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ドイツのメッセ・ビジネス

2015-10-15 [EntryURL]

今年も10月14から18日までの5日間フランクフルトで書籍メッセ(書籍見本市、ブックフェアー) が開催されています。例年100カ国以上の国から7000以上の書籍出版関連の出展者が参加し、世界で最も重要な国際書籍出版関連のメッセと言われています。このメッセに限らず、ドイツでは、ヨーロッパ随一の堅調な工業力や歴史的メッセの伝統を背景に、年間を通じで世界的に注目されるメッセが多く開催されています。

メッセは、もともと農作物や工芸品などの生産が向上していく中世のヨーロッパで、余剰物を流通・販売させる新しい機会として、定期的に開催されるようになった大規模な市にルーツをもち、800年以上の歴史をさかのぼることができます。

現在のような見本市や展示会というメッセの形が定着するようになったのは、 しかしもっとずっと後の1895年からで す。メッセ都市として当時すでに国内外で名高い地位にあったドイツ東部の都市ライプツィヒでは、多様な商品の量産化が進んだ19世紀の終わり、現物を持ち込んで売買するという従来のやり方に対応する、十分なメッセスペースが確保できなくなりました。そこで、メッセには現物をもちこまず、見本を展示するという大きな手法の変換を試みたところ、より多くの出展者が出展物を効率よく展示することが可能となって功を奏し、以後は見本市がメッセの世界的なスタンダードとなっていきました。

しかしあらゆる情報にオンラインでアクセスしたり、やりとりも瞬時に世界中でできるようになった今日、メッセに未来はあるのでしょうか。世界遺産として今年登録された日本の軍艦島のように、メッセ施設は近い将来、歴史的な産業遺産となる運命のハコモノなのでしょうか。

2014年のドイツのメッセの動向をみると、ドイツ各地のメッセ主催会社はどこも大方黒字で、メッセ興行に暗い影はみえません。それどころかゲームやコミック分野は急成長が続いており、フランクフルト同様毎年ブックフェ アーを開催しているライプツィヒでは、近年コミック部門も増設して毎年、訪問者数を更新しています。昨年は訪問者数が過去最高の18万6千人となり、8月のケルンのゲームメッセでは 34万5千人の入場を記録しました。

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出典:HANNOVER MESSE/Deutsche Messe AG



急変する時代の流れに動じず、今もドイツのメッセ産業が堅調なのはなぜでしょうか。メッセ専門家によると、マーケティングの道具として、特に新しい市場を開拓するためにはメッセは最も効果的、少なくともそう考える企業が依然として多いことが、第一の理由のようです。特に外国からドイツやヨーロッパ圏に進出しようとする場合、ドイツで開催される国際的なメッセに出展することが、市場獲得のための最も有効な手段、と重きが置かれているようです。2014年ドイツで開催された176の国際・国内メッセにおいて、全出展者数の27%はドイツ以外の国からの出展者でした。ヨーロッパ有数の巨大国際空港に近く、海外からのアクセスがとりわけ楽なフランクフルトのメッセでは、現在出展者の70%以上が外国からです。

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出典:AUTOMATICA/Messe München GmbH



しかしドイツ側もただ、相手がドイツに来るのを待っているだけではありません。新興工業国、特にブラジル、ロシア、インド、中国でメッセの需要が急速に高まったいくことに、早い時期から注目したドイツのメッセ関連会社は、ドイツでのメッセのノウハウを活かし、これらの国や地域の顧客と市場を近づける地域メッセの企画・開催にも、積極的に取り組んできました。この結果2012年は、ドイ ツのメッセ関連会社が海外で手がけたメッセは266、出展者数は10万6千、入場者は640万人という実績をあげています。世界各地のメッセ開催によって作られたネットワークが、顧客をまたドイツ本国のメッセにひきつけ、最終的に業界の中心となるリーディング・メッセとしてのドイツの地位の維持にもつながる、というシナリオがドイツの希望的観測です。

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出典:IFA/Messe Berlin GmbH



逆にメッセがなくなってしまったら、国際的なビジネスの運営が難しくなるのではないか、とも言われます。モノと人が常に動きまわって日々ダイナミックに展開している多くの産業界において、業界の人たちが一同に会し、 商談などの必要なやりとりをスムーズに成立させる場を提供するメッセの意義は、ことのほか大きいのではないかという意見です。

長い歴史をもつメッセというビジネス・展示の空間が、今後長期的にどのように存続するのかはわかりませんが、当面は、ドイツのメッセから世界が目を離せないのは確かかと思います。

参考ウェッブサイト

ライプツィヒのメッセの歴史(ウィキペディア ドイツ語英語

System Messe, Samstag, 29. August 2015, 20:15 Uhr, hr-iNFO, “Wissenswert”

Mit Fokus auf Internationalisierung und Wachstumsmärkte, 4. Sept. 2014, Handelskammerjournal.

Deutsche Messen wachsen im Ausland, 4. Juli 2013, Haufe.de

Ausland sorgt für Wachstum der deutschen Messen, Presse 18 2015, Auma

Wirtschaftsministerium plant 241 Messebeteiligungen im Ausland

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


ドイツとスイスの難民 〜支援ではなく労働対策の対象として

2015-10-09 [EntryURL]

ヨーロッパでは毎日のように難民のニュースが報道されています。特に夏以降、ドイツをめざして押し寄せる難民たちが増加し、今年1年でドイツ一国に80万人が難民申請すると推定されています。このような状況下の10月6日、ドイツ労働・社会省系の研究所(IBA)は、9月までの労働市場における難民の状況と今後の難民のドイツ経済に与える影響について発表をしました。

