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シェアリング・エコノミーを支持する人とその社会的背景 〜ドイツの調査結果からみえるもの

2017-09-03 [EntryURL]

ここ数年、シェアリング・エコノミーという言葉を耳にする機会が増えました。デジタル時代の新しいサービスの在り方として注目されるだけでなく、新しい時代を象徴するキーワードの一つのように扱われることも増えてきました。他方、ドイツ語圏では、シェアリング・エコノミーについて、これまでになかった新たな可能性をみる肯定的な議論が一巡し、就労者や社会全般に及ぼす様々な影響や問題について指摘する、批判的な議論が近年、増えてきています。

実際に、シェアリング・エコノミーは、どのくらい社会に広がってきており、具体的に社会にどのような影響を与えつつあるのでしょうか。またどのような課題があると、現在取り沙汰されているのでしょうか。これらシェアリング・エコノミーについてドイツ語圏で取り上げられてきた話題を、今回から3回にわたり、まとめてみたいと思います。

最初の回である今回は、シェアリング・エコノミーが現代社会でどのように受け入れられているのかを、ドイツでの最近の調査結果を手がかりにみていきます。次回は、現在までに様々な角度から指摘されている問題点や課題とされているものについて紹介してみます。第三回目の最後の回では、今後定着していくとすれば、どのような形が望ましいのか、指摘されている問題や課題はどう克服できそうなのか、その見通しについて、いくつかのドイツ語圏の具体例や構想を取り上げながら、考えてみたいと思います。

※平成27年の総務省情報通信白書で、シェアリング・エコノミーを、「ソーシャルメディアの特性である情報交換に基づく緩やかなコミュニティの機能を活用」した「個人が保有する遊休資産(スキルのような無形のものも含む)の貸出しを仲介するサービス)」をその典型とし、「貸主は遊休資産の活用による収入、借主は所有することなく利用ができるというメリットがある」と説明しています。3回の記事でも、シェアリング・エコノミーという語を同様の語義において理解し、使用していきます。

シェアリング・エコノミーを牽引する若者

2012年に「シェアリング・エコノミー」という興味深い調査報告書が、ドイツのリューネブルク大学教授ハインリヒス氏らにより発表されました。これは、シェアビジネスの大手Airbnbの依頼を受けて、ドイツで最初のシェアリング・エコノミーに関連する理解や行動様式について調査したもので、1000人以上のアトランダムに選ばれたドイツ人が調査対象とされました。これにより、シェアリング・エコノミーに関わる人の具体的な実像がはじめて明らかになりました。

この調査結果で興味深いと思われた点を、かいつまんでご紹介してみます(調査報告の全文に興味のある方あ、記事の下の「参考サイト」に掲載したリンクからご参照ください)。まず調査当時、すでに調査対象者の55%、つまり過半数以上の人がシェアリング・エコノミーの経験(消費や住宅も含めた賃貸行動)があると回答しています。その内訳をみると、55%がフリーマーケット、52%がインターネットを通じて、個人から個人への物品の売買を経験したことがあり、29%の人は、車や自転車を賃貸したことがありました。民泊を利用あるいは提供したことがある人は全体の28%おり、庭や日曜大工で使う作業用具など普段はほとんど使わないものを必要がある時に賃借したことがある人は25%でした。全体の12%がこれらの貸し借りや売買をインターネットを介して行っていました。

これらの利用者層で目をひくのが、14歳から29歳の若い世代が多いことです。デジタル世代と呼ばれるこの世代は、とりわけインターネットを介した売買や賃借行為に積極的で、25%がインターネットを介したシェアや利用をしたことがあると回答しています。同じようにインターネットを介した利用者の割合が、40〜49歳の人の間では13%、60歳以上においてはたった1%に留まることと比較すると、若い世代の利用の割合が突出しているのがわかります。

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学歴や収入、価値観との関わり

年齢だけでなく、教育(学歴)と収入や価値観(世界観)などの社会的な所属や背景も、利用頻度と強い相関関係にありました。若者でかつ高歴、高収入な人ほど、賃貸システムやインターネットでの売買の利用頻度が多く、また創造性や変化に富む生活を高く評価する人ほど、従来の所有や消費のあり方にこだわらず、シェアや賃借を頻繁に行う傾向がみられました。

民泊を利用あるいは自身が提供する人においても同様の傾向がみられました。高学歴で、変化に富む生活に興味をもつ人ほど、利用頻度が高いという結果です。その人たちは、ほかの人に対して必ずしも社交的というわけではないものの、他人に対しての信頼は、比較的高いという結果もでました。

利用者の圧倒的多数が、持続可能性や環境負荷を配慮するという回答結果もでていることから、ハインリヒス教授らは、シェアリング・エコノミーがもたらした新しい「協力的な消費kollaborativer Konsum」は一過性のものではなく、従来の個人の占有を前提とする経済市場を補充するものとして発達し、一つの流れとして定着するのではないかと推測しています。(Heinrichs, et al, S.19.)

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現在の状況

この調査報告が発表された時から、さらに5年の歳月が流れましたが、現在のドイツやドイツ語圏での状況はどうなったでしょうか。ここからは、スイス(ドイツ語圏)在住の自分自身の印象や経験をもとにした憶測になりますが、シェアリング・エコノミーは、様々な分野に広がり、利用は増え、生活に確実に定着してきているように思われます。同様の調査を仮に繰り返したとすれば、利用経験をもつ人の割合が増えているのでは、と想像します。

卑近な例ですが、ちょうど10年前から私が勤めているスイスの遊具レンタル施設でも、5年ほど前までは、利用者が減る一方でしたが、その後小さい子どもをもつ若い親たちを中心に利用者が増えてきており、貸し出し総額も、毎年約1000スイスフランほど増加する、という状況がここ数年続いています(ちなみに遊具のほとんどは、2ないし3スイスフランで貸し出されています)。自分の勤めるところだけが例外的なわけではないようで、同じ都市にあるほかの地区の遊具レンタル施設でも、貸し出し総額が毎年増加しているといいます。この現象が、シェアリング・エコノミーのメインストリームと直結している保証はありませんが、少なくとも施設で顧客と話をすると、自分たちの子どもたちにおもちゃを買い与えるのではなく、借りて済むものは借りようというはっきりしたスタンスが、特に若い親たちにおいて、特別のことではなくライフスタイルして定着しているように感じられます (スイスの遊具レンタル施設については、「スイスの遊具レンタル施設」をご参照ください。)

単なる流行?それとも新しい社会のスタンダード?

他方、シェアリング・エコノミーのサービスが広い分野で全般に拡大しているということは、一時の流行にすぎないのかもしれない、という気もしないでもありません。時と地域によって、ブランドの服やバックに身を包んで自分のステイタスを顕示するファッションが流行ってきたように、今日のドイツ語圏では、自分のライフスタイルや人生哲学を、身をもって表したり、行動に反映させたりすることが、ひとつのトレンドになっていると言われます(このようなトレンドの傾向ついては、「デラックスなキッチンにエコな食べ物 〜ドイツの最新の食文化事情と社会の深層心理」もご参照ください)。

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シェアリングからは話がずれますが、環境重視の志向のライススタイルが、端的に表出したかのように思われる出来事が、つい先月、スイスでもありました。今年の8月21日から、ファストフードとしての昆虫食が大手スーパー店頭で売り出された時のことです(スイスでは、ヨーロッパでもはじめて昆虫食が合法的に認められました。スイスで合法化された昆虫食の詳細については、「前途有望な未来の食材?」をご高覧ください)。ハンバーガーやミートボールのように丸めた形のチルドの昆虫食食品( 自分で火を通して食べるタイプで、それぞれ1パック辺り170g)が、約9スイスフラン(日本円で千円余り)で売り出されたのですが、高額であるにも関わらず、チューリヒの繁華街の支店では、用意されていた1千食が、すぐ完売になりました。

たしかに昆虫食が、環境負荷の少ない食文化として社会的に期待されていることを受けて、このような大きな反響に至ったことは間違いありませんが、流行に敏感な人たちが、高値でさらに決して連想すると食欲がそそられるものでないにも関わらず、好奇心も手伝ってトレンディな食材としてこぞって購入した、という意味合いも強いように思われます。

ひるがえってシェアリング・エコノミーの潮流をみると、現在、高級車でもなんでも自ら所有するのではなく、他人とできる限りシェアすることが、都会的な洗練されたライフスタイルに映ったり、ひとつの「クールな」行為と思われたりして、流行に敏感な特に若い人たちをひきつけているだけなのかもしれません。そうだとすれば、何かを他人とシェアする行為も、いずれ、ほかの流行にすげかえられて、今の活気が下降していくのかもしれません。

シェアリングが、トレンディな消費や利用よりももっと深く根付き今後さらに定着していくのか、はたまた単なるトレンドにすぎず数年後にはまた忘れ去られてしまうのか、それを現在見極めるのは難しく、その検証は、引き続き観察した数年先の課題とすることにします。そうとはいえ、シェアリングにしても、昆虫食にしても、これらライフスタイルとつながるトレンドは、それが持続可能な社会を目指すという志向がひとつの重要なモチーフとなって盛り上がってきていることは(少なくともドイツ語圏においては)確かなようですし、好奇心から試してみようとする人の絶対数がさらに加わることで、将来も継続して利用・消費する人が一定数維持されれば、将来の社会の変化につながる可能性は十分あるのかなと思います。

次回はシェアリング・エコノミーの問題点をクローズアップ

次回は、現在シェアリング・エコノミーについての議論で、近年頻繁に指摘されるようになってきた、問題点のほうに目をむけて、論点をまとめてご紹介してみたいと思います。

参考リンク

総務省『平成27年版情報通信白書 特集テーマ「ICTの過去・現在・未来」』第2部 ICTが拓く未来社会、第2節 ソーシャルメディアの普及がもたらす変化、1。シェアリング・エコノミー―ソーシャルメディアを活用した新たな経済

Heinrichs, Harald; Grunenberg, Heiko, Sharing Economy : Auf dem Weg in eine neue Konsumkultur? Lüneburg 2012.

