な条件です。例えば、病院という特別の場所にいって、白衣の医師から説明を受け、薬らしい形状をもつものを、水を含ませて飲むという行為は、医療という非日常的な出来事を意識させる環境や儀礼的なプロセスといえます。錠剤プラセボの色や形による効果の違いについてはまだ研究があまりありませんが、点滴のほうがは錠剤より効き目があると言われます。
プラセボの効果は実際に測ることができます。例えば、痛みを訴える被験者がプラセボを受容することで、 ドーパミンなどの症状を和らげる化学物質が被験者の脳内に出てくることは、これまで多数の実験で認められています。
プラセボだと被験者が知っていても、効果がでる場合があることもわかってきました。ハーバード大学医学大学院教授Ted J. Kaptschukの研究では、通常のプラセボ効果よりも、プラセボであることを事前に説明されてからプラセボを受容した人のほうが、効果が強くすらなりました。このことは、医学行為を受ける環境やその形態が、プラセボ効果を高めるのにいかに重要であることを、逆に浮き彫りにしたとも言えます。すべての人と病気に適用することはできないにせよ、事前に知らせてもプラセボ効果が引き出せるとすれば、患者への説明義務を負う医師が、プラセボを利用できる余地が大きくなる可能性があります。
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さらに最新の研究では、プラセボ効果を訓練で高められる可能性が示唆されました。イタリア人のプラセボ研究の権威Fabrizio Benedetti は、パーキンソン病患者を対象にした治療に関する今年2月の論文で、4日間薬を投与後にプラセボを投与すると、薬と同じ効果を24時間発揮することが認められ、このようなプラセボ効果は、誰もが訓練によって習得することができる可能性が高いとしています。このため、プラセボ効果における訓練が今後重要になるとも指摘しています。
このような効果が明らかになるにつれて、プラセボは、現代医学界の新たなフロンティアを開く可能性として高く期待されるようになってきました。プラセボを利用することで、薬や医療行為を減らし、それによって生じる望ましくない体への負担を最小限にとどめ、最終的に、本来の医療効果を最大限に高められると考えらるためです。前述のように、国際的な医学界の合意に先立って、2010年からドイツ最大の医師協会がプラセボの利用を肯定する姿勢を取り始めたのも、このような理由からです。ただし、プラセボが万能なわけではなく、すべての疾患に適当であるわけでももちろんありません。自覚症状のある慢性的な疾患には、比較的高い効果があるのに対し、生化学的な病症や、がんのような効率的な集中治療が必要なものには不適とされます。
プラセボに、医療面でのメリットからだけでなく、 社会保険政策としても、大きな期待がよせられています 。毎回高価な薬を投与するかわりに、数回に1回をプラセボに代替することができれば、国全体の健康保険のコストが大幅に削減されるためです。医療費の増大化が不可避と考えられいる超高齢化時代を前にして、効果は減らないのに、体の負担も医療費の負担も減らせる可能性があるプラセボは、医療界と社会保険界にとって、希望の光といえるかもしれません。
実際に、プラセボどのくらい処方されているのでしょう。現状では、まだ実際に使われることは少ないようですが、ドイツやアメリカでの医師へのアンケートでは半数以上がプラセボを利用したことがある、と回答したというデータもあります。特に若い医師の間では、プラセボ効果を最大限利用することに積極的な人が増えているようです。
さてここで、冒頭の話にもどりましょう。健康保険に適用化するにあたり、代替医療の効用を計り検証しよう、としたスイスの国の当初の計画は、先述のように、困難と判断され、結局とりやめとなりました。かわりに、一定の条件をみたせば保険に適用するという案がだされました 。国のこの新しい提案を、代替医療団体側は、歓迎しています。これまで代替医療が擬似医療やプラセボではないかと疑う西洋医学側からの激しい議論は多くありましたが、保険の対象として代替医療の地位が確立されれば、今後は、そのような西洋医学との対立や直接的な衝突も減ってくるでしょう。
一方で、これまで代替医療は、プラセボとみなされることに憤慨し、同等とみられないよう違いを強調する立場でしたが、代替医療とプラセボの関係も微妙に変わってくるかもしれません。無害で安価で医療効果を最大限発揮するための一助として、プラセボが積極的に医療の場で取り入れられ、実際に望ましい効果をあげることが広く認められるようになれば、プラセボこそが、代替医療にとっての最強のライバルとなるような事態も起きるかもしれません。
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参考サイト・文献
—-ドイツを中心にした医学界のプラセボに対する研究・見解・利用状況について
DFG unterstützt Forschergruppe mit weiteren 2,3 Mio. Euro. Placebo-Forschung weiterhin Weltspitze, 15.11.2013.
Stellungnahme des Wissenschaftlichen Beirats der Bundesärztekammer “Placebo in der Medizin” (Kurzfassung) [PDF]
Jan Schweitzer, Phänomen Placebo, Die Zeit, 14.2.2012.
Pascal Biber, Medizin auf dem Prüfstand, 3.6.2015, Gesundheit, SRF.
—-プラセボ効果について
Placebo, Wikipedia (ドイツ語版)
Fortschritte bei der Placebo-Forschung, SWR, 5.2012.
Placebo-Wirkung: So unterstützen positive Gedanken den Körper, Spiegel Online, 12.12.2013.
Der Arzt als Placebo
Der grüne Zaubertrunk. Wie sich das Immunsystem konditionieren lässt, WDR, 20.8.2013.
Stefan Stöcklin, Placebo Keine Mittel, grosse Wirkung, Beobachter(日付不明) 
—-Paul Enck教授の行ったプラセボ効果の実験について
Geschlechtsunterschiede beim Placeboeffekt, Pressemeldungen, Universitätsklinikum Tübingen, 1.8.2008.
Die Erfolge einer erfundenen Behandlung, Prof. Paul Enck, SWR1, 4.4.2013.
—-被験者が知っていてもプラセボ効果がでることについての研究
Ted J. Kaptchuk et al., Placebos without Deception: A Randomized Controlled Trial in Irritable Bowel Syndrome, PLoS One, 22.12.2010.
(わたしが読んだのは次の論文解説 Eva Obermüller, Placebo wirken, auch ohne Geheimhaltung, Science, ORF.at)
—-訓練でプラセボ効果を持続・向上させることに関する研究
Fabrizio Benedetti and others, Teaching neurons to respond to placebos, The Journal of Physiology, 24 February 2016
(わたしが読んだのは次の論文解説 Der Placeboeffekt lässt sich trainieren, Gehirn, Science, ORF.at)
—-スイスの代替医療の健康保険適用化について
Fünf Methoden der Komplementärmedizin werden unter bestimmten Bedingungen während sechs Jahren provisorisch vergütet. Medienmitteilungen. Bundesamt für Gesundheit BAG, 12.1.2011.
Gleichstellung Alternativmedizin. Komplementärmedizin wird kassenpflichtig, 2.5.2014, NZZ
Alternativmedizin, Wikipedia(ドイツ語)