この報告によると、現在ドイツ内で50万人の難民を雇用することが可能であり、将来は93万4千人にまで増やせると見込んでいます。過去5年では110万人の難民が就業しており、今後も入国して1年以内に就業できる難民は、言葉などの問題で8パーセントにすぎないが、5 年間で50パーセントまで上がる見通しです。一方、難民は過半数以上が25歳以下の若者で、ドイツ人やドイツ在住の外国人に比べて教育水準が全体的に低いため、就労は、ホテル、飲食業界、クリーニング業務など、もともと人員不足であった分野に当面限られるため、一 般のドイツ人就業者の脅威となるようなことはない、と強調します。

経済に強いスイスの主要ドイツ語日刊新聞「ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング」日曜版の看板コラムでも9月、「ドイツは移民政策ではなく、むしろ(将来の労働力確保のための)人口政策に取り組んでいる」と書かれていました。将来の就労人口低下に対する危機感は先進国全般にみられますが、実際に、100万人に近い規模で移民を短期で受け入れる、という急激な社会転換を、ドイツが想定していることにおどろきます。移民の受け入れ議論は低調で、移民を受け入れる代わりに、「短期移民」として観光客を呼び込むことを積極的にうながすイギリス人経済アナリストの本が、今年話題になった日本と、あまりに対照的な印象を受けます。

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※ スイスでもっとも読まれている新聞(とはいってもフリーペイパー)で一面に難民の写真と記事がのっているもの



ドイツの人口(約8千2百万人)の約10分の1しかないスイスでは、ドイツに流れ込んだような規模の難民はとうてい受け入れられませんが、 それでも今年、来年各年でそれぞれ3万人前後の難民が入国すると見込んでおり、一度に1万人規模の難民が押し寄せることも想定して、各地の軍事施設や避難用施設なども利用し、準備をすすめているところです。

難民として入国した人々は、暫定滞在許可をもらい、難民申請に入ります。申請にかかる時間は人や出身国によって大きく異なりますが、スイスでは通常数年かかります。難民申請中に知り合ったアフガニスタン人とスリランカ人は、難民申請から滞在許可をもらうまでに5年近い歳月を要していました。 難民申請中の就労はスイスではほとんどできないか、厳しく制限されています。また、滞在許可が下りる前の段階では、生活費は支給されますが、語学講座の受講費まで出してもらえることはまれです。このため、ボランティア団体や救済関連組織が主催する、無料で受講可能な語学講座には参加できますが、それ以外の一週間のほとんどの時間を無為にすごすことになります。

就労も語学の習得もできないとなると、長期滞在許可が下りたあとも社会にすぐに順応することは難しくなります。しかし、このような問題がよくわかっていても、スイスのような小国では、難民への待遇が他国に比べてよくなることで、難民がいっぺんに自国に押し寄せることが危惧されるため、他国の動向をみながら、状況改善に慎重にならざるをえないというのが現状のようです。

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※ 救済組織カリタスが開いている難民やほかの移民のためのドイツ語やコンピューター講座の案内のパンフレット



他方、 スイスをはじめヨーロッパ諸国には、日本同様に、恒常的に人手不足が深刻な分野があります。その典型的な例である介護分野では、少しでも人手不足を緩和するため、政治や制度の改善をたのみにするだけでなく、現場でも独自の対策に取り組みをしていますが、ここで大き く期待が寄せられているのが難民です。

通年介護資格取得のための研修を実施している赤十字社では、外国人のコース受講を奨励しており、受講者はほとんどが外国人というクラスもあるといいます。上述のアフガニスタンとスリランカからの難民もスイス在住許可がおりる とすぐに、介護資格の取得をすすめられており、研修を受けることに前向きでした。実際に介護資格を取得するには、授業もさることなが ら、介護の対象となるスイスの老人の言葉を理解し、適切に判断しなくてはならず、外国人にとって決して容易なことではありませんが、 それをまた支援する人たちがいます。介護の対象者である老人たち自身です。いくつかの老人ホームでは居住者が、ボランティアに来る外国人に言葉を教えているといいます。

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※ ドイツ語講座が行われている部屋の一例



ドイツやスイスなどの主に西ヨーロッパ各国は、大規模な難民を受け入れる道をもはや選択するという段階ではなく、多かれ少なかれ容認し、覚 悟をすえて、すでに歩みだしたといえるでしょう。様々な国や文化の人々の社会の統合は、いろいろな要素が入り混じり、簡単に予測でき ません。短期で結果が出るものでもありません。そうではありますが、前述の老人ホームの話のなかに、未来の道すじが少しみえるようなきがします。人手が足りない介護の仕事を難民が補おうとし、その難民にとって言葉の取得という困難な問題を、介護の対象者である老人ホームの住民が助ける。それぞれができることをし合い、支え合うという関係は、どんな時代・状況になっても今後も社会の原則として存続していくことは、変わりがないように思われます。

参考サ イトと文献

Aktueller Bericht „Flüchtlinge und andere Migranten am deutschen Arbeitsmarkt: Der Stand im September 2015″

Presseinformation des Instituts für Arbeitsmarkt- und Berufsforschung vom 6.10.2015

Beat Kappeler, Ohne Zuwanderung fällt Deutschlang weit hinter Frankreich zurück, NZZ am Sonntag, 13. September 2015.

