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デジタル・ツールと広がる読書体験

2016-02-03 [EntryURL]

電子書籍が登場した時、いずれ紙の書籍は追いやられて電子書籍の時代が来る、と予感した方は少なくなかったと思います。しかし電子書籍についての最近の動向を調べると、意外に普及していないことがわかります。

電子書籍化が進むアメリカでも全書籍で占める割合は、全体の30%にとどまり、2014年の1月から4月までの4ヶ月の売れ行きは、2012年の売り上げと比べ、停滞あるいは、下回る傾向すら確認されました。ヨーロッパ全体では電子書籍の売り上げは、いまだ全体の10%に満たず、ドイツにおいては、2015年の前半においても5.6%にとどまっています。ドイツでは、 専門書籍や英語の本では電子書籍の売り上げが増加傾向ですが、それ以外の分野では、電子書籍はほとんど普及していないのが現状です。アメリカに比べてドイツやオーストリアで売れ行きが伸び悩んでいる要因の一つとして、電子書籍がハードカバーの書籍の10%ほどしか安くないことがあげられます。 電子書籍は比較的高価であるにもかかわらず、本と異なり電子書籍は友人に貸すこともできませんし、インターネット・オークションなどで転売することもできません。また贈答用として書籍を買う場合も、包装してリボンをつけた普通書籍のほうが、オンラインショップで使えるギフト券よりも好まれることも容易に想像されます。

こういったわけで、出版業界全般が不調なのは事実ですが、とくに電子書籍によって従来の紙を媒体とした書籍が駆逐されるということは、少なくとも当面はないようです。むしろ注目されるのは、電子書籍を購入する人は、並行して従来の紙の書籍も購入していることです。少し前のデータですが、2012年の2500人を対象にしたこのアンケート調査では、電子書籍を購入する人のほうが、購入しない人よりも、むしろ紙の書籍を購入していました。家では紙、外出中は電子書籍、と使い分けて電子書籍を利用している人が多いようです。また、意外にも20歳から39歳までの若者層の間でとくに電子書籍の購買全体は減っていました。

そもそも、電子書籍は通常の紙の書籍とでは、読解や読後の効果になにか違いが生じるのか、という議論もあります。とくに、ヨーロッパでは、新しいものの取り入れになにかと慎重な傾向があるため、今回も長い読書の伝統を破った新しい読書スタイルである電子書籍というものに、すぐにとびつくよりも、慎重に検討・議論するような姿勢が、アメリカよりも、当初から強かったように思います。近年ドイツ語圏で、電子書籍に限らず、日常生活に普及してきたデジタル機器全般に警鐘をならす本が2012年に出版され、その主旨の正否をめぐって議論が巻き起こったのは、その端的な例でしょう。その話題の本、脳神経科学者のマンフレッド・シュピッツアー氏の「デジタル認知症」について、まずは簡単に紹介してみます(自分の専門外なので、多少不適切な言い回しがあるかもしれませんがその場合は、ご容赦ください)。

脳は、脳全体で1000〜2000億個あると推定される神経細胞 (ニューロン)から神経細胞へと、電気信号を出しあうことによって情報を伝える、シナプスという構造をもっています。これによって、脳であらゆる情報が処理されているのですが、それぞれの視覚情報、聴覚情報などが、ある特定の場所でひとつの事項として記憶されているわけではなく、さまざまな場所(センター)にその情報が伝達され、処理されています。網膜から得られた視覚情報が、いかに多くのセンターを使って認知されているのかを図式モデルに示したのが下の図です。

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出典 M. Spitzer, Digitale Demenz, 67頁


つまり「認識する」という受動的に思えるようなプロセスですら、新たな情報を処理、つまり理解するために、脳にすでにある知識を駆使し、つまり脳の全体を使って行う、非常に能動的な行為にほかなりません。このようにシナプスは、見る、聞くなどの様々な形の刺激によって、限りなく発達することができますが、逆に「見る」など、いつも同じあるいは単調な刺激しか得ていないと、発達するどころか、むしろ退化することにもなります。記憶を例にとってみると、(エーデルワイスの生息域がどこかを机上で暗記してもすぐに忘れてしまうかもしれませんが)、実際にアルプスで エーデルワイスを探して、見つけることができたなら、記憶がさまざまなセンターに保管されることになり、それがいつでどこだったかを、簡単に忘れることにはなりません。(ものの認識・理解において、視覚情報源だけでなく、触覚のような別の情報源が決定的に重要であるという指摘は、ハプティック・デザイン専門家とも共通しています。詳しくは「ハプティック・デザイン 〜触覚を重視した新たなデザインの志向」をご参照ください。)

このような神経細胞レベルのしくみをふまえて、著者は、見る、聞く、触る、発言する、議論するなどを駆使した従来の学び方に比べ、デジタル・ツールの学習方法は、インプットが視覚に偏重しており、読解・認識、さらには洞察や発展的な考え方を得るために十分なシナプスの発達を妨げている、と危惧しているのがこの本の主な主張です。

もともと著者は、ドイツの国営放送 で2004年から8年間計200回近く放映された「心と脳」という長寿番組で、明快で簡潔に(毎回15分)脳のしくみを様々なテーマから解説することで、人気も知名度も高い人物です。さらに本書がセンセーショナルなタイトルで主旨もわかりやすく、また、教育学者や政治家などではなく、神経学という科学的見地からの教育や社会への警鐘であったため、メディアも大きく 取り上げることになったのでしょう。しかし現在は、たしかにデジタル機器の影響は一定程度認められるものの、デジタル機器の使用と学習や理解能力の関係 は、個々の人間や環境、またデジタル機器のコンテンツなどによっても非常に異なり、本書が打ち出したような明快な相関関係はみられない、ということで世間を巻き込んだ「デジタル認知症」の議論は、一応収拾がついているようで す。ただし、保守的な考え方が強い人たちの間では、デジタル機器全般の弊害を危惧する見方は、依然受け入れられやすいものであるには変わりなく、現在も、教育や社会全般のデジタル化に、一定のブレーキをかけているように思います。

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テレビ番組「心と脳」


一方、デジタル・ツールを介した読書 が、逆にこれまで想像できなかったような恩恵を与える可能性もあります。もともと速読マシーンとしてドイツとアメリカで共同開発されて、昨年からタブレットやパソコン、一部のスマートフォンでも利用できるようになっている無料のアプリケーションソフト「スプリッツ Spritz 」はその好例でしょう。

通常の印刷された文章を読むには、 単語や行をつぎつぎに目で追い、視線を移していなかくてはいけませんが、知的能力や一般的な理解能力に問題がなくても、この単語や行を追う視線の移行がスムーズにできないために、通常の文章の読解に大きな困難が生じる場合があります。ドイツでは、学校に通う生徒全 体の4パーセントに、ディスクレシア(読字障害)とよばれるこの学習障害の症状が見られるそうです。しかし、この速読アプリケーションソフトを使うと、読みたい文章が、1単語ずつ順番に、定位置にあらわれるため、視線を動かさずに読むことができます。単語の長さは もちろん個々に違いますが、単語の1文字だけが赤文字となっており、赤文字の位置は単語が入れ替わってもいつも同じなので、この赤い文字の位置に視線を固定しておくだけで、それぞれの単語を視界内で 十分に読むことができ、続けて読んで行くことで、頭のなかで文章となって理解できるというしくみです。(単語の入れ替わる速度を 自分で設定できるので、速度を速くすれば、普通の人にとっては速読に使えます。)

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このツールのおかげで、世界中から、これまで文章を読むのに苦労をしていた人から多くのポジティブなフィードバックが開発者に届いているといいます。残念ながら現在のところ、日本語はスプリッツの対象になっていませんが、今後、新たなツールやさらなる改良版など、デジタル・ツールを介して、読み書きの世界のバリアフリー化がさらに進むことが期待されます。

電子書籍からはじまった、デジタル・ ツールを介した読書の習慣は、まだスタートしたばかりです。これから先、さらにどんなものが生み出されまた淘汰され、そして、どんな 読書体験が広がっていくのでしょうか。今後の展開に期待がふくらみます。しかし、それは同時に、今回の「デジタル認知症」の議論のように、新しいツールを手放しで受け入れるだけではなく、その都度新たな角度から検証したり、議論したりしていく心の余裕や冷 静さもまた、これまで以上に必要とされる、ということでもあるかもしれません。

参考サイト・参考文献

—-電子書籍の近年の動向について
E-Books: Das gedruckte Buch darf weiterleben. In: DiePresse.com, 4.3.2015.

Der Hype um E-Books ist vorbei. In: futurezone, Technology News. 11. 10. 2015

Studie: E-Book-Verkäufe schaden Buchmarkt nicht. In: futurezone, B2B, 10. 10. 2012

—-著作「デジタル認知症」とその後の議論について
Manfred Spitzer, Digitale Demenz. Wie wir uns und unsere Kinder um den Verstand bringen, München 2012.

Norbert Rossau, Digitale Demenz? Von wegen! Hirnforschung. In: Die Welt, 02.01.13

“Digitale Demenz” ist ein Mythos. In: derStandard.at, 28. März 2014, 12:32

Führen digitale Medien zu „Digitaler Demenz”? Neues aus der Wissenschaft, Almuniportal

—-スプリッツについて
スプリッツ Spritz

Spritz: Auge starr aufs Wort gerichtet. Mobile World Congress, 5.3.2014 In: golem.de, IT news für pfofis.