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振
興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
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バナナでつながっている世界 〜フェアートレードとバナナ危機

2016-02-29 [EntryURL]

みなさんは果物といえば、なにをよく食べますか?スイスで一番よく食べられている果物はりんごで、一人当たり年間15キロを消費しています。りんごがほとんどが国産で、食生活の文化と長い歴史をつちかってきたこの果物であるのに対し、2番目によく食べられている果物は、 遠方からの輸入に100%たよっている果物、バナナです。毎年7万5千トンのバナナを輸入しており、一人当たり平均年間10Kgのバナナを消費しています。
バナナは栄養価が高く、消化も抜群で、一年をとおして手に入り、皮を剥くのも容易なため、スイスだけでなく、世界中で、歯のまだ生えていない赤ちゃんからスポーツマン、高齢者まで、すべての世代に愛されている食品です。年間、10億本以上のバナナが世界で消費され、世界で食べられている南国育ちの果物の半分以上の割合を占めています。小麦、米、とうもろこしにつづいて4番目に多く消費される食品でもあります。近年は小売の値段も安価で安定しており、ドイツではこの20年間ほぼバナナの値段は変わっていません。今日、バナナを売っていないスーパーはないほど、今日の先進国の生活にバナナは欠かせぬ存在です。
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このバナナ、スイスではフェアートレード商品として、近年広く定着しています。フェアートレードとは、アジア、アフリカ、中南米アメリカに20億人いるといわれる、厳しい貧困状態におかれている中小農家や労働者たちとその家族が、人間らしい生活をするに足る収入の確保と生活・自然環境の維持を目指すために考え出された、先進国と途上国の間の商業取引形態です。小規模農家で作られる農協などの途上国の生産者は、環境負荷の少ない生産工程、良好な労働条件、また組織の民主主義的な構造を確保し、仲介業者をはさまないダイレクトなフェアートレード取引契約を結ぶことによって、 通常より15〜65%も多い収益を手にすることができるといいます。フェアートレードの規定基準をみたして生産されたものには、水と緑を象徴するような黒字に青と緑のマークをフェアートレード・ラベルがつけられ、先進国などで販売されます。
スイスでは1992年からフェアートレード制度が導入されました。その後、スイスの生活共同組合で、かつ国内の小売売り上げの半分を占めている大手スーパーである「ミグロ」と「コープ」を中心に、フェアートレード商品の背景にある思想と、それを購入することで途上国を支援するという消費のあり方が、徐々に一般市民の間に知られていくようになりました。(スイスで今もビジネスモデルとして高い支持をえている協同組合については、「協同組合というビジネルモデル」を参照ください。)その結果、スイスのフェアートレードの総売り上げは、2013年には前年比で16%も伸び、4億3400万スイスフランにまで達しました。平均すると一人当たり年間53スイスフラン、フェアートレード商品を購入していることになり、一人当たりのフェアートレード購入額として、世界トップの地位を占めています。
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フェアートレードのなかでも、これまで順調な売り上げを伸ばしてきた優良商品がバナナです。フェアートレード・バナナの販売は1997年からはじまりました。当初はどこも、ほかのバナナと並列してフェアートレードのバナナを販売していましたが、コープではさらに一歩先に踏み出し、2004年以降は、フェアートレードのバナナしか販売しない方針を打ち出し、今日までその方針が貫かれています。スーパーだけでなく、レストランなどでも積極的にフェアートレード・バナナを取り入れていった結果、2013年のフェアートレード・バナナの売り上げは、前年比で13%増の9600スイスフランに達し、スイス全体で売られるバナナの54%以上がフェアートレードのバナナとなるまで普及しました。ちなみに値段は2016年2月末現在で、 普通のバナナの値段が1キロ当たり約296円(2.60スイスフラン)なのに対し、フェアートレードのバナナは342円(3スイスフラン)です。
ところが、世界中であらゆる世代に愛好され、フェアートレードの若い歴史にも輝かしい軌跡を残してきたバナナが、今、大きな危機に直面しているといいます。バナナに決定的な打撃を与える病気が、急激に世界的に広がっているためです。国際国連食料農業機関(FAO)ではここ数年、事態の深刻さに警戒を強め、専門的な対策や予防策などを提示し、注意を呼びかけてきました。今年2月には、ドイツ国営放送とスイス経済新聞NZZでも相次いで、バナナの直面している危機について特集が組まれました。これらの情報ソースから、現在までの状況について、以下まとめてみます。
問題となっているのは「TR4」と言われる目はみえない菌類による病気で、「新パナマ病」とも呼ばれています。バナナの根にこの菌が入り込むと、水や栄養の吸い上げがブロックされ、みるみると立ち枯れしていきます。いまのところ有効な駆除の手立てがなく、一度、地中に菌類胞子は入ると、地中で30年から50年生き続けると言われます。このため現状では、病原菌が見つかったら、ただちにその農園を隔離し、ほかに被害が広がらないようにするほかありません。しかし、汚染が新しい場所に広がるには、靴についたほんのわずかな菌類胞子だけで十分であり、被害を防ぐことは大変難しい状況です。現に、南アジアで発生したこの病気は、2年間で、中東、そしてアフリカ、オーストラリアへと広がり、今も日に日に被害を拡大させています。2013年からこの病気が確認されたモザンビークの農園では、すでに、毎週1万5千本のバナナの株がやられるまで深刻な被害になっています。洪水などの自然災害があればさらに、一度に広大な範囲が汚染される危険があります。
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出典: Pro Musa. Mobilizing banana science for sustainable livelihoods. Factsheet. Tropical Race 4 in Africa.