デービッド・アトキンソン『新・観光立国論』、東洋経済新報社、 2015年
Wir müssen Deutschkurse vom ersten Tag an anbieten” 4. Sept. 2015, Süddeutsche Zeitung

Asyl-Politik der Union Arbeitskräfte rufen, Flüchtlinge willkommen heißen , 3. Sept. 2015, FZZ

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


照明の常識を超える照明の時代へ 〜OLEDの挑戦

2015-10-01 [EntryURL]

17世紀のオランダの画家ヨハネス・フェルメールの室内画では、天井近い窓から日差しが人々に降り注いでいます。照明器具が未発達だった当時、明かり取り窓の大きさや位置が、いかに室内の生活を左右する重要なものだったかが想像されます。しかし19世紀末に電気・電球が発明されると事情は急変し、中央の天井付近を占める照明器具によって、昼夜を問わずいつでも、また部屋の隅々まで、簡単に明るくすることができるようになりました。

以後100 年余り続いたスイッチ一つで操作する電気照明の歴史を飛び出して、照明がもっと多様な形で、室内や人の生活に組み込まれるようになるのではないか。そんな可能性に注目する特別展が、10月中旬までスイス、ヴィンタートゥアにある産業博物館で開催されています。この特別展で注目されているものはたった一つ、 OLED(Organic Light-Emitting Diode)を使った照明です。OLED (有機発光ダイオード)は、有機化合物に電圧をかけて発光させる有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)の技術を応用した製品です。この最先端素材の可能性をさぐるため、2014年からバーセル造形芸術大学、製造業者、デザイナーなどの産学共同プロジェクトが、国の助成を受けて立ち上げられ、今回の特別展ではそのプロジェクト成果が展示されました。

まとめてみると、 OLED照明には次のような特徴があります。

非常に薄い層状の有機化合物の全面が発光するため、照明は平らでむらがない
現在世界最大の OLED 製造業者であるフィリップス社の場合、光源はわずか0.7mmの厚さしかなく、その間と外側にガラスやプラスチックを挟んでも、ごくわずかな薄さしかありません。

形状が自由自在に変えられる
これは、こ れまでの照明器具がまったく手にしたことがない新しい境地であり、多くの可能性が考えられます。自由な配色にまつわる問題もほぼ解決しています。ただし、一定以上まげると層状の発光体が壊れて発光できなくなるため、柔軟な素材には未だなっていません。

ガラス窓に匹敵するほどの透明性が確保できる
OLEDを透明にすることができるため、鏡や窓など、これまで考えられなかった場所を発光、照明させることができます。

寿命が非常に長い
OLED照明の現在の寿命は5万時間に到達しており、今後、寿命を気にすること自体がなくなる、という域にまで達すると言われます。

省エネである
発光効率が年々高くなってきており、現在60 lm/Wのものもあります。これは、従来の電球 やハロゲンランプに比べ5〜6倍発光効率がよいことになります。

有害物質を含まない
99.9パーセントガラスでできており有害物が含まれておらず、使用後はガラスとして廃棄することができます。

発熱しないため、冷却も不要
発光中も体温ほどの温度までしか発熱しないため、発熱が問題でLED照明が使え ない部分でも使うことができます。

遠くまで光が届く
フィリップス社の試験結果では、均質に発光する光源の光は、従来の光源の光よりも30メートル先まで届き、時間的には3倍速く遠方から光源を知覚できるといいます。このような特徴をいかし、ベルギーでは11X20cmの OLED 製の誘導パネルがすでに量産体制で製造されています。ドイツでは2015年から OLEDのバックライトの車が販売される予定です。

これだけの優れた特徴をもつ OLED 照明ですが、大きな難点はその値段です。ナノテクノロジーを駆使した高品質素材は、いまだに非常に高価であり、この点では有機ELテレビが苦戦している状況と似通っています。ただしフィリップス社では、製品によっては2年間で10分の一まで下がった実績があり、今後急速に値段が下がる見込みがあると楽観視する見方もあります。少なくとも、 2017年には OLED 照明は量産体制に入るとの見込みです。

このような新しい照明材料は使って具体的にどんなことができるのでしょうか。一言で言えば、従来の照明という発想をこえ、建築やデザインの素材の一部として利用することが可能になったということのようです。壁や床、家具に組み込んで、インターネットやコンピューターにもつなげれば、 さまざまなインターアクティブ型の照明になります。小さなユニットとして利用すれば、つけはずしが非常に簡単なので、あらかじめアダプ ターが組み込まれた家具や調度品の好きな位置に好きな量を、つけはずしすることもできます。窓に透明なものをとりつければ、夜昼を問わず、太陽光が差し込むように室内を照明することも可能です。しかしこれらはまだほんの一例で、まだまだ未曾有の可能性が潜んでいるといえるでしょう。

ただし、一 点の光源を持たず均質に発光する特性は、LED照明とは大きく異なるものであり、エネルギー効率・寿命・価格の3点揃って優れたLED照明を駆逐 するものではありません。2007年のシーメンスの調査によれば、世界の電力消費の20%は照明によるものであり、20億トンのCO2に相当します。LEDランプ以外を一切販売しない方針を打ち出した大手家具会社IKEAなど、近年のさまざまなレベルのLED照明普及への取り組みは、今度も大いに奨励・評価されるべきでしょう。 OLED関係者の間でも、LEDとOLED両者を組み合わせて最適化を図っていくことこそが、将来の「希望の光」となると期待されています。

特別展開催 中定期的に開催されている解説ツアーに先日参加すると、日曜の午前にもかかわらず40人ほどが集まっていました。これはスイスの小規模博物館としはかなりの大入りであり、参加者の面々も、小学生をつれた家族づれから年配の人まで、老若男女非常に多様多様であったのが印象的でした。照明は生活に身近なインテリアなだけに、市場での動きとは別に、一般の人たちの間では、全く新しい可能性を秘めたOLED照明に、高い関心や期待が寄せられているのかもしれません。

参考サイトと文献

OLED共同プロジェクトのホーム ページ(下部に特別展の多数の写真つき)(ドイツ語)

雑誌「Hochparterre」のOLED特集号(ドイツ語)
Themenheft von Hochparterre, Mai 2015, Licht der Zukunft.