Markus Böhm und Marin Jäschke (Video), Schnelllese-App Spritz: “Das Textverständnis leidet sehr” In: SpiegelOnline, 4.7.2014

—-日本のディスクレシア(読字障害)と新たなツールの活用可能性について
近藤武夫「鉛筆が苦手ならキーボードを使えばいい――読み書きの困難な子どものICT利用 / 特別支援教育」Synodos, 2015.12.04

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


株式会社HAUL 代表取締役 藤井彰一 氏

2016-02-03 [EntryURL]

151120__0033.JPG1984年生まれ岡山県出身、岡山県在住。
2013年に自営業を初め4期目に入る、現在社員1名パート3名体制。
学生時代から続けてきた副業を本業にし、100%のフィードバックを維持しつつ顧客満足による、リピーター獲得に成功。

海外販売・越境ビジネスの可能性を自分の趣味を活かしての販売で実践中。
誰でもボーダレスに活躍できるノマドビジネスをeBayを使い広めている。

最近では、大手リサイクル業者と提携し、買い取りサイトの構築や、セミナー活動にて活躍の場を広げ、自分の可能性に挑戦中。

ビジネスでは「3方良し」の信条で長く商売を続ける事に尽力しており、今後の円高対策は完了済み。

最近の悩みは社員の成長をどう助けるか、日々多く悩む。

海外販売実践中の方々や初心者の方々と一緒に成長していけたらと思っております。
皆さまよろしくお願いします。


2016年02月20日号 eBayビジネス ―あなたの趣味が武器になる―
2016年03月20日号 eBayビジネス ―在庫は怖くない。フロントエンド、バックエンドの商材選び―
2016年04月20日号 eBayビジネス ―事業投資していますか?―

スイスの風邪予防策

2016-01-28 [EntryURL]

日本でもスイスでも寒さが本格化して、風邪が流行する時期となりました。「日本は街なかを、マスクをつけて歩いているんでしょ?」と時々スイスの人に聞かれることがあります。スイスでは、医療関係者でもない限り、普段の生活でマスクを着用することは、ほとんどありません。マスクの予 防効果は一般的に知られてはいるものの、マスクは危険な感染病が蔓延している非常事態のようなものを連想させるようで、着ける習慣にはいたっておらず、それで余計に、メディアでしばしば目にする日本人のマスク着用姿が、強く印象に残るようです。それでは、スイスでは、マスクのかわりにどんな対策がとられているのでしょうか? 身近な予防策として、こちらで一般的で、日本ではあまりみられないものについて、ご紹介いたします。

<風邪茶>

以前、「バラエティーに富むハーブティー文化」という記事でもご紹介いたしましたが、スイスをはじめとするドイツ語圏では、非常に多様なハーブティーがあります。お茶の専門店や薬局だけでなく、スーパーでも多種のハーブティーが売られ、そのなかには、風邪の症状を抑える作用があると定評があるハーブティーも数種類あります。風邪の症状全般を対象としたもの、のどの変調に効くもの、抗菌作用のあるもの、咳や気管支炎を抑制するもの、などがその典型です。

<のどグミ>

薬用のど飴もありますが、のどによくしかも おいしく食べやすい、ということで、こどもたちにも人気があるのが、のどの炎症を抑えるカシスやアセロラなどの植物濃縮液が配合されたグミです。
160128-1.jpgグミベアーで有名なハリボに代表されるように、ドイツ語圏ではグミがお菓子として人気が高いので、のど用のグミも受け入れられやすいのでしょう。甘さ控えめでシュガーフリーのものが多いので、就寝前にも食用できて便利です。

<風邪風呂>

日本では風邪気味のとき、湯冷めをするといけないので、お風呂は避けるという方も多いのではないかと思います。ドイツ語圏では、普段はシャワーだけでほとんど風呂に入らない人も多いのですが、逆に、風邪の初期症状が現れたときにこそ、お風呂に入ると効果的だ、と思っている人が少なくないようです。
160128-2.jpg体をお風呂で温めることで免疫力を高め、風邪の症状をやわらげられる、と健康専門雑誌などでも、風邪の症状がでたときの入浴を薦めています(ただし熱があったり、すでに風邪の症状で体力が消耗している時はその限りではありません)。このため、「風邪風呂」という名のハーブを配合した入浴 剤や、関節痛や筋肉痛の緩和や背中や腰を温めるなど、風邪の症状にも効果的な入浴剤が、店頭でも売られています。子供用「風邪風呂」入浴剤を販売している会社もあります。

<海水スプレー>

鼻詰まりがひどい時に威力を発揮するのが、 海水スプレーです。その名の通り、海水と同じ成分、あるいは本物の海水をつかった塩水のスプレーで、鼻に下から1日数回シュッと吹き込むだけで、鼻の通りに効果があり、風邪の症状が和らぎます。単なる塩水なので、薬のような副作用が心配されることもなく、風邪以外にもハウスダストやスギ花粉などのアレルギー性鼻炎にも使用することができます。 乳幼児から使用できるものや、粘膜を保護する植物エキスをさらに加えたものなどもあります。
160128-3.jpgところで、わたしが海水スプレーを最初に 知ったのは、スイスに来てまもないころ、乳幼児だった子どもの風邪で小児科を訪ねた時だったのですが、以下のようなやりとりが、その前にありました。 子どもの鼻づまりがひどいのに、日本にある幼児用鼻水吸引のような道具を使うことを勧められなかったので、吸引が必要ないのかと医師に聞くと、「日本では鼻水を吸引するんですか? (軽く身震いして)気持ち悪い!それは親にとっても子にとっても不快だし、弱い鼻の粘膜を傷つける危険があるから、わたしは断固反対します。」 と回答され、かわりとして、この海水スプレーを処方されたのでした。 小児科の先生の拒絶反応がとても大きかったので、「スイスは、ずいぶん日本とやり方が違うのですね」と答えると、「当然です。同じ医者でも、自分のいるところでやっていることし知らないわけですから(ほかの国や地域でやっていることはわからないのです)」との返事がかえってきました。世界中どこでも人間は風邪をひきますが、それへの対応は同じ西洋医学の医療機関でも、地域によって少しずつ異なるものなのだ、という事実が鮮明になって、印象に残った出来事でした。

<食品(食事)療法>

ハーブだけでなく、ほかにも食事や身の回りの食品を使ったいろいろな風邪予防の方法が、生活の知恵として今もみられます。ここではその一例として、最も一般的に普及しており、看護師の知人からも薦められた、たまねぎを使った風邪予防法を紹介しましょう。みじん切りにした生のたまねぎをクッキング・ペーパーに包み、咳であれば背中、耳が痛ければ耳、鼻がつまっていれば寝床のそば、というふうに、疾患部分にそのまま包帯等で固定したり、近くに置いておく、というものです。たまねぎには、抗菌・殺菌作用があって、肌を通して効いていき、体全体に効果ででるそうです。ただし部屋がたまねぎ臭くなることは必至です(!)。
ところで、スイスに住む人の4人に一人は外国籍で、もともと外国育ちでスイスの国籍を取得したという人も大勢います。そんな外国出身の人たちは、スイスの地に、どんな食事や食品療法をもちこみ、あるいは実践しているのでしょうか。スイスでドイツ語講座を受講している、世界中から移住 してきてまだ日の浅い外国人たちに、以前、このことについて尋ねてみたことがあります。すると、回答者がほとんど主婦であったせいもあり、胡椒や紅茶、塩、酢、アルコール、しょうが等、 それぞれの地域で簡単に手に入る食材を使った伝統的な療法を、かたことのドイツ語で熱心に教えてくれました。いくつ かの地域に共通するものもあれば、独特の地域的な療法もありましたが、風邪予防の療法や伝統的な土地の知恵は、世界中にあるものなのだと改めて知ることができました。

<最強の風邪予防策?!>

スイスに住み始めて10年近くになります が、これまで医療関係者以外で、インフルエンザの予防注射を定期的に受けているという人をまわりで聞いたことがありません。子供が小さい時によく通った先ほどの小児科でも、予防注射をすすめられたことは一度もありませんでした。もちろん、インフルエンザについてメディアで報道されることもしばしばありますが、学校や家庭での、インフルエンザ予防意識は、日本に比べれば希薄な気がします。「学級閉鎖」や「学校閉鎖」に相当するドイツ語もありませんし、実際、学級や学校が風邪やインフルエンザで閉鎖されるということも、まわりの誰に聞いても、 聞いたことがない、といいます。
スイスではなぜ、日本と比べ、インフルエンザがそれほど憂慮されないのでしょう?少なくともこれまでは、それですんでいたのでしょう? 通勤・通学に利用する公共交通機関の頻度や時間、また人々が生活する場の密集度など、生活や就労環境にまつわる様々な要素が関連している話なので、簡単に解答ができることではないと思いますが、個人的な意見では、学校の休暇制度の違いが大きな鍵を握っているように思いま す。
スイスの学校は2学期制で、1学期が終わり、後半の2学期がはじまる前に、通常1〜2週間の休暇があります。地域によって休みの長さや時期は異なりますが、たいていの地域では、 毎年2月中のどこかにこのような休暇が設けられています。休暇がスキー・シーズンに重なっていることもあり、「スポーツ休暇」と呼ばれていますが、例年、この休暇の直前あたりから、ちょうど寒さも強まり、風邪も流行しだしてきます。しかし風邪が流行りだしても、その後すぐに、1〜2週間、児童が一斉に休暇をとることで、互いの感染が抑制され、風邪の流行が沈静化されます。これが、非常に風邪やインフルエン ザの最大の予防になっているのではないかと思います。こどもたちのこの時期の休みに合わせて、会社勤めの親もスキーなどの長期休暇をとる場合も多く、その意味では、社会全体の風邪の流行を阻止するのにも、学校の休暇が、間接的に一役買っていることになります。
日本では、ちょうど風邪やインフルエンザの 流行時期と受験シーズンが重なってして、自分が風邪をひくのはもちろん、他人にうつすことも心配で、大変、神経を使う時期かと思います。 暖かくなってくるまでのもうしばらくの間、どうぞ、この記事を読んでくださったみなさまも、くれぐれもご自愛ください。