Hennig Zühlsdorff, Sharing Economy - „Deutschland teilt”,In: Leuphana, Universität Lüneberg, 11.02.2016.

Alexander Kühn, Und auf einmal essen die Zürcher Insekten. In: Tagesanzeiger, 23.8.2017.

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


無在庫ネット転売の終焉

2017-09-01 [EntryURL]

先月はプライベートで東京に約2週間勉強しにいったり、家族旅行で初登山に行き、学生時代スキーシーズン中ずっとお世話になった白馬のホテルに20年ぶりくらいに泊まらせてもらったりと、とても充実した月となりました。

仕事に関しましては、コンサルティングは夜ホテルでパソコン開いてやっていましたが、物販に関しては、ほぼ自動的な感じです。
世界中のいろんな国々から注文が入り、代金を受け取り、商品の発送が終わっています。

弊社と販売代行の会社(株式会社J-next)の販売商品は、輸入品やベトナム商材、その他在庫商品と販売代行で預かっている商品に関しては、提携している倉庫会社に保管してもらっていて、そこから国内・海外に発送してもらっています。

あと米アマゾンやeBay (イーベイ)で自己発送している分は、外部スタッフさんに発送をお願いしています。

スタッフさんたちは女性ばかりで、主婦の方や会社員の方もおられます。
たくさん発送をお願いしている方が、先日写真を送ってくれました(下記画像左)。
箱をつぶしてもつぶしても減らないそうです(笑)。部屋がひとつ空箱置き場になっています。

輸出ビジネス 発送1  輸出ビジネス 発送2

別のスタッフさんにも送ってもらいました(画像右)。
玄関先です。毎日これくらい届くそうです。

上の2つの写真をご覧いただき、ピンときた方もおられると思います。

これらの商品、日本のアマゾンから仕入れています(もちろんアマゾン以外もありますが)。

わたしたちは、販売代行したり、仕入れ開拓したり、OEMしたりしていますが、初心者の方々と同じように、りサーチしてネット仕入れの転売もしているのです。

売る商品が見つからない、ライバルが多すぎる、利益がとれない。。。。

できない理由はたくさんありますが、きちんと利益とれているセラーがいるのも事実なのです。

まず出品数を増やしてください。そして予想を立てていろんなテストをしてください。これがとても大事です。

―――――― しかしこれからは違います。

ネット転売が難しくなる理由

リスクが少ない、無在庫のネット転売はもうすぐ稼げなくなります。
理由はたくさんありますが、主だった理由をいくつか挙げさせていただきます。

「在庫なし」が理由のキャンセル

たくさん出品すると在庫管理がたいへんになってきます。
売れたので仕入れしようと思ったら、日本のネットショップで売り切れになっていた、価格が上昇して赤字になってしまう。
このような場合は、取引をキャンセルしなければいけません。
アマゾン、eBayも基本無在庫販売はダメです。注文してくれた・落札してくれたお客様に迷惑がかかります。
このため、「在庫なし」の理由のキャンセルはとても厳しくみられます。
一定期間にあまりにも回数が増えるとアカウントのサスペンドにつながります。

ツールを使った販売者が多く参入

特にアマゾンですが、アマゾンはシステマティックなので、日本のアマゾンとアメリカのアマゾンに出品されている商品の価格差があるものを抽出するツールを使って出品することができます。ASINコードが同じだからです。
同じ商品に何十人と出品します。アマゾンは、カートを取れる人が売れるので、多くは価格競争に陥ります。
ツールを使って価格差のある商品をみつけ何百何千と出品して、月の利益3,000円とかいう笑えない話も耳にします。
みんなと同じことをしていたら売れません。どうしてもネットビジネスって「楽」とか「簡単」いかいうイメージありますが、頭に汗かかないとお金は稼げません。独自のリサーチ法が必要です。
因みに、弊社ではツールは一切使っていません。

大手メーカーの商品が出品できなくなっていく

これは切実な問題です。知的財産権の関連です。eBayではVeROともいいます。

メーカーが直接海外へのネット販売を始めだした

越境ECといわれるものです。越境ECは、行政も強くバックアップしています。わたしたちが扱える商品自体が少なくなっていきます。

大量仕入れできる有在庫のセラー

まとめて仕入れると単価は安くなります。しかしその資金が当然必要になってきます。
法人や個人事業主なら融資を受けられたり、補助金なども資金を得るための対象となります。
ということになると、資金力のない個人の副業セラーは太刀打ちできません。

輸出の消費税還付目的のセラーが出現

上記に関連します。これはぼく個人的には少々異論があるところではありますが、実際問題として多くなってきています。「利益ほぼ関係なし、とりあえず売上」という売り方です。こうなると資金力のないセラーは価格競争しても勝てません。イコール売れません。
彼らの目的は2つあって、ひとつはリスト(メールアドレス)取り、そしてもうひとつは消費税の還付です。
海外に販売すると、消費税が還付されるのです。

これらのことは個人や副業ではできません。
ネットビジネスは、「誰でも簡単にリスクなくはじめられる」という誘い文句はもはや通用しなくなりました。

転売は悪いイメージあるかもしれませんが……

転売自体は問題ありませんし、もちろんなくなりません。
安いところから仕入れて、高く売るのはビジネスの基本だとは思います。

しかし大きな話で言えばネット転売は「社会性」がありません。

どこでもいいから安いところから仕入れて、どこの誰でもいいから高く売る。
顔が見えない無機質なところがネットビジネスの弱点です。

これから転売で稼げる人は急激に少なくなります。

2019年までに「売る力」をつけてください。
東京オリンピックで、各国メディアが東京を、日本を紹介してくれます。文化・商品が広く知られるようになります。
今まで認知が低かった商材もスポットライトがあたります。

その時売れるようになっておかなければいけません。
クライアントさんには「サイト販売」とお伝えしていますが、これから輸出ビジネスを始められる方々は、まずはリスクの少ないネット転売になります。売る場所は、アマゾン・eBayです。

説明させていただいたとおり、その経験を積める時間があまりありません。
これから輸出ビジネスをはじめられる方は、すぐはじめてください。

経験と実績を積めれば「転売」で収益を得続けることは可能ですし、その転売ビジネスは、ぼくが考える「社会性のあるビジネス」だと思っています。

そして、その先には「新しい仕事」が増えてきます。
すでに一昨年からクライアントさんたちにはお伝えしていますが、また機会があれば書かせていただきます。


株式会社グローバルブランド 代表取締役 山田貴弘 氏

2017-08-31 [EntryURL]

yamada.jpg1984年6月6日生まれ
■2012年創業 株式会社グローバルブランド 代表取締役
■輸出ビジネス10年
■商社時代に米国駐在(シカゴ、ニューヨークで計4年)。
■名古屋、東京、カリフォルニアに拠点をもち、米国拠点では倉庫、営業とスタッフも豊富
■自社開発 海外発送システム(Shipper Maker)は日本唯一のアマゾン公認システム
■越境EC・リアル海外ビジネス・ITを融合させた輸出スキームで展開

商社時代に社内最年少で米国駐在転勤後シカゴ、ニューヨークにて、ユネスコ無形文化遺産に登録された日本食品の普及に携わる。商品開発にも携わり、米国向けカップラーメンを0から開発し米国FDAにも精通。

滞米時500店舗以上を自らの足で訪問営業し、日本企業の海外展示会の出展サポート、営業補助も行う。

起業以降、10商品以上の自社商品開発を行い、越境ECで年商10億以上の売上を維持しながら、輸出サポート事業、年間20回以上のセミナー開催にも注力。

またアマゾン公認システムを利用した海外物流サービスにて600社以上の貨物を毎日発送。
現地経験、海外商品開発経験から越境EC、リアルビジネスを融合させた海外ブランディングを得意とする。


2017年08月30日号 越境EC核心の話
2017年09月30日号 越境EC核心の話②

都市農業の未来への挑戦  〜ヨーロッパ最大の循環型農法の屋上農場

2017-07-20 [EntryURL]