現在世界で流通しているバナナは、95%という圧倒的な割合が「キャベンディッシュ」というたった1種類のバナナです。このバナナ、みなさんもご存知の通り果実のなかに種子はなく、株分けしてそれを新たな場所に移植するという方法で、これまで増やされてきました。つまり親のクローンとして増殖されてきたということであり、遺伝子的には同一のものです。このため新種の病原体に耐性を持たないことも共通しており、このことが事態をさらに深刻にしています。
バナナ研究の世界的権威であるオランダのGert Kema 教授(Wageningen University and Research Centre)が、調理用のバナナや野生種などを含め、200種類以上のバナナの種類を調べた結果では、調理用のバナナの一部は菌類には、耐性であるものも若干みられましたが、全般にこの病原菌に耐性をもつ種類はわずか10%以下でした。このため、静かにしかし確実にこの死に至る病気が、今後も広がることは不可避とされ、最終的に世界中のバナナの85%が犠牲になるとも言われます。
世界で4億人が主食や栄養の一部としてバナナを食しており、主食としてバナナを食べる人がアフリカは、特にこの病原体の脅威にさられていることになります。また、バナナの生産地としては、インドと中国が世界最大ですが、中南米、南アジア、アフリカなど世界各地で栽培されており、先述のフェアートレードをはじめとし、貴重な農業輸出品として途上国の経済をささえています。エクアドルのバナナの8割以上は、外国への輸出用です。
被害を少しでも食い止めることと同時に、病原菌に強い新種のバナナが切望されています。しかし、代替されるようなバナナが登場する兆しは、しばらくありません。伝統的な品種改良の方法で 最終的に新しい品種を開発するまでには、少なくとも20年の年月がかかってしまいます。このため目下、大きな期待がよせられているのは、野生のバナナの遺伝子を組み込んだ病気につよい品種作りですが、 今のところできたバナナは、私たちの食べ慣れたバナナの味からはほど遠いようです。
さいわい2月現在、まだ中南米では、この病原菌の被害が確認されていません。スイス大手スーパーは、バナナはすべてこの中南米から輸入しているため、今の段階では具体的な影響はでておらず、フェアートレードバナナもほかのバナナにも値段に大きな変化はありません。しかし、これまで病原菌の汚染が広範に大陸をまたいで広がってきたことを考えると、が中南米へ渡るのも時間の問題という見方が強いようです。
南半球の太陽を思わせる、明るく平和なイメージのバナナとは、あまりにかけ離れた、過酷で暗澹とした状況です。最悪の事態にならないように、 予防策や措置が適切に行われ、天災などがそれらの努力を踏みにじらないことを祈るばかりです。
一方、先述のオランダのバナナ研究の第一人者Gert Kema教授は、現状の話だけではなく、長期的なバナナの栽培についても、ドイツ国営放送のバナナ危機特集番組で語っていました。りんごや洋ナシのようなほかの果物と同様に、たった一種類でなく、いくつものバナナが市場にでてくるようになるのをいつか実現させたい、というものです。それが、今回のような一種類しか出回っていないがために一斉に病気にやられてしまうという悲劇を防ぐことにもなりますし、農園内部でもモノカルチャーではなく、いくつかの種類やほかの作物と合わせて栽培するようになれば、病原菌に対する耐性を全般に高めることにもなります。消費者側にとっても、バナナの味やほかの食感がいくつかあって選べることは、(今は慣れない食感よりたった一つのバナナの味を好む人が大多数だとしても)将来、歓迎されるでしょう。
いずれにせよ、このバナナ危機によって、好むと好まざるによらず、バナナ栽培は、これまでの種類と栽培方法を見直さざるをえなくなっており、新しいバナナの時代に突入しているということは確かといえそうです。
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参考サイト・文献
—-スイスのフェアートレード、バナナの販売、生協について
Wie viel Geld erhalten die Produzenten in den Herkunftsländern?
«Die Unterstützung, die wir von den Konsumenten erfahren, geben wir mit der hohen Qualität der Früchte, die wir produzieren zurück.», Fairtrade Max Havelaar. Information der Max Havelaar-Stiftung (Schweiz) 20
穂鷹知美「スイスの生協の消費者をまきこんだ環境キャンペーン」環境メールニュース、2010年05月13日
Neu ausschliesslich Max Havelaar-Bananen bei Coop, 27.01.2004
Jede zweite Banane trägt das Max-Havelaar-Logo
Bananen
—-バナナ危機について
WBF Fighting Against Banana Threats, World Banana Forum Task Force on Fusarium wilt Tropical Race 4 (TR4)
The WorldBanana Forum (WBF),Working together for sustainable banana production and tradeTropical Race 4 (TR4) of Fusarium wilt (Fusarium oxysporumf.sp. cubense): Expanded Threat To Global BAnana Production

Going bananas? The serious threats facing the world’s favourite fruit

Nadia Ordonez and others, Worse Comes to Worst: Bananas and Panama Disease-When Plant and Pathogen Clones Meet, PLOS. Pathogens, November 19, 2015
Stephanie Kusma, Alles Banane, NZZ, 19.2.2016
Sergio Aiolfi, Bedrohte Cavendish-Spezies, Die globalisierte Banane, NZZ, 19.2.2016
Alles Banane -krummes Ding in Not?, Die Themen der Sendung, ARD, 6.2. 2016.
Ist die Banane vom Aussterben bedroht? Tagesanzeiger, 24.7.2015.
Der Tod der Banane, Tagesanzeiger, 1.12.2015.