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振
興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


世界で共感・共有される Emoji

2016-01-21 [EntryURL]

世界最高峰と言われる事典『オクスフォード英語事典』を出版するイギリスのオクスフォード大学出版局は、毎年暮れに「ワードオブザイヤー The Word of The Year 」を発表しています。これまでイギリスなど英語圏を中心とする、その年を一番象徴すると思われるような単語が選ばれてきましたが、昨年2015年は、単語ではなく、 オンライン用の絵文字が選ばれました。今回、ワードオブザイヤーの歴史上はじめて絵文字が選ばれたことで、「ワードオブザイヤー 」というカテゴリーにふさわしいのか、と色々と批判も出たようですが、なにはともあれ、今日、絵文字が文字情報にせまるほど、広く一般的に使われるようになったことを、事典の権威が承認したといえます。
具体的に選ばれたのは絵文字の一つの「 泣き笑い顔 Face with Tears of joy 」 という ものです。オクスフォード大学出版局と共同で2014年10月から翌年1月までの16カ国以上の10億以上の絵文字データを調査したモバイルビジネス会社SwiftKeyに よると、イギリスでは、この絵文字が、前年使用された絵文字の4%にすぎなかったのに対し、2015の調査では、全体の20%を占める一番の人気絵文字であったからだそうです。(ちなみに普通のスマイリーは使用頻度は6位にとどまりました。)
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世界中でも Emoji と呼ばれている絵文字は、世界発の携帯電話によるインターネット接続サービスをはじめたNTTドコモのメール交信サービスのために、1999年に栗田穣崇さんによって生み出されました。その後、日本からアジア、そして世界へと、そのオンライン・コミュニケーションでの利用が爆発的にふえてゆき、この間に絵文字のジャンルも、顔から動物、植物へと広が り、現在、絵文字数は60のカテゴリーに分かれる800以上にのぼっています。
今回は、この日本生まれの絵文字を取り上げながら、世界へ広がっていく文化の特性について、少し考えてみたいと思います。
まず、絵文字の流行の背景について、イギリスやドイツ語圏の専門家の見解を参考にしながらまとめてみます。オンライン・コミュニケーション手段が世界中で一般化し、普及してくるなか、ユーチューブのビデオやスカイプなどの共時的な会話など新たなものも発達してきましたが、依然として、文字メッセージによる交信も強く支持されつづけてきました。しかし、オンラインの文字コミュニケーションは、いくら共時的で便利になったといっても、直接会って行うコミュニケーションや電話と比べると、情報の伝達の仕方に限界がありました。人がお互いに顔を見合わせてコミュニケーションすれば、言葉だけでなく、顔の表情や話し方、声のトーンなどからも聞いている側が情報を入手することができます。電話での対話でも、顔こそみえませんが、話し方や声のトーンから情報を得ることができます。これに対し、文字コミュニケーションは、文字通り、文字とそのニュアンスでしか伝達することができません。
このような文字コミュニケーションにおいて、違う角度から新たな情報を簡単に伝達し、文体の表現を豊かにする助けとなったのがまさに絵文字でした。スティーブ・ジョブズの言葉に「製品をデザインするのはとても難しい。多くの場合、人は形にして見せて貰うまで自分は何が欲しいのかわからないものだ。」というのがありますが、絵文字はまさに、消費者が欲するものをうまく形にできた幸運なパターンだったのでしょう。いったん絵文字というツールが開示されると、急激に絵文字の需要は増えていき、絵文字は今日にいたるまでにメッセージ伝達に不可欠の構成要素として定着してきました。特に、今回の選ばれたのが人の顔の絵文字であったように、顔を 描いた絵文字は、人の気持ちを端的に表現するものとして共感を得られやすいようで、多く利用されています。実際、絵文字を見た人が、ほん とうの笑顔をみたときと脳が同じように反応しているという心理実験の結果もあらわれました。
それぞれの地域で生まれでてくる文化の中にはいろいろなものがあります。その中には、文化には、地域や人種や習慣などの境界を越えられないものもあれば、やすやすとそれらの境界をのり越えて世界的に広がるものもあります。ただし、他の地域で人気がでたとしても、海外の人が同じような意味合いで理解したり、評価しているとは限りません。ものめずらしさやエキゾチックさ、あるいは豊かさを象徴するものとしての付 加価値のために、一時的に注目を集めても、それが長く定着するものとは限らないということはよくあります。最初の数ヶ月、長蛇の列になるほど人気を集める世界各地のマクドナルドやIKEAの国内第一号店の状況は、この端的な例でしょう。日本の寿司も現在は世界的に大変もてはやされていますが、今後長期的にどれだけ地域の食文化として定着するのかは、未知数です。
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一方、特定の地域性をもった文化が世界的に普及していくのと同時に 、 世界各地で物議をかもし、反感を買うこともしばしばあります。アメリカを象徴するようなポップ・カルチャーが共産国やイスラム教徒の国などで禁止や否定される動きは、この半世紀の間、絶えずみられました。
他方、特定の地域性に育まれて発達した文化でも、つくられた土地の特有性を超越して、各地の土地の文化に適合し、あるいはそれぞれの土地の 文脈に沿って独特の融合や展開を経て、世界的に定着していった文化もあります。洋服や自転車、スーパーマーケットからフェイスブックのようなソシアルメディアまで、近代以降の歴史を振り返れば、このような文化的産物は、枚挙にいとまがありません。このような文化は、渡辺靖氏の『沈まぬアメリカ 拡散するソフト・パワーとその真価』の言葉を借りてまとめさせていただくと、「ローカリゼーションやハイブリッド化を容認(200、 1頁)」することで、本来のモデルかもっていた「革新性や希少性は失われ」(201頁) るが、「文化帝国主義」などとして警戒・批判する風潮もほとんどうけず、その起源され「意識されずに浸透してゆく」(202頁) もの、といえるでしょう。
さて、世界的に成功をおさめてきた文化の類型をいくつか考えてみましたが、今回「ワードオブザイヤー 」 に選ばれた絵文字の文化は、果たしてどんな文化だといえるでしょうか。
前述のSwiftkeyの調査からは、国や地域によって使われ る絵文字の傾向が異なることもわかりました。フランスではハートの絵文字が、平均的な国よりも4倍も頻繁に使われ、オーストラリアではビールのジョッキなど、アルコールの絵を好んで使います。カナダではピストルやナイフなどの武器の絵、スペインではパーティーに関係するものがよく使われ、アラブ諸国では花の絵文字がよく使われていました。また人肌の色を多様ななかから選択できるようになるなど、政治的な配慮や地域的な需要に合わせて、新しい絵文字がどんどん増えています。
また、同じ絵文字でも、地域によって異なる意味に置き換えられることもあります。絵文字にある鼻ちょうちんをつくって居眠りしている顔 は、日本では寝ている意味ですが、世界的には「泣いている」顔と捉えられることが多く 、 鼻から息がでているのは日本では「勝利」の意味ですが、欧米では怒りをあわらす文脈で使われていることが多いそうです。つまり、絵文字自体は決まった形ですが、それぞれの地域によって使う頻度や、使い方を変え、地域の要望に応えて新たな絵文字を加えることができます。
さらに、もう一つ重要なのは、絵文字の基本的なデザイン・表現方法が、世界でほぼ共通に理解されえるもので、好感や共感もすぐに得られるようなものであったということでしょう。ツールとしてよくてもデザインの中身が共感・好感を生むものでなければ、これだけ急激にスムーズに世界にユーザーを増やすことは不可能だったでしょう。
これらのことをトータルすると、このような世界各地の地域性を反映した絵文字の利用は、最初にデザインされた時点で、世界展開を視野にいれ ていたのかはわかりませんが、結果として、地域に順応する形で発達したグローバルな文化系統に当たるといえると思います。
ところでここ数年日本は、 官民協力体制で世界に向けて「クールジャパン」戦略を掲げてい ますが、これは文化戦略として世界に対してどのような文化を広めることを目指しているのでしょう? なんらかの現象や物象をみた印象として、「クール」だ、と形容することはできますが、対外的な文化産業プロジェクトが「クール」さを掲げる 時、目指すゴールはどこにあるのでしょうか。
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文化政策は、長期的な視座でみなくては重要な変化や効果が見えてきませんし、具体的な戦略も、これからも模索を続けていくうちに、明確になったり、改変されるようになることもあるでしょうが、さきほど引用した渡辺氏の同本には、国家の文化戦略のレベルでも指針となりそうな 示唆に富む記述があります。「ローカリゼーションやハイブリッド化」を避けるよりも、むしろ容認や奨励するようなオープンな姿勢をとるもののほうが、最終的に「より一層、魅力と正当性と信頼性、すなわちソフト・パワーを増すことにな」(200頁) る、というものです。
日本らしさをアピールしたものや、日本の好感的なイメージを演出する「クール」さとはかけ離れたところで、世界的にその価値が認められた時 にこそ、日本発の文化は、絵文字のようにソフト・パワーを全開にして、世界に進出する文化になっていくのかもしれません。
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参考サイトと文献
—- 2015年の「ワードオブザイヤー The Word of The Year 」について
Oxford Dictionaries Word of the Year 2015 is…”Face with Tears of Joy” (Emoji)
Katy Steinmetz, Oxford’s the word of the year ist this Emoji. In: Times, 16.11.2016.
Das Emoji, 100 Seckunden Wissen, SRF Kultur,19.11.2015.
—- SwiftKey Emoji Report 2015
—- 絵文字の背景や特徴についての言語学者の見解と絵文字についての記事
Parkinson, Hanna Jane, Oxford dictionary names Emoji the word of the year. Here are fiev better options. In: theguardians, 17.11.2015.
Are Emojis words? Science and Language Experts explalin. In: ThinkProgress, 20.11.2015.
Viele Emojis verwenden wir völlig falsch. 20 Minuten, 28.5.2015.
Antje Hildenbrandt, Emojis - Hieroglyphen des digitalen Zeitalters. In: Die Welt, 19.6.2015.
—- 他
渡辺靖『沈まぬアメリカ 拡散するソフト・パワーとその真価』新潮社、2015年
スティーブ・ジョブズ、ウィキクォート日本語版