Elekitroniknet.de の記事(ドイツ語)
OLED-Licht macht rasante Fortschritte, von Mathias Bloch, 13. 1. 2014

フィリップス社のOLED照 明紹介ビデオ(ユーチューブ50分)
The future of lighting is here: OLED (Dietmar Thomas)

IKEAのLED 照明器具について(英語)

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


協同組合というビジネスモデル

2015-09-25 [EntryURL]

少し前になりますが、国連は2012年を国際協同組合年 International Year of Cooperativesと定め、年間を通じて様々なキャンペーンが行われました。協同組合と聞けば、新鮮というより、むしろ古めかしを感じるこの老舗のビジネス形態になぜ国連が注目したのでしょう。

19世紀後半ヨーロッパ各地で産業化の進展に伴い、労働者層や貧困層の生活を維持するために生まれた様々な自助組織にルーツをもち、世界的に広がった協同組合は、現在の日本においては組合員だけでも6千万人を上回っており、世界的には数十億に達するといいます。途上国においても、過去50年間を通じて、協同組合がめざましく発展をとげてきました。今日、フェアートレード生産物の75パーセントは、協同組合が請け負っており、フェアートレードの興隆は、 途上国の協同組合の発達を意味するといってもいいほどです。

スイスでは、これらのフェアートレード商品を積極的に販売しているのも生協(生活協同組合)です。ミグロとコープという二大生協は、スイスの全小売業の売り上げ全体の約半分を占めており、二つ生協の組合員数は合わせて約450万人。組合や購買・消費行動を通して、生協の運営に大きな影響を与えており、フェアートレードは途上国とスイスの両者の協同組合の橋渡しで成り立っているといった感じです。ちなみに、スイスで扱われるフェアートレード商品の数は毎年増えており、現在食品から雑貨まで2200品目にのぼります。2014年のスイスのフェアートレード商品の売り上げは前年比7.5パーセント増の4億6700万フラン(1フランは約120円)で、一人当たりでは年間57フランをフェアートレード商品購入していることになります。

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また、スイスには世界的に有名なUBSとクレディスイスというメガバンクがありますが、それらに続くスイスで第三に大きい銀行は100年以上の歴史をもつ、やはり協同組合のライフアイゼンバンクという銀行です。顧客で同時に銀行の共同所有者である地域の組合員が監視する顧客重視の銀行形態のため、2008年の金融危機でもほとんど影響を受けませ んでした。というよりむしろ、打撃を受けないどころか、金融危機の多大な恩恵を受けたと言えます。他の銀行に不信感を持った10万人の新規顧客が殺到し、月々10億フラン(当時のレートで約879億円)の大金が銀行に流れ込み、同時に信用貸しの需要も減らずに、銀行の最高レベルの貸し出しを続けることができたといいます。以降も金融危機に強い銀行としての圧倒的な支持を得、現在の顧客数は370万人(スイスの全人口は約820万人)、 組合員数は180万人を抱えています。ちなみに、スイスの全協同組合数は9600で、スイスより10倍以上の人口を抱えるドイツの全協同組合数7500よりもはるかに多く、協同組合という形態が特に人気のある国のようです。

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フェアートレードを成り立たせている協同組合、金融危機に強い協同組合とくると、古めかしいだけの協同組合のイメージが変わってきます。実際、2008年 からの金融危機で一般企業が大きな打撃を受ける中、協同組合においては、金融危機の影響がほとんどなかったことが、国連で2012年を協同組合の年に設定した大きなきっかけだったようです。具体的にどんなことが協同組合という形態で注目されるのでしょうか。まず協同組合とは何かを改めて整理してみると、国際労働機関の協同組合専門家によれば、「人々が結集し、民主主義に基づき財産を築き、それを正当な方法で再分配する」ことであ り、「市場原理と社会的な取り組みを融合 し、連帯を参加者の中心に置くモデル」で あるとされます。具体的には、組合員は、共通の経済的、社会的、また文化的な目的のもとに組織化しており、利潤の最大化を至上課題とせず、投資額に関係なく一人一票の議決権を持ち、民主的な形態で運営方針を決めていくことなどが、普通の企業形態と大きく異なる特徴です。 再びスイスの例になりますが、ミグロ、コープでは、社会、環境活動や途上国援助、ライフアイゼンバンクも国内の文化、芸術活動の助成など、様々な社会貢献でも広く知られています。

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国連は、このような組合員による民主主義 に基礎を置き、利潤追求だけでなく社会的、倫理的な価値を重視する運営形態に、大きな可能性を見ており、同時に、ここにあげたスイスの例にもみられるように、協同組合という形態が、理想像や未来のビジョンとしてではなく、先進国、途上国どちらにおいても、現在実現そして成功可能なビジネスモデルであることを重視しました。協同組合のビジネスモデルとしての実績 は、雇用数も物語っています。スイスにおいて、国内最大の小売り業務を行う二大生協は、スイス最大の雇用主であり、世界規模でみると約1億人が協同組合で就労していると言われま す。国際労働機関によると、 世界的に多国籍企業が雇用する場合より、 協同組合が組織され雇用する場合の方が、20パーセント雇用が増えるとされます。

とはいえ、現在のグローバルな経済環境において、地域でうまく機能する協同組合が、常に安定した雇用を確保し、社会的な理念を反映させていくことは並大抵のことではありません。 特にユーロ安、スイスフラン高がつづく現在、スイスから国境を超えた隣国への買い物に歯止めがかかりません。ユーロ圏から進出してくる安価が売りの大手スーパーとの競争も熾烈です。

ただし、あるいはこんな事態だからこそ、 もしかしたら協同組合という組織形態が大きな威力を発揮するのかもしれません。協同組合ができた当初、様々な軋轢や葛藤があったように、 今後も協同組合は、 常に時代の状況に応じて変化しながら、組合員と共に、共存共栄の可能性を模索していくことでしょう。