ヨーロッパの未来の食糧についてのレポート最終回の今回は、ヨーロッパを拠点に2013年から始動した、ビルの屋上や屋内スペースを使ったユニークな都市農業についてご紹介します。
都市の人口集中化と都市農業の未来の可能性
世界的に人口が特に集中的に増えているのは大都市です。今後も都市化・大都市化の傾向は世界的に続くと予想され、それに伴い様々な問題がでてくると予想されていますが、その一つに、食糧供給の問題があります。都市人口が増えればそれだけ多く食糧も必要になりますが、輸送の長距離化や交通渋滞化などの環境問題にもつながり、都市の人口が増えるほど複雑で深刻化します。
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しかし都市が外部から食糧を入れるだけでなく、自ら積極的に生産供給することができれば、問題は緩和されます。では、具体的に都市では、どのような形でどれくらい食糧を生産することが可能でしょうか。
真っ先に思い浮かぶのは、一般に「都市農業 urban farming」と呼ばれる、都市内部の小規模なスペースを利用した農業です。しかしこれまでの都市農業といえば、戦時中や経済危機のような差しせまった状況にでもない限り、食糧を生産するという積極的な意味よりは、都会の人々にとっての癒しの場、景観やレクリエーション、あるいは地域コミュニティー活性化などの役割が重視・強調される傾向が強くみられました。たとえ農業生産性を追求したとしても、都市内部では農地が小規模なだけでなく、一時的な空き地を借り受けた暫定的な農地形態も多いため、継続的に安定した収穫を望むことは難しかったでしょう。また、農法も植物栽培が圧倒的で、小動物が飼育される場合があっても、規模的な制約もあり、一体的で効率的な循環的な農法が実践されることはまずありません。(ここでいう循環的農法とは、自然のなかにある有機資源をなるべく循環させながら農産物を生産する農法一般を広く指すこととします)
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しかし、未来に都市で食糧を作り出そうとすれば、前々回の記事でも、居住空間を使った微細藻類を食用に養殖するという構想がでていましたが(「新しい食文化の幕開け?〜ドイツ語圏で有望視される新しい食材」)、もっと色々な形の生産の仕方、つまり新しい都市農業の形が考えられるのかもしれません。少なくともそのような発想をもった、新たな形の都市農業の形が、ヨーロッパででてきました。
「アーバン・ファーマーズ」の農園と養殖場を合わせた循環型農場
それは、スイスとオランダの都市で数年前からはじまったもので、屋上の広大な空きスペースを利用し、循環的農法で効率化をはかりながら、採算がとれる新しい都市農業の形を目指すものです。具体的にどういうことかと言うと、まず、建物の屋上のよく日光の当たる場所を屋内農園にし、そこで野菜を水耕栽培します。そしてその下の階の室内には魚の水槽を置き、美味の魚として知られる雑食のティラピアなどを養殖します。階を隔てた農園と養殖場は、一見なんの接点もないように見えますが、循環する水によってつながっています。魚の泳ぐ水槽の水には、魚の呼吸や排泄、また餌の食べ残しによって、窒素やリン酸、カリウムという植物の肥料の栄養素が含まれていますが、この水を上の植物の水耕栽培用の水として利用します。これにより、水中の栄養素が植物に吸い上げられ、ほかにも微生物のフィルターを通してさらに水を浄化し、浄化後に水は再び魚の水槽にもどされます。
水耕栽培と魚の養殖を合わせた農法の研究は、1970年代にアメリカからはじまりました。魚の水槽での養殖を意味するAquakulturと、植物の水耕栽培Hydroponicの2語を合わせて作った造語、「アクアポニックスAquaponics」と一般的に呼ばれ、現在は世界各地で研究されています。1994年からチューリッヒ応用大学ZHAWの環境自然資源研究所(IUNR)においてもアクアポニックスについての研究が進めら、そのスピンオフ(開発された最先端技術の民間転用)として2011年に設立された「アーバン・ファーマーズUrban Farmers」という会社が、今回のプロジェクトを企画・運営しています。
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チューリッヒ応用大学のチューリッヒ・キャンパスの屋上庭園(屋上農場ではありません)

ヨーロッパ最大の屋上農場
アーバン・ファーマーズ社による世界初の都市の屋上スペースを利用した本格的な農場は、現在建設中の物を含め三つあります。
最初の農場は、スイスのバーゼル市に2013年に設置されました。屋上農園と養殖スペーストータルで250㎡があり、年間野菜が5tと魚が800〜850kg生産しています。これは80人〜100人の1年間の需要分に相当します。野菜と魚は、複数の周辺のレストランに届けられるほか、週に数日、スイスの大手スーパーの「ミグロ」でも販売しています。販売価格は、現在のミグロで発売されている有機農業食品よりも2割近く高いものもありますが、顧客には好評で、ミグロ自体もスーパー施設の屋上に同様の農場が作れないかを現在検討しているといいます。
二つ目は、オランダのハーグ市に設置されました。家電会社フィリップのかつてのテレビと電話生産工場で空きビルとなっていたところを利用したもので、2016年5月から生産がはじまりました。1500㎡の屋上部分と最上階(7階)フロア700㎡部分がそれぞれ屋内農場と養殖スペースになっており、全体の利用面積はバーゼルの10倍になります。ヨーロッパ最大の屋上農場であり、年間45〜55tの野菜と19〜20tの魚を生産しています。
そして現在、3カ所目となる農場が、スイスのドゥーベンドルフに建設されています。全体で1000㎡、サッカー場3分の1の大きさに当たるスペースの農場が計画されており 、今年の冬に完成予定となっています。
屋上農場の利点
都市農業という観点からみて、アーバン・ファーマーズ社の屋上農場は、以下のような点で評価・注目されています。
●都市部で利用されていない(屋上部分などの)スペースが利用できる
現在スイスでは消費される魚の94%、野菜は45%が海外からの輸入に頼っていますが、このような過剰な輸入依存は、スイスだけでなく多くの先進国、またその大都市圏に共通している傾向です。
しかし、職住に使われていないスペースを利用した都市農業が可能となれば、都市の食糧供給率を高めることができ、ライフラインと同様に都市の生活に不可欠な食糧の安定的な確保に貢献できます。これは同時に、輸送距離を減らすことで環境への負担が減り、鮮度の高い食品を都市住民が享受するというこでもあります。
●節水効果
養殖と栽培に必要な水は常に新しく投入されており、水は24時間以内にすべて新しく入れ替わっているにも関わらず、水を浄化して循環させることで、通常の植物の土壌栽培に比べ水の消費量が9割も少なくなるといいます。
●持続可能な農法
農薬や抗生剤は不使用、石油系の肥料も一切使わない持続可能な循環型農法で、肥料の使用量も通常より10%減らすことができます。魚の養殖においても、魚の保護法の規定を厳粛に守り、魚の密度、日照条件、水の温度、酸素量、水の流れなどが厳重に管理されています。
以前もご紹介したように、ドイツ語圏では、有機農業食品の消費が近年堅調に増えているため(この詳細については、「デラックスなキッチンにエコな食べ物 〜ドイツの最新の食文化事情と社会の深層心理」をご参照ください)、多少値段が割高であっても、都市で調達できる環境負荷を最小限にとどめた食糧として、潜在的な需要がかなり大きいと考えられています。
・省エネ効果
施設は、デジタルデバイスを多用することで、手間とエネルギーを最小限に留めながら、水温、日照、肥料となる水の窒素の濃度まで、施設の詳細を24時間細かく監視・管理されています。
さらに屋上部分や屋根を利用することで、断熱になったり、廃熱を施設で利用することができます。さらにまだ実現されていませんが、将来屋上の立地を活かして太陽光を利用することで、さらに省エネ化することも可能です。
おわりに
会社側は、5カ所目の施設から利益を実際にあげることを目指すとする一方(現在は自治体や環境ファンドなどから補助金を得て運営されています)、最終的な目標は、野菜や魚の売り上げを伸ばすことではなく、 屋上部分でできる循環型農法・生産のシステムのコンセプトそのものを世界に輸出し、世界的な都市農業を活性化させることだとします。
屋上農場がスタートして4年足らずですが、 未来の都市の食糧供給問題の具体的な解決に向けたフロンティア的な動きとして、今後も循環型の屋上農場に注目していきたいと思います 。
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<参考リンク>
——アーバン・ファーマーズ社の屋上農場について
アーバン・ファーマーズ社の公式サイト
Markus Hofmann, Fisch und Salat aus dem Industriequartier, Bauern in der Stadt. In: NZZ, 9.8.2013.
Samuel Hufschmid, Die Fischzucht auf dem Basler Flachdach, Urban Farming. In 20 Minuten, 28. Januar 2013 16:10; Akt: 29.01.2013.
Lorenzo Petrò, Zürcher bauen Europas grösste Urban Farm. In: Tagesanzeiger, 19.4.2016.
Urban Farmers steigt Niederländern aufs Dach. In: Unternehmerzeitung, 16.10.2015.
Joël Gernet, Frischer Fisch direkt vom Dreispitz. In: Basler Zeitung, 28.01.2013
Matthias Kempf, Gibts bald Fisch und Salat vom Migros-Dach?. In: 20 Minuten, 16. Juni 2015
Setzling and the city. In: Energie, Das Magazin von Stadtwerk Winterthur, 2/2012 S.12-16.
Alexander Saheb, Kleine Farmen für jede Stadt. In: UBS, Impulse, 08. Jan 2016.
Konrad Staehelin, Schweizer Firma mit Pionierrolle: Im siebten Stock wächst frischer Salat, Urban Farming. In: Basellandschaftliche Zeitung, Zuletzt aktualisiert am 15.11.2016
Lorenzo Petrò, Zürcher Start-up baut Europas grösste Urban Farm. In; NZZ, 18.4.2016.
——アクアポニックスについて
Ranka Junge, Andreas Graber, Alex Mathis, Zala Schmautz, Aquaponics research at ZHAW, Switzerland: past, present, future. International conference “Aquaponics research matters”, Ljubljana, 22 March 2016
日本アクアポニックス
Aquaponics さかな畑

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


越境ECで海外顧客から代金を受取る方法

2017-07-17 [EntryURL]

越境ECの決済において、PayPal(ペイパル)
WorldFirst(ワールドファースト)Payoneer(ペイオニア)は、
私たちにとって、共に必須のサービスとなります。

海外から資金を受取る代表的なサービスに、PayPal (ペイパル)がありますが、ここでは、Payoneer (ペイオニア)、WorldFirst (ワールドファースト)というサービスと各々の手数料、登録方法をご紹介させていただきます。

WorldFirst (ワールドファースト)と Payoneer (ペイオニア)手数料の比較

PayPal (ペイパル)とPayoneer (ペイオニア)、WorldFirst (ワールドファースト)。
それぞれのグローバル決済システムを使う場合の手数料を比較してみましょう。

下の図は、主要項目での手数料を比較したものです。
尚、Payoneer (ペイオニア)アカウントに関しましては、正確には「マルチカレンシー対応 Payoneerアカウント」といいます。このページでは「Payoneer (ペイオニア)アカウント」と記載させていただいています。

従来発行されていました「Payoneer プリペイドマスターカード」のアカウントは2016年6月15日現在、日本での新規発行を見合されています。「Payoneer プリペイドマスターカード」とこのページで説明させていただいている「Payoneer (ペイオニア)アカウント」とは全く内容が違いますので混乱されませんようにお願いいたします。