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振
興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


スイスのお年寄りの元気の秘訣?

2016-01-13 [EntryURL]

スイス在住の日本の人と話していると、スイスのお年寄りは元気だ、という話題になることがたびたびあります。スイスでは、普通の自転車の後ろに人力車(?)のようなものをつけて、こどもや荷物を運ぶ自転車を街中でよくみかけますが、 この労力を要する代物にこどもをのせて、涼しい顔で自転車をこいでいるのが、若者ではなく、おばあさんだったりするのを初めて見た時は、そのタフさに本当にびっくりしました。そんなスポーティーな颯爽さだけでなく、きびきびした動きや、握手の握力の強さなど、普通の日常生活 で、高齢者の体力やスタミナを感じることがよくあるので、お年寄りが元気、という印象が強くなるのかもしれません。

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スイスの高齢者の食べっぷりも、見事です。こちらのレストランではどこでもある(日本のカレーやラーメンといった定番料理の一つである)カツレツにフレンチポテト添え、というボリュームたっぷりの料理を、高齢者がぺろりと一皿平らげる姿には、あっぱれ!、と感嘆詞つきでコメントしたくなります。

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スイスの高齢者は男女共によく食べ、よく動いて元気いっぱい、こんな個人的な印象が、あながちでたらめではない、と思えるような調査結果が あります。スイスの65歳以上の人の二人に一人は、ボディマス指数(BMI)が 25以上の「肥満」の枠に入り、ほかのヨーロッパ諸国同様に、高い肥満率です。それにも関わらず、2000年代のWorld Values Rearchの高齢者の国際比較調査を丁寧に紹介した「データえっせい」の記事によると、 調査対象国40カ国の中で、スイスは、高い自己健康評価をした高齢者の割合が一番高く、自分の健康状態について「よい」または「非常によい」と答えた人は、 65 歳以上では77.1%でした。75歳以上の人でも65%が自分を健康と評価しています。さらに、65歳以上の人の95.5%が「非常に幸せ」あるいは「幸せ」と回答しており、調査国全体 の幸福度平均値76.7%に比べても、 スイスは幸福感を享受している人がかなり多いという結果でした。(ちなみ日本は、自己の健康を良好と評価する人は42.3%とかなり少ないものの、幸福感を感じている人は9割以上ということで、健康と幸福感の相関性の少ないユニークな傾向を示しています。)

こんなスイスの高齢者とは、具体的にどんな条件や環境で生活している人たちなのでしょうか。「ヘルプ・エイジ・インターナショナル」という国際団体は、毎年、国連加盟国194カ国の中でデータが入手できる国を対象にして、高齢者が暮らしやすい国のランキングを出しています。昨年2015年も96カ国を対象に、収入の安定性、健康、雇用・生涯学習、社会参加支援の四つの分野において13の指数値で、高齢者の暮らしやすさを比較したものを公表しました。これによると、スイスは社会参加支援の分野においてトップに位置付けられており、最終的なトータルのランキングでも北欧の国を抜いて首位の地位についています。 (ちなみに日本は健康分野で世界ランキング1位で、社会保障や年金、累進課税などの制度も評価され、総合ランキングも8位で、アジアでトップとなっています。)スイスで首位となった「社会参加支援 Enabling environment 」という言葉は、少しわかりにくいですが、高齢者の他者との交流や、地域的コ ミュニティーへの関わりや貢献、またそれを維持・保障するような生活基盤や環境ということのようで、社会的な結びつき、治安、市民的な自由、公共交通手段へのアクセスという四つの指数から計測されています。

スイスが強いとされる高齢者の社会参加について、生活のあちこちで目にする高齢者のボランティア活動を思い浮かべると、納得がいく気がします。もともとスイスは、二人集まれ ば結社(クラブ)をつくる、と言われるほど、結社に入って趣味やスポーツなどの活動をする人が多い国です。そして、それらの結社やネットワークを母体としたボランティア活動は、以前「学校のしくみから考えるスイスの社会とスイス人の考え方」の記事でも触れましたが、地域社会の文化事業や社会福祉に伝統的に大きく貢献してきました。いまでも、スイスで15歳以上の人でボランティアをしている人の割合は、40%にものぼると言 われ、EU加盟国の15歳以上のボランティア活動の割合が平均23%であるのと比べても、スイスでボランティア活動がさかんです。

少し前になりますが、2011年、EUではボラン ティア活動を公に高く認知し、奨励、支援するため、ヨーロッパ・ボランティア年と定め、年間を通しキャンペーンを行いました。超高齢化社会を目前にして「社会的連帯」を強めなくてはならない、とヨーロッパでもよく言われますが、ほころびがでてきた地域の社会保障制度や、衰退するキリスト教的な伝統的地域扶助組織にかわって、ボランティア活動の潜在的な可能性が高く評価されるようになってきたことが背景にあったと考えられます。スイスはEU加盟国ではありませんが、同年以降、様々な地域のボランティア活動がメディアで取り上げられることも多くなり、 今日、その重要性が社会的に広く認知されているように思います。

しかし、今回の高齢者が暮らしやすい国のランキングでおもしろいのは、 ボランティアのような社会参加が、「社会のため」という尺度からではなく、高齢者自身の暮らしやすい環境を図るための尺度として注目され、評価されているところです。高齢者が社会参加や社会への寄与する・できることは、その価値を経済的に換算できるかという近年の議論とは別に、老後の人生の豊かさや意味を考える上で、確かに大きな価値と意義があるのだ、ということを、このランキングは改めて示しているといえるでしょう。

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ただし、既存の結社で、近年、会員とくに執行部や若い世代の人数が減っているという話もよく聞きますし、新たに退職する人のなかには、改めてボランティア活動を希望する人も少なくないでしょう。このため、これまでのボランティアの形にこだわらず、今後社会の変化や個々人の人生のステージにあわせて、柔軟な受け皿を用意することが大切です。またボランティアの人材が、働きがいや充足感をもてるように十分考慮すること も、長期的なボランティアの運営には不可欠です。スイスでは、これらの点を重視して、官民一体でボランティア団体の活動のあり方や構造を改革に着手し、功を奏してきました。

ボランティア活動を支援する新しい取り組みの具体例をいくつかあげてみましょう。まず、新しいボランティアの獲得に関しては、ボランティア団体を統括する上部機構である「ベネフォール」が、開設したボランティアの仕事の募集一覧サイトの開設があります。少し詳しく紹介しますと、まず ボランティアで働きたい地域について、地域か郵便番号を入れ、さらにそこを中心にして、どれくらい離れた仕事場までを対象範囲とするか、0キロから50キ ロまでの細かな選択肢から選びます。仕事分野は17に分かれており、教育、事務、環境、運搬、サービス、文化など様々なジャンルから希望のものを選びます。さらに、ボランティアで対象としたい年齢や社会グループ(子供、老人、障害者、外国人など)を選択することもできます。これらの条件を選んで検索すれば、すぐに結果が一覧でき、その中に気に入った仕事があれば、直接応募者に連絡するというしくみです。(応募要項をサイトに掲載できるのは、ベネフォールがボランティア団体として公式に認可した団体や組織に限られます。)

このサイト開設のおかげで、多様で常に変動しているボランティアの需要と供給のなかで、高い透明性を保ちつつ、迅速で円滑なマッチングが可能となり、潜在的なボランティア希望者が、どこかに改まって出向く必要もなく、ネットで気軽に、細かな条件で自分に合いそうな仕事を簡単に探すことができるようになりました。実際に、300人のボランティアを抱える市営老人ホームのボランティア支援部門の担当職員の話でも、近年はこのマッチング・サイト経由で応募してくる人が一番多いとのことでした。