参考図書、サイト

国連協同組合年のサイト(英語)

http://social.un.org/coopsyear/

http://www.ica.coop/activities/iyc/2japan.coop/outline/index.html

2014年のスイスのフェアートレードの実績報告書(ドイツ語)

アルフレート・ヘスラー著山下肇、山下万里訳『ミグロの冒険』岩波書店、1996年

スイスの協同組合についての記事(ドイツ語)

国際労働機関 International Labour Organisation(英語)

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


Googleの検索結果から消えてしまいました

2015-09-21 [EntryURL]

9月17日、SeesaaブログがGoogleのペナルティを受けて検索結果から消えました。
久しぶりにびっくりしたと同時に思ったことは、「タダのは怖いな」ということと「Googleは容赦ないな」ということです。
これはアマゾンでも言えることで、どんなに販売してても規約違反等があれば容赦なしでサスペンドにします。本当に怖ろしいです。

今回のペナルティは被リンク関係だと思われますが、Seesaaブログを使ってビジネスをされている方は大打撃です。
昔は「ブログアフィリエイト」が流行った時期がありました。
わたしもサラリーマン時代やったことありますが、今では無料ブログのアフィリエイトなんか怖くてできません。
20日の夜に元に戻ったようですが、今回ペナルティを受けなかったのは、「独自ドメイン」を使用しているSeesaaブログでした。

趣味ではなくビジネスですからお金をかけるところはかけないといけないですね。
これはASPの共有ドメインでも起こりえることです。
ネットビジネスは何かに依存する割合が多いビジネスです。
ひとつのビジネスモデルに偏るのは危険で、いろいろなリスクヘッジすることが大事です。
あと注意が必要なのは紐付けされてペナルティを課せられることもネットビジネスでは往々にして起こりえます。

たとえば前述したアマゾン。
日本、アメリカ、ヨーロッパと3つのアカウントを持っていたとします。
そのうちのひとつが何らかの原因でサスペンドになってしまった場合、紐付けされていれば他の2つもサスペンドになります。

いきなり売上げが0になるという恐怖は考えただけでも怖ろしいです。
アマゾンは外注さんにお手伝いしてもらいやすいのですが、いろんな人のアカウントのお手伝いしている外注さんは要注意です。
手伝っているAさんのアカウントがサスペンドになった場合、全く関係のない同じく手伝っているBさんのアカウントも止まる可能性があります。

輸出ビジネスに限って言うと、たくさんの商材を扱うこと、いろんな販売方法(eBay・アマゾン・サイト販売・その他)をもっておくこと、できたら複数のアカウント(eBay・アマゾン)で運営することなどは必要だと思います。
あとは冒頭にも書かせていただいた「タダは怖い」ので、必要と判断したらお金をかけていくことも必要でしょう。

ネットビジネスは「攻めやすい」ので、みなさんスピード感もってドンドンされる方は多いですが、同時に守りもガラガラの方も多いのです。


株式会社インポートプレナー 最高顧問 大須賀祐 氏

2015-09-20 [EntryURL]

oosuka.jpg1955年9月26日生まれ
■早稲田大学商学部卒
■株式会社 インポートプレナー 最高顧問
■ジェトロ認定貿易アドバイザーNO486
■日本貿易学会正会員。
■輸入ビジネス歴 28年
■東証一部上場企業入社後、3年目で最優秀営業員賞受賞。

国内ビジネスに失望し、会社を退社。その後、直接輸入を推進。2004年2月、当時合格率がわずか8.4%であり 現役で日本国内に500名もいない超難関資格「ジェトロ認定貿易アドバイザー」を取得。全国で486人目の貿易アドバイザーとして、日本貿易振興機構(JETRO)より認定を受ける。

ジェトロ貿易アドバイザー認定証大須賀が発掘した商品が1999年日本最大の生活消費材「東京インターナショナル・ギフト・ショー展示商品数万点の中からネーチャーコレクション部門で堂々の準優勝受賞。

超難関資格であるジェトロ認定貿易アドバイザーとしての知識、 現在までに5000件以上の商談をこなした経験、心理学やNLPに基づいた巧みなコミュニケーション術を駆使したコンサルティングはクライアントから圧倒的な支持を受け、 テレビ、ラジオ、新聞などのマスコミにも頻繁に紹介されている。

現在、輸入ビジネスアドバイザーとして、クライアントとともに年間100日強を海外ですごし、まさに全世界的に活躍中。また中小企業向けに新たなる事業戦略としての輸入ビジネスを提唱し大人気を博している。

特に、海外で行われる国際見本市の現場において、クライアントとともにメーカーブースに訪問し、マンツーマンによるリアルなサプライヤーとの面談交渉を実際にやって見せながら、指導する「海外実践講座」は、誰にもまねのできない日本で唯一の金字塔的講座と称されている。その実践講座のクライアント数は、8年間で700名に迫り、今なお数多くの成功者を輩出し続けている。

また、著書に、専門書としては異例ともいえる販売即日Amazon総合ランキング、処女作発刊以来5回連続ですべて1位になった「初めてでもよくわかる 輸入ビジネスの始め方・儲け方」 、「貿易ビジネスの基本と常識」,「輸入ビジネス儲けの法則」,「図解 これ1冊でぜんぶわかる 貿易実務」,「ホントにカンタン! 誰でもできる! 個人ではじめる輸入ビジネス」がある。

これは、アマゾン史上前人未到の大快挙と称され、業界内にとどまらず各界から賞賛の拍手がやまない。
また、最新作「はじめてでもよくわかる輸出ビジネスの始め方・儲け方」は紀伊國屋書店、Amazonにてビジネス書第一位を獲得。またまた各界からの注目を一身に集めたのは、記憶に新しい。