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振
興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
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ウェルネス ヨーロッパの健康志向の現状と将来

2016-02-23 [EntryURL]

日本もスイスも冬の真っ只中ですが、冷え込む夕暮れに帰宅し、一日の疲れをとってくれるものといえば何を連想するでしょうか?日本では「風呂」を真っ先に思い浮かべる方が多いのではないかと思います。しかし、毎日のように自分の家で湯船に浸る習慣は、世界的にはめずらしいようで、ドイツ語ウィキペディアの「入浴文化 Badekultur」という項目には、日本特有の入浴事情が詳細に記述してありますし、英語のウィキペディアでは「Furo」という項目が立てられて、西洋と比較して日本の風呂について説明されています。
体を清潔にするのにヨーロッパで一般的なのは、19世紀以降、軍隊生活を通じて庶民にも広く知られるようになったシャワーです。今でも、古い町並みが残る都市ではバスタブがなく、簡易シャワーをとりつけただけのアパートもありますし、近年では、エネルギーや水の消費量といったエコロジーの観点から 、入浴よりシャワーの方が日常的な体の洗浄に望ましいとする考えも強くなっているようです。昨年11月に、スウェーデン王が半分冗談とした上で、バスタブを禁止したらどうか、と発言したのも同様の背景からでした。また、お年寄りの転倒などの事故予防の観点から、バリアフリーを売りにしたアパートがシャワーだけだったり、もともとあったバスタブを撤去してシャワーだけにする改装工事の話もたびたび聞きます。そもそも、水の硬度が高く肌が荒れやすい地域が多いためか、おむつをしている乳幼児も、毎日入浴させず、週に2回程度にひかえるように医師にもすすめられます。日本で小さい時から毎日入浴して、お風呂好きになるようにしましょう、と言われるのとは対照的です。
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それでは、ヨーロッパの人たちは、どこで疲れをいやし、リラックスしているのでしょう?もちろん、十人十色いろいろな答えが返ってくると思いますが、「ウェルネス」という言葉がキーになると思います。「ウェルネス」とは、戦後の経済的な繁栄期を経た1970年代のアメリカから広がった健康志向で、飽食や衣装などに金銭と時間を消費するかわりに、健康や体調を意識した消費生活や、余暇の行動様式を重視します。この新しい健康ブームにのって、マッサージやサウナなどの施設、様々なリラクゼーションの講義や講座、 関連する書籍や機具類、また食料やレストランまで、多岐にわたるサービス・ビジネスが発展してきました。
ウェルネス志向はすぐに世界的に広がり、ヨーロッパでも、 特に90年代以降、「ウェルネス」と名のつく施設や講座や報道が急速に増え、 社会でもてはやされてきました(ドイツ語では「ウェルネス」という英語の表記をそのまま使います)。 今では「ウェルネス」という言葉は斬新な流行語でこそありませんが、「ウェルネス」の考えやサービスは、広くヨーロッパに普及・定着しています。世界のウェルネス業界のまとめ役であるGlobal Wellness Institute 、International Spa Association 、Global Spa Summitの近年の調査報告を中心にして、近年のヨーロッパを中心にしたウェルネス業界の現状を具体的に俯瞰してみましょう。
21世紀、世界的に不穏な政治・社会状況また経済不況があったにもかかわらず、2007年から2013年まで年間平均7.7%と、ウェルネス業界全体としては安定した成長を続け、2013年の世界全体のウェルネス経済規模は、3兆4000億ドルにまで拡大しました。ウェルネス産業の核として 急成長している分野は、スパとのその関連産業です。スパとは健康維持のための施設で、(水泳用)プール、温水、冷水浴槽、サウナ、フィットネス施設、マッサージ施設、ほかのリラクゼーション施設など全般をさします。2013年の世界スパとその関連産業は940億ドル市場と推計され、2013年には世界で10万カ所以上、190万人以上の雇用を生み出しているとされます。
近年のアジアでのスパ産業はめざましいものがありますが、現状では、もともとクアやサナトリウムなどの保養施設の長い伝統があるヨーロッパが、世界で最大のウェルネス及びスパ市場を誇っています。 特にさかんなのは、ドイツとフランスとオーストリアの三国で、この三国の年間ウェルネスとその関連ビジネスだけで、全世界の市場の約2割を占める58億ユーロの市場を作り出しています。スパでは、富裕層や疾患を抱える人に限らず、健康志向の人に広く利用される施設として、ハーブティー風呂や、泥や藻のトリートメントなどの伝統的なサービスに加えて、プールや様々なマッサージやセラピーのサービスを組み合わてが発達してきました 。
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スパの増加に並行して、ウェルネス・ツーリズムと呼ばれるものも好調です。ウェルネス・ツーリズムとは、個人的な健康の維持や向上を主あるいは副目的として旅行することことで(日帰り旅行を含む)、全世界的に2013年は、市場規模は前年比で12.7%増の4940億ドルでした。ヨーロッパ人のする全旅行の4割は、ウェルネス・ツーリズムにあたるとされ、毎年、ヨーロッパ人は総計で1億4900万ユーロを支出しているとされます。ドイツだけでも、スパなどを付設したウェルネスホテルと称するものは1200から1500箇所あり、さらに2017年までにドイツのウェルネス・ツーリズム市場は年間平均4.7%成長がみこまれています。ウェルネス・ツーリズムをする人は、経済力がある高学歴の人が多く、84パーセントが国内旅行であり、ほかの旅行よりも6割も支出額が高いというのも、大きな特徴です。