また、「ベネフォール」は、ほかにもボランティアを活用する団体とボランティアが相互にいい関係を保って長期的に活動するため、ボランティア活動の大枠を規定し、ボランティア団体の規範を提案しています。例えば、ボランティア活動は週に6時間を限度とすること(それ以上に課せられた仕事は、ボランティア本来の善意を損なったり、団体に都合のいいように、ボランティアが「利用される」危険があるため)、ボランティアを評価し、その労をねぎらう機会を定期的に設けること、年に数回の研修 の機会を設け、ボランティアをしている人がボランティア活動を通じて個人的にも知識や技術の向上、成長する支援をすること、などが奨励されています。ベネフォールのサイトを通じてボランティアを応募する組織は、このような規範を順守しなくてはいけません。

ボランティアの人材を重視する姿勢の一環として、近年、受講した一連の研修についても、おもしろいシステムが導入されています。受けた研修内容について、スイスで共通するパスポートのような体裁の手帳に、研修主催者が記入していく制度であり、受けた研修が公的に証明されることで、ほかの取得資格などど同様に、将来、ほかの分野の活動や新しい業務に就く際に、活用することが可能です。これまでスイスで90万部が販売されたというこの研修手帳のシステムは、ボランティア活動が、同時に自身の生涯学習や専門性を高める機会ともなることを明確にしたとも言え、今後ボランティアや社会参加をさらに魅力的にし、自主的に参加する人の量の増加や質の向上につながることが期待されます。

これからの将来、スイスに負けず劣らず、多少太り気味でもハッピーで元気なお年寄りが街を闊歩し、地域活動に積極的に参加する人もどんどん増えてくるような地域や国が世界中にあふれてくる、そんな世の中を想像すると、超高齢化の時代とよばれる近い未来が、少し違ってみえるような気がします。

参考サイト

-スイスの高齢者の自己健康評価、幸福感、肥満度について
「高齢者の国際比較 」データえっせい、2013年9月16日(2016年1月11日閲覧)

world values research, relief and development

Schweizer sind zu dick - und glücklich damit. 87 Prozent der Schweizer Bevölkerung fühlen sich gesund bis sehr gesund - obwohl über ein Drittel übergewichtig ist. In: Tages-Anzeiger, 12.9.2008

-「ヘルプ・エイジ・インターナショナル」の2015年の国別ランキングとスイスの結果について
Global Age Watch Index 2105

大野瑠衣子「『シニアの楽園』スイスが見据える高齢化社会のこれから」スイスインフォ。2015年11月5日

http://www.sankei.com/life/news/150909/lif1509090016-n1.html

2011 年ヨーロッパ・ボランティア年についての特集記事

-スイスのボランティア団体を統括する上部機構である「ベネフォール」とそれが提案するボランティア規範
http://benevol.ch/home/

http://benevol.ch/fileadmin/pdf/BENEVOL_Standards_01.13_n.pdf

スイス国家統計資料 ボランティア活動者数

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


ハプティック・デザイン 〜触覚を重視した新たなデザインの志向

2016-01-09 [EntryURL]

この記事を読まれる前に、最後に手が触れたのはどこでしょう?タッチパネル、マウス、あるいはキーボードでしょうか。視覚に偏って依拠する現代社会において、五感のひとつである触覚は、置き去り、なおざりされている、とライプツィヒ大学ハプティック(触覚学)研究所のマーティン・グルンヴァルト教授は言います。1996年に設立されたこの研究所は、今日まで、触覚に関する研究を行うヨーロッパで唯一の学際的な研究所です。
確かに、オフィスへ通勤する一般的な人を思い浮かべると、この指摘は当たっているように思えます。今日、世界中どこを見渡しても、職場で日中圧倒的に長時間触れているのは、キーボードやマウスなどのコンピューター関連のユーザーインターフェイスであり、通勤途中では、スマホのタッチパネルというケースが圧倒的で、触覚から考えると、 1日の生活はバラエティに貧しく、刺激が少ないモノトーンな時間が大部分を占めています。
しかし、現代社会で軽んじられてきたこの触 覚という感覚の特性が、今後再評価され、製品や機能のデザインにおいて触覚を重視したものが一般化してくる可能性がでてきました。ハプティック研究所を率いるグルンヴァルト氏の論文やインタビュー記事をもとに、最近の触覚に関する話題について、すこしご紹介してみたいと思います。
触覚は、胎児が自分のへそや自分の体に触るようになる、妊娠8週間の時点から確認されます。聴覚が発達し胎内で心音などが聞こえるようになるのは、妊娠20週ごろからであり、視覚にあっては、出生以後に発達することを考えると、触覚が非ほかの五感に比べて非常に早い段階で発達する、人間の根幹をなす五感であることがわかります。
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人間は総計で3億から6億の触覚情報を感知する受容体(レセプター)をもち、それぞれの受容体によって、振動や圧力、温度など異なるものを感知しています。この無数の受容体を駆使 した触覚は、0.001mmまで感知することができる非常に高度な感覚です。視覚ではこれより80から100倍大きいものでないと知覚できませ ん。
脳は、手や口などで触るという直接的な触覚的な体験によってはじめて、ほかの知覚や聴覚で得られた情報を具体的に認知できるようになると考えられます。異なる素材で作られた「はりねずみ」は、まったく触感が違うため、 触った人にも非常に異なった印象も与えることになります。
人が得えている情報の80%は、視覚的な情報からきている、とよく言われますが、グルンヴァルト氏は、これについて妥当ではないと言います。そして、その最たる証拠として、目の見えない人が、聴覚や臭覚、触覚などのほかの五感を駆使して情報を得、目の見える人と同様に情報と情緒あふれる生活を享受できてていることをあげます。社会が、印刷媒体から、さらにテレビやインターネットと、視覚メディアの高度な発達をつづけ、ほかの五感感覚から受け取る情報ソースやが遮断、あるいは情報を受け取りにくい状態になった結果、情報の大部分が視覚的なソースに依拠しているのとしても、それが必然的であるとは限らないということなのでしょう。
しかし、1980年代までの長いあいだ、産業デザインにおいても、視覚的効果に圧倒的な重きがおかれており、触り心地や使いごこちは、視覚的な要素よりも低い序列に置かれていました。やっとそれに変化があわれたのは、90年代からで、ハプティック・デザイン(触覚に基づくデザイン)の重要性に最初に気づいた業界は、自動車業界でした。90年代半ばから、自動車業界はハプティク研究所とともに研究を進め、見た目だけでも、機能性だけでもなく、使い心地や耐久性に重きを置いたハンドルや人工皮革などの開発・研究をすすめるようになりました。今日では、それまでと一転して、ほとんどの自動車産業は、ハプティック・デザインを重視するのが当然視され、自動車会社にはどこもハプティック研究部門が置かれるようになっています。
その後次第に、自動車業界だけでなく、医療、臨床、ロボット産業などのさまざまな分野でハプティック・デザインに重きが置かれるようになってゆきます。しかし、これまで様々な産業界からの依頼を受けて研究を続けてきたグルンヴァルト氏は、いまだハプティック・デザインを無視して開発された商品が圧倒的に多く、ハプティック・デザインの効力が発揮される分野や余地は、社会に依然として多分にあるとします。ハプティック・デザインをほかの感覚(視覚、聴覚、臭覚など)的デザインと、効果的にむすびつけることで、これまでにないような効果的な宣伝効果や販売促進が、可能になるとも考えます。とくに、ハプティク・デザインが寄与できる大きなポテンシャルがある分野として、保険や金融関連など、抽象性の高い商品や、パンフレットというビジュアルと文字情報に過度に依拠している旅行業界の広告・宣伝をあげています。
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ただし、ハプティックが重視されるということは、すべての人に共通する最適のハプティック・デザインを追求するということではありません。触感は、場所や年齢によって、好まれるものが異なることが多いためです。例えば、ヨーグルトはヨーグルトでも、ドイツとフラ ンスでは、クリーミーと、すこし粒つぶした感じ、というそれぞれ違う触感のものが好まれますし、べたつくような感じのものに対する感じ方も国によって違います。ドイツでは全般に、べたつくものは、伝統的に汚れを連想させ、不潔感をもよおすため、人気がないということですが、日本は、ご存知のように納豆などの粘り気のあるものを好んで食べる文化をもちます。世代によって触感が異なる端的な例として、同じドイツ人のなかでも、教授同様、幼少期を旧東ドイツで過ごした人にとっては、当時日常触れる紙は、粗悪な紙ばかりだったため、ドイツ統一以後も20年間は、つるつるした表面の紙を触ると特別の感じを受けたことをあげています。
つまり、ハプティックを重視するということは、地域や世代によって異なって形成される触覚を考慮・意識するということにもなります。
このようなハプティック・デザインの特徴や国による違い、また販売効果について読んでいるうちに、わたしにもひとつの例が思い浮かびました。日本の包装の仕方です。ヨーロッパ(少なくともわたしの知るドイツ語圏)では、中身がなんであれ、とにかくなんでもくるっと包みこんでリボンという形が広く一般化しています。 この際、基本的に包装紙とかざりのリボンには中身との相関関係は一切ありません。それはそれで、中身がなにかわからないというサプライズ感を演出していると言えますが、包装はサプライズという意味以外はもっていないとも言えます。さらに近年では、ゴミの減量化の観点から、 包装自体が批判の材料にもなっており、包装自体がある意味で低調、低迷気味です。
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一方、日本の包装文化は、近年はもちろん、 グローバルな潮流として欧米流の包装の仕方が一斉を風靡してはいますが、伝統的には、中身との相関関係をもつ触感を重視したものが多かったのが特徴と考えられます。色合いや模様、また包み方に、季節感や用途に応じてバリエーションをもった風呂敷という古くからの包装文化のほかに、商品として店頭に並ぶようになった贈答品の包装にも、一辺倒でない、多様な趣向や工夫がみられます。木箱や縄、竹、瀬戸物や笹の葉などを包装に利用した地方のみやげ品や駅弁のたぐいは、その好例でしょう。それぞれの土地の固有の味わいや個々の商品に見合うような 様々な素材、形、しかけ、色が組み合わされ、固有性や、素朴さ、手作り感などを表現し、包装によって中身の存在感や好感がさらに高まるほど洗練された、日本独自のハプティックな(触覚の)包装の文化があるといえるでしょう。
視覚的情報に依存する傾向が顕著になった結果、ほとんどの情報が視覚からになったにすぎないのだとすれば、逆に今後、ほかの五感を媒体とする情報ソースやツールが、今日の視覚情報 と同じくらい将来、発達してゆけば、状況が大きくかわってくることも十分考えられます。ハプティック・デザインという、触覚から出発したデザインが、単なる美観や、誤操作をなくし効率性を高めるための人間工学などとも違う角度から、デザインの地平をのぼっていく新しい朝日になっていくのかもしれません。
2004年開催された『Haptic 五感の覚醒』展をプロデュースした原研哉氏の同名の書籍によると、ハプティックという英語の言葉には「触覚を喜ばせる」という意味もあるそうです(6頁)。この記事を読んでくださったみなさまにも、五感を喜ばせるようなことが多くたちのぼる、素敵な新年となることを心からお祈りしております。
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参考サイトと文献
グルンヴァルト教授率いるライプツィヒ大学ハプティック研究所とその業績について
Haptic Reserach Laboratory, University of Leipzig(英語)
Dr. Martin Grunwald: „Der Mensch ist ein haptisches Wesen” In: Haptica, Werbung konkret. Das Magazin für den erfolgreichen Einsatz von Werbeartikeln, Interview vom 15.08.2011
Am Anfang ist der Tastsinn - Die existentiellen Funktionen der Haptik, 31. 7. 2014. Veröffentlicht in Haptik.
Martin Grundwald, Der tastsinn im Griff der Technikwissenschaften? Hearusforderungen und Grenzen aktueller Haptikforschung. In Lifis Online (Leibniz institut), 9.1.2009.
ハプティック・デザインと産業・広告業界
Haptik-Design im Auto: “Touchscreens sind unmännlich”
Kilian, Prof. Dr. Karsten: Spürbare Markenkommunikation, die sich gut anfühlt und uns beeindruckt Gastbeitrag: Markenhaptik In: media spectrum, Wiesbaden, 2012, Heft 6/7, Seiten 26-29
Haptik-Design Gefühlsecht. Von Kirsten Schiekiera. In: manager magazin. 25.10.2012
ほかの参考文献
日本の伝統的な多種多様な豊かな包装の仕方について
目黒区美術館編『包む -日本の伝統パッケージ』BNN新社、2011年
竹尾編原研哉+日本デザインセンター原デザイン研究所企画・構成『Haptic 五感の覚醒』朝日新聞社、2004年

