ドイツのメッセ・ビジネス
2015-10-15 [EntryURL]
今年も10月14から18日までの5日間フランクフルトで書籍メッセ(書籍見本市、ブックフェアー) が開催されています。例年100カ国以上の国から7000以上の書籍出版関連の出展者が参加し、世界で最も重要な国際書籍出版関連のメッセと言われています。このメッセに限らず、ドイツでは、ヨーロッパ随一の堅調な工業力や歴史的メッセの伝統を背景に、年間を通じで世界的に注目されるメッセが多く開催されています。
メッセは、もともと農作物や工芸品などの生産が向上していく中世のヨーロッパで、余剰物を流通・販売させる新しい機会として、定期的に開催されるようになった大規模な市にルーツをもち、800年以上の歴史をさかのぼることができます。
現在のような見本市や展示会というメッセの形が定着するようになったのは、 しかしもっとずっと後の1895年からで す。メッセ都市として当時すでに国内外で名高い地位にあったドイツ東部の都市ライプツィヒでは、多様な商品の量産化が進んだ19世紀の終わり、現物を持ち込んで売買するという従来のやり方に対応する、十分なメッセスペースが確保できなくなりました。そこで、メッセには現物をもちこまず、見本を展示するという大きな手法の変換を試みたところ、より多くの出展者が出展物を効率よく展示することが可能となって功を奏し、以後は見本市がメッセの世界的なスタンダードとなっていきました。
しかしあらゆる情報にオンラインでアクセスしたり、やりとりも瞬時に世界中でできるようになった今日、メッセに未来はあるのでしょうか。世界遺産として今年登録された日本の軍艦島のように、メッセ施設は近い将来、歴史的な産業遺産となる運命のハコモノなのでしょうか。
2014年のドイツのメッセの動向をみると、ドイツ各地のメッセ主催会社はどこも大方黒字で、メッセ興行に暗い影はみえません。それどころかゲームやコミック分野は急成長が続いており、フランクフルト同様毎年ブックフェ アーを開催しているライプツィヒでは、近年コミック部門も増設して毎年、訪問者数を更新しています。昨年は訪問者数が過去最高の18万6千人となり、8月のケルンのゲームメッセでは 34万5千人の入場を記録しました。
急変する時代の流れに動じず、今もドイツのメッセ産業が堅調なのはなぜでしょうか。メッセ専門家によると、マーケティングの道具として、特に新しい市場を開拓するためにはメッセは最も効果的、少なくともそう考える企業が依然として多いことが、第一の理由のようです。特に外国からドイツやヨーロッパ圏に進出しようとする場合、ドイツで開催される国際的なメッセに出展することが、市場獲得のための最も有効な手段、と重きが置かれているようです。2014年ドイツで開催された176の国際・国内メッセにおいて、全出展者数の27%はドイツ以外の国からの出展者でした。ヨーロッパ有数の巨大国際空港に近く、海外からのアクセスがとりわけ楽なフランクフルトのメッセでは、現在出展者の70%以上が外国からです。
しかしドイツ側もただ、相手がドイツに来るのを待っているだけではありません。新興工業国、特にブラジル、ロシア、インド、中国でメッセの需要が急速に高まったいくことに、早い時期から注目したドイツのメッセ関連会社は、ドイツでのメッセのノウハウを活かし、これらの国や地域の顧客と市場を近づける地域メッセの企画・開催にも、積極的に取り組んできました。この結果2012年は、ドイ ツのメッセ関連会社が海外で手がけたメッセは266、出展者数は10万6千、入場者は640万人という実績をあげています。世界各地のメッセ開催によって作られたネットワークが、顧客をまたドイツ本国のメッセにひきつけ、最終的に業界の中心となるリーディング・メッセとしてのドイツの地位の維持にもつながる、というシナリオがドイツの希望的観測です。
逆にメッセがなくなってしまったら、国際的なビジネスの運営が難しくなるのではないか、とも言われます。モノと人が常に動きまわって日々ダイナミックに展開している多くの産業界において、業界の人たちが一同に会し、 商談などの必要なやりとりをスムーズに成立させる場を提供するメッセの意義は、ことのほか大きいのではないかという意見です。
長い歴史をもつメッセというビジネス・展示の空間が、今後長期的にどのように存続するのかはわかりませんが、当面は、ドイツのメッセから世界が目を離せないのは確かかと思います。
参考ウェッブサイト
ライプツィヒのメッセの歴史(ウィキペディア ドイツ語と英語)
System Messe, Samstag, 29. August 2015, 20:15 Uhr, hr-iNFO, “Wissenswert”
Mit Fokus auf Internationalisierung und Wachstumsmärkte, 4. Sept. 2014, Handelskammerjournal.
Deutsche Messen wachsen im Ausland, 4. Juli 2013, Haufe.de
Ausland sorgt für Wachstum der deutschen Messen, Presse 18 2015, Auma
Wirtschaftsministerium plant 241 Messebeteiligungen im Ausland
穂鷹知美
ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥア市 Winterthur 在住。
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