このように、ここ数十年でウェルネス市場は急成長してきました。世界的な健康志向の高まりと、お金と余暇に恵まれたベビーブーマー世代を中心とした社会の高齢化にに後押しされ、ウェルネス業界は、今後も安定した成長が続くと考えられています。ただし、現状のウェルネス業界が必ずしも安泰であるというわけではありません。年々、ウェルネス利用者の経験や知見が豊富になっており、みかけだけ快適にみえる施設やサービスではなく、実際の内容に高い質を求めるようになってきています。またウェルネスの手法や内容自体が世界中の様々な要素をとりいれ多彩になってきているため、利用者の多数が求めるものを、スパやウェルネス・ホテルのような限られた施設で対応するのは難しくなってきています。また、急成長の分野ではよくあることですが、熟練した専門家も不足しており、海外から必要な専門家を確保するなど苦心しています。さらに、安く同じウェルネス・サービスを提供する近隣国が台頭してくれば、競争が今後厳しくなることも必至です。
一方、人々の健康志向も、ウェルネスが流行りだした当初とは変わってきているとされます。単にスパ施設へ赴いて「体にいい」マッサージや食事を楽しむというような受動的な姿勢が薄れ、積極的に体を動かすなどの自助努力を自らに課す姿勢が強まってきているようです。このような新しいウェルネスの代表格と思われるのが、ヨガです。ヨガは現在、世界的なブームとなっており 、世界で420億ドルの市場と言われます。ドイツでは、ヨガ・インストラクターだけで2万人おり、ベルリンだけでもヨガの専門教室は200箇所以上あります。フィットネススタジオでのヨガ講座などをあわせれば、ヨガのコースはさらに増加し、ドイツ全体でヨガ人口は、現在500万人にのぼるとされます。スイスの地元の市立図書館が所蔵している書籍を調べると、2010年以降に発行されたウェルネス関連の書籍の圧倒的多数がヨガに関するもので、開架図書の本棚まるごとひとつが、現在ヨガの本で占められています。 ヨガ指導者とヨガのポーズがパッケージに印刷され、値段がかなり通常のお茶類より高めの「ヨギ茶(ヨギとは、ヨガをする人のこと)」というシリーズのブレンド茶が、どこのスーパーでも入手できるようになるなど、ヨガの「商品化」も身近でみられます。
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以上、ウェルネス志向とその産業の近年の動向と今後の見通しをみてきましたが、今後ウェルネスの健康志向がビジネスとしてさらに拡大していくことになると、具体的な人々の生活に、どんな影響をもたらすということになるのでしょう?少しまえに、人工知能やロボットが労働市場に進出してもなくならない仕事の例として、ベビーシッターとヨガのインストラクターがあげられているのを目にして、なるほどと思ったことがありました(どこで読んだのかは残念ながら失念しましたが)。確かに両者の仕事は、人間の最大の特性ともいえる情緒を全面に出して相手と交流する仕事であり、人工知能やロボットに任せることに強い抵抗感を感じる人が(少なくとも今の段階では)多いのではないかと思います。
ヨガのインストラクターに限らずウェルネス・ビジネスとしてみても、多岐にわたる産業ではありますが、コアの部分では、サービスを提供する側と享受する側の間の、毎回同じではない体験ややりとりや感受といった、人的な交流が基調になっているように思われます。もしそうだとすれば、ウェルネス・ビジネスは、今後市場を単に拡大するだけでなく、機械化などで雇用の場がある程度は奪われることはいずれ免れないでしょうが、それでも比較的手堅い雇用の場を将来も提供していくことになるでしょうし、利用者たちにとっても、人的交流や一回性の多彩な体験を享受できる貴重な場として、残っていくことでしょう。
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参考サイトと文献
ヨーロッパのシャワーと浴槽事情について
Dusche, 100 Sekunden Wissen, SRF, 27.11.2015.
Dusche statt Wanne: Schwedens König will Badewannen verbieten Duschen für die Umwelt, Tiroler Tageszeitung, 23.11.2015.
ウェルネス産業についての近年の世界的動向について
Global Wellness Institute, Global Spa and Wellness. Economy Monitor, 2014.
Global Spa Summit, Spas and the Global Wellness Market, 5.2010.
Research Inernational, ISPA 2008. Global Consumer Study
ヨーロッパのウェルネス産業について
Ingo Schweder, Aktuelle Zahlen aus dem internationalen Wellnesstourismus: wo liegt das Potential für Deutschland?, 3.10.2014.
Kira Hanser und Sönke Krüger, Ein bisschen Spa muss sein, Die Welt, 09.02.2014.
Patricia Engelhorn, Das lukrative Geschäft mit den Wellness-Ferien Gesundheit, Bilanz. Das schweizer Wirtschaftsmagazin, 08.02.2016.
ヨガ・ブームについて
Carla Neuhaus, Volkssport Yoga. Das Geschäft mit der Entspannung, Der Tagesspiegel,
そのほかの参考文献
Welcome to Wellness. Die besten Wohlfühltipps und -programme für Körper, Geist und Seele, Das grosse Wellness-Buch, München 2006.
Heinz Kaiser, Die besten Bäder zum Wohlfühlen, München 2012.
Gabrielle Arringer, Spa-Hotels im Trend, Zürich 2010.
Hademar Bankhofer, Winter-Wellness, 2005 Wien.
Karin Schutt, Wasser. Quelle für Schönheit und Wohnbefinden, München 1997.