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振
興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


ゲーミフィケーションと社会

2015-12-22 [EntryURL]

「ゲーミフィケーション Gamification(ゲーム化)」という言葉を聞いて、何を連想しますか。「ゲーム」という単語が入っていますが、むしろ社会や社会性に対する相対概念で、大きく分けて二つの使われ方をします。

まず、本来ゲームではない日常の生活や仕事の課題、学習の場に、モチベーションを高めたり、効率的に業務や学習をする目的でゲーム的な要素やゲーム性を取り入れることです。ゲームのように作業できるプログラムや、仕事量をゲームのスコア表のような形で表し、社員を競争させるといったことが、これに当たります。社会の現実や課題を、従来と違ったように捉えさせることで、やる気を起こさせようとするこの手法は、職場 での仕事に物足りなさを感じたり、十分な刺激がないことで陥る「ボアアウト」の予防や改善にも、ある程度効果が期待できるかもしれません。(「ボアアウト」についての詳細は、「職場で広がる『ボアアウト』 をご参照ください)また、これまでほとんどゲーム性がもちこまれていなかった教育現場でも、未曾有の可能性が考えられます。ただし、試験的に一部の分野で導入がはじまったばかりで、弊害や、長期的な影響など、深刻な問題となりうるものが、まだほとんど明らかになっていないため、手放しの賛成論だけでなく、慎重論も聞かれます。

ゲーミフィケーションのもう一つの意味は、具体的なゲームを使って、遊びながら社会のルールや協調的な態度を学んだり、身体的なトレーニングを行って身体の動きの円滑化を計ったりすることです。ゲームを通じて社会性を学ぶことを特に、ソシアル・ゲーミフィケーションと呼ぶこともあります。

どちらのゲーミフィケーションも、柔軟な発想で従来の見方を覆し、実践に役立てようとする試みで、将来の教育や職場の仕事の在り方を考える上で、非常に示唆に富みますが、今回は、特に後者のゲーミフィケーションの一端として近年発達してきたテーブルゲームを具体的にいくつか紹介してみたいと思います。前回のコラムでご紹介したように、デジタルゲームの刺激を受けながらテーブルゲームは画期的に進化してきましたが、ゲームのやり方や課題(目的)も非常に多様化しました。(ゲームについてはコラム記事「デジタル ゲームの背後で起こっているテーブルゲーム・ルネサンス」をご参照ください。)そのなかには、優れたゲームとして高い評価を得ながらも、行動や思考の仕方を学ぶことができる、ソシアル・ゲーミフィケーションに相当するゲームもでてきました。

協力型ゲーム

伝統的なゲームは、 個々人がそれぞれ競う形が主でしたが、1970年代より、それぞれが協力してみんなで勝利を目指す、協力型ゲームが出てきます。ゲームというフィクションの世界で自分の役割をもって具体的な「協力」を体験することで、自身やチームワークにどんな影響、成果がもたらされるのかを端的に学ぶことができる協力型ゲームは、ソシアル・ゲーミフィケーションの代表格といえます。

ハバ社 Haba は、 1500点以上の商品を揃え、50ヶ国で販売するドイツ指折の玩具会社の大手ですが、このハバ社で最も代表的なゲームといわれるものが、「果樹園 Obstgarten」という協力型テーブルゲームです。就学前の子供を対象にしたシンプルな協力型ゲームですが、1986年の販売以来のロングセラーになっています。

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2013年にテーブルゲームの最高峰であるゲーム・オブ・ザ・イヤーをとったカードゲームの「花火」は、チーム全体として自分が今なにをすることが求められているのかを、限られた情報とコミュニケーション手段を手がかりに、常に意識してプレーするという、より高度な協調性が求められるゲームです。ただし一人一人に協力の仕方とタイミングが委ねられているため、息が合わずに協力したくても協力できないという、現実にもよくある、協力することの難しさが如実にもなるゲームで、近年では異例のカードゲームの世界的なヒットとなりました 。

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コンピューターやテクノロジーについてのオンライン雑誌「ワイアード」のドイツ語版では、今年10月のエッセンの遊具メッセで、新しい協力型テーブルゲームが多数出展されたことをあげて、協力型ゲームの時代が到来したと注目し、今後も協力型ゲームが一つのジャンルとなって人気が定着すると予想しています。 もし実際にそうなれば、ゲームという場で子供たちが、それぞれの成長期に合わせて、協力の仕方を、体験・体得していくことが、普及・一般的になっていくことでしょう。

共感やコミュニケーションが鍵となるゲーム

近年、感情知能EI(Emotional intelligence)や共感力が、社会生活を営む上で重要な能力として認知されてきていますが、人と人とのコミュニケーションや「共感」というテーマをずばり、ゲームの中心にすえたゲームもでてきました。2008年から販売され、2010年のゲーム・オブ・ザ・イヤーに輝いたフランスの「ディクシットDixit 」というゲームで、ゲームを考案したフランスの精神科の医師は、自分を表現することが困難な若者や子供達と接することが多く、病気の子供達が想像力を働かせることでもっと元気になれるのでは、との思いから、小児病院でこのゲームを考案したといいます。

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「彼(あるいは彼女、それ)が言った」という意味のラテン語のタイトルのこのゲームは、ほかの人はどんなことを連想、想像するかを思いめぐらせ、それをもとに自分で言葉や絵を用いて表現しなくてはならず、共感(相手の気持ちへの配慮)とその伝達の仕方がゲームの鍵となります。ただし、共感力をアップさせるというような安易な効果をねらっているというより、自分自身やほかの人の感性を意識、尊重することや、相手 の気持ちを思い巡らすとはどういうことなのか、またそれをどうすればよく伝わるのかなど、共感の基礎となる見方や捉え方を、遊びのなかから自然に体験することができるゲームとなっています。

ゲーミフィケーションが、単に高揚感をあおる一時的で表層的な効果だけをねらうのなら、ある程度発達・普及した時点で、人々にあきられるようになり、一 時代を象徴するあまたのトレンドの一つとして終わるだけの存在かもしれません。一方、 人と人とのコミュニケーションや、生き方をより柔軟で豊かなものにする、きっかけや機会、学びの場を提供するようなものになっていくのであれば、ゲーミフィケーションは、今後、社会生活を円滑に運ぶための、インフラとして今後、社会に定着していくのかもしれません。

これからもヨーロッパでどんな新しいものや動きがでてくるのか、スイスを拠点に追っていきたいと思います。新年以降も、またおつきあいいただければ、さいわいです。

参考ウェッブサイト

ゲイミフィケーションについて
Gamification, die Lösung aller Probleme? Dienstag, von Valérie Wacker, 5. November 2013, SRF Kultur Weblese.