※1 3.9%+40円/件 とPayPalのサイトで記載がありますが、正確には、受取手数料が、3.9%で、固定手数料は、40円ではなく「0.3ドル」となります。
2018年5月10日より手数料が変更になります。

※2 最低送金金額は200USドルで、送金手数料は無料。国内送金で支払いをおこなっているため、銀行側での海外送金の受取手数料もかかりません。

※3 送金金額に関らず送金手数料は無料です。

※4 日本円で50,000円以下を送金する場合は、送金手数料として250円かかります。

※5 PayPalの独自レートで換算されます。ネット上では2.5~4.5%との情報が多く見られますが、為替決済手数料は、2.5%です。為替手数料の他に通貨換算手数料等がかかってくるので合計すると、約3.5~4%となります。

WorldFirst (ワールドファースト)のサービス紹介

提供可能な口座:アメリカ口座、UKポンド口座、ユーロ口座、そしてカナダドル口座の開設可能。

アマゾンだけでなく、eBay等その他のマーケットプレイスにも対応。

各口座(US,UK,EUR,CAD口座)の管理を1つのアカウントで可能です。

eBayとアマゾン、その他のマーケットプレイスの売上の受取りに利用すれば、1回の送金額が大きければ大きいほど、為替レートが優遇されます。

1つのアカウントに複数の口座を提供する事が可能です。

日本語対応可能なスタッフがサポート。電話は3コール以内に対応してくれます。弊社もお世話になっていますが、いつも十分なサポートをしていただいています。

米ドルの送金は、支払日と同日に行われます。ユーロ、イギリスポンド、その他の通貨は支払日から1~4営業日ほどかかります。USドルを中国に送金する場合、処理をするのに最大4日間かかります。まれに遅延が発生する場合があります。

口座には最低保持期間はありませんが、3ヶ月以上に口座の利用がない、あるいは取引高が非常に少ない場合、WorldFirstは口座を解約する権利を保有します。その場合は、メールで連絡がきます。口座取引を再開するための3ヶ月の猶予期間が与えられ、この期間中に取引が再開されず猶予期間が過ぎた場合、口座は解約されます。自ら解約を希望する場合はサポートに連絡してください。

WorldFirst (ワールドファースト)の新規アカウント登録方法

WorldFirst (ワールドファースト)の開設は無料で簡単です。このページ見ながら入力していってください。まず、ワールドファーストのサイトにいって「登録」をクリックします。


英語で入力していきます。




会社情報を入力します。個人か法人形態か選択します。


ここでは個人として登録してみます。「個人事業主」を選択します。
屋号が決まっていない場合は、名前を入力しておけばいいでしょう。


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菜食の未来の形 〜 「乳」の文字が消えたEU圏の豆乳のその先

2017-07-14 [EntryURL]

動物由来の食品の消費を減らそうという意識
世界的な人口の増加に伴い、肉や乳製品の消費が増えています。世界保健機関(WHO)によると、1997年から99年の間の世界での肉の 一人当りの消費量は年間平均36.4kgで、牛乳の消費量は78.1kgでしたが、2030年には肉が45.3kg、牛乳は89.5kgに増えると予想されています。一方、同じ世界保健機関は、2015年、赤肉や加工肉の摂取が大腸ガンを発がんする危険性を高めるという報告もしており、肉の多い食習慣に対し健康面から警鐘を鳴らす声も年々強まっています。
このような世界の肉食による環境への負荷や健康をとりまく状況をふまえて食糧のなかでも特に肉や乳製品を一切食べなかったり減らし、そのかわりとして菜食の食品を消費しようとする人が近年、増えてきています。今回は、肉や乳製品の代替食品としてこれまで普及してきた菜食食品に対し、EU 圏で今年から始まった規制についてとりあげながら、菜食食品の将来について少し考えてみたいと思います。
広がるソフトな菜食志向
菜食ブームを詳しくみてみると、肉を食べない菜食主義者や、肉だけでなく乳製品までも一切とらないヴィーガンという人たちが相対的に増えているだけでなく、普段肉も乳製品も食べる人たちのなかでも、肉や乳製品のかわりに菜食専門食品を購入するケースや頻度も顕著に増えていることが観察されます(詳細は、「肉なしソーセージ 〜ヴィーガン向け食品とヨーロッパの菜食ブーム」をご参照ください)つまり、徹底・一貫した菜食主義ではなく、肉や乳製品の摂取の回数や量をなるべく減らそうというソフトな菜食志向が、社会全般に広がってきたといえます。
このような社会で裾野が広くなってきたソフトな菜食志向の人たちは、どんな風に野菜を摂取しているのでしょう。サラダやラタトゥイユのような伝統的な野菜料理の頻度や量を増やすだけでなく、本来動物性の食品を使った料理を、材料の一部あるいは全部を植物由来の材料で代替するという料理も好まれているようです。例えば、ひき肉風の大豆を使ったラザーニャや、チーズの代替食品を使ったピザ、米粉とココナッツミルクの焼き菓子などです。代替品に代えるだけなら、新しいレシピもほとんどいらないため手間がかかりませんし、それまでと変わらないメリハリのあるバラエティー豊かな食生活が楽しめます。これまでの食習慣に近いため、違和感も少なくて済むのでしょう。
実際、肉や乳製品を代替するこれら菜食の加工食品は、種類も売り上げも、年々右上がりで増えており、それらは、自然食品専門店やインターネットショップだけでなく、普通のスーパーでも多数の種類を購入できるようになってきました。
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6月の出来事
このように順調にドイツ語圏でも普及してきている菜食加工食品ですが、今年6月に、これまでのあり方に一石を投じるような出来事がありました。これまで、ヴィーガン向けの乳製品が含まれない食品に、本来乳製品に使っていた名称、バター、ミルク、チーズなどをの言葉を用いて「豆腐バター」「植物性チーズ」などという名称をつけて販売されることがたびたびみられ、慣用的な表現としても定着していましたが、今年6月、欧州司法裁判所によって、商品としてそれらの名称を利用することをEU圏内で、禁じる判断が下されたのです。
きっかけは、ドイツの「トーフタウン」という会社の販売するヴィーガンや菜食主義者用の食品でした。この会社ではこれらの商品に「チーズ」や「生クリーム」を意味する言葉を商品の名称にして販売していましたが、乳製品を販売するある会社(名前は非公開)が、これらの名称のついた商品が、本当の乳製品と区別しにくいと、社会公正競争協会 Verband sozialer Wettbewerbに苦情を出しました。社会公正競争協会は「トーフタウン」に警告を出し、最終的にトリア地方裁判所での訴訟になります。訴えを起こされたトリア地方裁判所ではしかし、自ら判決をくだすのではなく、欧州司法裁判所に委ねたため、今回、EU全体に有効となる判決が、欧州司法裁判所から下ることになりました。
食品名称は成分を反映したものでなくてはならないという原則
これにより、EU圏では、例えば豆乳の「ミルク(乳)」という字が動物性の乳製品を本来表しているとみなされ、「豆乳」ではなく「大豆ドリンク」というような別名称でしか販売できないことになります。「ミルク(乳)」や「チーズ」といった本来乳製品(動物由来のもの)に使用されていた言葉を、ほかの商品にも拡張して利用すると、動物性か植物性かの区別がしにくくなり、誤って購入する人がでる恐れがあるというのが、今回の判断です。
本当に間違いやすいかについては異論もでていますが、数年前に、パッケージの絵や商品名で連想される成分が一切入っていないティーバックのお茶が禁止された時と同じように、商品名やイラストは、本来、商品の成分品質を明記、保証するものでなくてはならず、故に入っている材料に忠実な商品名称をつけなくてはならないという原則が重視されたようです。
ミルク(乳)が入っていないものには、ミルクという名称を使ってはいけないという原則は、本来動物性の乳製品に使われていた言葉、クリーム、バター、チーズ、ヨーグルトなどでも有効となりました。しかし、ココナッツミルクのように、すでに慣用的に定着しているとされる名称は、例外として今後も使用を認められることになりました。
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今後のおこりうる肉に代替食品への反響
今回問題になったのは、乳製品の名称を使う食品についてだけであり、肉のはいっていないソーセージや肉の代替食品の名称に関してではありません。肉の代替商品についての表記は、それぞれの国で消費者に誤解や混乱がないように質を保証できるようにつとめるべき、という見解にとどまりました。しかし、ドイツ国内では、これを受けて農業大臣が、動物由来の食品に考慮して、新しい商品に対する独自の表記の仕方を関係官庁に要請したと報道されています。
具体的に将来、肉の代替食品に対して、ドイツやヨーロッパでなんらかの規制や禁止がでてくるのかは、今のところ全くわかりませんが、食肉加工食品と形状も名称もよく似ているものが、乳製品の時と同様に誤解される危険があると、訴えられたり、判断されたりする可能性はあるでしょう。また、今回の結果を受けて、裁判所の訴訟といった、社会で公的に争うような状況にいたる前に、企業が自主的に名称を変えていくことも十分考えられます。
菜食文化の転機?
そう考えると、この事件は表面的には品質保証とそれをどう記述するかという問題にすぎませんが、菜食加工食品の今後の発展を考える上で、もしかしたら、ひとつの転機になることかもしれません。
というのも、今まで、多くの菜食の加工食品は、動物由来の食品がもっていたイメージを利用することにためらいは少なく、むしろそれを商品をアピールする土台にして発展してきたといえるからです。本物の肉の味に少しでも近づくように、菜食加工食品を販売する会社はどこも、強化剤、結着剤、香辛料抽出物などの最適な調合に精力的に取り組んできましたし、形も色も、ウィンナーやチーズなど動物由来の食品に似せることが当たり前のようになっていました。このような見かけや味の工夫のおかげで、抵抗感がなく食欲もそそられる、菜食のひとつの形が形成されてきました。その意味では、動物性食品の模倣は、菜食ブームの原動力になっていたといえるかもしれません。(ただし人工的な香料、甘味料、保存料、ビタミンなどが多く含まれていることに対し、健康面から危惧・批判する声は、近年、一段と強くなってきているようにも思われます)
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しかしこれからは、このように色、味、形を、従来の動物由来の食材の食習慣を踏襲する形で発展してきた菜食の食材や加工食品が、いや応なくそれらの動物由来の食材のもつイメージを脱却し、食材として新たなアイディンティティーを醸成する時代に移行していくのかもしれません。
今回訴えられた会社はの商品紹介サイトは現在更新作業中とのことで、新しくなったネーミングやパッケージをみることができませんが、これからこの会社に限らず、菜食加工食品がまずは、どう改めて自分たちの商品を表象・アピールしていくのか、そしてそれらに消費者がどう反応していくのか、今後気になるところです。
前回、伝統的な食習慣や食品に代わるものとして有望視されている最新の食材について扱い、未来には全く新しい食品ができあがってくるかもしれないという専門家の未来予想をご紹介しましたが(「新しい食文化の幕開け? 〜ドイツ語圏で有望視される新しい食材」)、菜食加工食品の現状も、これからの新しい食品文化への変化を、後押しするものになるのかもしれません。
次回は、いかに食糧を都市において供給するかという問題にシフトして、引き続き、ヨーロッパの未来の食文化について 考えていきたいと思います。
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<参考サイト>
WHO, 3. Global and regional food consumption patterns and trends: 3.4 Availability and changes in consumption of animal products(2017年6月12日閲覧)
EuGH-Urteil zu pflanzlichen Produkten Doch nicht alles Käse, Tagesschau, 14.06.2017.
EuGH-Urteil Nach “Tofubutter”-Verbot: Was wird aus Leberkäse und Kokosmilch? In: MRD, Nachrichten, 14.6.2017.
Urteil des Europäischen Gerichtshofes Veganer Käse darf nicht Käse heißen. In: Der Tagesspiegel.14.6.2017.
「トーフタウン」のホームページ
Peter Mühlfeit, Urteil des EuGH zu veganen Milchprodukten Die Milch muss aus dem Euter kommen. In; SWR aktuell, SWR. 16.4.2016.