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振
興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


ピクトグラム 〜 グローバル時代の視覚的バリアフリー

2016-02-16 [EntryURL]

世界中の誰もがわかるような共通する言葉があったらどんなにいいだろう、そう思ったことはありませんか?だれにでも一目でわかる、そんな夢のような情報伝達方法が、実はあります。100年以上前に作られはじめ、次第に普及し、今日まで重宝されているものです。ただしそれは通常の「言語」ではありません。音声を伴う一般言語とは全く異なる形態で、ピクトグラムと総称されています。
ウィキペディア(日本語)によるとピクトグラムは、「一般に『絵文字』『絵単語』などと呼ばれ、何らかの情報や注意を示すために表示される視覚記号(サイン)の一つである。地と図に明度差のある2色を用いて、表したい概念を単純な図として表現する技法が用いられる」とあります。この説明では少しわかりにくいので、 言葉のわからない海外のどこかに飛行機でとび、空港に降り立った時のことを具体的に想像してみましょう。預けていた荷物を早速取りに行きたい時、荷物の受け取り場所を英語で「Baggage Claim」と言うことを知らなくても全く支障はありません。スーツケースの絵が指し示す方に進んでいけば、無事に預け荷物を受け取ることができるからです。この様に(言語などの)特別の知識や細かい説明がなくても、一般の人が情報を理解できるような簡単な絵や図が、ピクトグラムです。
英語は、異なる言語を話す人たちの対外コミュニケーションの手段として世界的に最も普及している言語ですが、情報のやりとりするための十分な英語能力をもつ人の割合は、全世界的にみればいまだ一部にすぎません。一方、ピクトグラム以外の写真や映像などの視覚的な伝達ツールや、人が言葉を介さずに伝えるノンバーバル・コミュニケーションは、そこから誰もが何かのメッセージを受けとることができますが、明確で一様なメッセージを伝える手段としては適切ではありません。これらに対して、目にみえるわかりやすい形やサインを使うピクトグラムは、世界のどこででも普通の人たちが、 明確なメッセージを簡単に共有できるという意味で画期的なものです。
ピクトグラム は、人の行き来が多くなり、それぞれの土地の事情や情報の共有が当たり前ではなくなるようになってきて、はじめて発達してきました。交通標識は、世界的な普及にはじめて成功したピクトグラムです。文字のかわりに図式ですぐに認識できる標識が1909年にフランスで初めて取り入れられると、またたくまにヨーロッパ各国に広がりました。その後第一次世界大戦後の1927年に、正式に国際的に共通の交通標識を制定する委員会が発足し、以後、言葉を減らすあるいはなくし、そのかわりにピクトグラムを使用した交通標識の体系が確立され、世界的に導入されています。 ピクトグラムを駆使した交通標識のおかげで、外国でもいかに支障なく車の運転ができるかは、海外での運転を経験した方は、よくご存知のことでしょう。
1930年代には、交通標識に限らず、公共的な情報全般を万人にわかりやすい簡素にデザインされたグラフィックで国際的なピクトグラムの体系を作り上げようとするISOTYPEという動きもオーストリアで生まれました。しかし、ピクトグラムが自動車交通網以外にも広く普及していくのは、第二次世界大戦以降です。特にドイツでは、1968年ドイツ国内の空港で共通で ピクトグラム の導入以降、その後 近距離交通を結ぶ鉄道網や自治体でもピクトグラムの利用が広範に普及していきました。ただし、当初は違和感を感じる人もいたようです。ミュンヘンのオリンピックでもピクトグラムが大きく注目された1970年代はじめのドイツでは、文字もろくに読もうとしない慌ただしい時代の幕開けを象徴するもののように映り、批判する声もあったといいます。
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今日、交通網をはじめとして世界津々浦々に広がっているピクトグラムですが、ピクトグラムも万能ではなく限界もあります。流暢に説明できる言語によるコミュニケーションと異なり、大量あるいは詳細の情報を伝えることはできません。また文化の違いに配慮し、それをも超越して理解されるものを表現するのが理想ですが、文化や個々人の多様性が大きな障壁となることもあります。人はそれぞれのそれまでの経験や知見に照らし合わせて、ピクトグラムを理解しようとするので、個々の解釈に幅(ひらき)がでてきてしまうのです。
さらに、一度は広く認知されるピクトグラムになっても、それが未来永劫続く保証はありません。むしそ、時間がたつにつれて意味合いがあやふやになることのほうが多いといえるかもしれません。技術がめまぐるしく変化し、人の職住環境やライフスタイルも不断に変化していく現代に、不変の意味や価値を持ち続けるのは、何にとっても困難であり、ピクトグラムも例外ではありません。1970年以降ピクトグラムを積極的に導入してきたヨーロッパの駅が、随時、ピクトグラムをリニューアルしていることもその証左です。アンテナが見える機種からスマートフォンタイプのものに電話のピクトグラムを入れ替えるようなケースや、「祈りの場」のように時代の需要を受けて、駅構内に整備された新しい施設を対象にしたピクトグラムの作成等、適宜見直し、必要に応じて新しく作ることが大切です。
また、見るだけでわかることを目指しているピクトグラムにとってパラドックスなのですが、迅速で正確に理解するには、 スカートのあるなしが女性と男性の差異を表現している場合と、スカートをはいていない姿が人全般を指す場合があるとか、 矢印の意味など最低限のルールや知識が必要です。また、 最低限のルールや体系を知っておくことが、新しいピクトグラムの理解の助けにもなります。例えば、赤い丸枠の中に赤い斜線があるのが一般に「禁止」を意味すると知っていれば、中にたばこが描かれた赤い斜線入りの丸枠が、何を意味するかもすぐにわかります。
ともあれ、ピクトグラムにすぐれた特性があることは確かで、その特性をいかして、ピクトグラムの活用領域はさらに、産業やビジネス、娯楽やアート分野にまで今日、広がっています。
まず、危険物を扱う企業や電気機器などを作るメーカー等、海外に多くの顧客を抱える業界全体にとって、ピクトグラムは心強い助っ人です。これらの企業は、顧客に商品の扱い方や危険性などを伝える責任がありますが、多言語で文章を羅列するだけではなく、ピクトグラムを使うことによってわかりやすく顧客に伝えることができます。

 

情報量の多さに伴って、情報の摂取にも加速化が必要となる今日、情報の交通整理にも、ピクトグラフの効力が発揮されています。観光パンフレットなどのホテル紹介で使われるピクトグラフは、その端的な例でしょう。自分の希望にあったホテルをみつけるのに、様々な情報、朝食、プール、無線LAN付きかなどの情報がピクトグラフで一望できると、ホテルの選択にとても便利です。また、金融サービスなど一見難しそうにみえる商品やサービスも、ピクトグラムを使うと、具体的でわかりやすい商品イメージが生み出され、好印象を与える効果があるといいます。
また、オリンピックごとに開催地でデザインされるスポーツ競技のピクトグラムのように、地域やデザイナーの独創性を競う娯楽やアートとしての性格が強いものも生まれてきており、従来の普遍的で公正な役割を超え、ほかのグラフィックデザインと融合した多様な形が、一つのトレンドともなっています。
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出典: Olympic studies centre,
The Sports Pictograms of the Olympic Summer Games fromTokyo 1964 to Rio 2016, 11.2014