Gamification. Die Welt zum Spielfeld. Von Nora Stampfli, Spielgel Online, 22.7.2012.

Verspielte Welt. Die Gamification unseres Lebens. 3sat, 7.5.2015.

協力型ゲームについて
Eine neue Generation an Brettspielen setzt auf Zusammenarbeit statt Wettbewerb. Von Dominik Schönleben. Wired 13.10.2015

Kooperatives Spiel (Wikipedia)

ゲーム「ディクシット」について
Spiel das Jahres 2010 „Dixit” spielt mit Bildern und Gedanken, Frankfuter Allgemeine. 28.6.2010.

“Spiel des Jahres” gekürt”Dixit” macht das Rennen, ntv Panorama, 28. 6. 2010.

“Dixit” ist das Spiel des Jahres 2010, Thüringische Landeszeitung, 29.06.2010.

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


デジタルゲームの背後で起こっているテーブルゲーム・ルネサンス

2015-12-16 [EntryURL]

今年もクリスマスまであとわずかとなりました。この時期、ヨーロッパの街はクリスマス市の訪問やクリスマスのプレゼントを買い求める買い物客で、1年で最も賑わいます。クリス マス商戦がはじまる直前の10月、毎年ドイツの北西ルール地方にあるエッセンという都市では、遊具メッセが開催されます。今年の メッセは、出店者数が41カ国から910、 訪問者数は16万2千人と、33年のエッセンのメッセの歴史のなかでも最大規模のものでした。
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このメッセは、一般人も訪れる、テーブルゲー ムの世界最大の遊具メッセとして特に有名です。(テーブルゲームとは、ボードゲームやカードゲームやさいころゲームなど、デジタルゲームはないものの総称で、アナログゲームとも呼ばれています。)遊具類のなかでも比較的高価なものであるテーブルゲームは、ドイツではクリスマスプレゼントの定番の一つで、11月、12月のボードゲームの売り上げだけで、年間の売り上げの3分の1になります。このため、このメッセは、クリスマス販売戦略上、玩具製造会社にとって非常に重要な宣伝の場となります。(ヨーロッパの販売戦略においてのドイツのメッセの役割については、「ドイツのメッセ・ビジネス」をご覧ください)
これまで、子どもの数の減少傾向に加え、デジ タルゲームの圧倒的な攻勢を受け、テーブルゲームは次第に廃れるとの予想が大半でした。しかし予想に反し、テーブルゲーム産業はいまも健在で、堅調な成長を続けています。エッセンの今年のメッセでも、1000点以上の新商品が披露されました。今回は、日本ではあまり知られていないと思われる、このテーブルゲームの近年の世界的な動向について少しご紹介します。
話はドイツからはじまります。ドイツは、伝統的にテーブルゲームが大好きなお国柄で、する人の数も多ければ、商品の数も種類も豊富です。特に1995年に販売を開始した「カタンの開拓者たち」というボードゲームを皮切りに、以後 優れたテーブルゲームがドイツから続出し、ドイツのテーブルゲーム は世界的に圧倒的な質と量をほこるブラントとなっていきました。毎年、400から600の新しいテーブルゲームがドイツ市場に出回り、 2013年のボードゲームの売り上げは4億ユーロと、景気にあまり左右されず、安定した市場を維持しています。 世界に冠たるテーブルゲーム製造会社大手も多くがドイツにあります。町の玩具店ではテーブルゲームがかなりのスペースを占めており、 最近は本屋でもテーブルゲームを置く店を、よくみかけます。
このテーブルゲーム大国ドイツで、 1979年から毎年初夏に、優れたテーブルゲームを選出するようになりました。ゲーム・ オブ・ザ・イヤー(日本語では「ドイツ年間ゲーム大賞」と呼ばれることもあります)と呼ばれるその賞は、以後、テーブルゲームの最高峰を象徴する世界的権威となり、映画界のアカデミー賞さながら、ノミネートされるだけで、市場にでまわるあまたのゲームのなかで知名度が一気に高まり、売り上げが大きく伸びます。さらにゲーム大賞をとれば、売り上げは約20倍 、30 万人の顧客確保につながるとも言われます。2013年に大賞をとったこの「花火」というカードゲーム(ゲームの名前が日本語で、ゲームの内容も日本の夏の花火大会がモチーフになっていますが、日本人がつくったものではありません)は、2014年前半までに70万箱売れました。
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このようなドイツ発のテーブルゲームは、 海外各地でも注目されるようになり、アメリカでは、 テーブルゲーム自体が「ジャーマンゲーム」と呼ばれるようになるほどメジャーになっていきます。「カタンの開拓者たち」は、これまでドイツ、オーストリア、スイスで9百万、世界全体で合わせると20カ国語以上に翻訳されて1800万箱がこれまで購入されています。ドイツで作られている全テーブルゲーム商品の30から50%が現在 輸出用であり、業界第2位のラーベンスブルガーでは、海外で購入されているのは、ボードゲームとパズルの60%にまでのぼります。
一方、ドイツのテーブルゲームの人気に並行して、これまでドイツがほぼ独占状態であったテーブルゲーム市場も変化していきます。とくにアメリカでは 新しいスタイルのテーブルゲームが次々とでてくるようになり、2011年にはアメリカ製のゲーム「クワークル」が、ゲームの最高峰であるゲーム・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。ドイツ国内外の遊具メッセでの外国企業の展示も近年急増しており、これまでテーブルゲーム市場をほぼ独占していたドイツ企業には、手強い競合相手が出現してきたといえますが、競合しながらテーブルゲーム市場が活性化され、ゲームの質がさらに向上、発展していくことにもつながっています 。イギリスの新聞ガーディアン紙によれば、2010年から 毎年、25〜40%、テーブルゲームの販売金額は全体で増加しており、年間を通じて数千の新しいテーブルゲームが出ている とのことで、世界的なテーブルゲームの盛況ぶりがうかがわれます。
このような状況はどのように解釈することができるでしょうか。日進月歩で進化しているデジタルゲームの人気は圧倒的であり、その傾向が、今後テーブルゲームによって覆されるとは決してないでしょう。その一方、デジタルゲームが提供することが不可能なことも明らかになって、全く異なる遊び方であるデジタルとアナログのゲームの住み分けが、少なくとも現状では成立しているように見えます 。
例えば近年は、ねらいを定めて的にあてたり、 パズルをはめこんだり、様々な触感や形の駒を並べて、バランスよく保ったり、というクラシックなコマとさいころの遊び方をはるかに超えた、物理的に触感や技能を楽しめるテーブルゲームが増えてきています。このような体と頭を多様に使う作業は、とくに子供達には、デジタルゲームでは代替し難い、 魅力的なものといえるでしょう。また、 テーブルを囲んで目の前の人と目線を合わせたり、相手方の思考を暗黙のうちに読み取ったり 、雑談などの社交的な雰囲気を楽しんだり、といったテーブルゲームにしかない伝統的な要素を、今でも高く評価する人も少なくありません。
ただし、テーブルゲームのゲームとしてのおもしろさがデジタルゲームに対して圧倒的に劣っていたなら、現在のテーブルゲームの地位はあり得なかったでしょう。デジタルゲームと競合することで、テーブルゲームもまたゲームの質を向上させ、数十年前に比べ、はるかに魅力的になってきました。コンピューターをボードゲームに内蔵させたハイブリッド型のゲームも増えました。
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そもそも、ゲームのユーザーにとっては、アナログとデジタルのゲームは、二者択一しなくてはいけないものではありません。ユーザーにとっては、交錯し、場所やケースによって代 替・補充できる関係です。デジタルゲームとなったテーブルゲームも多いですし、その逆もあります。スマホやタブレットでもともとボードゲームであったゲームのデジタル版をはじめるうちに、結局ボードゲームの購入を買い求めることになった、という人も少なくないようです。
このように、デジタルゲームとの競合・共存を経ながら、この数十年の間にテーブルゲームは新たな進化をとげてきました。ちなみに今年は 「街コロ」というカードゲームが、日本で作られたテーブルゲームとして初めてゲーム・オブ・ザ・イヤーの候補にあがりました。惜しくも大賞にはなりませんでしたが、シンプルなルールでありながら多様な選択肢のなかで街をつくるという夢のあるゲームで、洗練されたイラストも手伝って、ヨーロッパでも高い人気を集めています。これからも世界中のいろいろなゲーム・デザイナーが参入し、多様なエッセンスが加わっていって、テーブルゲームの発想や可能性がますます広がっていくのかもしれません。
年末年始、家族や友人が集う場で、なにかいつ もと違うことがしてみたいという方は、近年めざましく進化している新しいテーブルゲームを試してみてはいかがでしょうか。
——
参考記事サイト
テーブルゲーム業界の近年の動向について
Bretter, die die Welt bedeuten. In: Süddeutsche Zeitung, 19.5.2010.
Spiele-Erfinder Träume in Pappschachteln, Von David Krenz, Spiegel Online, 27.09.2011.
Warum deutsche Brettspiele so beliebt sind. 2010.Von Carsten Dierig. 22.10.2010.
Computerspiele : Brettspiel-Kunst erobert die Konsolen. Von Hanno Balz. In: Zeit Online. 28. Oktober 2009
テーブルゲームの現在までの歴史的変遷について
Brettspiel (Wikipedia)
Board games war back. Board games’ golden age: sociable, brilliant and driven by the internet. Written by Owen Duffy, In: theguardians, 25.11. 2014.
ドイツのボードゲーム (日本語ウィキペディア)