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振
興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


新しい食文化の幕開け? 〜ドイツ語圏で有望視される新しい食材

2017-07-08 [EntryURL]

今回から3回にわたり、世界的な食をめぐる課題を前にした、ドイツ語圏の人々の間の食習慣の変化や新しい動きを、ご紹介してみたいと思います。第一回は、人口増や異常気象による世界的食糧危機に対応した新たな食材を求める最新の動きについて、第二回は肉の消費量を抑制するオータナティブ食品としてこれまで歩んできた菜食食品の最新状況について、そして第三回目は巨大化する都市での食糧供給率をあげるためにスイスとオランダで実働を始めた屋上を利用した循環型農場についてレポートをします。

世界の人口は現在74億人ですが、世界保健機構(WHO)は2050年に97億、2100年には112億人になると予想しています。人口が増えると当然、必要な食糧量も増えます。ネスレ未来フォーラムの最近の調査では、調査に参加したドイツ人の半分以上が、将来は、地球環境や自己の健康などに配慮して、これまでの食習慣になかった新しい食材を将来食べることになるだろうと考えているという結果がでています(Nestlé Zukunftsforum, 2015)。

では、具体的に、ドイツ語圏ではどんな食品が有望視され、これから実際に普及していくのでしょうか。これが未来の食品だ、と銘打つ報道は最近頻繁にあり、そこではあまたの食材が紹介されていまが、環境負荷が少なく、健康的でもあり、しかも近い将来実現可能性が高い食品を選ぼうとふるいにかけると残るのは、現在のところ、それほど多く残りません。

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未来の二大食材候補

メディアの未来食報道を総合し、目下、食糧や環境危機を考慮した観点から最も将来性があるようにみえるのは 、昆虫と藻類のように思われます。

ヨーロッパの昆虫食への期待については、以前扱いましたが(「前途有望な未来の食材?」)、スイスではいよいよ今年5月から正式に、EUに先駆けて、いくつかの昆虫の種類が食用として合法的に認められました。これまで(中世の一時期的な食料難の時期はのぞき)ヨーロッパでは昆虫食は皆無であったこともあり、5月に解禁になる前後は、昆虫食の話題が、メディアでも大きく取り上げられていました。解禁早々、学食のメニューにとりいれようとした大学もありました(ただし最終的に供給側が、需要に追いつけず実現はしませんでしたが)。

実際にどのくらい昆虫食がスイスやヨーロッパ全体に普及したのかを、数年先に報告できるかもしれませんが、今はまだ始動したばかりで特に新たに取り上げるような話題はありませんので、とりあえず今回は、昆虫食よりもさらにマイナーで、急に最近スイスで注目が集まっている藻(海水・淡水中で生育する植物)のことを、以下みていこうと思います。

藻といって、まず誰もが連想するのは、海の藻である、海藻類でしょう。ヨーロッパでも、寿司の食文化を中心に日本食が人気を博すようになって、海藻類が食材として少しずつ定着してきました。消費量として圧倒的に多いのは寿司についている海苔ですが、わかめサラダや昆布などもたびたび店頭でみかけます。食の未来は海にあるなどとして、魚介類だけでなく海藻類に注目する報告もあります。いずれにせよ、海藻食品は、とりわけ日本食を通して普及が進んでいるのは確かなようです。

マイクロアルジェ(微細藻類)

一方スイスでは、海藻以外に注目されている藻があります。マイクロアルジェと呼ばれる顕微鏡でみないと見えないほど小さな微細藻類で、熱帯地方の湖に生息するスピルリナやクロレラなどです。

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チューリッヒ工科大学の持続可能な食品加工分野の教授で、マイクロアルジェに詳しいマティスAlexander Mathys氏によると、マイクロアルジェは、環境持続性の観点からみると、昆虫食よりもさらに一歩すぐれた食材であり、 今後、食材として大きな可能性をもっているといいます。教授が一押しするマイクロアルジェの特徴を以下にまとめてみます。

・高タンパク質で、油分、ビタミンなども豊富に含んでおり、食産業に適しているだけでなく、薬品、化粧品、化学分野にも適している。

・技術開発はまだ初期段階で、太陽光の強さや養殖スペースなど様々な養殖関連要素の最適化や、収穫後の加工・保存技術(Urban Food Processing)等、実用化までに解決しなくてはいけない課題は多いが、確かなのは、藻類の成長は非常に早いため、動物や昆虫類の飼育期間よりも短期間で、同等の栄養価の食品を作ることが可能だということ。

・個体が非常に小さいため、小規模のスペースで効率的に養殖することができる。太陽光が十分にとれるならどこでも養殖可能で、例えば、屋根の上などの普段使われてないスペースを養殖スペースとして有効に利用できる。

・このため現存する農業用地と競合することにはならない。(世界的にみられるバイオ燃料用の穀物の栽培と、食料や飼料のための穀物や大豆の栽培の用地をめぐる競合状態のような事態にはならない)

・都市内部、自分たちの居住空間においても養殖が可能である 。海洋部からスイスに海藻類を取り寄せる場合に比べ、フードマイレージが短いだけでなく、養殖のために海に負荷をかけることもない。

・昆虫食とは異なり菜食主義者も食べることができる。一般の人にとっても、植物であるため昆虫食より食するのに抵抗が少ないことが予想される。

・世界中の大都市で幅広く養殖が可能であり、将来、スイスで培った生産技術を海外に輸出することで、世界的な環境・食料問題にも貢献できる。

教授は、昆虫食などほかの新食材の研究とあわせて、このような新しい藻類の研究開発を進めいくことで、オータナティブ食材が補完しあって普及が促進されるのではないかと期待しています。

果敢に新しい食習慣に挑むヨーロッパ人

ところで、ヨーロッパの新しい食材を調べていて、わたしが個人的に一番感心したのは、昆虫食でも藻類でもなく、ヨーロッパ人自身についてでした。ヨーロッパの人は、これまで昆虫食も藻類も食習慣に入っていません。いなごの佃煮や海藻類を食べなれてきた日本人のわたしには、その人たちにとって、これらを自分の食習慣として受け入れることが、どれだけ違和感のあることなのか、想像することも難しいのですが 、それでもそういうものも食べなくちゃこれから先やっていけないと、前向きにそれらを食べることを想定しているのが、けなげに思われました。

同時に、食べていれば、虫でもなんでも、きっとなんとか慣れるさという社会にある漠然とした楽観にも感心します。興味深いことに、この楽観は、またまた日本食と関係しているようです。どういうことかというと、数十年前までは、寿司の生の魚も、真っ黒でぬるっとした海苔も、当初は尋常の食べものの想定を逸脱するものに思われ、絶対に食べれそうにないと思う人がヨーロッパでは大多数でした。にもかかわらず、数十年の月日を経て、今では大人気のヘルシー食品になりました。この自分たちでも驚くべき実体験が、未来の未知の食品がいかにみかけが悪かったり、最初は困惑したとしても食べられるようになるだろうという自信につながっているようなのです。少なくとも、新しい食材について扱うメディアでは、この寿司体験を引き合いにだし、未来の食材も最初は無理にみえても長いスパンでは慣れて、一般化するということが可能だ、といういう意見がたびたびでてきます。

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新しい食文化の幕開け?