日本では、外国からの観光客数が近年急増しているだけでなく、東京でのオリンピックとパラリンピックもいよいよ4年後にせまっています。今後、日本中のいたるところで、交通や観光分野に限らず、文化や風習も異なる外国人との コミュニケーションが発生することになってくることでしょう。日本人と外国人と間でトラブルをなるべく避け、おたがいを尊重できるようなルールや情報を明示してくために、わかりやすく視覚化するピクトグラムの活躍の余地が、大いにあるかもしれません。
参考サイトと文献
「ピクトグラム」ウィキペディア、日本語(2016年2月10日閲覧)
Rayan Abdullah, Roger Hübner, Piktoramme und Icons. Pflicht oder Kür?, Mainz 2005.
Oliver Hervig, Macht der Piktogramme. Die Zeichen der Zeit, Ist es ein Leit- oder ein Leidsystem? Wie Piktogramme als Chiffren der Globalisierung die Welt erobern, Süddeutsche Zeitung, 17. 5. 2010,
ÖBB entwickeln neue Piktogramme, Wien ORF.at, 17.8.2015.
Bebildertes Labyrinth am Bahnhof, Kurier lifestyle, 19.8.2015.
Julia Sysmäläinen, Say it with a picto /// Lasst Piktogramme sprechen. Edenspiekermann, 1.3.2013.
Knigge für Asylbewerber mit 20 Piktogrammen, Tagblatt Online: 27.1.2016.

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振
興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


コインの表と裏 〜 キャッシュレス化と「現金」ノスタルジー

2016-02-08 [EntryURL]

最後に飲み物を購入された時(コーヒーでもジュースでもかまいませんが)、どんな支払い方法を利 用されましたか?現金、カード、振込、あるいは他の電子マネーでしょうか?スイスではコー ヒー一杯や缶ジュースのような少額の支払いには、キオスク(売店)にせよ、自販機で買うにせよ、現金での支払いが今も一般的です。年間の現金による売買(支払い)回数は25億回で、 カード決済の回数1億8000万回をはるかに上回っており、決済の79%が、今でも現金を介した決済です。
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そうとはいえ電子決済は年々増えてきており、スイス全体に流通するお金のな かでの現金の占める割合は、1990年では90%だったのに対し、近年は60%まで減少しています。EU圏内のキャッシュレス決済の内訳をみると、カード決済(クレジットカード及び、デビットカードを使った決済)が43.5%、 振込が26.5%、引き落としが24.0%と、最も多いのがカード決済です。EU側の概算では、EU圏内に、デビットカードを含めなんらかのカードを持っている人は5億人おり、トータルで7億2700万 のカードが発行されています。
ただしクレジットカード決済では、カード加盟店である販売者がカード決済に必要な機器を購入しなくてはならないだけでなく、カード会社や金融会社に売り上げの額に比して手数料を払わなくてはならないため、零細経営の店舗にとっては、かなりの負担であり、それを理由にクレジットカード決済に躊躇する店舗も少なくありません。特に飲食業界ではその傾向が強く、スイスの3分の1のレストランでは、今もカード支払いを受け付けていません。家族経営のペンションなど小規模宿泊施設でも、同様の傾向がみられます。
このような業界の負担を軽減し、市場を活性化させるため、近年EU圏とスイスでは 、クレジットカード加盟店が手数料として支払っていた額の上限を引き下げることが、相次いで議会で可決されました。これを受けて、昨年2015年から、EU圏では、クレジットカードの手数料を一律最高0.3%となり、スイスでも昨年8月からクレジットカードの手数料が0.95 %から0.7% に下り、2017年 8月からはさらに0.44% に引き下げられる予定です。EU圏内のクレジットカードのシェアが90%という圧倒的な強さをみせるアメリカ系大手クレジットカードのビザカードとマスターカードにとっては大きな打撃となりますが、スイスのカード加盟店にとっては、年間の負担が5000か ら6000万スイスフラン減ると期待されています。ちなみに、EU圏のデビットカードの手数料にも0.2%と上限がつけられましたが、デビットカードはもともと手数料が低く、こちらはほとんど影響がないと見込まれています。
カード決済のほかにも近年スマートフォンを使った電子決済など、年々安価で便利な電子決済の方法が新たに導入されてきており、今後もヨーロッパの現金離れに拍車がかかると予測されますが、このような電子決済だけではなく、ほかの方面からも現在、現金に逆風が吹いています。マネーロンダリングやテロリストやテロ組織への資金の流れを断つためのテロ資金対策として、現金決済を制限すべきという見方がヨーロッパ諸国で強まっているためです。このため、欧州中央銀行は目下、現在流通している最高金額のユーロ紙幣である500ユーロ紙幣の発行を中止することも検討しています。
EU圏が500ユーロ札の発行が中止になると、スイスの1000スイスフラン紙幣発行にも、圧力がかかると予想されます。1000スイスフラン札は2014年にシンガポールで当時紙幣として世界最高額であった1万シンガポールドル札の発行が中止されて以降、世界で最高額の紙幣です。2008年秋の時点では2300万枚しか出回っていませんでしたが、金融危機や昨年からのスイスのマイナス金利導入のため需要が急増し、2015年 11月には4300万枚まで発行枚数が増えました。銀行にお金を預けるかわりに、タンス預金が今後急増するようになれば、マネーロンダリングの抑制やテロ資金対策としての高額紙幣の発行中止の是非をめぐる議論とは別に 、どのくらいお金が社会に出回っているのかを、中央銀行が把握するのが難しくなることは確かです。
また普段何気なく使っている現金自体、かなりの高価な代物です。紙幣の印刷こそ、一枚30ラッペ ン(100ラッペン=1フラン)でできますが、傷んだ紙幣を補充する のに、毎年2000から3000万スイスフランかかります。製造、輸送、保管、セキュリ ティー、保険など、現金流通にまつわる費用を総計すると、年間25億スイスフランにもなり、これらの費用は、毎年、国民全体が税金で負担していることになります。このためデビットカードの決済1回にかかるの費用が36ラッペンに対し、現金での決済の場合は40ラッペンかかることとなり、現金で支払う場合のほうが、カードより結局高くついていることになります。
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これらの事情を総合すると、キャッシュレスの時代がいよいよ到来するということになるのでしょうか。 現金がいまだかなりの幅を占めているスイスにいると、そのような実感はほとんど湧いてきませんが、同じヨーロッパでもスウェーデンの状況は、そんな時代を彷彿させるものとして注目されます。 スウェーデンでは、キオスクや市場での少額の買い物だけでなく、教会の献金や公共のトイレ(ヨーロッパでは公共のトイレが有料の国が多い)の代金支払いにも、現金ではなく、カード決済や電子マネーなどの電子決済が普及しており、キャッシュレス化が非常に進んでいます。そして 15年後には、いよいよスウェーデン政府は現金を一切廃止にする予定だといいます。
硬貨の色、重さ、大きさ、金属の種類の絶妙な組み合わせで、それぞれがとても区分しやすい日本の硬貨に比べると、ユーロの硬貨やスイスフランの硬貨は、種類が多いのに見かけも大きさも似通っているものが多く、こちらに長く住んでいても、いまだになかなか慣れず、わずらわしさ を感じることがよくあります。しかしそうは言っても、 現金なしでお金とつきあうということは 、一体どんなものなのかまだ想像ができません。硬貨の重なり合う音や、紙幣のなめらかで乾燥した触感など、これまで長年現金のまわりで培ってきた、物理的な感覚を捨て去って、数字だけでお金を想像することになれば、お金への感覚はずいぶん変わってくることだけは確かでしょう。
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買い物の総額にぴったり見合う硬貨があるかを財布の中で数えたり、レジでもらった釣り銭で財布がいっぱいに膨れて重たくなる、そんな今は些細な、あるいはわずわらしくも思うことが、ひどくなつかしくなる、そんな時代が意外に早く来るのかもしれない。そう思うと、今は普通に財布の中と外を出入りしている硬貨や紙幣たちが、ちょっと違った風にみえてきます。
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参考サイトと文献
——現金とキャッシュレス化について
Bargeld. SRF Kultur, 20.1.2016.
Schweizer zahlen immer noch lieber mit Bargeld, SRF Konsum, 15.12.2014.
Schweizer Bargeld-Wahn, 7. Dezember 2014
Reto Widmer, Wer verdient, wenn wir bezahlen?, SRF Digital, 4. 12. 2014.
——カード手数料の引き下げについて
EU-Gesetzgebung Ab Mai sinken die Kreditkartengebühren, Frankfurter Allgemeine, 10.03.2015
EU deckelt Kreditkarten-Gebühren. Mehrheit der Abgeordneten für Obergrenze - Drosselung auf 0,3 Prozent. In: News, 10. März 2015.
Wettbewerbshüter setzen Senkung der Kreditkartengebühren, SRF Wirtschaft, 15. Dezember 2014
Kreditkarten-Gebühren sinken. Gibt der Handel die 50 Mio an die Kunden weiter?, In: Blick, 15.12.2015.
——ユーロやスイスフランの高額紙幣発行中止をめぐる議論
Ein Doppelschlag gegen das Bargeld. Die EZB prüft die Abschaffung der 500-Euro-Note - die Schweiz mit ihrer 1000er-Note könnte dadurch unter Druckgeraten. In: NZZ Wirtschaft, 6.2.2016.
Abschaffung der 500-Euro-Note. Gefährliches Zündeln mit Bargeld. In: NZZ Meinung und Debatte, 6.2.2016.