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振
興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


高額商品を「売りきる」のは難しい

2015-12-13 [EntryURL]

元会員さんから久しぶりに近況報告をいただきました。
eBayメインに実績を上げられているとのことで、来年は国内販売にも手を広げられるということでした。
とても嬉しいですね。どんどんスキルを上げていただきライバルが追いつけないところまでいってほしいと思います。
その方、高額商品を扱われているのですがeBayの返品で苦労されています。

よくある詐欺は、商品を送ったら「違う商品が送られてきた」と返品要求。
通常の取引ではよくあることですが、詐欺は、返送されてきた商品は送った商品ではないボロボロのものというもの。
代金はPayPalから返金され商品を取られてしまうというものです。
eBayの現在のシステム上、オープンケースされるのも嫌ですし、クレームまでいってeBayに説明してもセラーに勝ち目はほぼありません。

こういった場合は相手は同じようなことをしている可能性があるのでeBayに報告します。
過去にそういったトラブルがあるアカウントでしたらもちろん勝ち目はあります。
PayPalにも報告して場合によってはだめもとで相手の資金凍結依頼をしてみます。
こういったことでうまくいくパターンは少ないので、セラーには分が悪いです。

高額商品を扱うメリット・デメリットはありますが、高額商品を扱うには高いスキルが必要です。
簡単に発送作業が1回で利益も大きいからという安直な理由では火傷します。
初心者でも高額10万円以上の商品は売れますが、「売りきる」のはとても難しいです。
売りきるというのは取引を無事に終わらせることです。

発送前に事前に何度の確認などのやりとりを行ったり、場合によっては本人確認なども行います。
発送にも気を使いますし、きめ細やかなサービスが必要となります。
初心者の方はまず安価商品、取引数を積んで少しずつ高額商品を扱っていかれるのがいいでしょう。


職場で広がる「ボアアウト」

2015-12-10 [EntryURL]

自分の仕事に物足りなさを感じることはありますか?実際の仕事はあまりなくても、仕事が増えないように、忙しそうにふるまうことがありますか?物足りないと思う仕事をずっとしていると、忙しい仕事をしている時より、ずっと疲れた気がしますか?
2012年ドイツの国立の労働関連研究機関 (BAuA)の調査によると、ドイツ人の就業者の5%が分量的に、13%が内容的に、自分の職務について物足りないと感じているといいます。ちなみに同年の調査で、職務が内容的に自分の処理能力を超えたものと感じている人は4%、分量的に自分の処理能力を超過していると感じる人は19%いました。合わせると、物足りないと思う人の割合は、仕事が力量を超えると思う人の割合とほぼ同じで、全体の約2割を占めていることになります。
同じような傾向はアメリカでも観察されています。2005年に1万人を対象にしたアメリカのアンケートでは、33%の人が、自分の仕事が十分にないと回答しています。同様の2014年の調査では、26%の人が1日の就業中に無駄と感じる時間が2時間位以上あると回答しており、その理由は、仕事が十分にない、あるいはつまらないから、とする人が3分の1を占めたそうです。
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近年、過剰の仕事で体調を崩すバーンアウトという症状がよくメディアでとりあげられますが、上記のデータからは意外にも、仕事の絶対量が少ない、あるいは物足りないと感じている人の割合も、かなり高いことを示しています。このような会社で物足りなさを感じている人たちやその症状について注目した本が、2007年出版されました。銀行や保険会社などの大企業での就業の傍わら、企業コンサルタントをしている二人のスイス人による共著「診断 ボアアウト(Boreout)」です。この本の出版以降、仕事に物足りなさを感じる就業者の心理と問題が、この本の著者たちの造語である「ボアアウト」という名前で、世界的に脚光をあびるようになるようになってきました。日本ではまだあまり知られていない、特にオフィスでのホワイ トカラーにあらわれることが多いといわれるこの症状について、著作や関連する最近のメディア報道をもとに、今回すこし紹介してみたいと思 います。
職場でなにも新たに挑戦できるものがなく、物足りなく、退屈するこのボアアウトという状態が、恒常的に続くとどうなるのでしょうか?2009年のあるドイツのアンケート調査では、過少の課題しかないことはストレスになる、と15%の人が回答しています。実際に、仕事がものたりないことは、現代の医学的な診断では病気には当たりませんが、恒常的に続くと病気を引き起こすとされます。
就労状況や環境が変わることで、それまで全く支障なく働いていた人でも、急に足元をすくわれるように、危機的な状況に陥ることもあります。5日間就業時間になにもしないことを自らに課して実験をした一人の男性の実験結果では、たった五日間の実験期間で、実験前よりも業務処理に対する自分の信頼感も、実際の処理能力も、1割以上減りました。また自分の状況を 客観的に把握している今回の実験のような場合でも、自分の内部の自信や処理能力が低下してしまうのであれば、自分の仕事が妥当なものかを 自分自信で判断しにくい実際の職場では、さらに容易に、過剰に不安を感じたり、深刻に追いこまれやすくなることが簡単に想像されます。
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ボアアウトという状態に陥ると、興味深いことにその症状は、その対極に位置づけられる、バーンアウトと類似したものとなります。ストレス、フラストレーションがたまり、次第に業務能力が落ちるだけでなく、仕事以外にもなにかをする気力がなくなり、気晴らしもできなくなります。疲労・倦怠感がとれず、不眠や鬱状態にもいたります 。「退屈で死にそう」という言い方が日本語にもドイツ語にもありますが、退屈な状態は、本当に健康に危機的な打撃を与えることがあり得るわけです。
しかし、ボアアウトの兆候がみられても、人は積極的に改善に向かわないこともわかってきました。仕事やその環境を根本的に改善、変化させようとのするのではなく、むしろ仕事を失うことへの恐れからその事実を隠そうとしたり、それでも仕事に愛着がもてるようにがまんや努力することに労力を費やす傾向が強く、それがまたストレスやフラストレーションを増加させる、といった負のスパイラルにどんどん陥っていきます。
ドイツでは就業者の10人に一人が、このボアアウトという状態 に陥っていると言われます。また、ボアアウトになるのは、会社勤めの人に限りません。 長年勤めた会社を停年で退職した人や、失業者も、仕事ができなくなったことで、仕事によって得られる社会的な評価や認知を受けることがなくなり、ボアアウトに陥る危険性が高くなります。
また、単調で退屈な生活で具合が悪くなるのは人間だけではありません。自然のなかで生活する動物と異なり、単調な生活が恒常化する動物園の動物にとっても、退屈は大きな試練となります。特にオラウー タンのような知能の高い霊長類にとっては、単調な日々は危機的なものであり、毎日新しい課題や変化を作り出すことが、動物園飼育係の大切な業務の一つと認知されるようになってきています。
ボアアウトについてみていけばみていくほど、逆にどこかで自分がしていることが意味があると思える職務や課題、そしてその達成感が、人間(や広く霊長類)にとって、いかに大切で、一人一人に必要なものであるかがよくわかってきます。その一方で、現代は めざましいIT技 術や人工知能、ロボットなどの発達によって、既存の仕事 の半分は近い将来なくなる、などとも言われている時代です。人間の仕事内容の大幅な変化が予想される近い未来において、十分な雇用を確保するだけでなく、大多数の就業者がやりがいを感じられるような仕事を保持することは、果たして可能なのでしょうか?
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古代ローマ帝国では、広大な支配領域から入ってくる莫大な富のおかげで労働しなくてすむようになった市民たちが増えてくると、下手に時間をもてあそび、政治的な不満を募らせたりすることがないように、市民権をもつ都市の市民たちに、パンとサーカス(娯楽)が無償で提供しました。これからの将来、今日同様に、自らの労働が義務と謳われ、就労生活に高い価値を置かれる社会であり続けるのであれば、「パン(現代風に言えば、最低限の生活保障)」だけでなく、 自分がやっていることの意味ややりがいを個々人が十分感じられるような「仕事(あるいはなんらかの課題や任務)」を人々がどうやって確保し、ボアアウトをどう回避するかが、個々の企業やグローバルな社会全体において、重要な課題になっていくのかもしれません。
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参考ウェッブサイト
Philippe Rothlin, Peter R. Werder, Diagnose Boreout. Warum Unterforderung im Job krank macht. Taschenbuch, Redlin Wirtschaft 2007.
Tödliche Langweile. 3sat, 25. 9. 2014.
Diagnose Bore-Out. Die Mär des süssen Nichtstuns. In: Spielgel Online, 14.7.2014.
Unterforderung im Beruf macht krank. Von Jasmin Maxwell. in :Die Welt. 15.4.2013
Bore-Out. Krank vor Langweile. In: Zeit Online., 26. 6. 2010.
Motivationsforschung. Lustloses Lernen hat einen enorm hohen Preis. Die Welt. 28.08.2012
Annerkennung im Job: Ein Lob sagt mehr als 1000 Dienstwagen. Von Marike Frick. In: Spiegel Online, 10. 8. 2010.

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振
興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


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