なにはともあれ、全般に、新しく食習慣を広げていかなければという意識が、現在のヨーロッパではこれまでにないほど強くなっており、マティス教授も、50年後の食卓は、今と全く違うものと、現在あるものが混在しているということになるのではないか、と推測しています。

それは単なるエコだったり健康だったりするだけでもなく、これまでの既存の味や形をコピーするのでもなく、あたらしい食材で新しい味や食品もどんどん生まれていくということなのかもしれません。食の未来は、もちろん入手が難しくなりやむなく食卓から消えていくものもあるでしょうが、これまで食べたことがないような美味なものに、続々と出会えるということでもあるかもしれません。

次回は、慣習的な食品に変わる新たな食品としてこれまで歩んできた菜食食品をとりあげ、そこでの最新事情から、食品の未来についてさらに考察してみたいと思います。

参考文献

——未来の食品について
Nestlé Zukunftsforum, Klare Trends für 2030, Zukunft der Ernährung(2017年6月28日閲覧)

Was wir im Jahr 2030 essen, Algen, Fake-Fleisch, Insekten. In: Focus Online, 18.4.2015.

Mehlwürmer und Mikroalgen: Der Teller der Zukunft, input, SRF, 29. Mai 2016.

Nestlé Zukunftsforum (Hrsg.), Wie is(s)t Deutschland 2030?, Deutscher Fachverlag GmbH, 2015.

Essen der Zukunft: Insekten und Algen? In: Hungry for Science, Schmackhaftes zum Thema Essen, Esskultur und Nahrungsmittel, 3.8.2016.

——微細藻類(マイクロアルジェ)について
Sind Mikroalgen die Proteinquelle der Zukunft? In: A point, SRF, 30.5.2016.

Felix Würsten, Insekten und Algen statt Rinder und Hühner. In: ETH News, Magazin Glob, ETH Zürich, 04.12.2016

Guido Böhler, Algen sind interessanter als Insekten. In: foodaktuell.ch, Fachportal für Lebensmittelwissenschaft, 5.6.2017

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


ローカルな「体験型」ツーリズムの展開 〜ドイツ語圏のユニークな歴史ガイドツアーと自由な発想のベンチ

2017-07-03 [EntryURL]

前回は、グローバル化が加速しているツーリズムの一潮流に焦点をあててみましたが、今回は、日本でも話題となっている「体験型観光」に近い地元住民を対象にしたローカルなツーリズムについて、ドイツ語圏で広く普及しているユニークな歴史ガイドツアーと、 スイスの都市のクリエイティブなベンチ設置プロジェクトから考えてみたいとおもいます。
都市の新しい歴史ガイドツアー
最初に紹介するのは、都市の歴史ガイドツアーです。従来の都市の歴史ガイドツアーというと、王様や著名人にゆかりのある名所や歴史的な街並みを見てまわりますが、このガイドツアーでは、名所もまわらなければ、著名人も登場しません。従来の歴史書やガイドブックにはほとんど出てこない女性に焦点をあて、それぞれの地域の昔の生活の様子を、浮かびあがらせようというガイドツアーです。
1985年にドイツのケルンで女性史研究者らによってはじめて企画・開催され、それが国内外で大きな反響を呼び、現在では、ドイツとスイス、オーストリア、ベルギー、チェコなどの近隣諸国の50以上の都市で、同様の地域の歴史ガイドツアーが開催されています。スイスでも最初のガイドが始まって25年以上がたち、現在はチューリッヒ、ジュネーブ、ベルン、ヴィンタートゥアなど主要な都市でガイドツアーが行われています。年間約100回つまり、平均すると週に約2回のペースで開催されている計算で、ツアーの動員数(参加者数)は、バーゼルでは、年間約1700人いると報告されています。
生活に密着した歴史がテーマ
しかし、名所も著名人も出てこないこのような歴史ガイドツアーが、なぜそれほど各地で好評なのでしょうか。 人気の理由はいくつか考えられますが、まずなんといっても、ガイドツアーの内容が人を惹きつけているのでしょう。上述のようにガイドツアーでは、歴史を生きた女性にスポットをあて、結婚、保育、老後、女子教育、労働者の生活、貧民層の暮らしや救済組織など、女性が関わった生活全域の多様なテーマを、それぞれの地域的な文脈から読み解いていきます。それによって、 日常生活の様子や常識や苦労など、これまで知らなかった昔の人々の身近な状況について理解が深まります。
そのような前代未踏のテーマのガイドツアーを成立させるためには、これまでの既存研究では不十分なため、ガイドツアーと並行して、多くの新たな史料研究が続けられてきました。今も引き続き若手研究者や学生たちが中心となって史料調査・研究が続けられており、そのおかげでガイドツアーのレパートリー(プログラム数)は幅広く、プログラム数が40もある都市も少なくありません。とはいえ、内容は市の観光局によるスタンダードな歴史ガイドツアーを否定するものでも、重複するものでもないため、通常の歴史ガイドツアーに並行して、むしろ新しい歴史ガイドツアー市場が開拓されたのだといえます。
演劇仕立ての演出
ガイドツアーの演出も、ガイドツアーの人気の秘密といえます。女性ガイドたちは(現在のところガイドはすべて女性)、昔の服装をして登場し、歴史上の人物が実際に現れて話をするような演劇仕立てになっています。良家の妻や老女、若い労働者の娘など、何人も登場する場合、それぞれの役が見分けやすいように、役に応じて上半身だけ着替えで登場したりもします。おかげでただ説明を聞くだけのガイドツアーよりも、ずっとメリハリがあり、昔の出来事や人々の生活を、臨場感をもって体感できます。
いろいろな用途で利用が可能
また、通常のガイドツアーよりも、色々な用途で利用しやすいことも、人気の理由と考えられます。通常のガイドツアーのように、決まった日に集まった人を対象にする一般公開のガイドツアーももちろんありますが、例えば、チューリッヒでは、そのような一般向けのガイドツアーとしての利用は、全体の4分の1にすぎず、むしろガイドツアーの多くは、違う機会や形式で開催されています。以下主要なものをあげてみます。

・企業の見学会やイベント行事として

たいていどこの企業でも、同じ課で働くスタッフ一同がいっしょに、見学会やイベントを楽しむという恒例行事を毎年開催していますが、そこでこのガイドツアーが利用されることが多くあります。

・研修会の内容として

ガイドツアーが関連分野の企業や組織の研修の一環として、利用されることもあります。例えば、教育、老人介護、病院、女性の職場などにまつわるテーマのガイドツアーです。 その際、市内を散策するかわりに、室内会場でのプロジェクタを使った講演会のような形態にすることもできます。

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・歴史授業の一環として

小学校高学年などを対象にした特別のプログラムもあり、自分の住む地域の歴史を学ぶ一環として、たびたび利用されています。

・記念のプレゼントとして

特別な贈り物としてガイドツアーが利用されることも最近増えているようです。物があふれる現代において、特別のプレゼントしたくても、ぴったり合う物をみつけるのは至難の技なため、モノではなく旅行チケットや、音楽会のチケットなど体験型のプレゼントをおくることが流行っていますが、ガイドツアーもそのようなコト体験のプレゼントとして利用されています。特に多いのは、退職や誕生日などの記念の時のようで、単に贈呈するだけでなく、プレゼントする側の同僚や友人がいっしょにガイドツアーに参加することで、贈る側と贈られる側両者両者にとってよい思い出ができることが、好評のようです。

地域に根ざしたガイドツアー
都市の観光案内所にもガイドツアーのパンフレットは一応置かれていますが、参加する人の大部分は、よそから来た観光客ではなく、その地域に住む人たちです。評判が口コミで広がり、一度参加した人がリピーターになるケースも多いようです(プログラムのレパートリーは幅広いため、複数回参加しても、プログラムが異なれば内容の繰り返しにはなりません)。
同じ空間に昔どんな人がどんな風に住んでいたのか、例えば、この小さな建物が長い間孤児院及び病院として使われていたとか、この街の屋内プールは当初、家で入浴できない貧民のために作られ、屋内プールとしてスイスで最初のものであった、などの街の歴史が、よそからの観光客よりも、そこに住む人たちにとってより感慨深く、興味がそそられることであっても、なんの不思議もありません。このガイドツアーは、そのような(自分たちの地域の歴史をもっと知りたいという)潜在的な需要を掘り起こしたのだ、といえるかもしれません。
総じて、このガイドツアーは、ガイドツアーを単なる外からの観光客のための観光資源としてではなく、それぞれの地域の文化的資源としての価値を高めたことで、ヨーロッパに広く定着していったと考えられます。
市内ベンチ設置プロジェクト
もう一つローカルなツーリズムの最新例として、人々の散策を楽しくするためのしかけをご紹介します。スイスの10万人都市、ヴィンタートゥアで、今年5月初めからスタートした旧市街区のベンチ設置プロジェクトです。
どうすれば街を楽しく快適に散策できるか、そのためには何が必要でどのように配置されるべきか、というテーマは、車社会の到来とともに都市の中心部が衰退してくる1970年代以降、世界各地の商店街や観光振興協会だけでなく、都市計画という学問分野でも、長年真剣に議論され、様々なことが試されてきました。その結果、市内の車の走行を禁止や制限(速度や時間帯で)したり、歩道が拡張されるのと同様に、ストリートファーニチャーと呼ばれる街に人を引きつける屋外装置を設置することが、有効な手法として広がっていきました 。ベンチはストリートファーニチャーの重要な一要素であり、その点からみれば、今回のプロジェクトは、決して斬新でも珍しいものではありません。
しかし、ヴィンタートゥアの事例では、製作者にとっても散策者にとっても、ベンチは単に座る場所である以上の意味をもち、街歩きの楽しさも倍増したようにみえます。具体的にみてみましょう。
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まず、ベンチは基本型がありますが、それを購入した人や団体が、着色、インスターレション、改造をすることができ、かなり自由度の高い作品として仕上げることが可能なため、製作者にとっては、メッセージやイメージを表現する手段として魅力的なものとなり、企画段階の目標参加者数(60)よりも多い76の団体と個人が、自己負担でベンチを購入し、製作を担当しました。
ただし、ベンチは同時に公共性の高いため、街の人が選ぶベンチ・コンクール(今後開催の予定)の出品作品にもなります。このため、 ベタな宣伝が目立つき興のないベンチであれば、コンクールで悪い成績を残すだけでなく、都市の美観を損なうものとして市民に不評を買い、会社の評判が落とす危険すらあります(ベンチのサイドには出品者・製作者の名前などが明記されます)。このため、どのベンチも商業主義一色に陥らず、地元の銀行や企業だけではなく、アーティストや普段は市内で目立った存在でない教育や福祉団体なども参画したことによって、最終的に、モチーフも豊かで、ベンチの特性と自由な発想を融合した、個性やしかけが光る高品質のものが出揃いました。
もともと、旧市街にベンチがほとんどなかっただけでなく、ちょうど、プロジェクトがスタートする寸前の4月に市が財政収縮を理由に、市内のベンチの一部40基を撤去することが発表されたため、個性的な76のベンチが街に突如現れると、市民からは大きな反響がありました。座るスペースが増えただけでなく、子どもだけでなく大人でも、思わずベンチがどこにあるのかを探し歩いたり、試しに座ってみたくなるような楽しみが街にできたわけで、昼休みや週末はあいているベンチを探すのが難しいほどよく利用されています。
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だまし絵(立体的に見えるトリックアート)を駆使したベンチ