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振
興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


サイト制作の第一歩:ドメインの重要度

2016-02-05 [EntryURL]

海外販売サイトを作る上で最初の段階でじっくり考えなければいけないのは、「ドメイン」です。
このドメイン。日本国内サイトではあまり重要視されていない感じがします。

短く・キーワードが入っている「.com」のドメインが理想です。
大きな力ではないにしろSEOに関係するし、その後の販売(これはまた機会があれば)大きな影響を及ぼします。
「.com」以外にも「.net」などなどたくさんのドメインの種類がありますが、ターゲット国を絞らず全世界向けのサイトなら前述しましたように「.com」、条件によっては「.net」を取得します。
他のドメインはある特定の目的以外は使いません(「.infoや.tokyoなど」)。

検索を意識したサイトを作るのであれば取得しなくて結構です。
ドメインの取得は世界中「早いもの勝ち」です。
Googleが2015年秋に、「google.com」の所有権を一時的に失ってしまいました。
ビックリするくらいの凡ミスです。
結局新しい取得者Sanmay Ved氏から買い戻す形になったのですが、Sanmay Ved氏
が取得していたのはわずか1分間だったそうです。
海外ではドメインの売買が活発です。

ドメインの力を知っているサイト運営者はいいドメインを欲しがります。
「creditcard.com」などは数百万円で取引されています。
今回のSanmay Ved氏は転売目的ではなかったのでGoogleと友好的に交渉が行われました。
金額は「6006.13ドル」だったそうです。
「6006.13」→「google」に見えます。面白いですね。

Sanmay Ved氏は慈善団体に寄付すると表明したので、それを受けて最終的に、Googleはその倍支払ったそうです。
このように美談で終わることもあるのでしょうが、揉めることもあります。

日本初のドメイン裁判。「jaccs.co.jp」のドメインを巡ってクレジットカード会社のジャックスと、ドメイン取得者の有限会社日本海パクトが使用差止めを巡って裁判で争いました。
この裁判は、ジャックスが勝ったのですが、ドメインは早いもの勝ちではあるけれど、訴えられる可能性もあるということです。

ドメインは、わたしたち個人レベルでも大きな企業と話できる材料にもなります。
ドメインは使い方によってはビジネス・交渉の大きな武器になるのです。


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