2015年10月30日号 個人輸入という名の恐ろしい罠とは!?
2015年11月30日号 あなたは、定価制度が日本にしかないということをご存知でしたか?
2015年12月30日号 貿易ビジネスはタイムマシンビジネス?!
2019年04月10日号 あなたが今すぐ輸入ビジネスを始めなければならない3つの理由とは・・
2019年05月10日号 輸入ビジネスを始める際に、まっさきにしなければならない事とは?
2019年06月10日号

古くて新しいDIYブーム

2015-09-17 [EntryURL]

最近会ったスイスの首都で大学都市でもあるベルンの大学生は、DIYがブームで、街のいたるところでこのごろみかけると言っていました。DIYとは、英語Do it yourself の略で、既成の商品ではなく自分で日常必要な物品や家具、家電を作る行為やその流行を指します。ルーツは1950年代のイギリスと言われ、特に60・70年代、 短いサイクルで生産・消費・廃棄される商品の量産が日常化してくるようになると、世界各地で、自分の手でを使ってものを作りだすことが、 再び高く評価されるようなり、幅広く支持者層が広がるようになっていきました。

このような動きは、英語の頭文字をとった「DIY」という名前で、世界的に知られ、ドイツ語圏でも広く定着しています。流行の当初は社会批判的な意識合いが強かったようですが、自分で何かを作ることは、クリエイティブであり、なにより楽しいもの!それに改めて気づいて、そこに仕事の対極に位置するやすらぎや喜びを見い出す人が続出していったというのが、人気がおとろえないDIYの実情なのではないかのではないかと思います。

冒頭で紹介したように、ここ数年さらに人気が高まっているようです。ドイツでは、2014年のDIY部門の売上が、前年比で13パーセント伸びて13億ユーロに達し、アンケート調査では若者の3人に一人が何らかのDIYをしていると答えています。DIYが若者の間でも注目され、新たに人気を得るようになったのには、二つの画期的な発明品(技術開発)が関連していると、専門家は言います。それは、インターネットと3Dプリンタです。

まず、インターネットは、編み物や料理など、従来日常生活で培われていた知恵や技術を、共有したり発展させるのを可能にしただけでなく、これまでプロと素人との間の隔たりが広かった家具やインダストリアル・デザインなどの分野でも大きな変化を生みました。

例えば、デザイナーたちによって考案された詳細な設計情報を、一部インターネットで簡単に入手できるようになりました。今春開催された、チューリッヒ造形美術館の「Do it yourself」展で展示された家具類も、その好例です。複数のカップケーキ用の紙カップをクリップでとめただけのシェードランプや、 金網を筒状にして上部を軽くつぶしただけの「5分椅子」、あるいは家具販売の大手IKEAの安価な椅子を分解・改良してつくったコートハンガーなど、展示された家具類はどれも、素人でも手に入れやすい材料で、簡単に作れることが強く意識されたものでしたが、インターネット上で設計図を入手できることにより、DIY作業がさらに決定的に便利で楽になりました。

DIYのデザイナーの中にはさらに、トーマス・ロメーのように、素人がデザイナーの設計図を模倣するだけでなく、モジュール化したパーツを使い、それを組み合わせるという新しいDIYの可能性を考えている人もいます。パーツをモジュール化することで、素人でも、レゴのように、いろいろなものを組み合わせて、使い勝手に合わせたオリジナルのものを作ることが簡単にできるというわけです。実際に、モジュール化した様々なパーツのデザインは、すでにオープンソースとしてインターネットでデータベース化されて公開されており、誰もが提供・利用できるしくみとして、日々進化しています。

このように、インターネットという情報入手や交換が大幅に簡略される環境が整ったところで、次にキーとなるのが、3Dプリンタです。3Dプリンタのおかげで必要なパーツをすぐに作ることができ、自由自在に作品を作ることが可能になっただけでなく、故障したパーツを作って代替することで、古いものを使いつづけることも可能となります。つまり、家具や家電の機能や形だけでなく、それらの寿命までも変えることができるようになります。

ただし、高質の3Dプリンタは自宅に置くにはまだ高価な代物です。そこで3Dプリンタやレーザーカッターなどの最新の電子機器を共同で利用する、アメリカ発祥のFabLab (Fabrication Laboratory)とよばれる共同作業場が、ここ数年でスイス各地でも、工学系の大学の協力を得ながら設置されてきました。しかしながら、このようなスペースを、さらに工学・技術系の会員だけの作業場にとどまらせておいては、また新技術をめぐり、専門家と素人の間に新たな隔たりを生むことになってしまいます。

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公共性の高い場所という性質を活かして、広く一般の人に新しい電子機器を気軽に知って、使ってもらえる機会を提供しようと、独自に取り組みはじめた公立図書館もあります。取材したスイスの地域図書館では、「メイカースペイス」とよばれるスペースを、今年の初めから、技術系の本棚が並ぶ一角に設置しています。年内の本格的な始動を目指し、現在はまだ試験的な段階ということでしたが、レコードなどの音源をデジタル化する機器や、ビデオ編集機器が現在一般に利用可能になっていました。

DIYは、時間的にも経済的にも非効率的で、豊かになった国のぜいたく行為にすぎないと一蹴する見方が、今でも社会には一定程度みられますし、そ の意見が一概に間違いだとは言えませんが、そんな机上の議論と異なる次元で、インターネットと3Dプリンタという追い風を受けて、消費市場では数的にみえにくい形とスケールで、DIYの可能性が広がっているのかもしれません。もしそうだとしたら、近い将来、家具・家電・雑貨全般の生産・流通・消費のサイクルや、市場そのものの在り方にも少なからぬ影響が及ぶことでしょう。またDIY自体も、今後新たなネットワークをつくり、新規のイノベーションをもたらすのかもしれません。