ベンチの設置によって、これまで以上に街に来る人や、それぞれの人の街に滞在する時間が長くなるとなれば、無論企画した旧市街商店振興協会にとってうれしいだけでなく、予算の関係でベンチをやむなく減らす市にとっても、喜ばしい結果でしょう。
総じて、公費を一切使わず、しかも社会全体に歓迎される街の散策のしかけを達成したこのプロジェクトは、ほかでも参考にできる優良プロジェクトと評価できると思います。ちなみに、ベンチは、夏季の5ヶ月間、旧市街地の各地に配置されたベンチはその後10月初めに、インターネットなどでオークションにかけられ、希望者に売却される予定です。収益はすべて、がん患者の支援団体など社会福祉団体に寄付されます。
ベンチからはじまる都市の変化?
ところで、衰退していく街の中心部に歩行者をよびもどすための一手段としてベンチを配置することは、上述のように1970年代以降世界で一般的になりましたが 、ヨーロッパに限っていえば、それよりも、ずっと以前からとられていた手法です。
歴史的なベンチ配置プロジェクトの意図やその発展の経緯は、それこそ都市の歴史ガイドツアーのテーマにしてもいいような、おもしろい話しなので少しご紹介します。19世紀を通しヨーロッパでは、産業化・都市化が進み、都市の景観が変化していきますが、ドイツではこれに伴い、特に19世紀後半から「美化協会」という団体が各地で設立されました。この協会は、都市の景観を美しく保つことを目指して結成された市民団体で、具体的行っていた主要な活動の一つが、都市でのベンチの設置でした。都市の美しい景観を眺められたり、残すことが大切と思われる景観のある場所に、ベンチを設置していきます。
市民や観光客たちが、街の景観が一望できる場所に設置されたベンチに腰をかけると、自然にそこから見える景色をみて、色々感じたり、気づきます。自分たちの街の景観がどんな風に変わっていっているのか、他の都市と比べてどんな違いがあり、どんなところがとりわけ美しいのか。目立ったり気になる建物があるのことにも改めて気づくかもしれません。総じて、ベンチは単に休憩の場を提供するだけでなく、市民やよそからの観光客にみられる機会を増やすことになり、それが景観への意識を高めるのに少なからず寄与したと考えられます。
美化協会は、観光資源としても都市の景観が重要であることにも早くから注目しており、観光による地域振興にも力をいれるようになっていきます。このため、時代が下っていくと、名前も観光協会と改名されていき、それぞれの地域の観光推進役として発展していきます。
ベンチからはじまり、景観の美化やツーリズムの流れになるという「美化協会」の活動の変遷・発展は、過去の話で現代と直接関係ありませんが、他方、現代においても、街にベンチが配置されていくことから、街の人の意識や街の様子にも変化を生み出していくこともあるかもしれません。少なくとも、ヴィンタートゥアで今夏好評を博しているベンチは、去年世界的に一世を風靡したポケモン・ゴーのようなデジタルツールに依存しなくても、街へ出かけることや、そこで佇むことが、わくわくする楽しいものになりうることを、証明してくれたようにみえます。
///
<参考リンク>
——都市の歴史ガイドツアーについて
“MISS MARPLES SCHWESTERN” (MMS) ist ein Netzwerk zur Frauengeschichte vor Ort. (2017年6月25日閲覧)
Kölner Frauen Geschichtsverein, Wir machen die Geschichte von Frauen sichtbar(2017年6月25日閲覧)
Von Frauen für Frauen - 25 Jahre Frauenstadtrundgang in Zürich. In: SRF, 25. 11. 2016.
Femmes Tours(2017年6月25日閲覧)
Frauenstadtrundgang Winterthur(2017年6月25日閲覧)
Nina Kunz, Ein Denkmal für die «Finken-Fränzi», 25 Jahre «Verein Frauenstadtrundgang Zürich». In: NZZ, 24.1.2016.
Julia Konstantinidis, Seit 25 Jahren unverzichtbar. In: Basler Stadtbuch 2015, S.139-141.
——ヴィンタートゥアのベンチ設置プロジェクト
Miin Platz i de Altstadt(2017年6月25日閲覧)
76 neue Sitzbänkli für die Altstadt. In: Der Landbote, 06.04.2017
Nicole Hasler, Die Sitzbank-Aktion hat begonnen, züriost, 06.05.2017.
Winterthur entfernt Sitzbänke aus Spargründen, Tagesanzeiger, 27.3.2017.

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振
興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


Payoneer (ペイオニア)のサービス解説と活用方法

2017-06-27 [EntryURL]

Payoneer (ペイオニア)は、米アマゾンやその他のマーケットプレイスでの販売した売上の受け取り口座として利用できます。輸出ビジネス・越境ECではなくてはならないサービスです。

※ペイオニア・ジャパン株式会社より、資料画像引用の許諾をいただいております。

このページでは、現時点(2017年6月)でのPayoneer (ペイオニア)のサービスとその活用方法を説明させていただきます。

Payoneer (ペイオニア)を利用すると取引の流れが簡素化でき、大きな時短にもなります。

Payoneer (ペイオニア)の設立は2005年で世界12ヶ所に拠点があります。
日本では、2015年に、ペイオニア・ジャパン株式会社が設立されました。

Payoneer (ペイオニア)は無料でアカウントを開設できます。
受け取り口座を作るために、アメリカに銀行口座を作りに行かなければいけない、なんて時間も費用もかける必要はなくなりました。

取引の流れは以下のようになり、とてもシンプルです。
米アマゾン取引などはこのパターンです。

これからスタンダードになる「請求サービス」

受け取りサービスは、利用度も高いですが、越境ECをされる中小企業やマーケットプレイスを使わない販売においては「請求サービス」が使えます。

これまでは、海外送金かPayPalを使うしかありませんでしたが、手数料が安く着金まで早いので、その代替サービスとしてこれから使用頻度は増えるでしょう。

現在、トルコでPayPalが使えないため、トルコから売上金を受け取る際は、弊社でもご提案させていただいています。

Payoneer (ペイオニア)を利用するにあたり、かかる費用は、為替決済手数料だけです。
為替決済手数料は1~2%です。

10,000ドルの商品を販売して、Payoneer (ペイオニア)で受け取る場合、わかりやすく1ドル100円とすると、10000×98円(為替決済手数料2%の時)の計算となるということです。
海外送金・PayPalよりはるかに安いですね。

取引金額が大きければ大きいほどメリットがあるので、これからC to B、B to Bされるセラーは有利になってくると思います。わたしたち中小企業の経営者・個人事業主は「利益」を残さなくてはいけません。

そういう意味で売上は関係ないのですが、わたしがある程度のステージになると売上も上げていかなくてはいけないと言っている理由はここにあります。
売上をあげる程、手数料の恩恵を受けれて利益が増えるということです。

Payoneer (ペイオニア)は新しいサービス

Payoneer (ペイオニア)は新しいサービスもはじめられました。

自動引出サービス

予め設定した頻度で自動的に日本の銀行に引き出してくれるサービスです。
24時間毎・週毎・月毎や、アカウントに残す残高を設定できたりします。作業の効率化になりますね。

ストアマネージャー

複数のアマゾンストアの運営に便利な機能で、一元管理ができます。
ストア毎の入金を一覧表示でき管理ができるようになります。

メイク・ア・ペイメント機能


個人的には一番うれしいです。
Payoneerアカウント間の送金ができます。これはPayPalでもできます。弊社もよく使いますが手数料がかかります。
Payoneer (ペイオニア)は送金手数料が無料です。海外での支払いや、外注さんへの給料などドルからドルで支払いができます。




先日、ペイオニア・ジャパン株式会社 カントリーマネージャーの根本氏とお話しさせていただきました。
弊社のような小さな会社でも丁寧にご説明していただき、いろんなご提案もしていただきました。

Payoneerユーザーを増やすということはもちろんおありでしょうが、まずは多くの人に越境ECを知ってもらってドンドン海外販売してほしいというお考えだとわかりました。


ヨーロッパに押し寄せる「医療ツーリズム」と「医療ウェルネス」の波 〜ホテル化する医療施設と医療施設化するホテル

2017-06-25 [EntryURL]