どんな技術やシステムを取り入れ、あるいは既存の部門と連携しながら、DIYがさら にどんな風に展開していくのでしょうか。今後が楽しみです。

参考サイト

Selbstgebaute Designer-Möbel als Gesellschaftskritk

チューリッヒ造形美術館の「Do it yourself」展について(英語)

Frosta: Ikea Hack von Andreas Bhend(IKEAの簡易椅子を材料にした3種類の家具の設計図 英語)

Die Welt ist mir zu viel(ZEITmagazin Nr. 1/2015 8. Januar 2015)

Thomas Lommee - Open Structures(英語の講演)

モジュール型デザインのデーターベース・サイト(英語)

Absrakt. No 8 - MACHEN IST MACHT - Zum Aufstieg der Do-it-yourself-Kultur.

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


前途有望な 未来の食材?

2015-09-04 [EntryURL]

人口が増え続ける将来の食料危機が心配されていますが、もしも地球上いたるところで見られるのに食べられていない食材がまだあるとしたら?さらにそれが、安全で栄養価が高く、おいしいもので、安価で量産も可能だとしたら?そんな上手い話があるはずがない、と思う人が大半かもしれませんが、そんな夢のような食材を実現するために、研究や生産に取り組む人たちが一同に集まる会合が、先日スイスが開かれました。その名も 「スイス昆虫食会議」。この会合は、昨年始まったばかりですが、虫を食べるというセンセーショナルなテーマが逆に話題をよぶこととなり、 以後メディアでもたびたび取り上げられています。

国際連合食料農業機関(FAO)によると、 食用昆虫の種類は世界で2000種あり、20億の人が実際に食用としています。ただし昆虫食はほとんどアジアに限られ、ヨーロッパでは、 戦中戦後の食料が逼迫していた時代までは一部の農村でみられたものの、現在はほとんど残っていません。しかし、昆虫は高タンパク質など栄養学的に優れ、暑さや乾燥など過酷な環境にも強い昆虫はほかの家畜の飼育に比べて、はるかに小さいスペースで効率よく安価で飼育することができます。このため、特に途上国においては、今後の食料危機を回避する貴重な栄養補給源として有力視されています。また、昆虫を家畜の飼料として使うことももちろんできますが、昆虫を飼料にした家畜や魚を食べるよりも、人が直接昆虫を食べるほうが、はるかにエネルギー効率がよく、Co2の削減にも大きく貢献することができます。

ただし、高価な食材を購買できる先進国の消費者のなかで、虫をあえて食べる文化が根付いていくのかは、まだ未知数です。ただ、昨年からメディアで注目されたという事実も物語っているように、人類が将来さけて通れない食料や環境危機の一つの打開策として、環境意識が高いスイス人の間で、一定の期待がされているのは確かだと思います。事実、現在のスイスでは、食用や飼料用として昆虫を食用とする商業行為が禁じられていますが、2016年に食品法を改正して、何種類かの昆虫が食用として認められる見通しが高くなっています。そうなると早ければ、来年の秋ごろにはバッタやコオロギなどがレストランに登場するかもしれません。

ただし、今後本格的に昆虫食がビジネスとして定着・展開していくためには、スイスだけではなく、ヨーロッパ諸国でも同様の昆虫食の規制が緩和されていくかが鍵となりそうです。

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一方、環境や食料危機の観点からだけでなく、味わい豊かな新たな食材としての面に注目する専門家たちもいます。現在知られている食用昆虫の2000種の味は、肉や木の実類、柑橘類を連想させる食感など、非常にバラエティーに富んだものであり、デリカテッセンと賞されるものもあります。30年前には(ヨーロッパ人に)考えられなかったような、生の魚を食べる寿司食が、現在のヨーロッパで広範に愛好されているように、 今後5年から10年で昆虫食への見方が大きく変わり、味にこえた先進国の人々の間で、昆虫という新たな食材を使った食文化が定着する素地は十分にある、専門家は指摘します。ちなみに、チューリッヒ応用科学大学学生と関係者を対象にした最近のアンケート調査では、昆虫食を絶対に口にしたくないと答えたのは3割弱で、6割以上の人は、虫の種類やみかけがどうかによるが、虫を食べられると思う、と回答したそうです。

昆虫食は果たして本当に未来に定着するのでしょうか。もしそうなるとすれば、従来の食文化や虫のイメージを強く打ち破っていくことが必要でしょう。 それには、味もさることながら、イメージ(加工の仕方やみかけも含めた)や、環境意識が重要な鍵を握るのかもしれません。食品関連法の改 正以後のスイスでどのように展開をしていくのか、今後も興味津々見守っていきたいと思います。

参考サイト(特に表記していないサイトはドイツ語で書かれています)

(注:スカイフードとは食用昆虫の別名)

スカイフードに関するユーチューブチャンネル(英語)

第二回スイス昆虫食会議プログラム(ドイツ語・英語)

昆虫食(日本語ウィキペディア)

チューリッヒ応用科学大学雑誌『インパクト』29号(2015年6月)、32-38ページ

チューリッヒ応用科学大学雑誌『グレーザー』3ページ

ラジオインタビュー(2015年9月3日)

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


バラエティーに富むハーブ ティー文化

2015-08-28 [EntryURL]

ヨー ロッパ人が飲むお茶といえば、なにを思い浮かべるでしょうか。紅茶、と答える人が多いかもしれません。しかし、これはイギリス人に限って言えば大正解でしょうが、スイスやオーストリア、ドイツなどの中央ヨーロッパでは少し違います。もちろん紅茶も売っていますし、インド、中東、東欧からの移民の間では依然紅茶が圧倒的に多く飲まれているようですが、スイスやオーストリアで、お茶として思い 浮かべられるものは、はるかにバラエティーに富んでいます。スーパーのお茶売り場の棚をみても、色とりどりで多種多様のお茶があって驚かされます。

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その中には、フレーバーの効いた紅茶、ペパーミントやカモミールなどのスタンダードのハーブティー、フルーツティーなど、日本でも近年スー パーの店頭で買えるものもありますが、まだ日本には馴染みがないものも多くあります。その最たるものは、ヨーロッパに自生するハーブをブレンドして薬用効果を売り物にしたハーブティーです。胃によいお茶、膀胱によいお茶、咳・気管支炎によいお茶、風邪全般によいお 茶、喉によいお茶、授乳中によいお茶などなど、個別の体の部分をいたわったり不調を緩和したりするお茶類が、店頭や薬局で一般的に売 られています。

最近はさらに、健康ブームを背景に、伝統的に飲まれているハーブ類をブレンドして、目覚めによいお茶、疲れた体をリフレッシュ・リラックス させるお茶、快適に就寝するためのお茶など、1日のバ イオリズムを意識したネーミングの銘柄も多くでています。これらは伝統的なストレートのハーブティーよりも値段が少し高めでも、売れ行きは上々のようで、毎年新商品がでてきています。値段は茶葉の種類や質によりかなり違いますが、一般的なハーブティーはスイスの店 頭で一箱(ティーバック20袋入り)200円前後です。ただし、ハーブのブレンド商品の高いものは一箱500円前後で売られているものもみられます。

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ちなみにこれらのハーブティーの気になる実際の薬用効果ですが、一定程度の効果があることは広く認知されており、医師に毎日飲むことをすすめられることもあります。我が家でも、少し風邪気味の時に風邪や喉に効くお茶を飲んで風邪の症状がすっかりおさまったり、咳や気管支 炎によいというお茶をのんで咳が減ったり、膀胱によいお茶で膀胱炎の症状が緩和されたといった家族の経験から、いくつかのハーブ ティーは常備薬さながら「常備茶」として、自宅や旅行先で手放せない存在となっています。

味については、意見がわかれるところですが、伝統的に飲んでいるヨーロッパの人たちにとってハーブティーは、 薬用効果を期待して飲む場合もありますが、漢方薬を煎じて飲む感覚というより、日本人が日本茶を飲むような、一般的な飲み物であり 嗜好品です。ただし初めて飲む人には飲みにくい場合があるかもしれません。そのような場合はティーバックをティーカップにではなく、たっぷりお湯を入れてあティーポットに入れて味を薄めて飲んだり、こどもなら蜂蜜や砂糖をいれたりすれば、ほとんど問題なく飲めると思います。

グローバルな時代、色や香りや種類が違うお茶が今後、どんどん世界に普及していくのかもしれません。ただしこれからも、お茶を楽しむ心と時間の余裕は、なくならずにあってほしいものです。

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


スイスの遊具レンタル施設

2015-08-20 [EntryURL]

スイスでは、それぞれの地域に図書館があるのと同様に、 遊具をレンタルする施設がよくみられます。ルドテーク(ルドはラテン語でおもちゃ、テークは一般に施設を意味します)と呼ばれるこの半公共施設は、おもちゃが量産・多様化していく高度成長期の1970年代から特に住宅事情が悪い都市部を中心に開設されはじめ、今ではスイス全国で400箇所以上あるといわれています。わたしの住む住区にあるルドテークに、わたしもボランティア館員として(館員は、理事も含めすべて有償ボランティア)現在まで8年ほど勤務しています。

一つのおもちゃにつき日本円でだいたい200円から500円程度の賃貸料を払うと、4週間借りることができ、賃貸期間を延長もできます。大型の野外の乗り物や木でできたミニチュアハウスなど、通常数万円する遊具も、ここでは格安の値段で借りることができます。遊具が店にも家にもあふれる現代でも、次々現れる 遊具の新商品をいちいち購入せず、また時代に左右されない良質の遊具を子供達に与えたいと思う親や祖父母たちからは、ルドテークは今も高く支持されているようで、施設には複数の世代(就学前の子供達から高齢者まで)がいつも出入りしています。

この施設の館員の重要な仕事で、図書館員の仕事と最も異なる点は、コンサルテーションです。子供のおもちゃについて「コンサルテーション」とは、ちょっと大げさな気がしますが、一般的に施設にはざっと 2000点以上の遊具があり、ボードゲームなどルールが一目でわからないものも多いので、訪問者がちょっと立ち寄って、さっと簡単に欲しいと思うたぐいのものをみつけることは(自分で欲しいものの名前がわかっている場合は別ですが)至難の技なのです。そこで顧客の探しているものやそのイメージを聞いて、それに合う遊具をいろいろ提示して、簡単にやり方を説明すると、とてもスムーズに探しているものや欲しかったものがみつかります。

公共施設でも、一般の小売店さながら、ここまでしなくてはならないのか、と思われる方もいるかもしれませんが、レンタルしているものとそれの知名度のギャップの性質上(大方の親や祖父母は、最新遊具や多彩なおもちゃについての知識は皆無なので)、これが当面、最も効果的なマッチングの秘訣です。同時に、顧客とのやりとりから、顧客 が求められているものや重視する点などがじかにわかるので、ルドテーク側にとっても今後の運営に参考になります。

今後、具体的にどのような遊具が現在スイスやドイツで人気があるのか、また背景にあるドイツを中心にした巨大なノンデジタル遊具市場などについてもいずれ触れていきたいと思います。
写真はルドテークでの夏の人気遊具の一例です。短いスイスの夏を謳歌するため外遊び用の遊具が、この時期いっせいに出払って、夏が終わるとまた施設に戻ってきます。

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穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
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