夏季の休暇シーズンが近づいてきました。今回と次回では、ヨーロッパのツーリズム業界での新たな動きについて、ご紹介したいと思います。今回は、「医療ツーリズム medical tourism」と「医療ウェルネスmedical wellness」という世界的なトレンドに注目し、医療と観光が結びついて、どのような新しい展開をとげようとしているのかを、ドイツを中心にみていきたいと思います。
世界的に広がる医療ツーリズム
海外旅行にでるのは、健康な人たちばかりではない、それが最近のツーリズムの常識になってきています。希望する医療行為を受けるために国境をこえて旅行する人たちが、 増えているためです。「医療ツーリズム」と呼ばれるこのような医療目的の海外旅行は、ツーリズム業界でも近年急成長しているジャンルで、今年開催されたベルリン国際ツーリズム・マーケット展でも、医療ツーリズムを専門とする独立専門機関による世界の優良医療機関(病院)のランキングがはじめて発表されました。
このランキングでは、ドイツのハンブルクの病院が一位にランクされたのですが、これは、これまでの医療ツーリズムの発展経緯から考えると、意外な結果であったとも言えます。というのも、これまでの医療ツーリズムの圧倒的多数は、医療経費が安い国へ向かう旅であったためです。ドイツ語圏では、治療費が高い歯科の治療のためにわざわざ東欧の国に行くという人の話をよく聞きますが、世界的にみると、医療ツーリズムの中心はアジアです。世界全体の医療ツーリズムの3分の2がアジアへ向かうものと言われており、インドだけでも、アジアやアフリカの途上国などから年間約50万人が、医療行為を受けるために訪れていると推定されています。実際、ランキング10位以内にはいった病院の国をみると、レバノン、インド、シンガポール、マレーシア、カナダ、ヨルダン、タイ、メキシコ、トルコとなっており、アジアを中心に先進国よりも全般に物価が安い国々に、海外からの患者を受け入れる優秀な医療機関が多いことがわかります。
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先進国でも活発になってきた医療ツーリズム
その一方で、政情や治安が安定しており滞在が快適な先進国で、医療を受けることの魅力も大きいようです。ドイツでは、2015年の1年間で、総計25万5000人 が ドイツの医療サービスを利用するために外国から訪れています。これは前年比で、1.4%の増加、ドイツの全体の医療サービス利用者の0.5%にあたります。
ドイツの医療機関を目指してくる人たちは、世界のどこからくるのでしょう。数年前まで、ロシアと旧ソ連の国ぐにからの来訪が圧倒的多数でしたが、2015年は、自国の経済悪化の影響が大きかったようで、前年比で3割以上もドイツへの来訪者数が減りました。他方、ほかのヨーロッパ諸国やアラビア(ペルシア)湾沿岸の国々からの来訪が増えています。特にアラビア湾岸の国々からの医療ツーリズムの伸長が顕著で、2016年は前年比で17%増で、サウジアラビアだけに限れば34%増、クウェートからは19%増えています。
海外から治療にくる人たちは、治療とその前後、その国に滞在することになります。この結果、ほかのツーリズム同様に、医療施設だけでなくほかの分野にもお金が落とされて、地域への少なからぬ経済効果を生みだします。ハンブルク観光局のアルバートセン氏の、60歳のサウジアラビア人がドイツに腰の手術で来る場合の概算をご紹介してみましょう。病院経費が12万ユーロ、往復の航空機代が1万、ホテルの宿泊とサービス代が7千ユーロ、そのほかの滞在費(娯楽や買い物など)が6000ユーロで、一人の患者が治療するだけで、総計で14万3000ユーロものお金が落とされることになるとしています。逆にみると、ドイツに医療ツーリズムために来訪する人たちは、このような膨大な費用を支払うことが可能な富裕層であるということでもあります。
これだけ聞くと、医療ツーリズムは、先進国にとってもかなり魅力的なビジネスのようにも聞こえます。しかし、安定して患者を呼び込めるかはまた別の問題です。ロシアや旧ソ連圏と同様に、アラビア湾岸地域も、今後の経済や政情が不安定になれば、訪問者数が大きく減少する危険があります。また、世界中に医療ツーリズムに力をいれる病院や地域が散在しているため、医療ツーリズムは、常にボーダーレスの熾烈な競争にさらされいるともいえます。
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医療ツーリズムの未来
医療ツーリズムは今後、世界的にどう展開していくのでしょうか。この点について、ヨーロッパ文化・民俗学研究者ライムグルーバー氏Leimgruberは、スイスの未来研究学会誌『スイスフューチャー』において、2035年のシナリオとして、興味深い未来像を提示していますので、参考までに、以下、抜粋しご紹介します。
まず健康は、仕事や親戚の訪問と並び、将来の旅行の主要な理由・モチベーションであり、このため、今後も自己の健康のため、世界をまたにかけて、専門医や専門ケアを受けにいく人々が一層増えるでしょう。これに伴い、病院や医療機関は、ほかの企業と同様に、個々の国々の枠に収まらないグローバルな団体(企業)として世界的に展開するようになるとも予測されます。同時に、北米は肥満問題、アジアはバーンアウトの治療、ブラジルや中南米は美容整形外科手術といったように、それぞれの地域によって強い専門分野が生まれ、発展していくようになるかもしれません。
もちろん将来においても、地域に根ざした医療がなくなることはないでしょうが、技術や費用面を考慮し、可能なかぎり最適・最高の治療を求めて、医療機会を海外に求める人が、今後途上国、先進国を問わず増えていくのかもしれません。
医療ウェルネス
一方、多様な要望にこたえてくれる医療サービスを求める動きは、国境を越える医療ツーリズムだけの話だけではありません。近年、ヨーロッパでは、病院などの既存の医療機関以外にも医療サービスを提供する業者が増えており、患者や顧客の細かなニーズに対応した医療サービスが新たなビジネスとなりつつあります。
そのような新しい医療サービス分野は、一般に「医療ウェルネス」と言われています。もともと、日本の湯地治療の伝統に匹敵するような、スパの伝統がヨーロッパにも長くあり、その伝統を受け継いで、ウェルネス産業が大きく発展してきました。「ウェルネス」とは、医療機関に頼るのではなく、自分たちが自主的に行う健康を意識したスポーツや食事の摂取などの活動や、それに関するサービス全般を表す概念で、ヨーロッパでは1990年代以降、食事からレジャー、ホテル施設まで様々な場面で、頻繁に使われるようになりました。(詳細についてには、「ウェルネス ヨーロッパの健康志向の現状と将来」をご参照ください)
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ウェルネス人気の世界的な潮流に大きな変化はありませんが、ヨーロッパでは、ウェルネスの分野が、高齢者の要望に対応して拡大し、単なる一般的なウェルネス(マッサージやスパなど、健康を全般に促進するサービスや施設)にとどまらず、医療行為や予防医療をかねた旅行(滞在)が、新たなトレンドとなってきました。それが「医療ウェルネス」です。
医療ウェルネスとは、一般的に医師やほかの医療専門資格を者による正式な医療行為であると理解されており、国家に公式に認定された医療専門家がたずさわるという意味で、一般的なマッサージや美容に関わる諸々のサービスなどの「ウェルネス」領域から差異化されます。具体的には、高齢者を対象とした医療行為がついた滞在や宿泊コースや、通常医療機関や在宅医療(訪問診療)で受ける医療サービスを、ホテルでも受けられるようになっていることを指します。
今後、高齢化が一層進む近い将来に、医療サービスがついた旅行やホテルの滞在の需要はさらに高まることが予想され、ルツェルンの観光経済研究所のルマン氏は、2016年のインタビューで、当時スイスのウェルネス産業全体の1割を占めるにすぎなかった医療ウェルネスが、すでに2020年までに15%まで増えると予測しています(Jankovsky, 2016)。
おわりに
医療ツーリズムの増加によって、病院やクリニックでは、外国からの客の滞在がより快適なものとなるように新たな配慮や細かな対応が迫られるようになってきています。一方、医療ウェルネスの需要をうけ、もともとは医療ではなく健康志向にあうサービスや施設に過ぎなかったウェルネス施設が業務を拡大あるいは医療分野に専化した形態に発展してきています。
将来、医療分野とほかの分野の境が弱まり、あるいはそれらが連結された新しい分野が形成され、これまで以上に、医療にまつわる選択肢が増えていくのかもしれません。一方、このような医療サービスのグローバル化や自由化の反動として、地域住民のための医療のサービスが低下しないように、その間のバランスをいかにとるかが、非常に重要になってくるのかもしれません。
///
<参考リンク・文献>
——医療ツーリズムについて
Walter Leimgruber, Stillstand ist Bewegung -Ein Szenario 2035. In: swissfuture. Manazin für Zukunftsmonitoring 01/2015, S.9-12, S.10.
Medizintourismus in der Schweiz. In: SRF, 13.11.2016.
Julia Witte genannt Vedder, Medizintourismus Reicher Saudi mit Hüftschaden gesucht. In: welt.de, 8.11.2016.
Beste Klinik weltweit in Hamburg?. In: Ärzte Zeitung online, 13.03.2017
Die 10 besten Krankenhäuser der Welt für Medizintourismus. In: Travel Book, 09. März 2017.
Medizintourismus in Indien: - Von Ayurveda bis zur Herz-OP. In: SWR, Wissen, 23.5.2017.
Medizintourismus, Wikipedia (Deutsch)(2017年6月12日閲覧)
——医療ウェルネスについて
Davide Scruzzi, Spitäler und Hoteliers kooperieren, Gesundheitstourismus soll noch wichtiger werden. In: NZZ, 10.8.2015.
Peter Jankovsky, Gesundheitstourismus hilft den Randregionen (Kommentar). In: NZZ, 1.11.2016.
Peter Jankovsky, Medical Wellness zum wirtschaftlichen Wohl. In: NZZ, 1.11.2016.
Spitex im Hotel. In: Echo der Zeit, SRF, 16.10.2016.
Fokus: Mehr Massnahmen für ältere Touristen. In: 10 vor 10, SRF, 12.5.2016.
Kucera, Andrea, Spital und Hotel in einem. In Lausanne ist das erste öffentlich-private Patientenhotel der Schweiz in Betrieb. In: NZZ, 18.2.2016.
Medical Wellness, Wikipedia (Deutsch) (2017年6月12日閲覧)

穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振
興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。


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